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競争環境下でも協力社会は実現できるのか?約2万通りの戦略から導き出した答え【立正大学・山本教授】

相互に協力することが重要な世の中で、協力しないことを選ぶ個人の方が常に得をし、相互協力の実現が難しい状況を「社会的ジレンマ」と呼ぶ。社会的ジレンマは多くの社会問題の基礎的なメカニズムを有しており、いかにして競争的な環境で協力的な社会が実現可能かを探ることは、現代社会において極めて重要になりつつある。

立正大学経営学部の山本仁志教授が取り組んだ「約2万通りの戦略が共存する囚人のジレンマ」の研究によると、“逃げる”という行動が可能であれば協力社会を維持できるという。

社会的ジレンマがおこる背景には何があるのか?また、協力社会を実現するために必要なことは何なのか?山本教授にお話を伺った。

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山本 仁志さん

立正大学経営学部 教授

社会的ジレンマ、協力の進化、社会シミュレーション、ソーシャルメディア分析などの研究に従事している。協力の進化に関して多角的な研究を進めている。電気通信大学大学院情報システム学研究科修了(博士・工学)。東京理科大学工学部経営工学科助手、電気通信大学大学院助手、立正大学経営学部講師等を経て、現在同大学経営学部教授。

本記事のリリース情報
【経営学部】山本仁志教授のインタビュー記事が掲載されました

個人の合理性VS社会の合理性、「社会的ジレンマ」とは?

──今回の研究に取り組むきっかけや背景についてお伺いしてもよろしいでしょうか?

山本教授:学生時代から「協力の進化」や「社会的ジレンマ」について興味を持つなかで、多くの社会問題が社会的ジレンマの構造を持っているということに気づいたのがきっかけでした。典型的な例として、環境問題において“共有地の悲劇”という法則があるように、個人の合理的な行動が社会全体の利得を損なってしまう構造が根本にある、ということなんです。これは環境問題だけではなく、ゴミ処理場や火葬場など迷惑施設の設置問題にも言えます。社会にとって必要だけど自分の家の隣にはほしくない、ではどこに設置するのか?この構造を理解することが非常に重要な課題だと思いました。

また、協力や助け合いというと、心の問題だったり思いやりの問題に結びついてしまいがちですが、本質的に協力というのは、自分がコストを支払って相手を利する行動を意味します。この行動自体は自分の利得を減らすものなのですが、協力という行動は進化しているんですね。これは、人間だけでなく動物にも見られる行動です。自分を不利にしながらも相手を助ける行動は、生物が進化していく過程、さらには人間社会がこれだけ発展できた大きな要因だと考えています。

この仕組みをしっかり理解したいというのが、今回の研究に取り組む背景になります。

──改めて、「社会的ジレンマ」について教えていただけますでしょうか。

山本教授:一言で言うと、個人の合理性と社会の合理性が対立してしまう状況のことです。個人レベルでみると、非協力的な行動を取る方が高い利益を得られる構造があります。しかし、全員が非協力的だった時よりも、全員が協力的だった時の方が、人々が得られる社会全体の利益というのは大きくなります。合理的な個人を仮定すると、必ず非協力だけが進化してしまうのですが、その中でどうしたら非協力の進化を抑えて協力状態を維持できるのかについては様々な研究がされています。

──SDGsやウェルビーイングといった概念とも関連があると感じるのですが、いかがでしょうか?

山本教授:まさにその通りです。SDGsは全員が取り組めば社会全体にとって良いことですが、個々人が抜け駆けをすると、システムが機能しなくなります。ウェルビーイングについても、個人と集団、または短期的な自分と長期的な自分の間の対立という形で、社会的ジレンマが存在します。

逃げることが可能であれば、協力社会を維持できる

──今回の研究の内容について教えてください。

山本教授:まず、助け合いというのは大きく分けて2つのメカニズムがあります。1つは「直接互恵性」、もう1つは「間接互恵性」というものです。直接互恵というのは「やられたらやり返す」、つまり行動を直接返すということで、これは人間だけでなく動物にも見られる基本的な協力の形です。一方、間接互恵は「情けは人のためならず」ということわざにも表れているように、自分が誰かに協力することで評判が上がり、結果的にその協力が返ってくるというものです。これは人類特有の現象とされています。

今回の研究では直接互恵の基礎的なゲームモデルに、そもそもゲームに参加しないという新たな行動を導入し、「逐次手番」と「同時手番」の2つに分けてシミュレーションをおこないました。

──逐次手番、同時手番とは、何なのでしょうか?

