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食後の血糖値上昇を抑える?リノール酸で食後の眠気や倦怠感への効果【和歌山県立医科大学・山本講師】

和歌山県立医科大学・山本悠太講師の研究によって、植物油に含まれるリノール酸が食後の血糖上昇を緩やかにする可能性が発見された。この研究結果を踏まえ、糖尿病の患者さんへの応用が期待されている。そこで今回は、糖尿病治療における新たなアプローチとして注目されている研究の内容について、また普段の食生活で血糖値の上昇を緩やかにするポイントについて山本講師にお話を伺った。

山本 悠太さん

和歌山県立医科大学医学部解剖学第一講座 講師

胃潰瘍治療薬に肝炎治療効果を発見してから、基礎医学の応用研究に興味を持つようになった。現在は、脂肪酸の食後血糖上昇を穏やかにする作用について、1型糖尿病患者へ臨床応用するために研究を行っている。北海道大学薬学部総合薬学科卒業、徳島大学大学院医科学教育部でカロリー制限方法の精神行動への影響について研究を行い、博士(医学)を取得。和歌山県立医科大学医学部解剖学第一講座 助教を経て、現職。

本記事のリリース情報
~食後の眠気や倦怠感にも効果的?リノール酸が食後の血糖値上昇を緩やかにする可能性~がWelluluにて掲載されました

メディア掲載・出演情報

血糖が高い状態が続くことの健康リスク

血糖値の急激な変動と倦怠感

──今回の血糖値に関する研究に取り組まれたきっかけを教えていただけますか?

山本講師:私はもともと糖尿病の研究者ではなく、炎症やストレスの影響を受ける肝臓の研究をしていました。脂肪酸の炎症への効果を探索していた時に、私の娘が1型糖尿病を発症しました。1型糖尿病は食後の血糖上昇を抑えるインスリンというホルモンが分泌できなくなる病気のため、食事前には必ずインスリン注射をする必要がありました。娘がインスリンを食事前に投与しても効くまでに時間がかかっていたので食べ始めると血糖が上昇し、インスリンの効果が出てくると血糖が下降し、つらそうにしている姿を見て、これを改善できる方法はないかと考えていました。

── この研究の背景には、ご家族の経験が大きく影響しているのですね。

山本講師:はい。1型糖尿病は、膵臓の内分泌腺にあるβ細胞が破壊されることでインスリンの分泌ができなくなるため、1型糖尿病研究ではβ細胞を修復する方法にスポットライトが当てられていました。私は、脂肪酸の研究をしていく中で、リノール酸を食直前に投与するとインスリンの分泌に関係なく血糖値の上昇を抑えることができることを、健康なネズミを使った実験で発見しました。食後の血糖上昇はインスリンの分泌によって抑えられますが、この実験ではインスリンの分泌が抑えられたまま、食後の血糖上昇が抑えられたので、この結果を見たときに強い違和感を覚えました。ふとその時に、食後の血糖上昇が抑えられず辛そうにしていた娘の姿を思い出し、1型糖尿病の患者さんで同じ効果が認められたら、食後の血糖コントロールで困っている患者さんを助けることができるかもしれないと考えました。

血糖値の上昇が緩やかになることは糖尿病患者に限らず全ての人にメリット

──血糖値の上昇が緩やかになることのメリットについて教えてください。

山本講師:糖尿病患者において、血糖値を70〜180mg/dLの範囲に収めることは健康状態を良好に保つために非常に重要で、血糖値の急激な上昇と下降は患者にとって大きな負担です。特に1型糖尿病患者の場合、血糖値が急激に上昇し、その後急激に下降することがあります。これは体調不良の原因になり得ます。血糖値の上昇を緩やかにすることで、このような急激な変動を避けることができます。また、これは一般の人にとっても、日常生活において倦怠感や眠気の原因となる血糖値の急変を防ぐ助けとなります。

── 血糖値と炭水化物の関係について教えていただけますか?

山本講師: 炭水化物を含む食品、例えばご飯やうどん、お芋などを食べると、これらが腸で分解されて糖に変わります。この糖が腸で吸収され血液に送られると血糖値が上昇します。上昇した血糖値は、インスリンの分泌により正常なレベルに戻ります。血糖は体内のエネルギー源として重要ですが、高い状態が続くと健康に悪影響を及ぼします。例えば、視力の低下や腎臓の機能障害などが起こり得ます。

「リノール酸」の直接摂取により血糖値のコントロールが可能

食後の血糖上昇を緩やかにする「リノール酸」とは

── 今回の研究で使用した「リノール酸」とはどのようなものか教えていただけますでしょうか?

