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感謝日記の効果とは?感謝の気持ちが学習モチベーションを向上させる【立命館大学・山岸典子教授】

「勉強する気にならない」「なんとなくダラダラと過ごしている」モチベーションが低下しているときには”感謝に意識を向ける”という意外な解決策が…

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)と立命館大学の共同研究によって、日々の感謝を記録する「感謝日記」をつけることで、学習モチベーションを向上させる効果があることが明らかになった。

今回の研究では、84名の大学生・大学院生を「感謝日記を書くグループ」と「書かないグループ」に分け、幸福度やストレスレベルなど、その日の状態をスライドバーで示す毎日の課題にくわえ、「感謝日記を書くグループ」にはその日に感謝したことや感謝した人を書き込む課題に2週間取り組んでもらった。

実験開始から【1週間後、2週間後、実験終了後、1ヶ月後、3ヶ月後】に、心理状態の変化を比較したところ、ほぼ毎日「感謝日記」をつけたグループは、学習モチベーションが有意に向上するという結果に。また、向上したモチベーションは、3ヶ月後も維持されていることがわかった。

今回は、この研究の第一人者である立命館大学グローバル教養学部の山岸典子教授に「なぜ感謝日記」をつけることで学習モチベーションが向上したのか」「感謝日記はどのようにつけるとよいのか」など実践の仕方についても伺った。

山岸 典子さん

立命館大学グローバル教養学部  教授

認知神経科学者。1995年にPh. D.を取得 (パデュー大学心理科学部認知心理学科)。2016年にMBAを取得(マギル大学デソーテル経営学部MBA)。1995-1996年にカリフォルニア大学サンディエゴ校(医学部眼科) 、1996-1997年にロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校(心理学部)に勤務。その後、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)、 情報通信研究機構脳情報通信融合研究センター(CiNet)を経て2019年より現職。

目次

モチベーションが成果を大きく左右する!感謝とモチベーションの関係性

── まず、山岸教授がこの研究をしようと思ったきっかけを教えていただけますか?

山岸教授:立命館大学には、稲盛経営哲学を科学的に解明して社会に発信し、後世に残していくことを目指す「稲盛経営哲学研究センター」があり、私もこのセンターでの研究に携わっています。

稲盛 和夫さんの経営哲学には経営学と心理学の2つの面があり、このプロジェクトには経営学の先生方もたくさん関わっているのですが、私は心理学者として“心の経営”が心理学的にどのように素晴らしいかを解明することをミッションとしています。

稲盛さんご自身が“感謝の気持ちがすべての根源である”とおっしゃっていて、それがどういうことなのかを認知心理学や脳科学を使って解明しようというのが、今回の研究の発端でした。

── 稲盛経営哲学の解明を発端とした研究だったのですね!

山岸教授:そうなんです。ここ数年で世の中が大きく変わり、どこで仕事をしてもどこで勉強してもいいような時代になってきていますよね。そんな状況下においては「成果を出し続けるにはどうしたらいいか」という大きな問題があると思います。

成果を左右する要因としては、個人の特性に加え、モチベーションや能力、役割認識、状況要因などが関わってくるのですが、中でも一番変えやすいのはモチベーションだと考え、今回の研究では感謝とモチベーションの関係について掘り下げました。

稲盛さんも「人生や仕事の結果は、考え方×熱意×能力」という方程式を残していらっしゃいます。

この方程式でも、熱意や能力は0〜100ですが、考え方はマイナス100〜100まであり、考え方次第で結果が180度変わってくる、つまり正しい考え方を持つことが大切だということが謳われているんです。

感謝日記をつけると学習モチベーションが大きく向上する

── 今回の研究結果では、感謝日記をつけることで実際に学習モチベーションが向上していましたね。

山岸教授:過去の研究などを踏まえ、感謝の気持ちを持つことで、幸福度が向上したり、自分を俯瞰(ふかん)的に捉えられるようになったり(=視点取得)して、その結果モチベーションが向上し、パフォーマンスも向上するのではないかという仮説を立てていました。

