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妊娠高血圧症候群の予防に関する研究。飲酒、受動喫煙との相関や日頃のケアについて【東北医科薬科大学 目時教授】

妊娠・出産時に注意したい症状に「妊娠高血圧症候群」がある。高血圧が主症状だが、妊婦さん本人だけでなく、お腹の赤ちゃんにも「胎児発育不全」や「周産期死亡」といった大きな影響をあたえる。健康に気を遣っている妊婦さんでも、妊娠時期特有の体の変化で起こりうるため、原因の特定が難しい。

東北医科薬科大学医学部・衛生学・公衆衛生学教室 目時教授らの研究グループの調査によって、 妊娠高血圧症候群のさまざまなリスクと、喫煙・飲酒の影響が判明。

飲酒や喫煙によって発症のリスクが高まることがわかったほか、妊娠高血圧症候群予防の観点からは、妊婦さんへの禁煙指導ばかりではなく、妊娠の可能がある女性が周囲にいる場合の、「受動喫煙対策」も重要ということがわかった。

今回は研究の第一人者である東北医科薬科大学医学部目時弘仁(めときひろひと)教授に、喫煙・飲酒と妊娠高血圧症候群の関係について詳細を伺った。

目時 弘仁さん

東北医科薬科大学医学部  教授

2001年東北大学医学部卒業、2007年に同大学院臨床薬学分野で学位を取得。2010年から同大学院環境遺伝医学総合研究センターでエコチル調査に携わる。2012年から東北大学東北メディカル・メガバンク機構で三世代コホート調査に従事。2016年より現職。現在も循環器疾患や発生・発達に関わるコホート研究を中心に疫学調査を行う。

「妊娠高血圧症候群をどう予防するか」という観点での研究

── はじめに、目時先生が今回の研究をしようと思ったきっかけを教えてください。

目時教授:もともとは妊娠に限らず高血圧や脳卒中の研究をしていたんです。なってしまってから治療するよりも、前の段階で予防する方法、日常の生活から改善できることがないかなどを調査していました。

そこから「妊娠高血圧症候群」にも興味を持ちました。妊娠高血圧症候群は原因の特定が難しいうえに、投薬するにも制限があるため、治療が難しいところが他の病気と異なる部分だと思います。

とくに重くなってしまった場合は、帝王切開をして、赤ちゃんを早めにとり出すくらいしか治療のしようがない。そのため、調査によって予防する方法や、リスクについての情報を集め、少しでもリスクを下げてあげることが大事なんじゃないかということで、今回の研究に取りくみました。

── 今回の研究は具体的にどのようなことを調べられたのですか?

目時教授:この研究では、環境省が実施している「エコチル調査」の結果を用いています。

エコチル調査というのは、環境省により実施されている長期にわたる調査で、主に「環境化学物質」が子どもの健全な成長や発達に、どのように関連しているか検討をおこなうものです。

飲酒、喫煙、受動喫煙による妊娠高血圧症候群の影響を分析

目時教授:参加してくださっている7万人ほどの、妊婦さんや赤ちゃんを対象に、飲酒や喫煙、受動喫煙の有無で妊娠高血圧症候群の発症に違いがあるのかを分析しました。

その結果、妊婦さん全体に及ぼす受動喫煙の影響は、妊娠高血圧症候群全体の3.8%となり、妊婦さん自身の喫煙が及ぼす影響の1.8%と比較しても大きいものとなっていました。

飲酒に関してもリスクがあることは間違いなく、毎日「日本酒1合」または「ビール大瓶1本」程度の飲酒をおこなった場合、飲酒をしていない妊婦に比較して妊娠高血圧症候群のリスクは3.45倍と高いことがわかっています。

「妊娠高血圧症候群」は母子の命に関わることも

── 喫煙や飲酒が与える影響は大きいのですね。妊娠高血圧症候群になると、どんな症状やリスクがあるのでしょうか?

目時教授:まず、お母さんの身体では、胎盤が早いうちにはがれてしまったり、脳出血したりするリスクが高まります。また、血圧が高いと、腎臓の機能が落ちてしまい、むくみがひどくなると肺水腫なども引き起こします。

妊婦健診では血圧とともに、尿検査もして「尿蛋白」を医師がチェックします。それは腎臓をはじめとした全身の状態をチェックしているんです。血圧が高く、蛋白尿が多いと、腎機の状態も悪くなっているという判断になります。

産後も高血圧が続いたり、腎障害などが残ったりする場合もありますので細心の注意が必要です。

次に、赤ちゃんの身体への影響ですが、母体の血圧の異常によって、子宮や胎盤での血流が滞り、胎児への栄養や酸素が不足することがあります。酷くなると、赤ちゃんが十分に育たなくなる「胎児発育不全」となり、そうなると帝王切開でできるだけ早く胎児を取り出さねばなりません。

普通よりも体重の少ない赤ちゃんが生まれるケース(低出生体重児)や、最悪の場合には、お腹の中で赤ちゃんが亡くなる(子宮内胎児死亡)ことがあります。

── 実際になってしまった場合、帝王切開以外で何かできることはありますか。

目時教授:本来は、妊娠37週から41週までの出産が正期産となりますので、できるだけ赤ちゃんがお腹の中にいられるように、妊婦さんに安静にしてもらったり投薬で対処をしたりしていきます。

ただ、それでも胎児の状況が悪くなってしまう…ということになると、30週くらいで帝王切開の判断をするケースがあります。早産になった場合は、やはりリスクはありますが、医療機関ではそこから赤ちゃんがすくすく成長できるよう、さまざまなサポートをします。

