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醤油で塩分25%カットできる?関東と関西で味が違う理由や調理のポイント【日本醤油技術センター】

日本の調味料の代表格である「しょうゆ」について、今回はその製法や種類、歴史、効果について日本醤油技術センターの松本さんにお話を伺った。江戸時代から続く伝統的な製法や、関東と関西での違い、さらには現代の減塩技術まで、しょうゆの魅力を詳しく解説。しょうゆの奥深い世界を知り、さらにおいしく健康的な食生活を楽しみましょう。

松本 秀樹さん

一般財団法人日本醤油技術センター 理事

1990年東京農業大学 醸造学科卒、(財)日本醤油検査協会(現:(財)日本醤油技術センター)入会。しょうゆの魅力に取りつかれて、おいしいしょうゆを求めて現在の仕事に従事してきた。現在もしょうゆの色味香の魅力にとどまらず、しょうゆ造りの魅力をより沢山の人に伝えられればと思っています。

本記事のリリース情報

Webメディア「Wellulu」にしょうゆの記事が掲載されました!

目次

日本の調味料の代表格「しょうゆ」を大解剖!

江戸時代から引き継がれるしょうゆの製法

──まず始めにしょうゆの原料はなんでしょうか?

松本さん:しょうゆの原料は大きく分けて3つあります。大豆、小麦、そして塩です。これらの原料を使ってしょうゆを造りますが、ただそれだけではなく、微生物の力を借りて発酵させることが特徴です。普通の調味料のようにただ混ぜ合わせるのではなく、発酵により変化させていくことでしょうゆが完成します。

── 微生物の力で発酵させることが重要なんですね。

松本さん: はい、微生物はしょうゆ造りの核です。微生物の力で発酵させることで、大豆のタンパク質がうま味成分のアミノ酸に、小麦のでんぷんが糖(甘味)に変わり、さらに乳酸菌によって酸味が生まれます。また、酵母が糖を食べてアルコールを造って、香りの成分になるんです。これらが組み合わさることで、しょうゆの豊かな風味が生まれているんですよ。

この製法は江戸時代から続いていて、現代でも変わらず守られています。

── 製造方法は江戸時代から変わらないんですね。しょうゆの製法、発酵のプロセスについて、もう少し詳しく教えていただけますか?

松本さん: まず、大豆は水に浸けてから蒸し、小麦は乾煎り(からいり)して膨らませます。そのあと、小麦を砕いて半分粉、半分塊の状態にします。次に、種麹(たねこうじ)と呼ばれる麹菌の胞子を小麦に混ぜ、それを大豆にまぶします。これを高温多湿の場所に3日ほど置くと、麹菌が繁殖して「醤油麹(しょうゆこうじ)」ができあがるのです。

それから、発酵した麹に塩水を混ぜて「もろみ」を造ります。もろみは6ヵ月ほどの発酵と熟成を経て圧搾されてしょうゆになります。

もろみは、布に包んで圧力をかけて絞るのですが、この方法も江戸時代から続く伝統的なものです。現在では機械化されていますが、基本的な原理は変わりません。搾られたしょうゆは加熱処理を経て商品化されます。加熱することで保存性が高まり、風味も安定するんですよ。

── もろみを造る際に、塩水を加えているとのことですが、塩にはどういった役割があるんでしょうか?

松本さん:20%程度の濃度でつくった塩水を作り、もろみに加えています。高濃度の塩水が雑菌の繁殖を抑えてくれ、しょうゆに適した微生物だけが生き残るんです。減塩しょうゆの場合は、通常の製法で造ったあとに、塩分を減らす工夫がされています。

── 減塩しょうゆは塩を減らして造ったのかと思っていましたが、あとから塩分を減らしていたんですね。また江戸時代からの伝統的な製法が引き継がれていることにも驚きました。

松本さん:現代の大手メーカーでも、伝統的な発酵や熟成のプロセスは変わりません。機械化されている部分もありますが、基本的な工程は昔と同じです。発酵タンクや木桶を使ってじっくりと時間をかけてしょうゆを仕込む点では、小規模な生産者も大手も同様です。

しょうゆの5つの種類と関西・関東のしょうゆの違い

──しょうゆにはさまざまな種類があると思いますが、具体的にはどのような種類がありますか?

