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仲間との運動が認知機能障害を抑制!脳・心・身体を健康にする「仲間づくり」効果とは?【山口県立大学・角田准教授】

高齢者の認知症予防において、運動が有効的だと言われている。一方で、認知症予防に不可欠な社会交流の充実を考慮した検討は十分ではない。

筑波大学と山口県立大学がおこなった、高齢者4358名の運動実践状況と運動の認知機能障害に対する抑制効果の調査によると、1人で行う運動は週2回以上の実践者が4割を超えているのに対し、仲間と行う運動は2割未満であった。しかし、認知機能障害の抑制効果は、仲間と行う運動が1人で行う運動よりも強かったとのこと。

運動による健康効果と仲間づくりにおける効果、今研究の内容や結果について、そして健康な暮らしと脳を保つコツについて、山口県立大学社会福祉学部の角田准教授にお話を伺った。

角田 憲治さん

山口県立大学社会福祉学部 准教授

博士(体育科学)。高齢者や健診・人間ドック受診者を対象とした運動疫学、公衆衛生学を専門とする。筑波大学大学院人間総合科学研究科体育科学専攻を修了後、(公財)明治安田厚生事業団体力医学会研究所研究員、山口県立大学社会福祉学部講師を経て、19年4月より現職。

本記事のリリース情報
社会福祉学部の角田 憲治准教授の研究が紹介されました

運動の新たな視点! 仲間づくり効果と脳の活性化

── 「仲間とおこなう運動」の効果について研究しようと思ったきっかけを教えてください。

角田准教授:元々、私は運動の意義について考える研究に興味を持っていました。多くの人が運動を「身体を動かすこと」と捉えている中で、もっと大きな意味を持つコミュニケーション手段のひとつとして、運動には意義があるのではないかと私は考えています。部活を通じて仲間との絆が強くなったり、運動教室に参加することで社会的な防災ネットワークが形成されるなど、運動には社会的な役割を果たす一面もあります。

運動指導スタッフ・研究者として高齢者の運動教室に携わってきた中で、参加者同士の関係性が強くなり、お互いに仲間意識が芽生えていることを実感してきました。こうした運動による「仲間づくり効果」を研究していく中で、今回の認知症との関係性についても研究してみたいと思うようになりました。

── 確かに学生時代の部活動を思い返してみると、スポーツや運動を通じて仲間が増えたり、お互いの絆が強固になっていく感覚がありましたね。

角田准教授:ただ、コロナ禍のソーシャルディスタンスの一環として、運動も集団ではなく、個々におこなうことが推奨されるようになりました。

現代社会で集団活動が減っている中で、運動はまさに「群れるツール」であり非常に重要な役割を果たしていると考えています。一人でおこなう運動だと、健康面の効果は期待できますが、社会的なつながりやネットワークの構築などが実現できません。

──今回の研究に取り組んだ背景には、コロナも影響していたんですね。

角田准教授:はい。また、集団で運動をしているときの風景を思い浮かべると、運動中やその前後で会話が生まれています。会話には、言葉を組み立て、口を動かし、耳を傾け、理解することが必要です。また、記憶をたどったり、未来のことを考えることもあり、会話をすることで脳が活性化しています。一人で運動しているときは、こういった脳の働きによる効果も期待できません。「仲間づくり効果」や「脳の活性化」という視点を踏まえて、改めて集団で運動をする意義を考えるようになりました。

認知症やうつ予防の予防、運動の力で守る脳・身体・心

── 運動による効果(身体を動かす効果)について改めて教えてください。

角田准教授:まず、有名な研究によれば、週に3回、40分のウォーキングを継続的に1年間おこなうと、脳の記憶に関わる重要な組織「海馬」が約2%大きくなると言われています。さらに、「アミロイドβ」と呼ばれる物質の排出も促進するため、アルツハイマー型認知症の予防にも有効だと考えられています。

── 認知機能以外にも影響を与える部分はあるのでしょうか?