妊娠高血圧症候群の予防には「受動喫煙」への配慮が必要

── 喫煙がこの妊娠高血圧症候群に悪影響とのお話でしたが、注意したいポイントを教えてください。

目時教授:喫煙は血管収縮を引き起こし、一酸化窒素の影響で血圧が上がりやすくなります。先ほども少し触れましたが、赤ちゃんへの血流が悪くなるため、低体重児へのリスクがあがります。

とくに1日の喫煙本数が10本を超えてくると、妊娠高血圧症候群の発症リスクが倍近くになることもあります。また、早産の危険も高まりますので、喫煙はできるかぎり避けるべきです。

── 本人が喫煙するよりも、受動喫煙のほうが悪影響というデータもありますが、その理由を教えてください。

目時教授:受動喫煙に週に1〜3日さらされている妊婦さんの妊娠高血圧症候群の発症リスクは、受動喫煙なしに比較して1.18倍と有意に高かったのです。集団全体における受動喫煙の影響と本人が喫煙する影響の大きさは、それぞれ3.8%と1.8%でした。

ちょっと難しい説明かもしれませんが、受動喫煙の場合、喫煙者が1人いると、複数人・広範囲に影響を及ぼしやすいというのも理由のひとつです。社会全体で見た時には受動喫煙のほうが多くのリスクを与えている可能性があるんですね。

本人が吸っていて妊娠を機にやめる場合には、妊婦さんご自身がコントロールしやすいのですが、街中などで煙を吸ってしまうことは避けにくいので、それを防ぐためにも周囲の理解・協力が必要です。ただでさえ少子化の時代ですから、妊婦さんにはみんなで協力的に接してあげたいですよね。

飲酒は子どもにアルコール障害も生む危険性がある

── 飲酒のほうはどうでしょう? 喫煙と異なる影響はありますか。

目時教授:アルコールは毎日「日本酒1合」または「ビール大瓶1本」程度の飲酒をした場合、飲酒をしない妊婦さんと比べて妊娠高血圧症候群のリスクが3.45倍になります。さらに、妊娠高血圧症候群以外でも、先天性障害となる「胎児性アルコール障害」を引き起こし、奇形症候群や成長障害、胎児発育遅延など、生まれてからも障害が残る可能性が高くなります。

今回のエコチル調査によると、妊娠がわかっても飲んでいる人は初期で9.5%、妊娠中〜後期でも2.6%いらっしゃいました。「やめることでストレスを感じる」といった理由もあるかと思いますが、やはりできる限り控えてもらうほうがよいですね。

あとは図のようにエタノール換算での量もポイントとなり、週に150g以上になるとリスクが高まります。

妊娠初期には本人も妊娠しているのに気づかず、毎日の習慣として飲酒してしまっているケースもありるのです。そういったことを防ぐためにも妊活をしている場合には、少し控えていただくほうが、より安全だと思います。

── ちなみに、料理やお菓子に使われるアルコールも気をつけたほうがいいのでしょうか?

目時教授:火を使う料理でアルコールの成分が飛んでいる分に関しては、口にしても問題ないと思います。お菓子の場合も同じです。一方、お酒の代謝が弱い人は、微量でも気にしたほうがいいかもしれません。

日頃の体重管理や健康ケアも大切

── 飲酒・喫煙以外で「妊娠高血圧症候群」を防ぐために、気をつけておくべきポイントがあればぜひ教えてください。

目時教授:妊娠時にはよく言われると思いますが、「肥満」の状態は体に負担がかかりやすいです。BMIが25以上の人は早い段階で注意したほうがよいと思います。

妊娠がわかってから体重制限することになると、激しい運動が必然的に難しくなるので、そうなる前からケアしておくことが大切です。妊娠・出産を考え始めた時点で「生活習慣」を整えておくと、トラブルは起きにくくなると思います。

あとは、妊娠高血圧症候群は自覚症状がほとんどないものなので、ご自身と赤ちゃんのためにも「妊婦健診」をしっかりおこなってください。

けっこう「仕事が忙しくて行けなかった」という人もいるんですよ。妊婦健診は週数によっても必要な検査が違いますし、その時の血圧や尿蛋白などから症状が判明するケースがほとんどです。

── 実際に「妊娠高血圧症候群」を病院で指摘されてしまった場合、自分でケアできることはありますか?

目時教授:自分で治すことは難しいですが、家庭内でも「血圧」をしっかり記録しておくのはおすすめですね。それを担当の先生に共有することで、たとえば「病院で測っている時は高いけど、家庭では低い状態を維持できているね」とか、より正確な情報が把握できます。

あとは、ご家族や友人に喫煙や飲酒をされる人がいたら、協力してもらうのは大事だと思います。妊娠期間の間だけは、お酒をすすめない、喫煙しないなど、当たり前のことですが環境を一緒に整えてもらえたらいいですね。

Wellulu編集後記

妊娠高血圧症候群と喫煙・飲酒のリスクについて、目時教授に伺いました。

妊娠中の体の変化というのはただでさえ女性にとって大きなものですから、異変を感じてから対処するのも大変です。健康な赤ちゃんのために、日頃から体重や血圧などを意識して体を整えておきたいですね。

また、周囲の理解も不可欠です。喫煙を定められたところでする、アルコールを無理にすすめないなど、社会全体でも気をつけていきたいですね。

本記事のリリース情報

・医学部 衛生学・公衆衛生学教室 目時 弘仁 教授がWellulu(ウェルビーイングに特化したメディア)の取材を受け、記事が掲載されました

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