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客観的データによる可視化が睡眠改善に影響する?更年期症状と睡眠の研究【パラマウントベッド】

現代社会では、忙しい毎日を送りながら、質の良い睡眠を確保することが多くの人にとって課題となっています。特に「睡眠の質」を向上させるためには何が必要なのか、具体的な取り組みや科学的なアプローチが求められています。そんな中、「パラマウントベッド睡眠研究所」は、睡眠の科学的な研究を通じて、私たち一人ひとりがより良い眠りを実現するためのヒントを提供してくれています。本記事では、睡眠のプロフェッショナルたちが語る「良質な睡眠」の秘訣と、最新の睡眠研究に基づく取り組みについて掘り下げていきます。

木暮さん

パラマウントベッド睡眠研究所 所長

寝具が睡眠に及ぼす影響などを研究し、睡眠計測センサー(眠りSCAN)を開発(第8回ものづくり日本大賞 経済産業大臣賞を受賞)、眠りSCANを用いた臨床研究、眠りの自動運転の研究などに従事。博士(医学)、修士(工学)

塩貝さん

ヨーロッパで博士課程・ポスドクを経た後、データ解析のスキルを活かして健康に役立つ製品やサービスの開発に取り組んでいます。特に睡眠と女性特有の健康課題の関係に注力しています。

片山さん

2022年新卒入社。入社の決め手となった、睡眠センサーを用いた研究に幅広く携わっています。自分の同世代から母親の世代まで、どんな女性でもいきいきと働けるような製品やサービスの開発を目指して日々研究しています。

本記事のリリース情報
ウェブメディア「Wellulu」に掲載されました

目次

「睡眠の質」を高めるために!「パラマウントベッド睡眠研究所」の取り組み

──本日は「パラマウントベッド睡眠研究所」の活動や研究内容についてお伺いしたいのですが、その前に…皆さんが睡眠時に意識していることを教えてもらえますか?

木暮さん:そうですね。私の場合は「睡眠時間が6時間以下の日をつくらないこと」を意識し、スマホは寝室に持ち込まないようにしています。また、夜中にトイレに行かないよう、就寝前に必ずトイレを済ませています。夜中トイレに行くことで脳が覚醒して、再び寝つくのに時間がかかってしまうと「睡眠の質」を下げてしまう可能性があるからです。

──トイレで脳が覚醒してしまうのも「質」という視点ではよくないんですね。

木暮さん:はい。一晩に2回以上トイレに起きると、死亡リスクが上がるという研究データもあるんです。

──そんな影響まで!

──塩貝さんが取り組んでいる睡眠時のポイントは何でしょうか?

塩貝さん:私は、週末も平日と1時間以上ずれないように起床することを心がけています。そして、朝に必ず太陽の光を浴びるようにしています。夜中に起きないため、夕食後は水分を控えるようにもしています。

──週末に「寝だめ」をするのもよくないと聞きますが、その理由は…?

塩貝さん:寝だめで一時的に疲れは取れたと感じる人もいますが、普段と大きく違う時間に寝ると体内時計が乱れてしまいます。たとえば、平日5時に起きている人が週末に昼まで寝てしまうと、月曜朝にリズムが崩れ、調子が戻るのに時間がかかります。ですので、週末もできるだけ平日と同じリズムで過ごし、どうしても足りない場合は、短い昼寝などで対応する方が望ましいですね。

片山さん:私も平日と週末を問わず、なるべく規則正しい生活を心がけています。就寝や起床時間もそうなのですが、私は寝る3時間前までに食事を終えるようにして、なるべく体に負担をかけないようにしています。

──ありがとうございます。

客観的なデータで睡眠状態を測定!

──ここから本題なのですが、「パラマウントベッド睡眠研究所」が設立された背景や研究内容について教えてください!

木暮さん:パラマウントベッドはベッドメーカーとして、長く睡眠に関わる研究を進めてきました。ただ、最初から「パラマウントベッド睡眠研究所」として活動していたわけではなく、開発部で製品開発の一環としてマットレスやベッドの研究をしていました。

本格的に「睡眠の質」に対する影響を重視した研究を始めたのは2001年頃。そして、2009年に独立した「パラマウントベッド睡眠研究所」が設立されました。

──睡眠への関心は年々高くなっている印象もあるのですが、パラマウントベッドではその前から研究に取り組まれていたのですね。どのようなアプローチで睡眠に関する研究をしているのでしょうか?

