果実の恵みをそのまま抽出したオリーブオイルにはどのような働きがあるのか?日々の食事や調理で何気なく使っているものの、当たり前の存在すぎて、きちんとその特性を理解して使えているでしょうか。オリーブオイルの中でも「エクストラバージンオリーブオイル」にとくに注目して、その風味や健康への影響などについて、今回、J-オイルミルズの水野さんに詳しくお話を伺った。
水野さん
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【「Wellulu」掲載】オリーブオイルの魅力について知ろう!
果実そのもの!最上級の「エクストラバージンオリーブオイル」とは
── まず、他の植物油脂とオリーブオイルのおもな違いを教えていただけますか?
水野さん:はい、他の植物油脂とオリーブオイルの違いは、おもに原料と製造プロセスにあります。多くの植物油は「種子や胚芽」から搾油されますが、オリーブオイルはオリーブの「果実」を搾って油をとります。
通常、植物油は搾っただけでは食用に適さない場合が多く、搾油後に脱酸、脱色、脱臭といった精製過程を経て食用油に加工されます。その一方、状態のよいオリーブの果実から抽出されたオリーブオイルは、これらの精製過程を経ることなく、そのまま食用として使用できます。そのため精製しないオリーブオイルは、素材本来の風味を楽しめるとともに、素材が持つ抗酸化物質であるポリフェノールやビタミンEを含みます。
「エクストラバージンオリーブオイル」も脱酸、脱色、脱臭などの処理を施していないため、オリーブ本来の風味や栄養が豊富に含まれているんですよ。
エクストラバージンオリーブオイルとは?
── エクストラバージンオリーブオイルはオリーブの果実そのものを最大限に感じられるオイルなのですね!そのほかのオリーブオイルとの違いはどういった部分にあるのでしょうか?
水野さん:まず、風味が異なります。エクストラバージンオリーブオイルは、オリーブ果実から最初に搾り出されたオイル、つまり「一番搾り」で、酸度が非常に低く(0.80%以下)、精製していないためオリーブの風味が非常に強く、まさに果実のジュースです!一方、通常のオリーブオイルは、バージンオリーブオイルと精製したオリーブオイルをブレンドしたもの(ピュアタイプ)ですので、味や香りがマイルドです。そのため、炒め物や揚げ物など加熱調理に適したオイルとなります。
国際オリーブ協会では、バージンオリーブオイルを「エクストラバージン」「バージン」「オーディナリーバージン」「ランパンテバージン」の4つにグレード分けしており、それぞれの品質に基づき、用途が異なります。「エクストラバージン」は風味が上質な最高品質のオイルであり、オリーブ果実そのものの個性が際立ちます。
一方、「ランパンテバージン」は、精製することでサラダ油のようなさっぱりとしたオリーブオイルになります。無色透明、無味無臭に近い状態に磨き上げた油は「精製オリーブオイル」と呼ばれ、これをほかの3つのグレードのバージンオイルと混ぜ合わせたものが「(ピュアタイプの)オリーブオイル」です。
たとえば、風味豊かな「エクストラバージン」はサラダドレッシングや冷菜に適していますが、「(ピュアタイプの)オリーブオイル」は加熱調理に向いています。このように、使用するオリーブオイルを料理や好みに合わせて選ぶことが大切です。
オリーブオイルの風味・用途・栄養価
──どのオリーブオイルを使用するかによって、相性のよい食べ方や調理法、その栄養価に違いは出るのでしょうか?