山本講師:リノール酸は、植物油に多く含まれる必須脂肪酸のひとつです。体内では合成できないので、摂取する必要があります。なかでも、グレープシードオイルに特に多く含まれ、ほかには大豆油やコーン油にも多く含まれています。肉類の油脂にはあまり含まれていません。

── また、「GPR40」や「GPR120」という受容体についても教えてください。

山本講師:「GPR40」と「GPR120」は、長鎖脂肪酸を認識する受容体です。脂肪酸は油の主成分で、グリセリンと化学結合していますが、消化されると、脂肪酸とグリセリンに分解され、栄養として体に吸収されます。「GPR40」と「GPR120」は腸の中の栄養素を認識するセンサーとして働いていて、植物油が分解された脂肪酸を認識してくれます。このセンサーが働くと、「GLP-1」というホルモンが体内へ分泌され、インスリン分泌を促し食後の血糖上昇を抑えます。また、「GLP-1」は胃の運動を抑える作用と、食欲を抑制する作用もあるため、体重減少効果についても注目されています。

──「リノール酸が食後の血糖上昇を緩やかにする」という今回の研究について、具体的な実験方法を教えていただけますでしょうか?

山本講師:この研究ではねずみを使って実験を行いました。ねずみにオリーブ油にリノール酸を混ぜたもの、またはオリーブ油を飲ませた直後に糖を飲ませました。その後の血糖値を連続的に測定しました。

「リノール酸」血糖値の上昇を抑える効果

──実験結果について教えてください。

山本講師:リノール酸を摂取したねずみでは、血糖値の上昇が緩やかになり、ピークも低くなることが確認されました。これは、リノール酸が血糖値の上昇を抑制する効果があることを示しています。つまり、通常の食事で摂取する油とは異なり、リノール酸を直接摂取することで血糖値のコントロールが可能になるということが分かりました。

これは、このリノール酸を摂取したことで、インスリンの分泌ではなく「GLP-1」の分泌が起こっており、胃の動きが抑えられることで血糖値の上昇が緩やかになった可能性が考えられます。

──従来の1型糖尿病に関する研究は、インスリンを分泌するβ細胞の修復 に焦点を当てたものが多いなかで、先生はリノール酸による胃の動きで血糖値をコントロールできることを発見されたんですね。

血糖値を安定させて健康リスクを回避する

──リノール酸を一般の人が取り入れることはできるのでしょうか?

山本講師:現在、リノール酸を日常生活に取り入れる具体的な方法については、まだ研究段階にあります。リノール酸は一般的な植物油に含まれていますが食用のリノール酸は市販されていませんので、直接摂取することは難しいんです。今後の研究が進むことで、より実用的な方法が見つかるかもしれません。

何から食べるか?食事の順番や量、低GI食品で安定した血糖値を

──なるほど。血糖値を安定させるためには、どのような食生活の工夫が効果的でしょうか?

山本講師:まずは、食事の順番を意識してみてください。何から食べ始めるかでも血糖の上昇の仕方は変わります。サラダなど野菜から先に食べるなどですね。また、低GI(グリセミック指数)食品を選ぶことで、血糖値の上昇を緩やかにすることができます。低GI食品には、納豆や全粒粉製品などがあります。白米よりも雑穀米や玄米を選ぶことも血糖値コントロールに効果的です。これらの小さな変更でも、食後の血糖値の上昇を抑える助けとなります。

また、食事の量のコントロールも重要です。特に昼食を多く摂ると眠気の原因になるため、カロリーを抑えることをおすすめします。食事の量と質をバランス良く管理することが、血糖値の安定につながります。

──血糖値が急激に変化することのデメリットについてはどう思われますか?

山本講師:血糖値が急激に下がると倦怠感が起こり、血糖値を戻そうとアドレナリンやノルアドレナリンが出ることでイライラなどの症状が現れることがあります。高血糖が続くと、血管の内側の壁が傷ついてしまいます。血管は心臓や脳といった大きな血管だけでなく目や腎臓、神経にも小さな血管があり高血糖状態が続くと、血管が傷つくことで様々な症状が起こる原因になります。特に、若い時は問題なくても、年齢を重ねると血管の問題は顕著で、腎臓などの臓器に影響を及ぼすことがあります。

──今後の研究の方向性について教えてください。

山本講師:今後は、血糖値のコントロールに関する研究を進め、臨床応用できる形に持っていきたいと考えています。リノール酸の効果をより広く応用し、糖尿病患者だけでなく、健康な人々の生活の質の向上にも役立つ研究を目指しています。これには、糖尿病の医師や栄養学の専門家との協力が不可欠なので、様々な分野の専門家と協力して、研究を進めていきたいと考えています。

──山本先生、本日はありがとうございました。

編集後記:

今回の取材で糖尿病と血糖値管理に関する興味深い話を聞けました。糖尿病研究の進展や日常生活での健康管理の重要性など、特に印象的だったのは、血糖値の急激な変動が体に及ぼす影響についてでした。眠気や倦怠感、イライラといった症状は、日常生活においても見過ごされがちなサインですが、これらが血糖値の変動と密接に関連していることに驚きました。食事の取り方に関するアドバイスなど、日頃の食生活に活かせるお話も聞くことができました。山本先生は、「昼食をいっぱい食べると眠たくなるので、昼食を軽くし、空腹感が出てくる夕方頃に間食をすることで血糖値を安定させようとしている」とのこと。もしかしたら、昼から集中力を要する作業に励む際は取り入れてみるのも良いかもしれません。

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