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めまいに効く食べ物や栄養素は?めまいに関する栄養学【名古屋女子大学・片山教授】

内耳の異常によって起こるめまい。症状が重い場合は、耳鼻科を受診することが推奨されている。しかし、器質的な問題以外にも、ストレス、睡眠不足、ホルモンバランスの乱れ、薬の副作用など、めまいを引き起こす原因は多岐にわたる。

その中で、今回は栄養不足が原因のめまいについて、名古屋女子大学・健康科学部の片山直美教授にお話を伺った。片山教授によると、低血糖、貧血、カルシウム不足、ビタミン不足などが原因でめまいを発症する可能性があるとのこと。

器質的な問題がない場合、どのような栄養素を摂取することでめまいを改善することができるのか?また、摂取した方が良い食材や適切な食生活とは?めまいと栄養について、気になることを片山教授に聞いてきた。

片山 直美さん

名古屋女子大学 健康科学部・健康栄養学科 教授・博士(医学)

米国カリフォルニア大学デービス校において2年間、コンカレントステユデントとして栄養学を学び、帰国後に栄養士、さらに管理栄養士資格を取得。名古屋大学医学部・環境医学研究所・宇宙医学実験センターで博士(医学:宇宙生理学)取得、「宇宙でなぜ人は酔ってしまうのか」について研究することで「目の動きで知る前庭機能(平衡機能、耳石機能など)」を眼科ならびに耳鼻科と現在も継続して共同研究を行っている。また日本めまい平衡医学会においてアクテイブメンバー、並びに代議員を務めている。前向きコホート研究である八雲町スタディ、国立研究開発法人・国立長寿医療研究センター耳鼻科との共同研究に参加している。名古屋女子大学では臨床栄養学実習、給食経営管理論、フードマーケテイング論などを担当。

目次

めまいが起こる理由。めまいの原因と症状とは?

──先生がめまいについて研究するようになったきっかけを教えてください。

片山教授:もともと私は「なぜ人は宇宙で酔ってしまうのか」という宇宙酔いをテーマにした研究に取り組んでいました。この研究を進める中で、耳鼻科や眼科の先生方と一緒に「目の動きで知る平衡機能」というテーマで、耳石(内耳)の仕組みについて研究するようになったのがきっかけです。

──宇宙酔いが始まりだったんですね。

片山教授:はい。この研究を継続していく中で、平衡機能と栄養が結びつき、めまいに悩む患者様へ栄養指導を行うようになりました。2005年からは、北海道八雲町(やくもちょう)の住民健診に参加して、食事内容の調査と耳鼻科関連のアンケート調査(めまい、耳鳴り、頭痛、音の聞こえなど)をもとに、「栄養」と「耳や鼻に関する症状」との関連性を研究しています。

精神的ストレス、老化、生活習慣、水分不足など、めまいの原因はさまざま

──なるほど。めまいの症状や原因について改めて教えていただけますでしょうか?

片山教授:めまいは、体のバランス情報が乱れることで生じる症状です。典型的なものとして、頭がクラクラする感じや周りが回転して見えるという症状が挙げられます。突発性難聴やメニエール病などの場合は、激しいめまい発作がおこる可能性もあります。

また、めまいの原因は多岐にわたりますが、老化、脳の血流障害、頸椎の問題、精神的ストレス、薬の副作用などが考えられます。他にも、生活習慣やアルコールの過剰摂取、水分不足などが影響しているケースもあります。

女性のめまいはホルモンバランスの変化が影響することも

──立ちくらみやめまいに関して、男性より女性の方が発症しやすいと聞いたことがあるのですが、本当なのでしょうか?

