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カロリーの“質”を考えて!スローカロリー・ベジファーストを取り入れた食生活【スローカロリープロジェクト】

健康を維持するための食生活として、カロリーの「量」だけでなく「質」を重視したスローカロリーという考え。今回は「スローカロリー」の概念について、スローカロリープロジェクトを主宰するDM三井製糖株式会社の坂崎さんに詳しく伺いました。カロリーの吸収速度を重視し、ゆっくりとエネルギーを供給するスローカロリーのメリットや、実際に生活に取り入れる方法をご紹介。

坂崎さん

スローカロリープロジェクト主宰/DM三井製糖株式会社

京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、同年三井製糖株式会社(現:DM三井製糖株式会社)入社。機能性糖質素材・パラチノースを中心とした研究企画・機能性表示食品届出業務、知財管理業務に従事。並行して2024年早稲田大学スポーツ科学研究科博士課程を修了し、現在に至る。

本記事のリリース情報

ウェルビーイングに特化した「Welulu」にて「スローカロリー」に関するインタビューを受けました

目次

量ではなく「質」を重視するスローカロリー

──まず、「スローカロリー」とは何か教えていただけますか?

坂崎さん:スローカロリーとは、カロリーの「量」ではなく「質」に注目した考え方です。とくに、カロリーの吸収の速さに焦点を当てています。

一般的な食品、とくに糖質は「ファストカロリー」として身体に素早く吸収される傾向があります。食べ物が胃を通過したあとに、小腸の上部で素早く吸収されるイメージです。

対して、スローカロリーは、小腸全体を使ってゆっくりと吸収されていくので、急激な血糖値の上昇を抑えるとともに、持続的に身体にエネルギーを供給することができます。これがスローカロリーの大きな特徴です。

──カロリーの「質」ですか…! 量は少し気にするようにしていましたが、質まで気を配ったことはありませんでした。

坂崎さん:そうですね。ゼロカロリーやローカロリー(低カロリー)といった数字で表現されるものは非常に分かりやすいですし、多くの人が意識していると思います。ただ、ゼロカロリーやローカロリーの概念が広まり、一日の摂取カロリーが減少しているにも関わらず、生活習慣病は減少していないという現実があります。カロリーを減らすことはもちろん重要ですが、数字を減らすだけが重要ではないんです。

──健康を考えるには、カロリーの量だけではなく、質を意識することが必要なんですね。スローカロリーの認知度は、まだまだ低いのでしょうか?

坂崎さん:そうですね。スローカロリーのように「質」に注目する概念は、「量」のように数字で簡単に見えるものではないため、まだ広く認知されてはいないですね。スローカロリーが健康にいいという印象を持っている人は少ないのが現状です。

私たちが社会に何を提供できるかと考えたときに、もっと多くの方々にカロリーをどのように摂取するかという「質」にも目を向けて、健康を考えてほしいという思いから「スローカロリープロジェクト」を立ち上げて、活動をしています。

──スローカロリープロジェクトは、いつごろ立ち上がったのですか?

坂崎さん:立ち上げは2007年ごろです。この頃スマートホンが急速に普及したことで簡単に情報にアクセスできるようになり、さまざまなダイエット法が情報として広がりました。同じタイミングで、糖質を完全に抜く「糖質オフ」が注目されはじめ、糖質が悪者扱いされる風潮があったんです。

ただ、実際には砂糖自体が悪いわけではなく、過剰摂取やすばやく身体に吸収されてしまうことが問題です。糖質を完全に抜くと、リバウンドの危険性もあるため、糖質をゼロにするのではなく、適切に摂取してゆっくりと吸収させることで健康的な身体を維持しようという「スローカロリー」の考え方を広める活動をはじめたのです。

──摂取量を少なくする「ローカロリー」ではなく、「スローカロリー」に注目したきっかけはなんだったのでしょうか?

