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健康の秘訣は絶食にあり?メタボロミクスを用いた代謝物の研究【沖縄科学技術大学院大学・照屋博士】

絶食について、著名人などが健康目的におこなっているのを見て、気になったり、自分でも一度は試してみたことがある人もいるのでは?でも、実際のところ絶食の効果って一体…。

沖縄科学技術大学院大学の照屋貴之博士がおこなったメタボロミクス研究によると、絶食が多様な代謝活性化を誘発し、健康と寿命に影響を与えることがわかった。そこで今回、照屋博士に取材を実施してメタボロミクス研究で解明できたこと、絶食の効果や方法についてお話を伺ってきた。

照屋 貴之さん

沖縄科学技術大学院大学 研究員

東洋大学工学部応用化学科卒業。埼玉大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。理化学研究所でのポスドク、沖縄の創薬ベンチャー2社を経て、沖縄科学技術大学院大学(OIST)で研究員。アカデミックとベンチャーでの研究経験をもとに、2023年にOIST発ベンチャーとしてメタブル合同会社を設立。代表社員。食品メーカー等との受託研究・共同研究を通じて、人々の代謝改善ひいては健康長寿社会の実現に貢献することを目指している。

本記事のリリース情報
OIST発のスタートアップ「メタブル」を立ち上げた照屋貴之博士がウェルビーイングWebメディア「Wellulu」にて取材を受けました。

メタボロミクス研究とは?代謝物で測定する健康・寿命効果

── まず始めに「代謝物」の研究に取り組むようになったきっかけを教えてください。

照屋博士:学生時代は土壌などから微生物を分離・培養し、生理活性物質や抗生物質などを探す、微生物代謝の研究をおこなっていました。卒業後は沖縄の創薬ベンチャーに入社し、天然物から薬の“種(シーズ)”になる物質を探す研究に従事しました。そんな中、ある合同発表会で、柳田充弘先生(沖縄科学技術大学院大学名誉教授・京都大学名誉教授)の「メタボロミクス」に関する研究と出会い、研究員として採用されたことが現在の研究に至ったきっかけです。

── 「メタボロミクス」の研究とは、どういった研究なのでしょうか?

照屋博士:メタボロミクスは、生命活動の中で生じるさまざまな代謝物(血液、尿、唾液などに含まれる小分子)を網羅的に測定し、代謝物の挙動から生命現象の理解を試みる研究領域です。私が最初に取り組んだのは血液代謝でした。血液は全身を循環し、栄養や酸素を体の各細胞に届け、不要な物を回収する役割を持っているため、全身の状態を解析するのに適しているためです。

──生命現象を明らかにする研究なんですね。血液の代謝物解析から、絶食の効果が解明できたということでしょうか?

照屋博士:最初から絶食について研究していたわけではなく、もともとは若年者と高齢者など、異なる年齢層で血液代謝物にどういった違いがあるのか?を解析していました。ただ、若年者と高齢者では、私が予想していたよりも血液代謝に大きな違いが見られなかったので、絶食や激しい運動など極端な状況下での代謝変化を解析してみたいと考えました。

──年齢で血液代謝物にあまり違いがないとは。体力や健康の視点から見ても、血液代謝物に差が出てもおかしくない気がするのですが…。

照屋博士:詳しいことはまだわかっていませんが、血液にはある程度の恒常性(生理機能が一定に保たれる性質)があることが一因かもしれません。例えば、食後は血糖値が上昇しますが、インスリンが分泌されて元の値に戻そうとする働きがあります。私達の研究では、年齢を重ねると筋肉維持に必要な代謝物の低下や、老廃物濃度が上昇する傾向が観察されました。加齢対策として、生理機能にかかわる代謝物の血中濃度を若い時の状態で維持すること、あるいは(可能なら)若い時のような状態に持っていくことが重要なのかもしれません。

メタボロミクス解析による絶食効果、唾液と老化の関係について

──続いて、具体的な研究内容についてお伺いできればと思うのですが、「絶食と代謝活性化」の関係性について教えてください。

照屋博士:20代の健康な男女4名に約3日間の絶食をおこなってもらい(飲水は自由)、血液代謝に与える影響を調査しました。その結果、120種類の検出された代謝物の中で、3分の1以上の44種類が絶食中に上昇しているのが観察されました。

その中には、従来知られていた代替エネルギー関連代謝(カルニチン、ケトン体や分岐鎖アミノ酸)の増加以外に、抗酸化物質上昇、ミトコンドリア活性化、プリン・ピリミジンを含むシグナル伝達系の活性化など、多彩な代謝活性化が判明しました。

──つまり、さまざまな代謝物が活性化していたということでしょうか…?

照屋博士:はい。これまで知られていた以上に絶食が代謝活性化を誘導することが判明しました。

絶食時の代替エネルギーとして、まずは肝臓に貯蔵されたグリコーゲンが分解され、空腹時における糖質の供給源としての役割を果たします。そして24時間後には、このグリコーゲンが枯渇してしまい、脂肪とタンパク質の分解が始まります。3日目になると、この割合がさらに高まることで、体のエネルギー生産機構が劇的に変化することが確認されました。

最近こそ飽食の時代と言われていますが、人類史という尺度でいうと、ヒトはずっと飢餓と戦ってきたわけで、飢餓に対してある程度の耐久能力があることは知られています。絶食中は単にエネルギー源が変わるだけでなく、エネルギー生産の過程で出来る活性酸素種から体を防御したり、普段はあまり機能していない遺伝子を活性化させるためのシグナル分子を増量するという“耐久モード”への変化の一端がこの研究で明らかになりました。

──なるほど。そのほか、絶食による効果でわかったことはありますか。

照屋博士:まだ具体的には解明されていませんが、絶食による活発な代謝活性化が、組織の再生に機能する可能性があります。加齢に伴って低下する代謝物の一部が、絶食中に増加する現象が認められたのです。これは、加齢性疾患の予防や若返り効果に結びつく可能性を示唆しています。

── 代謝活性化によって多様な効果が期待できそうですね。続けてお伺いしたいのですが、唾液を用いた老化測定に関する研究についても教えていただけますか?

