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デジタル化の中でもリアル店舗は必要?幸福度を高める買い物の秘密を知る【三重大学・熊谷教授】

インターネットでの買い物とリアル店舗での買い物、その際に感じる幸福感の違いについては、誰もが何となく実感したことがあるのではないだろうか?

こうした消費者感覚は学術分野でも議論されている。最近の研究では、デジタル化が進む今日においても、リアル店舗かつモノブランド店舗での買い物で特に幸福感を得られることがわかった。ここで、ラグジュアリーブランドはどのような効果をもたらすのだろうか?

今回、三重大学人文学部の熊谷 健教授に幸福感や買い物経験の関係性などについて伺った。

熊谷 健さん

国立大学法人三重大学学長補佐・人文学部法律経済学科教授

MBA・博士(商学)。三菱商事㈱グローバルブランド開発プロジェクトマネージャー、㈱ストライプインターナショナル常務取締役、THOM BROWNE INC.(米国本社)取締役、三菱商事ファッション㈱マーケティング研究所長等を経て現職。早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員、商品開発・管理学会常任理事、日本商業学会理事、国際学術誌2誌の顧問を兼務。専門はマーケティング論、ブランド戦略論。現在、サステナブル・ブランディングをテーマに研究に取り組んでいる。

本記事のリリース情報
熊谷教授へのインタビュー取材|「デジタル化の中でもリアル店舗は必要?幸福度を高める買い物の秘密を知る」

快楽的価値と機能的価値、買物の背景にある価値とは?

──まず初めに、今回の研究に取り組まれたきっかけについて教えていただけますでしょうか?

熊谷教授:研究者になる前は、商社でアパレル関連の仕事に従事していました。戦略投資の立案・実行、および出資先経営が主な業務でしたが、業務を進める中でブランドのタイプや消費者の属性、消費の文脈などによって消費者の心理的な受け止め方が変化することに気づきました。そんな中、会社経営に携わる知人が立て続けに大学院へ進学することがあり、私も触発されて早稲田大学のビジネススクールに通うようになりました。

そこでの学びをもとに、アパレル事業に関する調査分析をおこなったところ、学術的にも評価をいただくことになり、現在はライフワークとして大学で研究に携わっています。

──アパレル業界での経験が、現在の研究活動につながっていたんですね。今研究では「快楽的買物価値」について言及されていますが、そもそも「快楽的買物価値」とは何なのでしょうか?

熊谷教授:快楽的買物価値とは、物を手に入れるという実用的な価値とは異なる、買い物自体を楽しむという価値を指します。特にラグジュアリーブランドの製品を購入する際、この快楽的買物価値が強く現れます。ラグジュアリーブランドは、生活必需品などの単なる機能的な買物価値を超えて、個人的な価値や社会的な地位を象徴するものであることが、このような心理が生じる要因かもしれません。

──なるほど。私たちがモノを購入する際には、機能的買物価値と快楽的買物価値が影響しているんですね。

熊谷教授:購入の動機には他にもさまざまな要因が含まれていますが、買物行動において知覚されるこれらの2つの価値次元は、買物経験を評価する一つの指標にはなるかもしれませんね。興味深いことに、生活必需品を購入する際は迅速に手頃な価格で購入できた方がよいですが、ラグジュアリーブランドの場合、商品がなかなか手に入らないことで逆に欲求を刺激されることもあります。

──確かに、レアな商品だからこそ欲しい!というのはありますね。

熊谷教授:モノが簡単に手に入る買物体験、機能性や利便性の高い買物体験だけが、購入者の幸福度やウェルビーイングにつながるわけではありません。もちろん、ラグジュアリーの定義は人それぞれ違い、何をラグジュアリーと感じるかは個人の価値観に依存します。ただ、ブランドの価値やイメージを楽しむ快楽的買物価値が、幸福感を高めてくれる要因につながると私は考えています。

幸福度の向上につながる!リアル・モノブランド店舗での買物

──それでは、今回の研究の内容について具体的に教えていただけますか?

熊谷教授:国内で428人を対象に、消費者が「快楽的買物価値」として買物を楽しむことや、購入したブランド製品に基づく幸福感をどのように感じているかを調査し、リアル店舗・デジタル店舗・モノブランド店舗(単一ブランド製品のみを販売する店舗)・マルチブランド店舗(複数のブランド製品を販売する店舗)の4形態に分けて、消費者心理の違いを分析しました。

──実際、購入体験に対する幸福度に違いはあったのでしょうか?