水野さん:エクストラバージンオリーブオイルは、オリーブの果実そのもののフレッシュでフルーティーな風味が特徴のため、味わいが豊かで、サラダドレッシングや冷菜に使用すると、素材の味を引き立ててくれます。また、味のしっかりした料理にかけると、独特の香りが料理に深みを加え、食欲をそそる効果も期待できます。
一方、ピュアタイプのオリーブオイルは、エクストラバージンオリーブオイルよりも風味は控えめでまろやかです。そのため、加熱料理に適しており、オイル自体の味が前面に出ることなく、料理の味を損なうことなく使用できます。とくに揚げ物や炒め物に用いると、素材の味を生かすことができます。
また、ピュアタイプのオリーブオイルにはエクストラバージンオリーブオイルに比べてポリフェノールなどの微量成分が少なくなる傾向があるともいわれていますが、果実の個体差や配合割合によっても異なるため、効果の違いについては一概にはいえません。健康によいと考えられているオレイン酸に関しては、エクストラバージンオリーブオイルもピュアタイプのオリーブオイルも豊富に含んでいます。
どちらのオリーブオイルを使用するかは、それぞれの特性を理解し、料理の種類や求める風味など、最適な使い方を考慮して選んでみてくださいね。
──ちなみにエクストラバージンオリーブオイルを使ったおすすめのレシピなどあれば教えてほしいです。
水野さん:夏の季節などには「夏野菜の揚げびたしオリーブそうめん」などがおすすめです。風味豊かな夏野菜とエクストラバージンオリーブオイルが相まって、ひと味違うそうめんの味わいをたのしめますよ。
──なるほど。豊かな風味のあるものはやはり積極的にそのままでたのしみたいですね!オリーブオイルは加熱した場合、栄養価はどうなのでしょうか。
水野さん:オリーブオイルはオレイン酸が豊富に含まれるため、比較的熱には強いですが、一部の抗酸化物質などは減少する可能性があります。
ただ、栄養価の面よりも、加熱することでオリーブオイルの魅力である特有の風味が落ちてしまうのが少しもったいなくて…。もちろん加熱しても使えますが、エクストラバージンオリーブオイルはできれば風味を活かして生で使っていただきたいです!
──生での使用がおすすめなのですね。
──エクストラバージンオリーブオイルには色の濃いものや薄いものがありますが、どのような違いがあるのでしょうか?風味や品質の違いもありますか?
水野さん:エクストラバージンオリーブオイルの色の違いは、オリーブの品種、収穫時期、搾油方法、保管方法などのさまざまな要因によって異なります。たとえば、緑色の果実を早期に収穫して絞ったエクストラバージンオリーブオイルはより緑色が強く、「グリーンフレッシュ」のような鮮やかな味わい、一方で熟した黒い果実から絞られるエクストラバージンオリーブオイルは黄金色で、甘みのあるフルーティな味わいになると言われることが多いです。ただし、保管中の光の影響でオイルは黄色が強くなることもあるため、一概には言えないというところです。
このようにエクストラバージンオリーブオイルの色は多くの要因に左右されるため、色だけで品質を判断するのは避けたいところです。ちなみに、完成したオリーブオイルの品質をチェックするテイスティングの際には、色による先入観を避けるため、色付きのグラスを使用することが多いんですよ。これは、オイルの色が風味を左右するという先入観を排除し、実際の風味に集中できるように、という目的があります。
──色ではなく、あくまで風味そのものが大事なのですね。どうしても第一印象は色に目が行きがちなので、気をつけたいと思います!
エクストラバージンオリーブオイルがストレスレベルを低下させる?
──J-オイルミルズではオリーブオイルの研究をされているそうですが、研究を始めたきっかけはどういったものだったのでしょうか?
水野さん:まず、私たちは、食品に含まれる「あぶら」がもつ価値・可能性を引き出し、さまざまな付加価値機能を徹底的に追究することで食による未来のよろこびの創出を目指しており、各種の研究を実施しています。その中でもとくにオリーブオイルに注目したのは、そのユニークな特性からです。
オリーブオイルは単なる調味料ではなく、抗酸化物質や心臓病予防への効果など、多くの健康効果が報告されています。本格的にオリーブオイルの研究を始めたのは、これらの健康効果を科学的に解明し、どのように日常の食事に取り入れることが効果的かを探求するためでした。
研究を続けていくことで、オリーブオイルをただの調味料から、健康と味覚の両方を豊かにする素材へと変えることができればと考えています。
──それでは、エクストラバージンオリーブオイルの研究で明らかになったことについて教えてください。
水野さん:これまでの研究から、エクストラバージンオリーブオイルは、ポリフェノールを豊富に含んでおり、これが強力な抗酸化作用を持っています。
さらに、最近の研究(株式会社 J-オイルミルズ リリース資料)で、エクストラバージンオリーブオイルがストレス反応を軽減する効果があることがわかりました。エクストラバージンオリーブオイルを摂取することで、ストレスレベルが低下する、すなわち、ストレス反応が抑制される可能性が示唆されるという結果が得られています。
エクストラバージンオリーブオイル未摂取条件とエクストラバージンオリーブオイル摂取条件に対して脳血流動態計測・解析をおこない、ストレス反応に対するエクストラバージンオリーブオイルの影響を評価しました。
こちらの図は、前頭部の10分間の酸素化ヘモグロビン変化を、計測タイミングごとの平均値を算出したカラーマップです。酸素化ヘモグロビン濃度の積分値が増加した場合は黄色に変化し、減少した場合は青色(ストレス反応の抑制を意味する)に変化しています。
──(b)、(c)、(d)で青色が多くなっていますね。
水野さん:はい。(a)エクストラバージンオリーブオイル未摂取条件の変化で、(b)、(c)、(d)はエクストラバージンオリーブオイル摂取条件となっています。
左から3番目の「摂取後1 時間経過時」において、(a)では酸素化ヘモグロビン濃度の積分値が増加する傾向が見られ、(b)、(c)、(d)の場合は、酸素化ヘモグロビン濃度の積分値が減少する傾向が見られました。
──ストレスへの影響は現代人にとってかなり注目できる働きですね!
