近年、よく耳にする「腸活」という言葉。その一例として、排便のリズムを回復させる蠕動運動(ぜんどううんどう)を促す食生活をライフスタイルに取り入れている人も多いのでは?
ただ、皆さんは整腸作用とは違う「腸活」のアプローチがあることをご存知だろうか?
口から摂取した食物の栄養素を体内に取り込んだり、逆に不要なものをせき止めたりする、腸には体内と体外をつなぐ門番のような免疫機能「腸管バリア機能」がある(ちなみに、腸内は専門家からすると体外らしい…)。
そこで今回は、この腸管バリア機能を向上させる「腸活」として、明治の小林さんに詳しくお話を伺ってきた。どうやら、「LB81乳酸菌」という乳酸菌が腸管バリア機能や腸の老化によい影響を与える可能性を示しているんだとか。
小林さん
腸内環境を左右する、善玉菌・悪玉菌・日和見菌とは?
──本日はよろしくお願いします。早速なのですが、乳酸菌の一種である「LB81乳酸菌」について教えていただけますでしょうか?
小林さん:よろしくお願いします。まず始めになのですが、腸内フローラを構成する菌として「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌(ひよりみきん)」の3種類の菌が存在していることをご存知でしょうか?
──はい、なんとなく聞いたことがあって、なんとなく知っています。簡単に言えば「善玉菌」がよい奴で「悪玉菌」が悪い奴ですよね?それで、日和見菌は…、よくわからないです…。
小林さん:簡単にお伝えすると、腸内環境を良好に保つ菌として「善玉菌」があり、私たちの健康によい影響を与えます。その代表的な例として、ビフィズス菌や乳酸菌があります。これらは整腸作用があり、感染を予防する効果も期待できます。
──ビフィズス菌や乳酸菌は、ヨーグルトなどによく含まれていますよね。今朝、食べてきました!おかげ様で、腸の調子もすこぶるよい気がしています。
小林さん:整腸作用を期待してヨーグルトを食べる方も多いですね。その一方で、「悪玉菌」は病気の原因となることが多く、不調を引き起こすなど、私たちの健康に悪い影響を与える菌です。例えば、下痢等の消化器症状や合併症を起こす可能性のある大腸菌、自然界に広く分布している食中毒菌(例としてウェルシュ菌)などがあります。
──食中毒を引き起こす菌も悪玉菌の一種なのですね。3つ目の「日和見菌」はどんな菌なのでしょうか?
小林さん:「日和見菌」とは、私たちが健康な状態の際には大人しくしているため無害なのですが、体調が悪くなると悪玉菌のように私たちの健康に悪い影響を与える菌のことです。つまり、腸内細菌のバランスにより働きを変えます。
──腸内環境(善玉菌が優勢か、悪玉菌が優勢か)によって働きを変える…。ヒトだったらすごい嫌な奴ですね。(余談ですが…、「定まった考えに基づいた行動をせず、形勢や環境を見て有利な側方に追従する考え」のことを日和見主義と言うそうです)
小林さん:ただ善玉菌を優勢にして腸内環境を整えるためにも日和見菌は必要で、善玉菌・悪玉菌・日和見菌のバランスを整えることが大切です。一般的には、善玉菌2割・悪玉菌1割・日和見菌7割の状態がよいと考えられています。
──菌のバランスが重要…、なるほど。ちなみに、善玉菌である、乳酸菌とビフィズス菌はどう違うのでしょうか?
小林さん:乳酸菌は、主に糖を分解して整腸作用をサポートする乳酸を生成します。自然界に広く存在し、人間の腸内にも多く生息しています。乳酸菌は細長い形や丸い形など様々な株があり、それぞれ異なる働きや効能を持っています。その一方でビフィズス菌は、乳酸菌と同じように乳酸を生成するだけでなく酢酸(さくさん)も産生します。酢酸は腸内環境を整えるのに役立ちます。乳酸菌が主に小腸に多く存在しているのに対し、ビフィズス菌は酸素に弱く、酸素が存在する小腸でなく大腸に多く生息しています。
人によって異なるのですが、ビフィズス菌は大腸の腸内細菌叢の約10%を占めることがあり、ビフィズス菌が腸の健康に貢献しているとも考えられています。
──乳酸菌やビフィズス菌があるからこそ、腸の健康状態を保つことができるんですね!
腸の老化や生活習慣の乱れが「腸管バリア機能」を低下させる
小林さん:腸内に存在する菌についてお話しましたが、腸も老化することを知っていますか?
──腸の老化…、考えたことなかったです。老化する原因にはどういったものがあるのでしょうか?
