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一人ひとりの幸福度を高め、ウェルビーイングな社会を実現するために大切な要因とは?【高知大学・廣瀬准教授】

次世代の支援・育成に積極的に関わろうとする「ジェネラティビティ」、他者への好奇心や寛容な心を含んだ「インクイジティブネス」。この2つの要因が、人間の幸福度を向上させる重要な役割を果たしていることが、高知大学の廣瀬淳一准教授による研究で明らかになった。

今回は、廣瀬准教授が取り組んできた研究やその背景についてインタビューを実施。私たちが持続可能な社会を築くための鍵となる要因や考え方についてお話を伺った。

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廣瀬 淳一さん

高知大学 安全・安心機構 准教授

博士(学術)。ジェンダー、ウェルビーイング、異文化間・世代間のコミュニケーションの視点から持続可能な社会の実現について研究している。立教大学文学部卒業、神戸大学国際協力研究科、高知工科大学工学研究科基盤工学コース修了。民間企業を退職後、青年海外協力隊(パラオ:村落開発普及員)、在パラオ日本国大使館(専門調査員)、 国立女性教育会館(特別専門職員)、JICA国際協力機構ザンビア事務所(企画調査員)勤務を経て2012年より現職。高知大学では『しあわせ研究入門』『男女共同参画社会を考える』『国際ボランティア概論』『国際協力論演習』等の授業を開講している。男女共同参画推進室(しあわせぶんたん)室長。

本記事のリリース情報
Welluluさんページにて、男女共同参画推進室(しあわせぶんたん)室長がウェルビーイングに特化したWebメディア【Wellulu】さんの取材を受けました。

幸福度を高める2つの要因。「ジェネラティビティ」・「インクイジティブネス」とは?

──今回の研究に取り組むきっかけを教えていただけますか?

廣瀬准教授:私の専門は実験社会科学で、持続可能な開発をテーマに研究しています。その中で、ジェンダーやウェルビーイング、国際協力といった視点からのアプローチを取っています。研究のきっかけは、20年前、私が青年海外協力隊として参加したパラオでの経験にあります。

──具体的には、どのような経験が影響を与えたのでしょうか?

廣瀬准教授:パラオは人口2万人の小さな島国で、地縁・血縁社会が根付いています。パラオでは高齢者は次世代を導く存在として尊重されています。私は、2年間ホームステイした家庭での経験から、特に高齢女性を取り巻く豊かな生活に触れるうちにこの島の人々のしあわせの秘訣について考えるようになり、その後高知大学に着任して、ウェルビーイングについての研究を進めてきました。

──「ジェネラティビティ」と「インクイジティブネス」に注目した背景についても教えてください。

廣瀬准教授:初めに、ジェネラティビティは、エリクソンという心理学者が紹介した概念で、次世代を育くむ心という意味合いがあります。次に、インクイジティブネスは、「好奇心と問いかけ」や「異なる考え方や新しいものを受け入れる態度」を包括したもので、例えば初めて出会った外国人に「どこから来ましたか?」と問いかけることは会話のきっかけとなりますが、その人が教えてくれた「馴染みのない文化」についても頭から拒否するのではなく「そういう考えもあるのね」と受け止める態度などは、インクイジティブネスの一例です。

インクイジティブネスは、生まれつきの性格の影響が大きいので変えることは難しいとの意見もありましたが、近年では後天的に獲得できることを示す研究結果が増えています。私は、このインクイジティブネスが、ジェネラティビティという次世代への関心や行動とどのように関連しているかに興味を持ちました。

──ジェネラティビティとウェルビーイングの関連性についてはいかがでしょうか?

廣瀬准教授:ウェルビーイングあるいは幸福感は、収入や物質的な豊かさだけでなく、心理的要因やパーソナリティからの影響も大きいとされています。私はジェネラティビティもウェルビーイングの向上に寄与する要因として捉えていて、両者は密接に関連していると考えています。

日本とパラオ共和国で検証!ウェルビーイングとは?

──はじめに、日本での研究内容について教えてください。

廣瀬准教授:今回、400人の日本人を対象に、オンラインでアンケート調査と簡単な実験を実施しました。20歳以上の成人を対象とし、都市部と非都市部からそれぞれ200人ずつ参加してもらいました。検証することは2つで、1つはインクイジティブネスがジェネラティビティとの関係の中でどのような役割を果たしているのか、2つ目はインクイジティブネス、ジェネラティビティ、そしてウェルビーイング(ここでは主観的幸福度)の関係を明らかにすることです。

──ジェネラティビティやインクイジティブネスの尺度について詳しく教えていただけますか?