ストレス社会の強い味方?エクストラバージンオリーブオイルの取り入れ方
──エクストラバージンオリーブオイルは1日あたりどのくらいを目安に摂取すればよいか教えてください。
水野さん:あくまでも油脂なので適切な摂取量を知ることが重要です。
たとえば、大人の場合、全体の脂質摂取目標は1日あたりの摂取総カロリーの20~30%とされています。成人男性の1日あたりの平均的な摂取カロリーが、約2,700キロカロリーとすると、そのうち540〜810キロカロリーを脂質から摂取するのが望ましいということになります。(厚生労働省による「日本人の食事摂取基準(2020年版)」に基づく)
ここから必要な脂質摂取量を概算すると、約60グラム~90グラムの脂質が摂取量の目安となります。その中で、植物油脂では大さじ1杯程度(約12グラム~18グラム)が推奨されます。もちろん、ほかに摂取する脂質とのバランスも考えて調節するようにしてください。
──大さじ1杯程度なのですね。わかりやすく、負担なく取り入れられそうです!
水野さん:脂質には、オリーブオイルやバター、マーガリンなどの「見える油」と、肉や魚に含まれる「見えない油」があります。また、植物性脂質と動物性脂質は、「1:1」の割合で摂るといいといわれています。見えない油を多くとってしまったからと、見える油を減らしてしまうと、どうしても植物性脂質と動物性脂質の適正な摂取比率(1:1が好ましいとされている)を損なう恐れもあるので気をつける必要があります。
また、赤ちゃんや子どもの場合は、先ほどの計算からもわかるように、全体の摂
取カロリーが低いため、それに応じて摂取量も自然と少なくなります。
──オリーブオイルなど脂質を摂取するのによいタイミングはありますか?
水野さん:オリーブオイルに限らず脂質は、毎食にバランス良く摂るのが理想的ではありますが、全体の1日の摂取量を意識しながら、たとえば昼食で多めに摂取した場合は、夕食では控えめにするなどバランスを考えて調節をするようにしてください。
──エクストラバージンオリーブオイルをより効率的に摂取するためのおすすめの食品や食材を教えていただけますか?
水野さん:エクストラバージンオリーブオイルは多くの食材と組み合わせることができますが、とくにおすすめなのはトマトです。トマトのもつ自然な酸味とオリーブオイルの風味の相性は絶妙で、手軽においしい料理が作れます。たとえば、生のカットトマトにオリーブオイルと塩を少々加えるだけで、トマトの酸味を程よく抑えつつ、フルーティ感がアップし、ちょっぴりスパイシーなおいしい一品になります。
さらに、人参やピーマンなどの緑黄色野菜とオリーブオイルの組み合わせもおすすめです。緑黄色野菜に多く含まれる栄養素であるカロテン(体内代謝でビタミンAに転化)は、油と一緒に摂取することで吸収がよくなります。
──エクストラバージンオリーブオイルと新鮮な野菜の組み合わせは想像しただけでも爽やかで豊かな風味が期待できます!
水野さん:ほかにも、夏のバーベキューシーズンであれば、焼き野菜にオリーブオイルと塩を少しふりかけたり、ワンポイントアレンジとして柚子胡椒を足すのもおすすめです。風味が一層豊かになり絶品なんです!