小林さん:そもそも加齢によって腸機能は低下すると考えられています。腸の動きは自律神経と深く関わりがあり、副交感神経が高まる(リラックス状態になる)と腸も活発になるのですが、副交感神経の働きは30代〜40代がピークと言われています。加齢によって副交感神経の働きが衰えると、同じように腸の蠕動運動などが不十分になり、これが便秘や消化不良を引き起こす主な原因となります。
さらに、消化管に負担がかかるバランスの悪い食生活を送っていると、腸内フローラが悪玉菌優勢となり、腸の老化にも拍車をかけます。
──腸を健康に、かつ若く保つためにも、やはり普段の生活が大切なんですね…。腸内フローラのバランスって、そんなにガラっと変わるものなのでしょうか?
小林さん:そうですね。抗生物質などを服用すると極端に変わることもあるのですが、体内での炎症や食生活の変化、ストレスによっても腸内細菌のバランスは崩れてしまいます。
──なるほど。便秘や消化不良以外にも、腸の機能低下による身体への影響にはどのようなものがあるのでしょうか?
小林さん:健康な腸は防御機能として、腸上皮細胞の表面に外敵からの攻撃を防ぐ「腸管バリア機能」が備わっています。加齢や生活習慣の乱れによってバリア機能が低下すると、病原菌などの有害物質が体内に進入してしまいます。
──腸の層から体内に進入する…?そもそも、腸は体内なのでは?
小林さん:医学や薬学では、口、食道、胃、小腸、大腸、直腸などの食べ物が通る「消化管」の中は体外と捉えています。食べ物は消化管を通過する間に消化され、必要なものは体内に取り込み、不要なものはそのまま排泄されます。ただ腸管バリア機能が低下していると、その消化の過程で不必要なものが体内に進入してしまいます。
──なるほど~(わかったような、わからないような…)。※以下イメージ図になります。
小林さん:また、腸管バリア機能が低下することで、腸以外の臓器に悪影響を及ぼしていることが最近の研究によっても発表されています。
──「腸の状態が全身の健康に影響する」というようなことをよく聞きます。腸以外の臓器での疾病の発症リスクもそのひとつということですね。
小林さん:はい。私たちも「腸管バリア機能が全身の健康を左右する」ことを多くの方々に伝えていて、
そして、その腸管バリア機能を高める成分として、「LB81乳酸菌」に注目し研究に取り組んでいます。
──ようやく「LB81乳酸菌」の話ですね!では、続けて研究のお話をお願いします。
腸管バリア機能を高める「LB81乳酸菌」の研究
──乳酸菌と一括りにしても本当にたくさんの株がありますが、その中で「LB81乳酸菌」とはどういった乳酸菌なのでしょうか?
小林さん:LB81乳酸菌は、ブルガリア菌の一つであるLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 2038株とサーモフィラス菌の一つであるStreptococcus thermophilus 1131株の二つの菌株から成り立つ乳酸菌です。ブルガリアでよく食べられているヨーグルトは、ブルガリア菌とサーモフィラス菌を使用したとてもシンプルなもので、伝統的な製法で作られています。
また、100年以上前のことになるのですが、免疫学の研究でノーベル賞を受賞した学者さんが、ブルガリアのある地方で長寿の人が多いのは、ヨーグルトを摂取する習慣と関連していることを発表しました。
──100年も前からヨーグルトなどの発酵食品は注目されていたのですね!
小林さん:明治グループは5,000株以上の乳酸菌を保管していますが、プロバイオティクスが人の健康にどのような影響を与えるかを、長年にわたり研究しています。
──5,000株以上も!ものすごい数ですね。
小林さん:そうですね。ひとつの資産だと考えているので、研究所内で厳重に管理しています。
乳酸菌と抗老化・免疫増強の関連性について研究している中で、パスツール研究所(生物学・医学研究を行う、フランスの非営利民間研究機関)と共同研究を行い、LB81乳酸菌に腸管バリア機能を高める働きがあることがわかりました。
──先ほどお伺いした体内に不必要なものを通さない機能ですね。
小林さん:はい。この腸管バリア機能には大きく分けて3つのタイプがあって、その全てにLB81乳酸菌が働きかけていることがわかりました。
物理的・化学的・微生物学的バリア、「LB81乳酸菌」は3つのバリア機能に働きかける
──3つの腸管バリア機能とは?それぞれの役割とLB81乳酸菌の関係性について教えてください。
小林さん:まずひとつ目が「物理的バリア」です。これが一番イメージしやすいと思うのですが、腸の表面を覆う細胞と細胞がしっかりとくっついて層状となることで、有害物質や病原体が体内に侵入するのを防ぎます。LB81乳酸菌はこの細胞間のゆるみを引き締める働きがあり、腸の防御機能を高めることが確認されています。
そして2つ目が、腸上皮細胞で生成される抗菌ペプチドなどの化学物質によって構成される「化学的バリア」です。抗菌ペプチドは、病原細菌を殺菌することで感染から守る機能を持っていて、LB81乳酸菌の摂取によって抗菌ペプチドの産生を促進することがわかりました。
最後に腸上皮細胞に接近した病原細菌が腸に感染するのを防ぐ「微生物学的バリア」です。食中毒菌の一種であるカンピロバクター菌は腸上皮細胞に感染するのですが、LB81乳酸菌によってそれが抑制されることが明らかになりました。
──なるほど。ここまでお話をお伺いして「腸管バリア機能」の大切さをすごく感じています。「腸活」=整腸作用のことかと思い込んでいたのですが、腸の免疫機能を高めて腸や全身を守る大切さみたいな…、腸活をする際にもっと全身の健康を意識した方がよいのかなと…。
小林さん:そのことに気づいていただけると私としてもうれしいです。ほとんどの方が、「腸活」を整腸作用と捉えているかと思いますが、腸も年齢に応じて老化したり機能が低下してきたりします。もちろん腸内フローラのバランスを整えることも大切ですが、腸管バリア機能を守る「腸活」にも意識を向けてもらえればなと思っています。
──ちなみに、一般的に腸管バリア機能に対する研究が注目されたのはいつ頃からなのでしょうか?