坂崎さん:もちろん、量をコントロールすることも大切なのですが、カロリーの「摂り方」の重要性に気づいたことが大きな理由です。糖質は人間にとって必要なエネルギーです。そのため、ゆっくりと吸収し、身体に負担をかけずにエネルギーを取り込むことが重要だと考えるようになりました。

──スローカロリーのメリットについて、もう少し詳しく教えていただけますか?

坂崎さん:スローカロリーのメリットとして、一番わかりやすいのは、血糖値に与える影響です。通常、糖質が吸収されると血糖値が急激に上がります。スローカロリーでは、この血糖値の急上昇が抑えられるため、身体が眠くなったり、だるくなったりすることを防げます。とくに昼食に糖質が多いものを摂ると、午後に眠くなったりすることがあるかと思いますが、スローカロリーではこうした現象も防げる可能性があります。

──ちなみに、スローカロリーはダイエットにも効果的なのでしょうか?

坂崎さん:そうですね。ダイエットに効果的!という表現でスローカロリーを提案するつもりはないのですが、糖質の質を変えることで体脂肪の蓄積を防ぐことは期待できると思います。ただ、私たちは、単に痩せることを目的とするのではなく、身体を大切にし健康を維持するための食生活を提案しています。ダイエット法というよりは、身体への負担を減らし、全体的な健康を維持するための広い概念として捉えていただければと思います。

スローカロリーの代表的な食材

──ファストカロリー、スローカロリーの食べ物としては、どのようなものが挙げられますでしょうか?

坂崎さん:ファストカロリーの食べ物で代表的なものは「精製された食品」です。普通のお砂糖、白米、小麦で作られたパンなどは、消化吸収が速く、血糖値が急上昇する傾向があります。

たとえば、お米であれば玄米は胚芽や糠殻が残っているため、消化吸収がゆっくりです。しかし、白米はその胚芽や糠殻が取り除かれているため、消化吸収が速くなります。精製された食品は加工されているため、体内での分解が早いのです。

一方、さつまいもやごぼうなど食物繊維が多い食品は消化吸収が遅く、スローカロリーに紐づく食材になります。

──ちなみに、私は忙しいときに菓子パンなどで食事を済ませるのですが、よくないのでしょうか?

坂崎さん:そうですね。小麦と砂糖が主成分であれば消化吸収が速く、血糖値も急上昇しやすくなります。また、一時的にエネルギーを補給できても、そのあとに疲れやすくなることもあります。代わりに食物繊維が多い食材や、バナナのように消化吸収がゆっくりなものを選ぶとよいと思いますよ。バナナは糖質量が多いですが、食物繊維も含まれているため、急激な吸収を防ぎます。

──バナナ以外に、手軽に食べられるスローカロリーのおすすめ食品はありますか?

坂崎さん:食事でいうと、玄米は炊くと時間がかかりますが、スーパーなどでは、レンジでチンして食べられるパックタイプが販売されています。普段、白米を食べている方は、玄米のパックご飯を取り入れてみるのもおすすめです。また「低GI食品」も消化吸収がゆっくりなものが多いので、低GIの表示があるものを選ぶとよいと思いますよ。

また、糖質の1種である「パラチノース」なども消化酵素の働きが異なるため、消化吸収がゆっくりになります。

──糖類の中でもそういった素材もあるのですね。続けてお話を聞かせてください。

次世代型糖質パラチノースの研究

──糖質の1種「パラチノース」について、詳しく教えていただけますか?

坂崎さん:パラチノースは微量ですがはちみつにも含まれている天然の糖質です。原料は砂糖と同じで、化学構造もほぼ同じです。砂糖はブドウ糖と果糖が結合している二糖類で、パラチノースも同じくブドウ糖と果糖が結合している二糖類ですが、結合の位置が異なります。見た目や味の質は砂糖とほとんど変わりませんが、甘さは少し控えめです。

パラチノースは古くから知られており、ドイツのPfaltz(英語名:Palatinate)地方で発見された酵素を使って作られています。弊社がその酵素を利用して大量生産する技術を開発し、商品化しました。最初は虫歯になりにくい糖として販売していましたが、現在ではスローカロリーとしての利点が注目されています。

──砂糖とほぼ同じとのことでしたが、パラチノースがスローカロリーとして注目されているのはなぜでしょうか? 体内でどのように作用するのですか?