角田准教授:肥満関連疾患の予防をはじめ、非常に多くの健康効果が報告されています。今回のテーマである認知症と密接に関連する「うつ病」も予防する効果や、睡眠にもよい影響を与えることがわかっています。

また、子どもの成長や社会性を養うのにも、運合は効果的だと言われています。特にBDNF(脳由来神経栄養因子)の分泌が子どもの脳の成長には重要であるため、運動量が増えることでその効果も増大すると考えられています。

── 運動することで、たくさんのメリットがあるんですね。さらに集団で運動することで、「仲間づくり効果」も期待できると?

角田准教授:そうですね。社会交流が充実することで、心の安定が保たれ、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌も抑制されます。逆に社会的に孤立している状態は、うつ病などの心の健康問題につながる可能性が高いとされています。

── どういったメカニズムで心の健康が改善されるのでしょうか?

角田准教授:運動を通じての社会交流は、何か問題が起きたときに頼れる人がいるという安心感を与えます。このような安心感が心を安定させ、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑制します。コルチゾールの分泌が抑制されると、脳の栄養であるBDNF(脳由来神経栄養因子)の減少が防がれるため、結果としてうつ病などの心の健康問題に対する予防効果が期待できます。運動と社会交流の組み合わせは、これらの生理学的メカニズムを通じて、心の健康を多角的に支える力強い手段となり得ます。

仲間との運動が認知機能障害を抑制する

── 「仲間とおこなう運動」と認知症の関係についてどのように研究されたのですか?

角田准教授:今回の研究では、高齢者を対象に運動を1人でおこなう場合と仲間と一緒におこなう場合で認知機能に違いが生じるのか?を調査しました。

まず、介護認定を受けていない一般の高齢者に対して、「仲間と一緒に運動をしているか」、「1人で運動をしているか」に焦点を当てたアンケートを実施し、4年間追跡しました。

── アンケート調査の結果、仲間と運動している人はどれくらいいたのでしょうか?

角田准教授:仲間とおこなう運動に関しての結果ですが、週1回の実践者が6.1%、週2回以上の実践者が18.7%でした(非実践者は75.2%)。一方、1人でおこなう運動については、週1回の実践者が5.8%、週2回以上の実践者が41.8%でした(非実践者は52.4%)。

このデータを見ると、仲間と一緒に運動をしている人は少ないことがわかります。

── 公園などでグランドゴルフや体操をしている高齢者の人を見かけるのですが、意外と少ないのですね。

角田准教授:そうですね。そして、このアンケート結果を踏まえて、市のデータベースにある「認知症高齢者の日常生活自立度」を用いて認知機能の状態を4年間にわたって追跡しました。「認知症高齢者の日常生活自立度」は、市から派遣された専門の調査員が対象の方を訪問し、意思の伝達や短期記憶などに関するの質問をして、その回答や家族の話から認知機能の状態を評価しているものです。このデータと運動習慣を照らし合わせて分析を行いました。

── 分析結果はどうだったのでしょうか?

角田准教授:まず、運動の頻度によって認知機能に有意な影響があることが確認されました。「仲間とおこなう運動」と「1人でおこなう運動」の両方ともに、週に2回運動する場合には明確な効果が見られました。

── 仲間との運動、1人での運動でも効果に違いがありますね。

角田准教授:はい。1人でおこなう運動(22%のリスク減)よりも、仲間とおこなう運動(34%のリスク減)のほうがより強い抑制効果を示しています。これらの結果から、高齢者の認知症予防について、仲間とおこなう運動を推奨していくことが重要であることが示唆されています。

── 運動の頻度が増えれば増えるほど、その効果は高まる可能性はあるのでしょうか?

