
寝たはずなのに朝起きたら「首や肩が痛い」なら、もしかしたら枕を調整するだけでも改善するかもしれない…?医師として患者と向き合ってきてわかってきた理想の睡眠姿勢の条件と寝返りの重要性とは?今回、睡眠中の姿勢や寝返りがしやすい環境を整える寝具の選び方やその他工夫など、山田朱織枕研究所の山田さんに詳しくお話を伺った。

山田 朱織さん
山田朱織枕研究所 代表
本記事のリリース情報
Webメディア「Wellulu」にインタビュー記事が掲載されました
睡眠中の理想的な姿勢とは?「睡眠姿勢理論」について
医師として見てきた「枕を調整するだけでも改善する症状が多い」
──本日はよろしくお願いいたします!
山田さん:よろしくお願いします。
──まず、御社が研究所を立ち上げた背景について教えていただけますか?
山田さん:当社は「山田朱織枕研究所」という名前の通り、整形外科医である山田朱織が設立しました。もちろん山田自身もクリニックを持っており、そこでは日々肩や首、腰の痛みを訴える患者さんを診察しています。
──整形外科の専門医でもあり、ということなのですね。
山田さん:はい。そこで医師として症状のある患者さんたちと向き合う中で、「いつ痛むの?」とヒアリングをしていったところ「朝痛い」と答える方が多かったんです。そういった声から寝具、とくに枕が合ってないのでは?と考えるようになっていきました。
──確かに、睡眠で身体は休まるはずなのに朝痛いというのは睡眠の中でよくない要因があるのでは?と思われたのですね。
山田さん:そうなんです。このような流れから、クリニックでは患者さんに手作り枕の作り方を指導するようになりました。あくまで患者さんが持ち込む素材を使い、枕を調整するという形で、です。
──自分の枕を一緒に考えてくれるんですね。実際に効果はあったのでしょうか?
山田さん:はい、枕の調整をおこなうことで症状が大きく改善するケースは多々ありました。しかし、患者さんが持ち込む素材が必ずしも適切とは限らなかったり、「先生が枕を作ってくれればいいのに」という要望も多かったんです。ですが、あくまで医療機関なので物を販売することができないといった背景から、オーダーメイド枕を販売する会社を立ち上げました。
これがクリニックと併設するオーダーメイド枕屋である弊社「山田朱織枕研究所」の始まりです。
──そのような背景があったのですね。寝具の中でもとくに枕に注目した理由はあるのでしょうか?
山田さん:実は父も整形外科医で、それまでに多くの患者を診てきた経験から「枕を調整するだけでも改善する症状が多い」という知見があったんです。また、ベッドやマットレスを変えるのはコストや手間がかかる一方で、枕を調整するのは比較的簡単でリーズナブルでもあるため、多くの方がチャレンジしやすいという点もありました。
──確かに。考えてみると寝具の中でも枕は一番ハードルが低いですね。普段肩こりや首の痛みがあるという方も、実は枕が関わっていたりって実際にあるんですかね。
山田さん:そうですね、非常に多いです。もちろん薬や湿布をお渡しすれば、一時的に改善することはあります。しかしそれはあくまで対症療法に過ぎないので、日常の姿勢だけでなく、寝るときの姿勢含め姿勢の悪さを直さない限り、痛みは繰り返されるということを伝えていますね。
──根本からケアすることが重要なのですね。
山田さん:そうなんです、あとは病院に行くほどではない、治療するほどではないけど枕だけ欲しいと仰る方もヒアリングしていくと、実は朝つらい思いをしていたりっていうのは多いですね。
──まさか寝具に原因があるとは思っていない人もまだまだ多そうですね。では寝る姿勢についての「睡眠姿勢理論」を教えてください。
睡眠中の理想的な姿勢を追求する「睡眠姿勢理論」
山田さん:「睡眠姿勢理論」とは、睡眠中の理想的な姿勢を追求するための考え方で、私たちはこれを「静的睡眠姿勢」と「動的睡眠姿勢」という2つの視点で捉えています。
睡眠中の身体ってじっと止まっているわけでも、常に動いているわけでもないですよね。なのでそれぞれの状態で身体に負担をかけず、最適な状態を保つことが重要なんです。
──具体的に「静的睡眠姿勢」と「動的睡眠姿勢」はどういった寝姿勢なのでしょうか?