照屋博士: はい。沖縄県内の27人の参加者の起床直後の唾液を収集し、年齢差に関連する代謝物の変化を調査しました。高齢者では抗酸化作用、エネルギー産生、筋肉の維持などに関連する20種類の代謝物が減少し、1種類のみ増加していました。減少した代謝物がもつ役割を考えると、味覚や嚥下などの口腔機能の低下と関連している可能性があります。

一方で、エネルギー産生に関連する代謝物であるATPのみ、高齢者では1.96倍に増加していたのは興味深い発見でした。しかし、その理由はまだよくわかっていません。

これまで取り組んだ血液、尿、唾液のメタボロミクス解析を通じて、体液の種類によって代謝物に差があるものとないものがあることもわかりました。それぞれに異なる生体機能の変化が表れていると考えられます。このように、老化という複雑な生理的変化を多面的に捉えられるのがメタボロミクス解析の強みであり、魅力と言えます。

── メタボロミクス解析を通じて、疾患や老化の問題に与える影響は何が考えられるでしょうか。

照屋博士: 食事などの生活習慣も血液代謝の加齢変化に影響を与えると考えられます。例えば、最近、私達は認知症の患者さんでは赤血球中の抗酸化物質が低下していることを報告しましたが、細胞で作られる抗酸化物質よりも食物に由来する抗酸化物質の方が、より低下していました。これらの代謝情報を時系列で研究することで、病気の早期診断や栄養補助食品による予防対策が可能になるかもしれません。

これらの研究を発展させて、今後はフレイル(虚弱)や認知症など、高齢者が罹りやすい疾患の早期発見ができるようにしたいと考えています。

食事、運動、睡眠…、体の健康のポイントは恒常性を保つこと

── これまでの研究を通じて、生活者の皆さんに伝えたいことはありますか?

照屋博士: ありきたりなことを言うようで恐縮ですが、健康を維持するためには、バランスの良い食事、十分な睡眠、適度な運動が重要だと思います。血液代謝の加齢変化は、遺伝的な特徴に長年の生活習慣が加わった結果だと思うので、やはり粘り強く対策を継続しないと変えることは容易でないと思います。食事に関しては、伝統的な和食のようにゆっくりと消化され栄養吸収が穏やかなものが、日本人の体には適しているようです。また、特に30代、40代では、生活スタイルの変化で運動量が減っていても、食べる量が変わらないことが多いですが、満腹にならない程度の食事を心がけ、自分のエネルギー収支(消費カロリーと摂取カロリーのバランス)を意識して日々の食事の量を調節することは生活習慣病の予防に大事だと思います。

── 伝統的な和食が理想ではありますが、十分に取り入れるのが難しい場合、サプリメントで補っても同様に効果を得られるのでしょうか。

照屋博士: 不足している栄養素をサプリメントで補給することはとても意義があります。しかし、栄養の多様性という点では、やはり天然素材の方が豊富です。生活習慣を整えることが体の恒常性を保つ上での基本なので、様々な種類の食品を摂取し、栄養が偏らないように心がけることも重要です。

── 絶食についてもアドバイスをもらいたいのですが、絶食を行う上での目安や注意点を教えてください。

照屋博士: 私は基礎研究者なので、“こうした方が良い”という具体的な健康アドバイスはできませんが、私達の研究では24時間の絶食で“耐久モード”への変化が観察されました。24時間は一つの目安になるかもしれません。絶食して一時的に代謝を活性化し、あるべき状態に戻すというイメージですが、十分な検証はできていません。ちなみに、私は「最近ちょっと体重が増えたな」とか「昨日は食べ過ぎたな」と感じたときに、1日絶食しています。何回かやってみると慣れるもので、空腹感があるときは水を飲んでごまかしています。ただし、人によってはフラつきや頭痛などの症状が出ることもあるので、無理は禁物です。健康状態に不安がある方は、医師にご相談ください。

── 最後に、これからの取り組みや現在進行中の研究について教えていただけますか?

照屋博士:メタボロミクス解析から得られた知見を実社会に生かすためには、一つ一つの代謝物をより正確に測定し、データを蓄積していくことで、その有用性・信頼性を精査することが必要です。私は現在、様々な種類の代謝物を迅速・正確に測定する技術の開発に取り組んでいます。

編集後記:

今回、適切な絶食がもたらす健康効果や代謝物の測定から見えてきた健康や老化の関係性について、沖縄科学技術大学院大学の照屋先生にお話を伺いました。また、いずれは唾液から疾患の早期発見や予防に繋がる発見があるかもしれないと思うと、この研究の展望がとてもたのしみに感じられました。この記事を通じて、絶食がもたらす健康効果を正しく理解し、日常生活における健康管理の参考としていただければと思っています。

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