木暮さん:そうですね。睡眠状態を測定するための睡眠計測センサーを開発して、睡眠パターンを客観的なデータとして計測しています。呼吸数・心拍数・体の動きなどのデータを踏まえて睡眠の妨げとなっている要因を特定し、「睡眠の質」を高めるアプローチを検証しています。

──マットレスの下からでも呼吸数・心拍数を感知できるんですね、すごい!「寝返りなどの体の動き」もデータで可視化できるとのことですが、やっぱり寝返りも研究対象として重要なのでしょうか?

木暮さん:はい。寝返りのしやすさは、睡眠の質に影響を与える大きな要素のひとつです。例えば、ベッドの幅が狭いと寝返りしにくくなるため、幅が広いほうがよく眠れるというデータも得られています。「適度な硬さ」と「マットレス上での動きやすさ」が、ベッド上で自然な寝返りを促し、快適な睡眠環境を整えることが可能になります。

血流、体液の循環、体温調節、寝返りの重要性とは?

──具体的にどのような理由で、睡眠中の寝返りが体に良い影響を与えるのでしょうか?

木暮さん:寝返りは、睡眠中に体を動かすことで血流や体液の循環を良くする役割があります。もし寝返りをしないと、同じ部位に圧力がかかり続け、血液や体液の流れが滞る可能性があります。特に医療や介護の現場では、寝返りを打たないことで「褥瘡(床ずれ)」と呼ばれる皮膚や組織が損傷する状態が発生することに繋がります。一般の人でも長時間同じ姿勢が続くと、体がしびれたり血流が悪くなるなどの不快感が生じることがあります。

──無意識に行っている行動でしたが、こんな影響があるのですね。

木暮さん:寝返りを打つことによって、体にかかる重力の向きが変わります。ずっと仰向けで寝ていると、体の正面から背面に重力がかかり続けますが、寝返りで横向きになると重力がかかる向きが体の左側から右側など横向きになり、血液や体液の流れが変わります。

加えて、寝返りは体温調節にも関係しています。寝ている間は、体温が局所的に上がりやすく、特定の部位が熱を持ちすぎると睡眠の質が低下します。寝返りによって寝具との接触面を変たり、布団の中の空気を入れ替えたり、温まっていない場所に移動することで、体温が快適に保たれるのです。

一方で、寝返りする時は睡眠が浅い状態で目が覚めやすい時でもあります。そのため、寝返りがうまく打てないと、睡眠の途中で目が覚めてしまい、深い眠りが妨げられることもあります。このため、寝返りがしやすい寝具を使うことで、良質な睡眠が得られるよう工夫しています。

そもそも「質の良い睡眠」とは?

──最近、「質の良い」睡眠を取りましょうとよく言われますが、具体的にはどんな状態のことを指すのでしょうか?

木暮さん:そうですね。良い睡眠というのは、日中に覚醒している状態をしっかりと支えるためのものだと思います。結局、睡眠の質が良いというのは、日中に十分に活力を感じられるような休息が取れている状態と言えます。例えば、睡眠の時間が不足していると、いくら「質」を求めても補いきれない部分があります。つまり、まずは十分な睡眠時間を確保した上で、夜中に何度も目が覚めず、すっきりとした目覚めが得られることが理想ですね。

また、毎日同じ時間に眠り、同じ時間に起きるといった生活リズムも非常に大切です。

──先ほど、塩貝さんが取り組まれているとお話されていた「生活リズム」に関する部分ですね!

塩貝さん:よく平日に睡眠時間を削って、週末に長く眠ってリカバリーしようとする方がいますが、それは睡眠の質を下げる要因になります。身体が規則的なリズムで寝起きできるようにすることが、良質な睡眠に繋がります。

──理想はあっても現実には難しい部分も多いですよね。

塩貝さん:そうですね。「平日しっかり眠りましょう」と言われても、仕事や生活の関係でそれが難しい方も多いのが実情です。睡眠の問題は本当に人それぞれで、理想の改善方法を提案できても、実際の生活に取り入れるのが難しいことも多いんです。だからこそ、無理なく生活に馴染む方法を一緒に見つけていくことが大切だと考えています。

温度、光、食生活…、減点法で睡眠満足度は変わる

木暮さん:睡眠の質は「減点法」と言われるように、マットレス以外にも多くの要因が絡んでいるんです。たとえば、若くて睡眠欲求が強い人なら床でも眠れる方もいれば、逆に枕が変わるだけで眠れなくなる方もいます。つまり、眠れない原因というのは本当に個人差が大きいんです。

──「減点法」という考え方について、もう少し詳しく教えていただけますか?