山田さん:「静的睡眠姿勢」は身体が静止しているときの姿勢で、仰向けと横向きの最適な状態です。この「仰向けのよい姿勢」とは、首が約15度前後で前傾している状態、「横向きのよい姿勢」は、額、鼻、口、胸の中心を結ぶ線が寝具の面と平行である状態を理想的な寝姿勢と考えています。「動的睡眠姿勢」とは身体が動いているときの姿勢で、寝返りのしやすさのことです。
寝返りの役割「体液循環」「体圧分散」「体温調整」「脊椎の修復」
──寝返りのしやすさが重要ということですが、その理由を教えていただけますか?
山田さん:寝返りは身体にとって大きく4つの重要な働きを持っています。1つ目は体液循環、つまり血液やリンパ液、関節液の流れを促す働きです。2つ目は体圧分散で、身体の一部に圧力が集中してしまうのを防ぐ働きです。3つ目は体温調整です。背中などに熱がこもってしまうと睡眠から覚醒してしまったりするので熱を逃してあげる働きです。そして4つ目が脊椎の修復です。
──脊椎の修復は初めて聞きました。
山田さん:そうですね、寝返りの機能として最初の3つは比較的耳馴染みがあるかもしれませんが、4つ目に関してはここ5〜10年ほどの新しい視点であり、山田自身が整形外科医ということもあり、私たちは着目しています。
──脊椎の修復について詳しく教えていただけますか?
山田さん:ヒトは基本的に動くことで身体のバランスを保っていますが、睡眠中は無意識のため、同じ姿勢のまま長時間過ごしてしまうことが多いんです。そういったことから寝返りは重要です。
もし背骨が変な方向を向いていたら、骨と骨の間にある椎間板や、その背後を通る神経が圧迫されてしまい、痛みやしびれを引き起こす可能性があります。これを寝返りを打ってあげることで楽にしてあげられるんです。
──なるほど。普段座り姿勢が多いこともあり、背骨はかなり固まりがちですよね。
山田さん:そうですね。たとえば、変な姿勢というとうつ伏せ寝とかって寝返りがかなり打ちにくいですよね。短時間ならとくに問題ないものの、これを長時間続けてしまうと首の寝違えが起きやすくなるんです。これは同じように全身で起こりうる話なんです。
──首の寝違えのような現象は全身で起こりうるのですね…。
山田さん:これに似た状況としては柔らかすぎる枕だと頭が沈み込んでしまい、首が動きにくくなることで、不良姿勢を継続してしまい神経に負担がかかり、寝違えが起きやすくなってしまうといったケースもあると思っています。
──そこで、このような点をカバーできる枕が必要なのですね。
山田さん:そうですね。仰向けや横向きの静的な睡眠姿勢をサポートし、自然な寝返りを促すような枕が理想ですね。あとはマットレスの硬さも重要です。柔らかすぎるものは身体が沈みすぎて寝返りを妨げるので、適度な硬さのものを選ぶべきです。
さらに、睡眠中の姿勢だけでなく、日中の姿勢や運動習慣も改善をサポートする要素になります。若いうちから正しい睡眠環境を意識することで、将来的な健康維持にもつながります。
──「若いうちから」というのは、年齢によって影響が変わるということなのでしょうか…?
山田さん:若いころは筋肉や神経が柔軟で、多少の姿勢の悪さは身体がカバーできるのですが、年齢とともに神経や椎間板が硬くなり、負担を感じやすくなります。そのため、若いうちから正しい寝具を選び、よい姿勢を保つ習慣を身につけるのはとても重要なことなんです。
寝返りがしやすい睡眠環境を整えることが最重要
寝返りしやすい環境のための寝具やパジャマ、体操
──寝具を選ぶ際、どういった観点を大事にするとよいのか教えてください。
山田さん:まず最も大切なのは、「寝返りがしやすい環境を整えること」だと思っています。昔ながらの畳に綿布団を1枚引いたような硬さの敷物(マットレス)、枕なら昔ながらの硬い面の座布団を折って使うときの硬さ、これが寝返りがしやすいんじゃないかって私は思ってるんです。元々、手作り枕もお家にある座布団持ってきてください、なんて言っていたほどです。
──なるほど、やはり柔らかい敷物(マットレス)や枕だと寝返りしにくいのですね。
山田さん:そうですね。身体が沈み込んでしまうので寝返りはしにくくなってしまいます。なので弊社では硬さや形状の調整がしやすいウレタンを素材に、積み重ねて調整することでオーダーメイドの枕をお届けしています。
──ほかにも「寝返りがしやすい環境を整えること」に関してアドバイスはありますか?