小林さん:腸管バリア機能の基礎的な研究は数十年前から行われています。当初は腸管バリア機能が腸に及ぼす影響の解析が主流でしたが、ここ十年で腸管バリア機能が破綻することで様々な疾患に繋がることが明らかになり、腸管バリア機能の維持が全身の健康に重要な役割を果たすという認識が広がりました。
腸をよく知り、健康に保つことでQOL改善を目指す
── これまでのお話を聞いていると自分の腸の状態が気になる人も多いかと思います。腸の状態を知る方法は何かありますか?
小林さん:腸管バリア機能を測定する一般的な方法は、医学的な検査なのですが、ラクツロースマンニトールテスト(L/M test)があります。特定の糖を飲み、尿中にどれだけの糖が漏れ出ているかを測定することで、腸管バリアの透過性を評価するものです。専門の医療機関で行う必要があります。
── もし、腸の健康が悪化している場合に発症しやすい症状などはあるのでしょうか?
小林さん:便秘や下痢などの消化器症状が最も一般的ですが、なんとなく腹が痛む、腹部の不快感、ガスの過剰な生成や膨満感などが見られることがあります。さらに、腸管バリア機能の低下が引き金となり、疲労感や免疫力の低下、場合によっては心理的な影響や肌の問題にも影響を及ぼすことがあります。
── LB81乳酸菌の一日の摂取目安量やその頻度について教えてください。
小林さん:LB81乳酸菌を含むヨーグルトの一日の摂取目安量は100gとされています。この量であれば、腸内環境の改善や整腸作用に期待できる効果が得られるとされています。
── LB81乳酸菌を摂りすぎることによる影響は何かありますか?
小林さん:摂りすぎについては、基本的に過剰に摂取しても健康に悪影響を与えるリスクは低いとされています。しかし、どの成分も過剰摂取は体調に影響を与える可能性があるため、摂取量の目安を守ることが推奨されます。特に敏感な胃腸を持つ人や、乳糖不耐症の人は、乳酸菌含有食品の摂取に際しては体調をよく観察するようにしてください。
一部の人においては腹部膨満感やガスの過剰な生成、軽い下痢などの消化器系の不快感が生じることがあります。これらの症状が現れた場合は、摂取量を減らすことを検討し、必要に応じて医療提供者に相談してください。
──最後に、今後の研究や取り組みの展望について教えてください。
小林さん:今後は、腸管バリア機能の改善とその全身への影響をさらに深掘りし、解明したいと思っています。特に臨床試験を行うことでヒトにおけるLB81乳酸菌による具体的な健康効果を実証する予定です。この知見をもとに、腸管バリア機能の重要性を一般の人々に広く伝え、理解してもらうための啓蒙活動も積極的に行っていきたいと考えています。また、腸管バリア機能の衰えが健康に及ぼす潜在的な悪影響についても注目しています。
もちろん、LB81乳酸菌だけでなく、他の乳酸菌に関する研究も進めていくことで、異なる種類の乳酸菌が持つ特有の効果を比較し、より効果的な腸の健康戦略を策定するための基盤を築きたいと考えています。このように、腸管バリア機能の改善を通じて、人々の生活の質(QOL)を向上させることが目標です。
乳酸菌の摂取だけでなく、適切な食生活やライフスタイルの調整が腸の健康の維持と改善には必要です。腸管バリアを含む腸全体の健康をサポートし、さまざまな健康問題の予防に繋げていくことを目指しています。
Wellulu編集後記:
腸内細菌「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の基本からそのバランスと健康への影響、腸の老化について健康寿命が重要とされる現代には欠かせない知見だと感じました。腸の健康と全身の健康の関連性はわかっているものの、それぞれの乳酸菌によって改善するバリア機能の種類や程度が異なることなど、新たな発見ばかりでした。腸の状態を軸に健康問題を考えてみたり、腸を整えることを意識してみたりと、今後の自己の健康維持に活かしたいと思いました。