角田准教授:過去の研究によれば、運動量が増えるとともに認知機能の低下のリスクは下がる可能性が示されていますが、今回の研究では運動頻度が高いほどその効果が高まるかという具体的な検証は行っていません。

グラフを見ると、仲間との運動については、週1回行っていれば、2回以上行っている場合と同程度の効果が期待できることを示しています。これは、運動そのものの効果ではなく、運動の仲間づくり効果によるところが大きいことが理由として考えられます。

先行研究によれば、高齢者が運動サークルに参加している場合、運動頻度が週1回に満たなくても介護予防効果が期待できるとの結果が示されています。運動自体の効果は量に応じてその効果は高まるといえますが、運動を通じた「仲間づくり効果」がもたらす影響は高頻度である必要はないかもしれません。

現調査からの結論として、認知機能低下の予防の観点から、仲間との運動は週2回推奨ですが、週1回でも効果が期待できると考えられます。

小さな意識改革から!仲間との「ながら運動」を始めよう

── 高齢者でまだ運動を始めていない人に、認知機能の低下を予防するためにおすすめの運動メニューとその頻度はありますか?

角田准教授:運動を始める際には、小さな意識改革が最初の一歩となります。45分以上継続して身体を動かす運動を高頻度(できれば週5日以上)で行うことを推奨している研究もありますが、正直ハードルが高いと感じています。まずは、家族や友人と楽しく会話をしながら運動をする「ながら運動」からスタートしてみるとよいと思います。ウォーキングなど、強度が高くない運動を、家族や友人と一緒にすることで、「仲間づくり効果」や認知症予防も期待できます。

また、グラウンドゴルフやテニス、体操などの「運動教室」に参加することもおすすめです。今まで経験したことがない運動に挑戦することで、脳によい刺激を与えることもできます。私自身、30歳を過ぎてから職場の友人とテニスを始めたのですが、学ぶことが多く、いろいろと試行錯誤している時は、脳が刺激されていると感じています。

最も重要なのは、何かを始めることと、それを継続することだと考えています。そして、継続するためにも、運動はぜひ仲間と一緒におこなっていただきたいですね。

── 今回の研究だけでなく、過去の研究も踏まえて「ウェルビーイングな暮らし」を実現するためのヒントがあれば教えていただきたいのですが…。

角田准教授:ウェルビーイングな暮らしを実現するためにはいくつかの要素が重要だと私は考えています。第一に、「人とのつながり」は非常に重要です。孤独や社会的分断が増えている現代において、健康的で幸福な生活を送るためには、良好な人間関係が必要です。第二に、「運動」も大切です。運動は健康促進だけでなく、社交の場としても機能します。第三に、機械化やIT化が進む現代社会では、「人と人との直接のコミュニケーションや協力」が減っているため、それを積極的におこなう機会を作ることが大事です。

── 最後に今後の研究について教えていただけますか?

角田准教授:現在、私は高齢者の運動サークルにおけるグループ構成や各メンバーの役割に関する研究を行っています。具体的には、役割や立場が健康効果にどのような影響を与えるかを調査しています。また、多様な性別や年齢が混在した集団での運動が、とくに高い健康効果をもたらす可能性についても研究しています。この研究は認知症予防にも関連すると考えており、今後もこの方向での研究を続けていく予定です。

もし私の仮説が具体的なデータで裏付けられる場合、それは高齢者がより健康的な生活を送るための有益な情報を提供することにつながります。たとえば、高齢者がどのような運動サークルに参加すれば、心身ともに最も効果的なのか、といった具体的なガイドラインが形成されるかもしれません。さらに、役割を持つことや多様な人々との交流がメンタルにもよい影響を与えると考えているので、これが認知機能の低下予防にも貢献する可能性があります。このように、私の研究は高齢者の健康促進、とくに認知機能の維持に貢献すると期待しています。

── 角田先生、本日はありがとうございました。

Wellulu編集後記:
今回の取材を通じて、運動の意義に対する考え方が変わりました。角田先生が言うように、運動には脳・心・身体の健康を保つ効果があり、家族や友人たちと一緒に運動することで「仲間づくり」効果も期待できます。また、運動が苦手な人も得意な人も一緒になって取り組むことで、多様な社会的なつながりやネットワークの構築ができるのはもちろん、何よりも楽しい思い出作りにもつながっていくはずです。

そのためにも、まずは「ながら運動」から。
継続的に運動をするためにも、身近な人と一緒に些細な運動から始めてみましょう!

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