山本教授:逐次手番は将棋のように交互に手を出すゲームです。つまり、一方が協力した後、相手がそれに応じて協力するという形で行われるものです。同時手番はジャンケンのように同時に手を出すゲームです。

──なるほど。研究結果について教えてください。

山本教授:2万通り以上の戦略をコンピューターシミュレーションした結果、逐次手番と同時手番では生き残る戦略が異なることがわかりました。逐次手番ゲームにおいては「裏切られたら逃げ、相手が逃げたら協力する」という戦略が支配的になり、協力社会が実現することがわかりました。一方で、同時手番ゲームでは「一方的に裏切られたり、逆に裏切りに成功した時には裏切り、そうでない時には協力に転ずる」という戦略が有効であることが明らかになりました。

また、参加しないという選択肢があることが緩衝材になることも発見しました。

人間関係でも、ダメだと思ったら一度距離を置くことがありますよね。対立ゲームの中でも同様のオプションがあることで、状況が穏やかになることがわかりました。

──非常に興味深い結果ですね。これらの結果は、現実社会においても同じことが言えるのでしょうか?

山本教授:はい。現実社会では逐次手番の状況が多いですが、同時手番のゲームでは、相手の行動を知らずに自分の手を決めなければならないため、より厳しい状況が生まれます。特に現実によくみられる逐次手番形では、「逃げる」という行動が可能であれば、「やり返す」という行動を使わなくても協力社会を維持できることが示唆されています。

──もうひとつの研究「他者から『奪い取る』負の行動は第三者に対しても連鎖する」についても教えていただけますでしょうか?

山本教授:はい。まず、私たちは「公正世界仮説」に関する研究もしているのですが、「公正世界仮説」というのは、世の中は公平にできており、良い行いは報われ、悪い行いは罰されるという信念です。例えば、不倫をしている人が事故に遭うと、それを不倫の報いと結びつけるといったようなことです。

──具体的にどのような実験を行ったのでしょうか?

山本教授:参加者にAさん、Bさん、Cさんの3人の役割をランダムに割り振り、ゲームを行いました。AさんはBさんから任意の額を取ることができ、BさんはAさんから取られた後、Cさんから任意の額を取ることができます。Cさんはただ取られるだけ、というゲームについて説明したあと、実際にゲームに参加してもらいました。

ただこの実験では、参加者全員がBさんに割り振られ、Aさんから色々な額を取られたあとCさんからいくら取るか、ということを検証する実験でした。その時Aさんが参加者からとる額は「くじ」で決まる場合とAさんの意思で決まる場合があります。実験ではAさんが取る額と「くじ」か「意思」かを操作しました。

──結果はどうでしたか?

山本教授:意外なことに、意図の有無とは関係なく、参加者は取られた分だけ取り返す傾向があることがわかりました。つまり、悪意があるかどうかに関わらず、負の行動というのは直接的な相手だけでなく第三者に対しても連鎖することが明らかになりました。この知見は、安定した協力社会の実現に向けて重要な意味を持つと考えています。

適切な理解のためのツールや枠組みを持とう

── 協力的社会の実現のために、日常生活において普段からできることはなにかありますでしょうか?

山本教授:日常生活で意識できることとしては、まずは「考えるためのツールを持つ」ことですね。例えば、出来事が起こった際に、ただ単に良かった、嫌だったという感想だけでなく、その背景や本質を理解しようとする姿勢が大切です。

また、問題に対して短期的な視点だけでなく、長期的な視点を持つことも重要です。短期的には問題が解決しないかもしれませんが、長期的にはより良い結果につながることもあります。これは「時間割引」という概念にも関連しています。

人は短期的な報酬を過大評価し、長期的な報酬を過小評価する傾向があります。例えば、今すぐに1万円をもらうのと、半年後に1万円をもらうのでは、多くの人は今すぐにもらう方を選びます。これは、将来の報酬よりも現在の報酬を高く評価するためです。同様に、将来のコストも現在よりも小さく見積もりがちです。このような心理的な傾向を理解することで、よりバランスの取れた判断ができるようになります。

──これから研究をしようと思っている、もしくは現在おこなっていることはありますか?

山本教授:今取り組んでいるテーマとしては、AIと人間の混在する未来についてです。今後、AIが人間の行動を評価する時代がくると考えています。そうなると、AIにどのような評価ルールを設定するか、また、人々がどのようにそれを受け入れるかが重要になってきます。これからの社会において、AIとの共存による混乱を小さくすることは重要ですが、それ以上に、なぜ混乱が起きるのかを理解し、予測することが研究において大切です。社会的ジレンマや協力のメカニズムを定量的に分析することで、安定した協力社会の実現に貢献することを目指しています。

──山本先生、ありがとうございました。

編集後記:

今回の取材を通じて、「逃げる」という行動が持つ意義や価値について、改めて考えさせられました。「逃げるが勝ち」という言葉があるように、攻める・守るのような2択しか下せない状況下だとお互いに協力し合える社会を実現するのは難しいというのもなんとなくわかります。状況に併せて選択肢が広がることで、他人との軋轢も減り、良好な関係を維持できる気もします。また、山本先生にお話いただいた「日常生活における視点や考え方」についても勉強になる部分が多く、長期的な視点を持つことや、相手の行動の本質まで見ることなどは、お互いに協力しながら社会で生きていくためにも皆が共通の認識として持ち合わせることができれば良いなと感じた。

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