松本さん: しょうゆは大きく5種類に分類されます。

まず最も一般的なのが「濃口醤油」です。これは大豆と小麦をほぼ同量使用し、全国の生産量の約80%を占めています。次に「淡口醤油」です。原料は同じですが、色が濃くならないよう工夫されています。生産量は全体の約12%です。

続いては「たまり醤油」。これはおもに大豆を使い、少量の小麦を加えたもので、生産量は約2%です。「白醤油」はその逆で、小麦が主体で大豆が少量です。これは非常に色が淡いのが特徴で、生産量は1%未満です。

最後に「再仕込み醤油」があります。濃口醤油と同じ製法ですが、仕込みに食塩水ではなく一度絞った醤油を使用します。これが“再仕込み”という名前の由来です。

── 色の濃さや大豆と小麦の比率で種類が変わっていたのですね。スーパーには「刺身醤油」も見かけますが、これについても教えてください。

松本さん: 刺身醤油は大きく3つのタイプに分けられます。

1つは再仕込み醤油を使ったもの。再仕込み醤油は、醤油を2回仕込んでいますので、濃厚な味わいが特徴です。この特徴を利用して「刺身醤油」として販売されているものがあります。2つ目は、濃口醤油を刺身用として販売しているもの。3つ目は濃口醤油にカツオ系の旨味を加えたものです。

刺身醤油として売られている商品も、メーカーによってさまざまですが、一般的には再仕込み醤油を使った刺身醤油が多い印象ですね。用途で区切ると、刺身醤油だけでなく、「寿司醤油」や「たまごかけ醤油」など、さまざまなものが販売されています。

── 用途別に販売されているしょうゆも、5種類のうち、どのしょうゆが使われているかはわかるのでしょうか?

松本さん: 商品の裏側などにのっている、食品表示ラベルを見ていただくとわかります。どのしょうゆを使っているかは、一番後ろの欄に必ず書くことになっているんです。ここには、濃口、淡口、たまり、再仕込み、白のどれかのしょうゆが必ず入ってきますので、気になる方はこの欄をチェックしてみてください。

── 関東と関西でも、しょうゆの味が違うと聞いたことがあります。

松本さん:はい、そうですね。関西では薄口醤油がおもに使われます。これは素材の色を活かす料理に適していて、昆布出汁との相性がいいのが特徴です。関東では濃口醤油が主流で、濃い色と強い風味が特徴です。ですので、関西のうどんは淡口醤油で色がうすいのに対し、関東のうどんは濃口醤油で色が濃くなります。

また、関西の軟水には昆布出汁がよく合い、関東の硬水は鰹節の出汁が適しているんです。この水質の違いがしょうゆの違いにも関係していると考えられますね。

しょうゆは塩漬けから誕生した?

── 江戸時代からの製造方法が今でも引き継がれているというお話がありましたね。醤油の歴史についても教えていただけますか?

松本さん:しょうゆの原型が生まれたのは、いまから3000年以上も前とされています。現在では大豆と小麦を発酵させて造りますが、元々は塩を使った保存方法から始まりました。

収穫した野菜や果物はすぐに腐ってしまうため、それを保存する方法として塩漬けが一般的でした。野菜を塩漬けにすることで腐敗を防いでいたんですね。同様に、大豆を茹でたあと、塩を加えて保存していたところ、塩に耐える微生物が少しずつタンパク質を分解し、しょうゆの原型ができたのです。

最初のしょうゆとされるたまり醤油は、この保存方法から発展したものです。大豆と塩、麹で発酵させることで底に溜まった液体をなめてみるとおいしかったため、それがしょうゆとして造られるようになりました。

── 食材を保存するための塩漬けからうまれたんですね。

松本さん:そうですね。飛鳥時代には「醤(ひしお)」と呼ばれる、大豆、麹菌、米麹、塩で発酵させたドロドロした調味料を使っていたそうです。これを専門に造る事業者が現れ、搾ったものがしょうゆとして広まっていきました。

しょうゆは搾って液体を取り出すため、搾りかすが出ます。当時はこのかすがもったいないとされ、しょうゆは贅沢品と見なされていたのだそうです。

── しょうゆには本当に長い歴史があるのですね。ちなみに現在のしょうゆの消費量はどのくらいですか?

松本さん:年間の出荷量から1人当たりのしょうゆ消費量を計算したデータがあります。2022年では、1人当たり5.6〜6.0リットル弱となっています。20年前は1人当たり年間9,0リットルでしたが、現在は減少傾向にありますね。

── しょうゆの消費量が減少しているのには、理由があるのでしょうか?

