毎日コンビニや自販機の前でどれにしようか迷ってしまうほど種類豊富な清涼飲料水。炭酸飲料やお茶、コーヒーから健康志向の高まりに応えた機能性商品など、その商品展開の豊富さは驚くべきもの。国民1人当たりにすると、毎日500ミリリットルのペットボトル飲料を1本消費するほど、私たちの日常に欠かせない存在。さらにリサイクルやプラスチック問題などが世界的に注目される現在、日本の飲料容器のリサイクル状況についても伺いました。今回、私たちの水分補給に欠かせない清涼飲料水について、一般社団法人全国清涼飲料連合会の横尾さん、甲斐さん、稲野さんに詳しくお話を伺った。
横尾 芳明さん
技術部 技術部長
甲斐 喜代美さん
推進部 広報担当 課長
東京農業大学農学部栄養学科卒業 食品業界紙にて清涼飲料業界記者を経て、広報・プランニング・制作などを主業務に独立。2010年に清涼飲料業界の知識、経験から全国清涼飲料連合会の広報として入会、現在に至る。ペットボトルのリサイクルを進めるPETボトルリサイクル推進協議会の広報委員長を兼任する。
稲野 結子さん
推進部 広報担当 課長
中央大学文学部国文学科卒業、食品業界紙にて清涼飲料水担当記者を長年務め、全国清涼飲料連合会の広報として入会、現在に至る。
本記事のリリース情報
WEBメディア「Welulu」にインタビュー記事が掲載されました。
消費量は1人あたり換算毎日500ミリリットルのペットボトル1本!日々手にする清涼飲料水とは
──本日はよろしくお願いします。まず全国清涼飲料連合会について教えていただけますか?
稲野さん:よろしくお願いします。私たちは清涼飲料水の業界団体です。多くの清涼飲料水製造メーカーと、原材料、容器、リサイクルなど、清涼飲料業界に関連するさまざまな企業が参加しています。
──では、清涼飲料水市場について教えてください。
国民1人当たり(換算)の消費量は毎日500ミリリットルのペットボトル1本分
稲野さん:日本の総人口は減少傾向にあるものの、清涼飲料水の消費量は伸び続けています。これには暑さによる水分補給の需要や健康志向などが寄与していると考えられます。現在、お子様からお年寄りまで、国民1人当たり(換算)で、毎日500ミリリットルのペットボトルを1本飲んでいる計算になります。
──確かに500ミリリットルのペットボトル1本は、毎日飲んでいる気がします!清涼飲料水の定義を教えてください。
横尾さん:食品衛生法に基づき、基本的には、アルコール飲料を除いた飲料が清涼飲料水に分類されます。この中には、水、お茶、コーヒー、炭酸飲料、果実飲料、スポーツドリンク、エナジードリンク、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品といった多様なカテゴリーがあります。それぞれのカテゴリーで異なるニーズに応える製品を提供しています。
【出典】全国清涼飲料連合会「清涼飲料水統計2024」
──アルコール飲料以外の飲料はすべて清涼飲料水なのですね。
横尾さん:はい。より詳細には、アルコール飲料(1%以上のもの)、乳酸菌飲料、乳及び乳製品を除いた飲料が清涼飲料水に分類されます。清涼飲料市場は非常に多種多様な商品が存在します。その中でもカテゴリーでみると、茶系飲料が一番飲まれており、緑茶、麦茶、ブレンド茶などが含まれています。続いて、ミネラルウォーター、炭酸飲料、コーヒー、果実飲料、スポーツ飲料、紅茶飲料、野菜飲料、乳性飲料などがあります。
消費者は季節や気分など用途に合わせて多様な商品から飲料を選ぶことができるため、選択肢の多さが市場の伸びにもつながっています。
乳性飲料:乳・乳製品を原料とする清涼飲料(炭酸飲料、果実飲料〈果汁10%以上のもの〉、コーヒー飲料等などをのぞく)
乳酸菌飲料:「乳酸菌飲料」とは、乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させたものを加工し、又は主要原料とした飲料(発酵乳を除く)
──次々と商品が開発されていて、飽きることもないですし、どんな新しい飲料が発売されるか楽しみになっています。
稲野さん:日本では自動販売機やコンビニエンスストアが広く普及しており、消費者がいつでもどこでもさまざまな飲み物を選べる環境が整っています。また、消費者のニーズに応じた商品開発が進み、多様な商品ラインナップを提供しています。
子どもから大人、高齢者まで!水分摂取の重要性とそのポイント
──適切な水分補給というのは、どういうことでしょうか?