山田さん:たとえば、重い掛け布団や身体にまとわりつくタオルケットのような素材は動きを制限してしまい、スムーズな寝返りを妨げてしまいます。あとはパジャマにも注意して欲しいですね。
──パジャマも寝返りに関係するのですか!?
山田さん:パーカーを着て寝るという方がいらっしゃるのですが、どうしてもフードが首元で邪魔をする、あるいはモコモコし過ぎて動きづらくなっていることがあります。
──ついつい寒いと厚めのものを着てしまいそうですが、寝返りのしやすさという観点からはよくないのですね…!ほかにも寝返りに効果的なものはありますか?
山田さん:「ねたまんま体操」をおすすめしたいです!これは、寝る前や起床後に寝返りに似た動きを繰り返す簡単な体操で、寝転がって右に左に身体を10~20回動かすものです。
夜は寝返りの動きを身体が覚えるために、朝は睡眠中に固まっていた身体をほぐし、血流を促す目的でおこないます。
1人につきシングルサイズ程度のスペースは確保
──起床後にもおこなうのは意外でした!ではお子さんがいる家庭向けには、どんなアドバイスがありますか?
山田さん:まず、親子で添い寝をされるご家庭も多いかと思いますが、お父さんやお母さんは自分の寝返りを打てるスペースを確保できていますでしょうか?もし十分なスペースがない場合、お父さんやお母さん自身の睡眠の質が落ちてしまうため、お子さんが眠ったらご自身のスペースに移動するといった工夫をするようにしてください。
──どうしても添い寝では寝返りを自由にというのはなかなか難しいですね。大体どのくらいのスペースで考えたらよいでしょうか?
山田さん:やはり1人につきシングルサイズベッド程度(幅約1m)のスペースは確保してほしいですね。
──なるほど。ほかには何かありますか?
山田さん:お子さんの睡眠環境では、寝返りが多いことと寝相が悪いことを切り分けて考えてください。寝相が悪くて頭が枕から外れている場合は、適切な高さの枕を使うことで改善する可能性があります。
──枕を変えることで寝相が改善する可能性があるのですね!
山田さん:寝相が悪いというのは身体が枕から離れて、あっちこっちに行ってしまうことなんです。枕が適正な高さであれば、頭は枕の範囲で右に左に寝返りを打つだけで寝てくれる可能性があるんですよ。
子どもの枕選びも大人と同じ基準でOK
──では、子どもの枕選びはどういったポイントを重視するとよいでしょうか?
山田さん:基本的には大人と同じ基準で選んでもらえれば大丈夫です。仰向けでも横向きでも寝返りがしやすい硬さや高さがポイントですね。キャラクターものの枕など、子どもたちが心惹かれるものがあるとは思いますが、柔らかすぎる枕ではなく、しっかりとした硬めの枕を選びましょう。
──子どもの場合だと寝て起きたら元気いっぱい!なんてことが多いので、実は枕が合ってないことに気づけていないことも多いかもしれませんね。
山田さん:そうなんです。子どもの頃って睡眠の大切さについて考えることってあまりないですよね。突然枕に興味を持つことは難しいですが、「僕の枕」「私の枕」という感覚を持つことは、睡眠への興味を引き出すきっかけにもなると考えています。
──たしかに。睡眠がどうかではなく「僕の枕」「私の枕」という意識からのアプローチは効果的な気がします!
山田さん:そうなんです。こういったことをきっかけに、睡眠の大切さに自然と気付いてもらえるといいなあって。将来的には、子ども向けに楽しみながら睡眠の重要性を学べるような機会も持ちたいと思っているんです。
──素敵です。睡眠を意識する習慣を持つことが、大人になっても役立つわけですね。
山田さん:はい、「寝る前に枕を整える」という行動自体が、睡眠の質を高める第一歩になるはずだと思っています。
Wellulu編集後記:
整形外科医として日々の患者との関わりのなかから、枕を調整することで身体の不調が改善することから枕の重要性を理解していたとのこと。また、理想的な寝姿勢と寝返りの重要性など、寝るという行動を単純にこなすだけでなく、しっかり準備をしてからおこなうという考え方は、睡眠への意識によい変化をもたらしてくれるのでは、と感じました。寝具のなかでも一番調整しやすい枕から始めてみる、ぜひとも親子で一緒にチャレンジしてみたいです。