木暮さん:はい、睡眠の「減点法」とは、睡眠の質を低下させる要因をどれだけ減らせるか、つまり減点をいかに少なくするかという考え方です。睡眠にはさまざまな要因の影響があり、たとえば夜間の光や騒音、温度の影響などが一つの例です。寝室が明るかったり、静かでなかったり、暑かったり寒かったりすると、それだけで睡眠の質が下がってしまいます。また、寝る直前にカフェインを摂取したり、夜中にトイレで何度も起きたりといった習慣も、睡眠に悪影響を与える要因です。まずはこういった「減点」を減らすことが重要です。

また、本人が「眠れていない」と感じていても、実は睡眠不足ではないと考えられるケースもあります。例えば、8時間ベッドにいて7時間眠れていれば、実は十分な睡眠が取れていると言えるかもしれません。しかし、ベッドで1時間も眠れなかったと考えれば、「眠れない」となります。このケースでは必要な睡眠時間以上にベッドで眠ろうとしていることが問題なのかもしれません。

そのため、できれば主観に加えて客観的にも睡眠を測定し、その人にとっての本当の問題がどこにあるのかを見極めることが大切です。

──なるほど。必要な睡眠時間も人それぞれで、年齢や活動量によっても変わるんですね?

木暮さん:年齢や生活習慣、運動量などで必要な睡眠時間は変わります。たとえば、アスリートのように日中にたくさん体を動かす人は多くの睡眠が必要ですが、それと同じ量の睡眠が一般の人にも必要かというと、そうではありません。たまに「プロスポーツ選手が10時間寝るから自分も同じだけ寝なくては」と思う方もいますが、それぞれの活動量や体調に合った睡眠時間を見つけることが大切です。必要な睡眠時間は人によって異なるので、そこが難しい点でもありますね。

女性ホルモンの変動が影響!更年期症状と睡眠の研究

──「パラマウントベッド睡眠研究所」が発表した「更年期症状と睡眠」の研究について教えてください。

塩貝さん:「働く更年期女性に対する不調改善プログラムの効果」に関する研究に取り組みました。更年期になると、急激なホルモン変化が起こり、多くの女性が睡眠の問題に悩むようになります。

更年期だけでなく月経のある時期には、ホルモンの影響で眠気が強まったり、逆に寝つきが悪くなったりします。妊娠中もホルモンの変動で睡眠に影響が出やすく、妊娠後期になるとお腹の圧迫感から眠りにくくなることもあります。

こうした女性ホルモンの変動は、更年期にも顕著に現れます。
更年期には女性ホルモンが急激に減少するため、不眠に悩む女性が急増します。しかし、多くの女性はこれを更年期の症状として自覚せず、「年齢による変化」として見過ごしてしまうことが少なくありません。

片山さん:更年期女性にアンケート調査を実施したところ、5割から7割の方が不眠症状を抱えていることがわかりました。更年期症状と不眠問題は非常に密接に関連していることが確認できたのです。

──研究内容について、具体的な内容を教えてください。

塩貝さん:今回の介入実験では、参加者を二つのグループに分け、それぞれ異なるアプローチで更年期の女性ホルモン変化に伴う睡眠改善を目指しました。

まず、すべての参加者には「ホルモンと体の変化に関する動画視聴」「睡眠の計測とアプリでのスコア確認」を行ってもらいました。これは女性ホルモンやその変動による体調・睡眠への影響について理解を深めてもらうためです。さらに一部の参加者には、更年期症状についてのカウンセリングと睡眠についてのカウンセリングを実施し、それぞれの方に合う改善策を提案しました。

──実験の結果として、どのような効果が見られましたか?