横尾さん:一般的には、成人は尿や汗で水分を失うので1日に必要な水分量は約2.5リットルの水※といわれています。これには食事から摂取する水分も含まれ、0.9リットルを食品自体の水分と調理水、0.3リットルは体内の代謝水から得ており、残り1.3リットルをあらゆる飲み物から摂取するといわれていますので、いつでも、どこでも、手軽に飲める清涼飲料水は、そんな水分補給に便利です。
大量に汗をかく場合や激しい運動をする場合には、それ以上の水分が必要になることもありますが、常に自分の体調を観察し、喉が渇いたと感じる前にこまめに水分を摂ることが大切です。
※2.5リットルは成人男性が通常の生活をしている場合。スポーツや暑さなどの発汗の条件により必要な水分の量が異なる。
──では、とくに重要な夏場の水分補給についてアドバイスをいただけますか?
横尾さん:夏場の水分補給は非常に重要ですよね。とくに暑い環境では、適切な水分補給が熱中症予防には欠かせません。
まず、朝起きたら水分を摂ることが大切です。寝ている間に汗をかくことで、起床後は軽い脱水状態になっていることが多いため、まずは水分を摂ってから、朝食を楽しむのがおすすめです。スポーツなど汗をかいたときには、塩分・電解質補給も大切なのでスポーツドリンクが有効です。また、少量ずつこまめに飲むことが大切です。
一気に大量の水分を摂るのではなく、こまめに飲むことで、体内の水分バランスを保つことができます。また、夏場はとくに食事の内容にも気を配り、バランスのよい食事と水分摂取を心掛けてください。
──飲料の選び方が重要なのですね。経口補水液もよく耳にしますが、スポーツドリンクと同じようなタイミングで飲むイメージでよいのでしょうか…?
横尾さん:経口補水液は「経口補水療法」に用いる病者用の飲み物で、通常の水分補給ではなく、感染性胃腸炎による下痢・嘔吐に伴う脱水時の水・電解質の補給のためや、脱水を伴う熱中症など、脱水症状が進行したような場合に用いるものなので、経口補水液は、医師や管理栄養士等と相談し、指導に沿って使用しましょう。
子どもの水分補給は特に意識して
──子どもや高齢者の水分補給についてもアドバイスをお願いします。
横尾さん:子どもは遊びに夢中で喉の渇きを感じにくいこともあるので、親が意識的に水分補給を促す必要があります。外出時や遊びの際には、常に水分補給のための飲料水を持ち歩き、定期的に飲ませるようにしましょう。
また、高齢者も年齢の影響で喉の渇きを感じにくくなることがあるため、定期的に水分を摂る習慣を持ち、こまめに水分補給をすることが大切です。とくに夏場は脱水症状を防ぐために、意識的に水分を摂るよう心掛けて頂きたいです。
──暑いとついつい冷たいものが飲みたくなってしまうのですが、水分補給には冷たい飲み物と常温の飲み物のどちらがよいのでしょうか?
横尾さん:冷たい飲み物は喉を潤し、おいしく感じやすいですが、一気に大量に飲むと身体が冷えすぎてしまうことがあります。とくにクーラーの効いた環境では、常温や温かい飲み物も選ぶとよいでしょう。
最近ではコンビニでも常温の飲料を販売するようになっているのを見かけるかと思います。夏場には冷たい飲み物を楽しみつつ、時折常温や温かい飲み物も取り入れることで、身体のバランスを保つようにしたいですね。
適切な保存方法で開封したら1日で飲みきろう!
──清涼飲料水を手に取る上で、注意したいポイントはなにかありますか?
甲斐さん:清涼飲料水のラベルに注意書きとして、たとえば、「開栓後は早めにお飲みください」や「冷凍しないでください」といったものがあります。最近は冷凍用の専用ボトルもありますが、普通のペットボトルを凍らせると膨張して破裂する恐れがあるため、注意するようにしてください。
また、夏場にとくに注意していただきたいのは、飲み物を高温の場所に放置しないことです。直射日光が当たる場所や高温の車内に放置すると、膨張することがあります。
──冷凍用ではないペットボトルを凍らせたり、高温の場所での保管を避けるのが重要なのですね。飲み物の保存方法についてはいかがですか?
甲斐さん:清涼飲料水は無菌充填、ホットパック、レトルト殺菌などにより殺菌されていますが、開栓後は空気中の菌が入り込みやすくなります。そのため、開栓後はなるべく早く飲み切ることをおすすめします。
中に入っている飲み物の種類や飲んでいる状況、保存方法などによって変わりますが、基本的に開栓後は必ずキャップをして冷蔵庫で保管の上、なるべく早めにお飲みください。茶系飲料など無糖の清涼飲料水が入った大型容器の場合は、コップなどに移して飲み(直接口をつけて飲むと、唾液や口の中の菌が入ることがあるので要注意)、必ず冷蔵庫で保管し、口飲みした場合は当日、コップに移した場合は2〜3日以内を目安に飲み切ってください。
──開栓後はなるべく冷蔵庫に入れて早く飲み切るのがよいのでしょうか?