片山教授:そうですね。女性は特に30代後半から40代にかけて、めまいを訴える方が増えます。これはホルモンのバランスの変化が影響しています。特に40代から50代になるとホルモン変動が大きく影響して、よりめまいを感じる方も増えていきます。

──めまいの症状が現れたときの対処方法について教えてください

片山教授:めまいを感じた場合、最初に耳鼻科を受診することをおすすめします。しかし、ホルモンの変動が原因である場合は、婦人科の受診も検討していただいた方が良いと思います。

──耳鼻科や婦人科の受診をしてもめまいの原因がわからない場合は、食事などの生活習慣が影響している可能性があるということですね。

片山教授:そうです。適切な栄養を摂れてさえいればめまいが治る、というわけではないことは理解しておいてくださいね。

低血糖、貧血など、栄養素不足が原因のめまいに効く食べ物とは?

低血糖によるめまい:クッキー、チョコレートなどを摂取しよう

── それでは、栄養素の不足が原因のめまいについて、具体的に教えていただけますか?

片山教授:低血糖・貧血・カルシウム不足・ビタミン不足などがめまいの原因になることがあります。まず低血糖の場合だと、意識が遠くなるような感じのめまいを引き起こします。激しい運動後やダイエット、糖尿病の方であれば空腹時などに現れることがあります。低血糖が原因の場合、糖質を含む食品、例えばガムや飴、クッキー、チョコレートなどを摂取することで症状が軽くなることがあります。ただし、糖尿病の方は摂取量を管理することが必要です。

貧血によるめまい:レバー、赤身魚、枝豆などを摂取しよう

──続けて、貧血が原因のめまいについても教えてください。

片山教授:貧血によるめまいは、主に脳に酸素が足りないことに起因します。酸素を運ぶ赤血球を体内でつくるための鉄の摂取が重要です。食品中に含まれる鉄には「ヘム鉄:レバーや赤肉、赤身の魚などに多く含まれる」と「非ヘム鉄:野菜や卵、牛乳などに多く含まれる」があり、両者で大きく違うのは体内の吸収率です。「ヘム鉄」の方が高く、「非ヘム鉄」は低いです。

また鉄が不足すると骨形成にも影響が出ます。丈夫な骨を作るためにもカルシウムの摂取時に鉄も一緒に取っていただきたいミネラルです。

カルシウム不足によるめまい:小魚、緑黄色野菜、乳製品などを摂取しよう

── カルシウム不足については、どのような食材を摂取すると良いのでしょうか?

片山教授:日本人には慢性的にカルシウム不足になっている方も多いため、小魚、豆・豆製品、緑黄色野菜、牛乳、チーズ、ヨーグルト、ひじきなどの摂取がおすすめです。また、カルシウム不足が原因で骨粗しょう症や中耳や内耳の骨に影響する可能性もあります。

また、カルシウムと一緒に働いて、骨や歯の形成と強化をサポートするマグネシウムの摂取も重要です。マグネシウムは骨と歯の健康、筋肉の機能(筋肉の正常な収縮と緩和に不可欠)、エネルギー産生(体内の酵素反応に関与し、エネルギーの生成と代謝を促進)、心臓の健康(心臓のリズムを調節、心血管系の健康維持に関与)、神経の調節(神経系の正常な機能をサポート、ストレスや不安の緩和に役立つ)に不可欠なので、必要量を摂取するようにしましょう。

また、骨形成にはビタミンCの摂取も必要です。

ビタミン不足によるめまい:キウイ、ミカン、穀類などを摂取しよう

──最後にビタミン不足が原因のめまいに関係してはいかがでしょうか?

片山教授:ビタミンCを多く含む食品としては、キウイ、バナナ、ミカン、パパイヤなど、ビタミンEを多く含む食品としては、種実類、魚類、野菜、穀類などの摂取が良いと考えられます。ビタミンCやビタミンEは、疲労回復やアンチエイジングにも効果があると言われている栄養素です。

── これらの栄養素を摂取する際のポイントや注意点などはあるのでしょうか?

片山教授: そうですね。全ての栄養素に当てはまるのですが、必要な量を適切に摂取することが大切です。特に、サプリメントで摂取する際は、推奨される量を超えないように注意してください。

日本食をベースにした食生活と朝食の摂取が、健康状態を良好に

──栄養素の視点でめまいの症状に良いとされる食材についてお伺いしましたが、食生活という視点だとどういった食事内容がおすすめなのでしょうか?