廣瀬准教授:ジェネラティビティについては、マックアダムスという研究者が作成した尺度を使用しました。人生で得た知識や経験を他人に伝える意欲や、異なるグループや人の活動への関与度など、20の質問が含まれています。また、インクイジティブネスについては、批判的思考(クリティカル・シンキング)を測るために作成された質問の下位尺度を使用しました。この尺度の特徴は異なる考えを持つ人や異文化、外国人、馴染みのないものに対する好奇心についての質問が含まれていることです。

──研究の結果について教えてください。

廣瀬准教授:研究の結果、インクイジティブネスが、世代間や世代内のコミュニケーションを通じて人間の主観的幸福度を向上させる重要な役割を果たしていることが確認されました。インクイジティブネスがジェネラティビティを高め、その結果として主観的幸福度が向上するという仕組みが明らかになったのです。

──続いて、パラオでの研究内容と結果についても教えてください。

廣瀬准教授:パラオでの調査は、伝統的な価値観が根付く社会で、異なる考えや文化に対する好奇心や問いかけがどれだけウェルビーイングに影響するのかを改めて確認する目的で行いました。ジェネラティビティに対しては、自律性の影響は確認できませんでしたが、ウェルビーイングに対しては、インクイジティブネスとともに非常に強い影響を持つことが確認されました。これは、母系社会という伝統的な社会でも、異文化や異なる考えに対する好奇心を持ち、必要であれば社会的プレッシャーがある中でも自分の意見や考えを発言できる心理的安全性があることが、ウェルビーイングの向上にとって重要であることを示唆しています。

──これらの研究において他に新たな発見や気づきはありましたか?

廣瀬准教授:伝統的価値の強いコミュニティが、その伝統を残すためにも時代の変化に適応しながら新しい要素を取り入れることが重要であると感じました。日本の歌舞伎も、時代に合わせて変化してきたことで、現代にも残っているのだと思います。

自律性やインクイジティブネスを高めるために

──先生のお話を聞いていて、多様な分野でもインクイジティブネスやジェネラティビティは関連している気がしてきました。

廣瀬准教授:はい。先ほど例として挙げました歌舞伎のような伝統芸能や老舗の会社などにおいても当てはまるのではないかなと私は考えています。

ウェルビーイングな社会を実現するためには、心理的な安全性の確保がとても重要です。例えば、新しいアイディアや提案をする際、それが受け入れられる環境があるかどうかが大切ですね。私が感じたことは、伝統的な社会の中でも、強権的なワンマンな状況ではなく、新しい提案やアイディアを受け入れる成熟した大人の雰囲気が持続可能な社会には重要だと感じました。

──今後の研究の方向性やテーマについて教えていただけますか?

廣瀬准教授:今後は、ウェルビーイング、ジェネラティビティ、そしてクリエイティビティ等の観点から、持続可能な社会づくりにおけるシニアの役割について分析していきたいと考えています。人間は他の動物に比べても長生きですが、蓄積した経験や知識を活かしてシニアが活躍できた集団が今日まで生き残ってきたという仮説があります。シニアが社会の持続可能性を高めるために、その役割を果たすことは、シニア自身のジェネラティビティとウェルビーイングを高める可能性もあります。シニアが積極的に次世代づくりの社会貢献できる仕組みが機能すれば、社会全体がより良くなると思います。

──最後に、ウェルビーイングに関する研究を通じて、読者に伝えたいメッセージはありますか?

廣瀬准教授:人間は社会的動物として生存してきたので、集団の中で良好な人間関係を構築・維持することがウェルビーイングにとっても非常に重要です。そして、社会を次世代に繋いでいくためには新しいものや異なる考え方を選択的に受け入れることも大切で、人の役に立つものを発明したり、目標に向かって努力することもウェルビーイングの向上に貢献します。人間には寿命があります。先代から受け取ったバトン(生命もそうですし、知識や技術もそうです)はできるなら工夫を添えて次世代にパスする必要があります。そのような人間の基本的な営みの中にウェルビーイングを向上させる秘訣が集まっていると思います。

編集後記:
今回取材を実施した廣瀬先生の研究テーマは一見難解に感じる箇所もあるかもしれません。ただ、私たちの日常生活や社会全体を理解し、より良い社会(ウェルビーイングな社会)を実現するためのヒントとなるお話をたくさん聞くことができました。凝り固まった価値観を誇示するのではなく、好奇心や異なる考え方を受け入れる心を持ち、純粋な気持ちで人と向き合うことの大切さを改めて教えてもらったような気がしました。

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