あとは、すでによく知られているかと思いますが、バターの代わりとして、朝食のトーストにオリーブオイルを使うのも本当におすすめです。パンにオリーブオイルと少しの岩塩をかけるだけなのですが、これはぜひバター好きな方にも試してほしいです。ヘルシーで新しい味わいがたのしめますよ。
オリーブオイルってどう選ぶのが最適?
──シンプルに素材のおいしさを感じられるものばかりですね!市販のものでもいろいろな種類のオリーブオイルがあり、迷う人も多いと思うのですが、オリーブオイルの選び方についてアドバイスをお願いします。
水野さん:オリーブオイルを選ぶ際に重要なのは、まず「鮮度」です。オリーブオイルは鮮度が命で、各家庭で1〜2ヵ月以内に使いきれるサイズのオリーブオイルを選ぶことが大切です。開封後は風味が徐々に落ちていくため、開封後は1〜2ヵ月以内を目安に、早めに使い切ることをおすすめします。
また、エクストラバージンオリーブオイルを選ぶ際は、自分の好みに合った風味を見つけることも重要です。オリーブオイルにはさまざまな風味があり、フルーティなものやスパイシーなもの、苦味やピリッとした辛みを持つものまでさまざまな種類があります。いろいろなブランドや商品を試してみて、自分の好みに合うものを見つけてみてくださいね。
──「鮮度」や自分の好みに合う「風味」を知るには、パッケージのどのような部分に注目したらよいですか?
水野さん:お店でオリーブオイルを見る際には、まず鮮度を示す「賞味期限」を確認してみてください。
そのほかにも、とくに高級なオリーブオイルでは、オリーブの品種が記載されていることが多いため、それぞれの品種が持つ風味や特性を知ることができます。たとえば、イタリア産のコラティナ種はグリーンでストロング、スペイン産の熟れた果実のピクアル種はフルーティな甘い香りをもっているなど、それぞれ風味の特性が異なります。
このように、オリーブオイルの特性は栽培される地域によっても変わるため、地域名が記載されている製品はその地域特有の特性を味わうことができます。産地や品種の違いを楽しむこともオリーブオイル選びの1つの醍醐味なので、いろいろと試して、自分のお気に入りのオリーブオイルを見つけてみてください。
──産地や品種で風味が変わるとなると、探究心がくすぐられます!鮮度が重要なオリーブオイルを保管する上で気をつけるべき点はありますか?
水野さん:直射日光や高温を避け、冷暗所で保管するようにしてください。また、空気に触れると酸化が進むため、できるだけボトル内に空気が入らないように、使い終わったらすぐにしっかりと蓋をしてください。
また、お家にあるオリーブオイルの使い方のコツとして、新しく購入したオイルは生で楽しみ、開封して時間が経ったものは加熱料理に使用するとよいです。風味が落ちてしまったオイルでも料理の味の引き立て役になるはずです。ただし、やはり毎回新鮮な状態でオリーブオイルを楽しむためには、購入後は早めに使い切ることを心がけてくださいね!
──オリーブオイルの摂り過ぎによるデメリットはありますか?
水野さん:オリーブオイルは健康によい食品ではありますが、あくまで脂質であり、他の油脂と同様、1グラムあたり約9キロカロリーあります。過剰な摂取は肥満につながるリスクがあります。
さらに、オリーブオイルの摂取が多いと、一価不飽和脂肪酸の過剰摂取になる可能性もあります。一般的には健康によいとされるオレイン酸でも、過剰な摂取は、冠動脈疾患のリスクを高める可能性が示唆されています。
すべての脂質摂取をオリーブオイルに依存するのではなく、他の食材との組み合わせや、日々の食事全体でのバランスを考慮するようにしてください。
Wellulu編集後記
オリーブオイルに対してなんとなく健康的なイメージは持ちつつも、その製造過程や含まれる栄養素を知り、もっと風味や食材に合わせて活用してみたい、せっかくなら本来の風味をたのしめる方法で取り入れたいと感じました。日々の食事や調理で欠かせない油脂ですが、これからはそれぞれの風味や栄養価、その健康効果まで理解し、たのしく選べそうです。野菜不足が気になっている人も多いと思うので、おいしいオリーブオイルをゲットして、健康に向かって食事をたのしみたいですね。