熊谷教授:リアル店舗やモノブランド店舗で購入した消費者は、デジタル環境で購入した消費者よりも「快楽的買物価値」を感じたと回答しています。また、その「快楽的買物価値」が購入商品による幸福感に寄与することが確認されました。リアル店舗やモノブランド店舗が提供する独自の体験やサービスによって、消費者は「快楽的買物価値」を知覚し幸福度を向上させていると考えられます。

また、高級ブランドの方がこの効果がさらに大きくなることも示唆されました。

──リアル店舗とデジタル店舗で幸福度に差が出るのは理解できるのですが、マルチブランドとモノブランドでも違いがあったんですね。

熊谷教授:そうですね。百貨店のようなバラエティ豊かなブランドが並ぶ店舗での買物が好きな方も多いと思いますが、特定のブランドの世界観を楽しめるという点ではモノブランドの方が満足度が高いのかもしれません。

──なるほど。確かに、モノブランドのブティックへ行くと少し特別な買物体験ができる気がします!ちなみに、快楽的買物価値以外にも、幸福度の向上につながる買物体験はあるのでしょうか?

熊谷教授:「自己概念調和」と呼ばれる、ブランドのイメージと消費者の個性や自己観の一致が、幸福度やウェルビーイングの向上につながると考えられます。最近だと、ブランドのサスティナビリティへの取り組みが消費者の価値観と一致すれば、ブランドへの信頼度が高まるとわかっています。

──自己概念調和に関して、もう少し詳しく教えていただけますか?

熊谷教授:例として、スターバックスが紙ストローを導入した際、環境へ配慮したサービスという点でパーソナリティとフィットする消費者は、ブランドへの信頼を高め、結果としてウェルビーイングにもつながると考えられます。

五感で楽しむ。ポジティブな買物体験を!

──ここまでのお話を伺っていて、リアル・モノブランド店舗での買物経験が幸福感につながることはわかったのですが、生活者にポジティブな買物経験を提供するために、販売者ができることはあるのでしょうか?

熊谷教授:消費者にも本当にさまざまな人がいるため、一概にこうすれば良いとは言えないのですが、五感を通じてどのような買物経験を提供できるか、立案段階から販売戦略に反映させると良いのかなと思います。デジタル全盛の時代に敢えてリアル店舗を設置し、対面コミュニケーションとともに商品を直接手に取れる場を提供することが、消費者のポジティブな買物経験につながると思います。

──確かに、デジタル店舗では体験できない経験がリアル店舗にはありますよね。最後にリアル店舗とデジタル店舗のそれぞれのメリットについて教えていただけますでしょうか?

熊谷教授:リアル店舗では商品の質感を直接感じたり、香りを嗅いだりすることで、商品の魅力をより深く理解することができます。店舗の雰囲気や販売員とのコミュニケーションを通じてブランドや商品に対する新しい発見があれば、機能的買物価値だけでなく快楽的買物価値が知覚され、幸福度が高まる可能性もあります。また、気分を上げてくれるような特別なサービスを体験できることもあります。

一方、デジタルの買い物環境の強みは、何と言ってもその利便性です。24時間いつでも買い物ができ、とにかく豊富な商品から選ぶことができますので、機能的買物価値は十分知覚されると思います。また、AIを活用したパーソナライズされた商品推薦も、消費者にとっては非常に魅力的です。

──本日は貴重なお話をいただきありがとうございました。

編集後記:
デジタル化が進む現代において、私たちの買物経験やブランドに対する認識は大きく変わりつつあります。しかし、今回の三重大学の研究を通じて明らかになったことは、デジタル時代であってもリアル店舗の存在やその役割は依然として大きいということです。

私たちが日常的に感じる幸福感や満足感は、対面でのコミュニケーションや、ブランドとの直接的な関わりがもたらす経験が大きく影響しているのかもしれません。デジタルとリアル、両方の世界が融合し、新しい消費者体験が生まれる昨今で、今後もこのような研究が私たちの生活や価値観に大きなヒントを与えてくれることでしょう。

今回のインタビューを通じて、新しい時代の中でのブランドとの関わり方や、それがもたらす幸福感について、再び考える機会を得ることができました。

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