
2023年3月5日(日)、「第1回ウェルビーイング学会学術集会 〜ウェルビーイングを協創しよう〜」がオンラインにて開催された。
ウェルビーイング学会は2021年12月の立ち上げ以来、「ウェルビーイングレポート日本版」の毎年発刊や、ウェルビーイング指標のニュースリリースの発表、2022年10月には会員募集を開始するなど、着々と歩みを進めている。
今回の第1回学術集会では、まず代表理事である慶應義塾大学大学院 教授/前野 隆司氏による開会挨拶と基調講演、そして発起人たちによる講演やパネルディスカッションが行われ、ウェルビーイングに関するそれぞれの活動や研究内容が語られた。
ここでは、代表理事である慶應義塾大学大学院 教授/前野 隆司先生、京都大学 教授/内田先生、慶応義塾大学 教授/宮田先生、東京大学公共政策大学院 教授、慶応義塾大学政策・メディア研究科 教授/鈴木先生の4名によるパネルディスカッションの内容をレポートする。

前野 隆司先生
慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授

内田 由紀子先生
京都大学 人と社会の未来研究院 教授

宮田 裕章先生
慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室 教授
Co-Innovation University 学長候補専門はデータサイエンス、科学方法論、Value Co-Creationデータサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行う。
医学領域以外も含む様々な実践に取り組むと同時に、世界経済フォーラムなどの様々なステークホルダーと連携して、新しい社会ビジョンを描く。宮田が共創する社会ビジョンの 1 つは、いのちを響き合わせて多様な社会を創り、その世界を共に体験する中で一人ひとりが輝くという“共鳴する社会”である。

鈴木 寛先生
東京大学公共政策大学院教授・慶応義塾大学政策・メディア研究科教授
遠いようで近しい「アート」×「ウェルビーイング」の関係性
パネルディスカッションは、前野先生のナビゲートにより進行した。まず前野先生から語られたのは、3名の先生の講演について。
前野先生:心理学から医学、政策・教育、万博にアートなど、多様な「ウェルビーイング」についてお話いただきました。出身分野が違う4人ですが、大きな流れでは同じところを目指していて、それぞれの言葉で語られていて。聞いている方々にとっても、重層的に「ウェルビーイング」の世界を感じられる、素晴らしい時間になったのではないでしょうか。
そして、前野先生は「聞きたくて仕方ないことがあります」と切り出した。
前野先生:内田先生のお話に、文化とアートに関する話が出てきましたが、ウェルビーイングの先には芸術・アートというものがあるのでしょうか? 私も最近、歌を作ったり、書道をしたり、写真を撮ったりしています。個人が生き生きとして輝いていくために、アートという表現が必要なのでしょうか?
内田先生:壮大なアートには、畏怖・畏敬の感情、英語で言うと「Awe」の感情を呼び起こすという特性があります。アートによって心を震わせるような感動を生み出せば、人々の共感を呼び、ウェルビーイングは高まっていくと考えています。
「唯一無二性」と「一期一会性」がアートの価値を高めていく
アートとウェルビーイングについて、2人からも思いを語っていただく。
鈴木先生:アートの島として知られる香川県の直島ですが、あの土地・あの海・あの自然の中に草間彌生作「南瓜」であるカボチャのオブジェがあることが重要です。脱資本主義において価値を生み出すのは、唯一無二性と一期一会性。この場所でしか見られない唯一無二のアートと一期一会で出会う、それが芸術としての価値を生むのだと思います。
宮田先生:医療もアートの側面が大きいと思います。アートというのは表現というより、創造性。唯一無二、一期一会のシチュエーションの中で創造性を働かせながら、患者と向き合う、あるいは未来を創っていく。ここに医療の重要な本質があります。
そして、話は宮田先生の専門である医療について展開していった。
鈴木先生:私は教育と医療は「サービス」ではないと思っています。生徒と教育者、患者と医者のコ・クリエイションであり、コ・ビーイングではないでしょうか。病気を治すというサービス契約だったら、治せなかった医者は債務不履行になってしまいます。生徒の学力を伸ばすという契約でも同様です。契約ではなく「信託」であり、託されて最善を尽くすことが求められるのが教育であり医療なのではないかと考えています。
人から影響を受け、人に影響を与える。つながりの中で自分を理解していくことが重要
「さて、学会員の方から質問を受け付けます」と前野先生が話すと、すぐに多くの方から質問が寄せられた。
学会員:宮田先生の話に「一人ひとりが多様な豊かさを持ち寄って、社会を創っていく」という話がありましたが、自分ならではの色というのを理解するのはハードルが高いと感じています。多様な豊かさを持った自分を見つけるために、先生方からアドバイスをいただけると嬉しいです。
宮田先生:オリジナリティというのは、絶対要件ではありません。「他者と違うユニークな何か」が必要なわけではないと私は思います。それよりも他の人との比較ではなく、まず自分の状態を知ることが大切なのではないでしょうか。
内田先生:私は、「自分」が絶対的な出発点である必要はないと思っています。最近は「自分」とか「主体性」とか「個性」とかが大事なことのようにいわれていますが、別にそんなものがなくてもよいのではないでしょうか。「自己」を強く持たないと、ウェルビーイングが保てないわけではありません。
宮田先生:これは私も共通する部分で、「Human Being」ではなく「Human Co-Being」なのはそういうことです。Co-Being、つながりの中で定義されていることが重要です。
鈴木先生:私もまさに内田先生と同じ意見ですが、加えると、私たちは日本語を使って考えている時点で、日本語を作ってきた人たちに依存しているわけです。人から影響を受けていながら、逆に私たちも人に影響を及ぼしています。そういう意味でも、主体性にとらわれる必要はないと思います。
興味深いテーマに、あらゆる視点から回答していったパネラーの3人。多くの質問も飛び交い、白熱した議論の中でパネルディスカッションは幕を下ろした。
Wellulu編集部あとがき
ウェルビーイング学会の4人のパネルディスカッションと、学会の会員の皆さまとのハーモニーは、心地よい時間でした。現在の会員は、350名ほどと前野先生がお話いただいておりましたが、最初の会員がひとつの「ウェルビーイング・コミュニティ」だとすると、濃厚なコミュニティだと感じます。4人のパネルディスカッションのあと、分科会として取り組みたいテーマなどのお話もあり、まさにこの「場」がつながりを象徴する時間でした。
ウェルビーイングを幅広く捉えて、ひとりひとりのウェルビーイングは違うことを前提に、多様なウェルビーイングをどう受け入れることができるかがポイントになると思います。話にも振れていました「アートとウェルビーイング」だけを切り取っても、「音楽」「美術」「建築」「食事」「思想」「哲学」など多岐にわたります。これは違う、あれは違うではなくて、これも、あれも、すべてが「つながりの中のウェルビーイング」と捉えても良いかもとも思いました。
テーマ分科会も、「働く×ウェルビーイング」「テクノロジー×ウェルビーイング」「地域×ウェルビーイング」など関心の高いテーマが多く手が上がっており、この焚火をどんどん大きな火にさせることが、ウェルビーイング・コミュニティの大きな価値につながっていくように感じる1日でした。
ちなみに、本ウェルビーイング学会学術集会は、息子のサッカーの試合があったので、サッカーを観戦しながら集会に参加しましたが、両方の「コミュニティ」で、どちらも居心地が良い場でした。
自分たちの居心地の良い「場=コミュニティ」がたくさん生まれ、ウェルビーイングな人が増えますように。学会のみなさま、事務局のみなさま、素敵な1日をどうもありがとうございました。
Wellulu 編集部 プロデューサー・ウェルビーイング学会 会員 堂上研