坂崎さん:パラチノースはブドウ糖と果糖の結合位置が砂糖と違うとご説明しましたが、この違いによって、分解される酵素が異なります。砂糖はスクラーゼという酵素で分解され、小腸の上部で急速に吸収されます。一方パラチノースはイソマルターゼという酵素で分解されます。この酵素は反応速度が緩やかであることにくわえ小腸全体に分布していることによって、消化吸収がゆっくりおこなわれるため、血糖値の上昇を防ぐ特徴があります。

──分解される酵素が違うことで、吸収速度が異なるんですね。

坂崎さん:そのとおりです。また、ほかにもいくつか特徴があります。代表的なものとして「満腹感の持続」が挙げられます。パラチノースが小腸の下部まで到達し分解されると、満腹ホルモンと呼ばれる「GLP-1」の分泌が促進されます。これにより、食べ過ぎを防ぐ効果も期待できるんですよ。

──血糖値の上昇も防ぎ、食べ過ぎも防いでくれるなんて嬉しいですね。

これであなたもスローカロリー生活の一員に!

──スローカロリーを生活に取り入れる上でのポイントについて教えていただけますか?

坂崎さん:まず、食事において重要なのは食物繊維を多く摂ることです。たとえば、食事の最初に野菜を食べる「ベジファースト」は消化吸収をゆっくりにする効果があります。

──「ベジファースト」、一時期話題になっていましたが、野菜を先に食べることでどのような影響があるのでしょうか?

坂崎さん:食物繊維の多い野菜類を先に食べることで、あとから摂る糖質の消化吸収が緩やかになるんです。これは、食物繊維が糖質の吸収を物理的に妨げて、糖質が小腸の上部で一気に吸収されず、小腸の下部まで到達することで消化吸収がゆっくりになります。また、食事をゆっくり食べることも大切です。

──スローカロリーの食材を選ぶ以外でも、日々の食事で工夫することができそうですね。

坂崎さん:はい、もちろんです。1食だけでもスローカロリーを意識することで、眠気や満腹感の違いを実感できる方もいらっしゃいます。ですが、体質改善や健康維持を考えるなら、一時的に試して終わるのではなく、できるだけ長く継続し、生活習慣に組み込んでいただきたいです。

──健康、体質を改善するには、継続が重要なんですね。継続が難しい人に対して、何かアドバイスはありますか?

坂崎さん:厳密に意識しすぎると、継続がつらくなってしまうので、できるときに実践するくらいの気持ちで取り組むのがおすすめです。できない時期があったり、途中でやめてしまったりしても、思い出したときに再度取り組むだけでもよいと思います。

また、今日お話ししたように「なぜスローカロリーが身体にいいのか」を理解しておくと、実践するモチベーションにもつながりますよね。知識を持つということも重要なポイントかと思います。

──本日のお話でスローカロリーの利点や重要性が理解できました。ありがとうございました。

坂崎さん:ありがとうございます。忙しい朝はファストカロリーの食事に偏りがちなので、ぜひ明日の朝食から意識してみてもらえると嬉しいです。また、午後の眠気や集中力に悩む方にも試していただきたいですね。昼食や間食の選び方を変えることで、眠気の改善や集中力アップを実感できるかもしれません。まずは、自分でスローカロリーの効果を体感することで、続けるモチベーションにもつながると思います。

Wellulu編集後記:
今回の取材を通じて、スローカロリーという新しい視点から食生活を考える重要性を改めて実感しました。日常生活に無理なく取り入れるためには、食物繊維を多く含む食材を選び、食事の順番やスピードを工夫することが効果的だと感じました。スローカロリーを意識することで、健康を維持し、さらに体調の改善やパフォーマンスの向上が期待できます。

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