片山さん:カウンセリングと改善策を行ったグループでは、改善幅がさらに大きく、特に不眠の症状が改善した方が多く見られました。このグループの方々は、不眠の症状がほぼ気にならないレベルにまで改善したケースもあります。

睡眠状態の可視化だけでも、睡眠改善に役立つ

塩貝さん:動画視聴と睡眠計測のみのグループも、自分の睡眠状態が「可視化」されることで、生活習慣を見直し、睡眠改善に向けたモチベーションが高まる効果が見られました。たとえば、「お酒を飲んだ日はスコアが低い」「寝る直前のスマホ操作でスコアが悪化する」などの気づきを得て、自己管理意識が高まったようです。

片山さん:実験結果でも、セルフマネジメント力が向上し、日常的にセルフケアを行う意識が高まるなど、継続的な改善に向けた良いきっかけになりました。

──カウンセリングで改善できるのはよくわかるのですが、睡眠状態の可視化も影響しているのですね!

塩貝さん:睡眠状態の可視化は、非常に重要なポイントです。アプリでのスコア化により、「お酒を飲んだ日はスコアが低い」「夜遅くにスマホを使うとスコアが悪い」など、自分の行動と睡眠への影響を数値として確認できます。

これにより、自分で「どうすればスコアが上がるのか」を意識し、生活習慣の改善に向けた動機づけが高まります。

まずはここから!睡眠改善へのアプローチ

──睡眠改善を行う際に、どのような取り組みが効果的ですか?

木暮さん:睡眠改善には、生活習慣の見直しが重要です。例えば、睡眠環境を整えることや、カウンセリングを併用してストレスや不安を軽減することも効果的です。

──一般の方でも取り組みやすい、日常でできる睡眠改善法があれば教えてください。

木暮さん:はい、いくつかおすすめがあります。まず大切なのは「起床時間を一定に保つ」ことです。特に朝起きたら太陽の光を浴びるのが効果的です。体内時計は24時間より少し長い人が多いため、暗い環境にいるとリズムが後ろ倒しになりがちです。朝に太陽光を浴びることで、体内時計を環境に合わせやすくなります。また、昼寝をする場合も15時までに短めに取ると、夜の睡眠に影響が出にくいです。

──やはり生活リズムを整えるのが鍵ですね。他に注意するべき点はありますか?

木暮さん:夜遅くの飲酒や寝る前のスマホも避けた方が良いです。寝酒はリラックスできるように感じるかもしれませんが、実際は心拍数が上がり、睡眠の質が下がってしまいます。また、部屋を暗くし、静かな環境で寝る準備を整えると良いですね。日中に適度な運動を取り入れるのも、良質な睡眠のためには効果的です。

塩貝さん:弊社が展開している一般向けの睡眠計測センサー「Active Sleep ANALYZER」を使って睡眠データを確認することもおすすめです。自分の睡眠状態をデータで可視化し、少しずつ改善していくのが、理想的なアプローチだと思います。

こうしたデータをAIで分析することで、睡眠から健康状態やメンタルの変動まで把握できるようになれば、生活の質を向上させるサポートがさらに広がると考えています。

──なるほど、効果が出るアプローチを一つ一つ検証していくというわけですね。

いびきや寝返りなど、子どもの睡眠状態にも目を向けよう

──ちなみにですが、ご家庭でお子さんの睡眠がしっかりとれているか、目安となるチェックポイントはありますか?

木暮さん:そうですね、難しい面もありますが、いくつか気をつけたいポイントがあります。まず「いびき」や「呼吸が止まる」などの症状があれば気に留めてください。また、子どもは発育期なので、小学生で10~12時間、中学生で8~10時間の睡眠を確保できると良いと思います。授業中に眠くなってしまう場合は、やはり睡眠が足りていない可能性があります。

──寝相や寝返りについてもチェックが必要ですか?

木暮さん:はい。頻繁な寝返りや寝相が悪い場合、環境に何か問題がある可能性も考えられます。例えば、部屋が暑すぎたり、ベッドが硬すぎると必要以上に寝返りを打つことがあります。一方で、寝返りが少ない場合は逆に体や心の問題が潜んでいることもあるので、あまりにも極端な場合は気をつけて見守るのが良いと思います。

Wellulu編集後記:
取材を通して改めて感じたのは、「睡眠の質」というテーマがいかに奥深く、かつ個人差が大きいものであるかということです。「パラマウントベッド睡眠研究所」が行う取り組みは、単にデータを解析するだけでなく、私たちの日常生活に寄り添った具体的なアプローチを提案している点が印象的でした。読者の皆さまも、ぜひ今回の記事をきっかけに、自分の睡眠について考え、改善の第一歩を踏み出してみてください。睡眠が変われば、日々の生活がさらに豊かになるはずです。

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