この「感謝の気持ちをもつ」という部分に介入することで、その後の連鎖の証明を試みたのが今回の研究です。

大学生・大学院生84名を、感謝日記を2週間書くグループと書かないグループに分け、感謝日記以外はまったく同じ条件で実験をおこなっています。

実験前や実験後に「感謝の性格」「視点取得」「幸福度」「モチベーション」の4つをチェックする質問に答えてもらいました。

結果を比較したところ、4つの中でモチベーションの心理指標にだけ有意な 違いがみられ、感謝日記をつけたグループの学習モチベーションが大きく向上していたんです。

また2週間「感謝日記」をつけ、向上したモチベーションは、日記をやめた 3ヶ月後も効果が維持されていることもわかりました。

感謝の記録がモチベーション・やる気を向上させる

── グラフをみても、学習モチベーションの違いが一目瞭然ですね。なぜ感謝の記録をつけることが学習モチベーションの向上につながったのでしょうか?

山岸教授:モチベーションのモデルにもさまざまなものがあるのですが、今回用いたのは自己決定理論というモデルです。

「勉強したい!自らやりたい!」というのが内発的モチベーション。「お母さんに言われたから、いい成績じゃないと就活に響くから」など外的な要因によるものが、外発的モチベーションです。さらに「まったくやる気がでない」非モチベーションがあり、モチベーションにもレベルがあるんです。

日記を書いてもらった前後でどのモチベーションが変わったのかを調べたところ、「無気力スコア」が下がっており、他の要因は上がったり下がったりしていないことがわかりました。

つまり「やる気がでてきた」ことで、全体的な学習モチベーションが上がったということになります。

── 感謝日記をつけることで、やる気が上がったという結果がみられたのですね。ちなみに、感謝ではなく「嬉しい」「楽しい」などの感情でも似たような効果はあるのでしょうか?

山岸教授:過去に高校生を対象に似たような研究をおこなっており「感謝日記」を書くグループと「良いこと日記」を書くグループにわけ、課題に取り組んでもらいました。

どちらのグループも幸福度の上昇が見られ、ネガティブ度を測る指標も下がっていたのですが、学習モチベーションに関しては「感謝日記」のグループはモチベーションが維持されており、「良いこと日記」のグループはモチベーションが減少していました。

── こんなに違いが見られたんですね!

山岸教授:誤解がないようにお伝えすると、若い方は一定期間でモチベーションが下がる傾向にあるので「良いこと日記」を書いたからモチベーションが下がったというわけではありません。「感謝日記」を書いたことで、モチベーションを下げることなく、維持できたというわけです。

この結果から、「嬉しい」「楽しい」などのプラスの感情ではなく、あくまでも「感謝」に注目することがモチベーション維持につながっている可能性が高いことが示唆されます。

感謝日記、感謝カード…、感謝に目を向けることが大切

── モチベーションの維持のためには「感謝」に注目することが重要なのですね。今回の研究では「感謝日記」を取り入れていましたが、直接感謝を伝えることと、日記に記すことは効果に違いがあるのでしょうか?

山岸教授:結論からお話しすると、感謝を直接伝えるなどの方法でも「感謝日記」に近い効果は十分期待できると思います。

実際に私の授業を受講している学生さんに、感謝の手紙に取り組んでもらったことがあるんです。年末も実家に帰省していなかった学生さんが「どうしても地元の友人に感謝を伝えたいと、バイトで新幹線代を稼いで手紙を届け、友人と2人で号泣した」など、感動的なエピソードがたくさん出てきました。

また、社内で感謝カードを送り合う取り組みをしている企業もあるかと思います。九州大学の池田先生の研究によると感謝カードを1年くらい続けると、良いことがあったかどうかは、カードをもらった数より送った数に比例するという結果も出ています。

こういったことからも「自分で感謝に注目する」ということに効果があると考えられます。細かく検証をしたわけではありませんが、直接感謝を伝えたり、手紙を書いたりすることも、感謝日記と同じようにモチベーション向上の効果が得られると思います。

感謝日記で「ワーク・エンゲージメント」の向上も期待できそう

── 感謝に注目する方法もたくさんあることがわかりましたが、「感謝日記」は今日からでもすぐに取り組むことができますね。学生ではない、社会人や主婦がおこなっても効果は期待できるのでしょうか?