松本さん:理由の1つとして、しょうゆ単体で使用する機会が減り、市販のめんつゆや調味料を使う家庭が増えたことが挙げられます。また、洋食を食べる機会も増えていますが、洋風の料理ではしょうゆを使わないことも多いため、消費量が減少しています。

しょうゆの活用方法とその働きとは

料理に活用されるしょうゆの6つの働き

── 醤油には、どのような効果があるのでしょうか?

松本さん:しょうゆには、大きく6つの効果があります。まず1つ目は「相乗効果」です。しょうゆにはアミノ酸、とくにグルタミン酸が含まれていて、これが魚や肉の旨味成分であるイノシン酸と組み合わさると、旨味が飛躍的に高まります。たとえば、めんつゆなどに使われると、しょうゆとみりん、鰹節の出汁が相まって非常においしくなります。これが相乗効果です。

── ほかの成分との組み合わせでおいしくなる効果があるんですね。

松本さん:そのとおりです。2つ目の効果は「消臭効果」です。しょうゆに含まれる乳酸などの酸性成分が、刺身などの生臭さを抑えてくれます。たとえば、魚の下ごしらえにしょうゆを使うことで生臭みを取ることができます。これが消臭効果です。

── 何気なく刺身に使っていましたが、生臭さを抑える効果があったんですね。3つ目の効果はなんですか?

松本さん:3つ目は「抑制効果」です。しょうゆに含まれる乳酸やグルタミン酸には、塩味をまろやかにする効果があります。たとえば、塩辛い塩鮭や漬物にしょうゆをかけると、塩味がマイルドになって食べやすくなります。塩分自体は減っていないのに、食べやすくなるのがおもしろいところです。

── 塩味をまろやかにする効果ですか。ぜひ試してみたいです。

松本さん:4つ目は「加熱効果」です。しょうゆに砂糖やみりんを加えて加熱すると、アミノ酸と糖が反応して美しい色や香りが出てきます。これを「アミノカルボニル反応」と呼びます。たとえば、照り焼きなどには、この効果が使われていますね。

そして、5つ目は「対比効果」です。これはスイカに塩を振るのと同じで、甘みを引き立てるために少し塩味を加えることです。たとえば、甘い料理に醤油を少量加えることで、甘みが際立つんですよ。

── 最後の効果についても教えてください。

松本さん:6つ目は「静菌効果」です。しょうゆには塩分や有機酸が含まれているため、大腸菌などの増殖を抑え、保存性を高める効果があります。たとえば、マグロのしょうゆ漬けなどは、味を付けるだけでなく、菌の増殖を防ぐためのものでもあります。

── たくさんの料理で使われている理由は、しょうゆのこういった効果にあったのですね。

万能調味料として海外でも需要が増加

── 醤油は海外でも注目されているのでしょうか?

松本さん:はい、しょうゆは古くから海外でも使われています。

1600年代には、オランダの東インド会社を通じて、長崎からヨーロッパに輸出されていました。当時の鎖国時代でも、長崎から年間約200キロリットルものしょうゆが輸出されていたんです。「コンプラビン」と呼ばれる瓶に詰められ、船で運ばれていました。

そのあと、和食が世界遺産に登録されたこともあり、海外でのしょうゆの需要はさらに増えました。とくにアメリカでは、バーベキューソースやテリヤキソースとしてしょうゆが使われることが多く、地元の料理にも取り入れられるようになりました。

── 古くから海外にしょうゆが輸出されていたのですね。

松本さん:そうですね。そして、現代でもしょうゆの需要は高まっています。

和食ブームの影響もあり、日本のしょうゆは品質が高いと評価され、海外でも広く販売されています。また、しょうゆの多様な効果が認知され、さまざまな料理に使われるようになっています。フランスの有名シェフが鴨料理のソースにしょうゆを使うこともあるんですよ。

しょうゆは、塩味、旨味、酸味、甘味、苦味の5つの基本的な味をバランスよく含んでいるため、どんな料理にも合わせやすいのです。また、しょうゆには300種類以上の香りの成分が含まれており、バラやチョコレート、パイナップルのような香りも感じられます。この豊かな香り成分が、さまざまな料理においてしょうゆを引き立たせる要因となっています。

── たしかに、しょうゆはさまざまな料理に使える万能調味料というイメージがありますね。香りの成分が多いというのも興味深いです。

松本さん:はい。しょうゆは複雑な香りと味わいを持っているため、世界中で好まれる調味料になっています。今後もますます海外での需要が高まることを期待しています。

アレンジ盛りだくさん!しょうゆをおいしく使い分ける!