甲斐さん:はい、基本的には、開栓後は冷蔵庫で保存するのが最適ですね。また、表示ラベルに書かれている情報を確認することも重要です。ラベルには、保存方法や注意点が記載されているため、参考にし、安全に飲み物を楽しんでください。
商品ラベル例
──業界の今後の展望や現在おこなっている取り組みにはどういったことがありますか?
稲野さん:今後は、さらに環境への配慮が重要なテーマになると思っています。清涼飲料のパッケージも軽量化やリサイクルが進んでおり、環境負荷を減らす取り組みが続けられています。また、多くのメーカーが、持続可能な社会を目指して、水源の保護や森林保全に取り組んでいます。
日本のペットボトルのリサイクル率は86.9%
──現在、世界的にもプラスチック問題、リサイクルに注目が集まっていますが、日本のペットボトルのリサイクル率やその現状を教えていただけますか?
甲斐さん:はい、日本のペットボトルのリサイクル率は86.9%と世界のリサイクル率と比べてもトップクラスの水準を維持しています。
──どのような点がリサイクル率を高める要因になっているのでしょうか?
甲斐さん:このような高いリサイクル率の背景には、1992年に制定された容器包装リサイクル法の存在があります。この法律に基づき、市民、自治体、事業者である企業が連携してリサイクルを進めてきた歴史があります。消費者の皆さんにしっかりと分別していただき、それを市町村が収集したものを、この法律に基づいて確実にリサイクルが推進される体制が日本では確立されています。
また、容器包装リサイクル法に加えて、業界ではペットボトルのリサイクルが確実にかつ円滑に推進されるよう、30年前より業界が自主的に「ペットボトルの自主ガイドライン」を制定して、「ボトルは単体素材」「ボトルに着色しない」などの取り決めをしてそれを実行してきました。海外では、着色されたペットボトルをしばしば見かけますが、30年前の取り決めに基づいて日本で製造されたペットボトルはリサイクルが容易になるように無色透明です。このような30年以上前からの努力により、日本は前述のとおりの世界でトップクラスのリサイクル率を誇っています。
出典:全国清涼飲料連合会「活動レポート」
──リサイクル率が86.9%とは驚きです!素晴らしいですね。課題はありますか?
甲斐さん:日本では家庭から排出される市町村の資源回収については、しっかりと缶、びん、ペットボトルの分別がおこなわれており、ペットボトルだけが分別され、きれいな状態で回収されており、円滑なリサイクルに大きく貢献しています。
しかし、その一方で市町村の資源回収の対象外である自動販売機横のリサイクルボックスからの改回収においては、清涼飲料容器以外のゴミを入れてしまう方がいらっしゃいます。ごみの比率は多いところで40~50%にも達します。ごみの混入は回収したペットボトルの品質を悪化させ、結果的にリサイクルの障害となっています。
自販機横のリサイクルボックスは、ゴミ箱ではなくて清涼飲料水のペットボトルや缶、びんを回収するものです。消費者の皆さんには、この点を理解いただき、リサイクルボックスには、飲み残しやほかのゴミを入れないよう、ご協力のほどよろしくお願いいたします。
──そうなのですね…。ついゴミ箱と思ってゴミを入れないようにしたいですね。
甲斐さん:はい、もちろん私たちも引き続き、清涼飲料業界のリサイクルの推進に注力し、消費者への啓発活動を続けていきます。また、リサイクルしやすい素材の使用なども強化していく予定です。清涼飲料のおいしさを楽しんでいただいたあと、容器がゴミではなく資源として再利用されることで、持続可能な社会、サーキュラーエコノミーの実現に貢献していきたいと考えています。
Wellulu編集後記:
日々コンビニや自販機ですぐに手に取れ、いつでも水分補給が可能で、身近な存在の清涼飲料。炭酸飲料や水、お茶をはじめとし、健康を意識した成分にこだわったものまで、多様な商品が展開されていますが、その裏では、リサイクル率やペットボトル回収率の高さなど、日本市場ならではの素晴らしい現状もあり、驚きました。今後も利便性だけではなく環境にも配慮した取り組みや消費者の意識のさらなる向上に期待したいです。
1966年4月1日生まれ。桐蔭学園高等学校、東京理科大学・理工学部・応用生物科学科の学士及び修士を取得し、サントリー(株)に入社。ビール・ワイン・コーヒー・甘味飲料・水などで約100ファミリーの特許を出願。薬学博士を静岡県立大学で取得。サントリー食品インターナショナル(株)R&D部 部長を経て、現在、サントリーから出向し、一般社団法人 全国清涼飲料連合会 技術部長(Senior Technical Director)を務める。