山岸教授:社会人の方に関しては、まさに今研究を進めており、これから解析して論文にまとめようとしているところです。

この研究では「感謝日記」と「普通の日記」を書くグループにわけ、その前後の心理指標をとって比較しています。まだ正確にはお伝えできませんが、日記を書いた前後で「ワーク・エンゲージメント」の向上で差がみられています。

ワーク・エンゲージメントとは、モチベーションよりもう少し広い意味で、仕事に対してポジティブで充実した心理状態であるかどうかという指標です。社会人の方に関しても、学生を対象におこなった研究と同様に、やる気の部分に効果があるのではないかと予測をしているところです。

今年度中には論文をまとめて、正式な結果をお伝えできればいいなと思っています。

── 結果を楽しみにお待ちしています。社会人では同じような結果がみられるかもしれないとのこと、たとえば小学生のお子さまだとどうなのでしょうか?

山岸教授:これはまだ研究をおこなったことがなく、データがないんです。

感情が成熟するのが15〜18歳くらいといわれており、それより前は脳が発達している途中の段階なので、どういう結果が出るかわからない部分がありますね。

子どもにやってもらうよりは、親御さんが「感謝日記」を実践し、モチベーションが高い状態で子どもに接することができる環境をつくるほうがいいのかなと感じます。

ゲーム感覚で気軽に感謝を書き留めてみよう!

── 本日はありがとうございました。最後に「これから感謝日記をはじめよう」と考えているみなさんに、書き方のポイントを教えていただけますか?

山岸教授:感謝に注目するということが大切なので、思いついたときにでも、寝る前にでも、スマホでサッと書き留める程度で十分です。アナログの方がいいという人は、もちろん紙と鉛筆を使ってもOKです。

内容に関しても、自分が感じた感謝であればなんでも構いません。

こちらが大学生・大学院生の 「感謝日記」で頻度の多かった単語ですが、勉強に関する記述は少なく、友だちやご飯、バイト、天気など、身近なものに対しての感謝が多く見られました。

今回の研究では、感謝を記録できる欄を5つ用意していましたが、数と効果が比例しているわけではないので、無理にたくさん書く必要もありません。学生さんは平均1日2~3個埋めていたので、このくらいが書きやすいのかなと思います。

無理に長期間続けることで感謝疲れを感じてしまったり、義務感がうまれストレスになってしまったりすることもあるので、つけ忘れてもあまり気にせず、無理のないやりやすい方法で続けるのが一番ですよ。

学生さんには「ゲーム感覚で気軽にやってみて」と伝えることもあります。

2週間おこなうことで効果は3ヶ月ほど続きますので、モチベーションが下がってきたなと感じるタイミングや、ふと思い出したタイミングなどで、2週間くらい 取り組んでみるのがおすすめです。

Wellulu編集後記

今回は立命館大学の山岸教授に「感謝日記」をつけることで、学習モチベーションを向上させる効果があることが明らかになった研究について、詳しいお話しを伺いました。

モチベーションの維持こそ、自分でコントロールするのが難しいのではないかと感じていましたが、感謝に注目することでやる気を高める効果があるということを伺い、とても驚きました。

また研究結果によると、2週間の「感謝日記」で3ヶ月も効果が維持されていたとのこと、2週間という目安があるので、三日坊主にならずに気軽に続けられそうだと感じました。

山岸教授が現在進められている、社会人を対象にした研究結果にも期待が高まります。

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