おいしく食べるための保存、調理、アレンジのコツ

─ しょうゆを使う際の注意点や、おいしく食べるコツについて教えてください。

松本さん:しょうゆをおいしく食べるためのコツは、開封後は早めに使い切ることです。しょうゆは空気に触れると酸化が進み、色が濃くなり苦味が出て、香りも変わってしまいます。しょうゆを保存する際は、できるだけ空気に触れさせないようにすることで、品質を保ちやすくなります。

── 開封後はどれくらいの期間で使い切るのがいいのでしょうか?

松本さん:通常のしょうゆは開封後、1ヵ月以内に使い切るのが望ましいです。ですので、大きなボトルを買うのではなく、使い切りやすい少量のボトルを購入するのがおすすめです。

また、低温で保存することで、酸化の進行を遅らせることができるので、保存は冷蔵庫でおこないましょう。最近では、空気に触れないボトルも出てきており、これなら常温保存でも大丈夫です。

── 調理の際に注意すべき点はありますか?

松本さん:炒め物などでしょうゆを使う場合、香りを生かすためには、最後に鍋肌に沿って入れるのがポイントです。たとえば、チャーハンを作るときに最後にしょうゆを加えると、加熱効果で香ばしい香りが引き立ちます。また、煮物などでは調味料の「さしすせそ」に従い、最後にしょうゆを入れると味がよく染み込みますよ。

── 醤油の意外な使い方や、相性のよい組み合わせがあれば、ぜひ教えてください。

松本さん:私のおすすめは「白醤油」です。白醤油はおもに小麦から作られていて、色がうすく香りも穏やかです。生産量は全体の1%以下と非常に少なく、愛知県の碧南(へきなん)地方で造られています。

塩の代わりに白醤油を使うのがおすすめで、たとえば魚を焼くときに塩の代わりに白醤油を塗ることで、塩味と醤油の香りが加わり、隠し味的にとてもいい効果を発揮してくれます。

また、白醤油とオリーブオイル、お酢を混ぜて、ドレッシング代わりにするのもおすすめです。見た目は和風ドレッシングっぽいのですが、ちょっと変わった風味のものができますよ。

── 白醤油はあまり馴染みがなかったので、ぜひこの機会に取り入れてみたいと思いました。ほかに興味深い使い方はありますか?

松本さん:濃口醤油をアイスクリームにかけると、みたらし団子的な風味になります。これは香りと旨味の相乗効果で、アイスクリームの甘みが強調されるためです。

── アイスクリームとしょうゆ…! 意外な組み合わせですね。

しょうゆで減塩? おいしさを保ったまま塩分25%カットを実現

松本さん:また、最近の研究では、調理の際に塩の代わりにしょうゆを使うことで、トータルの塩分量を減らしながらも、おいしさを保つことができることがわかっています。塩小さじ1杯が、しょうゆ小さじ8杯くらいに値しますが、実際に調理に使うと、より少ない塩分量で同じおいしさを実現できるんです。

具体的には、しょうゆを使うことで塩分を25%程度カットしても、同じおいしさが得られます。これはキッコーマンがおこなった研究で、海外でも同様の成果が出ています。

── しょうゆで減塩もできるとは驚きです! 25%もカットできるなんて嬉しいですね。

松本さん:そうですよね。この研究はネイチャー誌にも掲載され、ソーセージなどの調理でも、塩の代わりにしょうゆを使うことで、おいしく減塩できることが証明されています。日本では、塩分摂取を減らすことが推奨されていますので、業界全体でこの研究成果を活かし、減塩を推進しながらおいしい料理を提供できるように努めていきたいと思っています。

Wellulu編集後記:
今回の取材で、しょうゆが持つ多様な魅力とその深い歴史について学ぶことができました。しょうゆの製法が江戸時代から変わらず受け継がれ、その伝統と技術が現代でも守られていることに感動しました。また、しょうゆが持つ6つの効果や、関東と関西での違い、さらには減塩効果など、しょうゆの多様な使い方についても興味深い話を聞くことができました。

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