片山教授: 日本食をベースにした食生活は、栄養バランスが摂れていておすすめです。現代では摂取する頻度が減っている昔ながらの食材、例えば豆、海藻類、小魚などを使った食生活が重要です。また、カルシウムやタンパク質を効率よく摂取できる、豆腐、緑黄色野菜、鶏肉などもおすすめです。ただ、加工品も増えているので、新鮮な食材を摂取することが大切です。

──なるほど。和食って、やっぱり日本人の体質にあった食事スタイルなんですね。

片山教授:そうなんです。また、めまいの軽減には食事の内容だけでなくタイミングも重要です。朝食をきちんと摂ることと、夜の食事は消化の良いものを軽く摂ることも大切です。最近だと「『なに』を『いつ』食べるか?」について研究された「時間栄養学」という視点においても、朝食の重要性が解明されています。朝食を摂ることで、体の内部から「朝である」という情報が提供され、それに連動して体が活動する体制に切り替わります。これにより、消化や吸収が効率的に行われるだけでなく、免疫力も向上します。

──朝食の重要性についてよくお話を聞きますが、その理由についても解明されているんですね。

片山教授:はい。朝食を食べることで体温や血糖値が適切に上昇し、朝の活動もスムーズに行えるようになるんです。以前、仕事が忙しく夜型生活で、朝食を食べる習慣がなく、健康状態に悩みを抱えている方の栄養指導をした際に、朝はおにぎりを食べる、夕食が遅くなるときは野菜やたんばく質を含むスープ(夜にカルシウムを摂ることで骨を再生することができため、海藻(ひじきなど)やビタミンDを含む茸(きくらげなど)を加える)を中心とした食事にする、という改善をしたところ健康状態が良くなりました。忙しくても朝食の時間を設けること、遅い時間帯の食事は脂肪に変わりやすいので注意すること、この2点を徹底しただけです。

──食生活を変えるだけでも大分変わるものなのですね。

片山教授:そうですね。ただし、食事以外にも運動やライフスタイルの全体的な見直しも大切です。健康を維持するためには、生活全体のバランスを取ることが非常に重要です。日本食スコア、和食スコアなど日本食によく用いられる食材(ご飯、みそ汁、海藻、漬物、緑黄色野菜、魚介類、緑茶、牛肉、豚肉)の摂取量を点数化(日本食インデックス:8-item Japanese Diet Index)することで、研究が進み、日本食パターンのスコアが低いグループに比べて高いグループでは、全死亡のリスクが14%、循環器疾患死亡のリスクが11%、心疾患死亡のリスクが11%低かったことがわかりました(国立研究開発法人 国立がん研究センター 多目的コホート研究 JPHC Study)。

──これから研究しようと思っている、もしくは現在おこなっていることはありますか?

片山教授:現在私は「医食同源」という考えをもとに、食事を通じて健康を向上させる研究を進めています。具体的には、おいしく食べることと健康になることを両立させるための探求を進めています。例えば宇宙の過酷な環境でさえも、おいしい食事を通じて健康を維持・向上させることができればと考えています。

━━片山先生、本日はありがとうございました。

Wellulu編集後記:

症状としてめまいは一括りにされるが、脳の異常やストレスなどの身心的な問題はもちろん、食生活を含む生活習慣も影響していると取材でお伺いして、さまざま原因がめまいに影響していることに驚いた。その中でも栄養素の不足が原因のめまいに関しては、食生活を意識することで防ぐことができる。

おにぎりだけでも良いからしっかりと朝食を摂る、日本食をベースとした食事を摂るなど、食生活を少し変えるだけで、めまいだけでなく健康状態の改善にもつながる。改めて、普段から栄養素を意識した食生活を大切にしたいと感じた。ただ、先生が仰っているように、めまいの症状が現れた際は、まず耳鼻科を受診することが重要なのでお忘れなく!

本記事のリリース情報

【健康栄養学科】片山直美教授のインタビュー記事が掲載されました

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