
快適な睡眠のためには、寝具の役割が大きいことをご存知ですか?本記事では、龍宮株式会社の梯さんに、「パシーマ」誕生の背景からアレルギー対策、理想の体温調整まで、科学的根拠に基づいた快眠の秘密について詳しく伺いました。素材の選び方一つで睡眠の質が変わるかもしれません。

梯 恒三さん
代表取締役社長
本記事のリリース情報
Webメディア「Wellulu」にてインタビューを受けました
脱脂綿を使った寝具は「寝る医薬品」?
──そもそもなのですが、布団や寝具に脱脂綿を使用するという発想が生まれた経緯を教えていただけますか?
梯さん:龍宮株式会社を創業した先代の梯禮一郎(かけはし・れいいちろう)の発想から、脱脂綿とガーゼを用いた清潔寝具「パシーマ」が誕生しました。禮一郎は幼少期の頃から脱脂綿を製造する祖父の手伝いをしていたのですが、その時から「この脱脂綿を布団に使ったらどうなるだろう」と思っていたそうです。
このアイデアはずっと心に残っていたそうで、60代になってから再び思い出すことになります。
──発想から形になるまで、結構の時間が経っているのですね。
梯さん:そうですね。もともと脱脂綿や医療用ガーゼは医薬品として扱われていて、傷口に当てるだけで治癒を促すことができる優れた素材です。
──確かに、絆創膏や包帯などがそうですよね。
梯さん:そういった脱脂綿の素材に着目して、「これを使って寝具を作ればアレルギー症状を和らげられるのではないか」と考えました。それというのも、禮一郎は年齢を重ねる中でアレルギー症状が悪化して、薬が効かなくなってしまいました。医師から継続的な薬の服用についての助言もありましたが、その薬を止めることを決断して、アレルギーを含む健康への効果が期待できる寝具の開発に至りました。
また、化学薬品に敏感な方もいるので、添加物を極力行わない医療用ガーゼ基準の素材を目指しています。
──「パシーマ」誕生には、そんな物語があったのですね。
アレルギーの歴史とその原因とは?
──近年アレルギーで悩む方も増えていると聞きますが、アレルギー反応はどのように発生するのでしょうか。
梯さん:アレルギーが注目され始めたのは平成初期頃です。当時、テレビや新聞でもアレルギー問題がよく取り上げられていましたし、医療現場でも議論が盛んでしたね。小児科と皮膚科の間でも意見が分かれていて、小児科では主に食物アレルギーが問題視され、皮膚科では環境要因、つまり空気中の化学物質などがアレルギーの原因とされていました。
現在では、厚生労働省がまとめた標準的な治療法があり、病院でも多くは統一された対応がされています。しかし、アレルギーの根本的な原因は個人差が大きく、環境や食物、さらには精神面など様々な要因が複雑に関わっています。
──精神面も影響してくるとは…
梯さん:アレルゲンと呼ばれる原因物質(主にタンパク質)が体内に入り、それに対して免疫が過剰反応を起こすことがアレルギー反応の基本です。アレルゲンは食べ物や呼気、皮膚を通じて侵入し、免疫が反応することで、症状が現れます。
──精神面が影響するケースでは、どのようにアレルギーが発生するのでしょうか?
梯さん:特に強いストレス、たとえば配偶者の死や離別といった大きな心の変動があると、それが引き金となってアレルギー反応を引き起こすことがあります。これは多くの研究や臨床例でも示されており、心療内科の先生方もこの点について明確に指摘されています。
寝具に溜まるダニの糞や死骸がアレルギーに影響!
──寝具とアレルギーの関係についてお伺いします。布団や畳がアレルギーに影響を与えると聞きますが、実際にどのような点に注意するべきでしょうか?
梯さん:布団にはホコリやダニが溜まりやすいとされていて、平成初期からダニアレルギーの問題が少しずつ知られるようになりました。布団は頻繁に洗えないため、当時は日に干して叩くことでダニやホコリを減らす対策が主でした。掃除機で吸引するタイプの対策も話題になりましたが、これも布団の表面のダニやホコリを取り除くだけなので、根本的な解決にはなりにくい面もあります。
アレルギーの原因となるのはダニそのものよりも、ダニの糞や死骸の破片です。これらの残骸がアレルゲンとなるのです。
洗える寝具が布団を清潔に保つ
──ダニの糞や死骸を除去することが重要ということですかね?
梯さん:はい。私たちは早い段階から、布団や畳を「清潔に保つ」ための方法として、洗うことの重要性を提唱してきました。布団を洗って清潔な状態を保つことが、アレルギー対策の基本であると考えています。
──洗える寝具についてのお話、とても興味深いです。アレルギー対策としての寝具の洗濯は、どのような効果があるのでしょうか?
梯さん:洗濯によってダニの糞や死骸をまたダニのえさを流し落とすことが可能で、実際に1回の洗濯で約9割のアレルゲンが除去できるとされています。この効果があるため、寝具の定期的な洗濯がアレルギー対策として重要なんです。
──洗濯するメリットについてはよくわかったのですが、どのくらいの頻度で洗うのがおすすめなのでしょうか?
梯さん:「パシーマ」を洗うのは週に1、2回を勧めていますが、特にアレルギー症状がある方には、できれば週に2~3回洗うことを推奨しています。当社の寝具は頻繁に洗っても劣化しにくく、洗うごとにふんわりとした風合いが増して、乾きも早いのが特徴です。
──洗える点以外にも御社の寝具には特徴があるとのことですが、他にはどのような要素があるのでしょうか?
梯さん:いくつかの研究機関において当社の寝具を用いた実験では「寝つきの良さ」において95%以上の被験者が効果を実感し、これが統計的な有意差として出ました。通常、寝具の効果でここまでの有意差が確認されることは珍しいそうで、試験に関わった専門家も驚いていました。
また、別の研究では「リラックスして眠れる」という結果も出ています。この「リラックス効果」は免疫力の向上にも繋がり、夜間に体の免疫機能がしっかり回復できることがわかっています。
──寝つきが良くなる理由として、どのような要素が作用しているのでしょうか?
梯さん:寝具の素材が「深部体温の放熱」をサポートしている点が考えられます。人間の体におけるラジエーター(放熱を目的とした熱交換器)の役割を果たすのが手足の末端部分です。これらが温まることで血流が良くなり、体の中心から熱が放出されやすくなるため、自然に深部体温が下がって、眠りに入りやすくなるわけです。
また、「吸水性」「通気性」「放湿性」が備わっているため、温まり過ぎず蒸れにくいという特徴があります。汗ばんでもすぐに吸収・蒸発させるので、蒸れずに快適さが続きます。これにより体温がちょうど良く保たれ、寝つきが良くなるのです。
寝具の素材が持つ総合的な性能が合わさって、おふとんの中の温度・湿度を理想の33度50%に近づけ、寝つきや快適性、体温調節が自然に促進される。こうした特性が寝つきの良さに関わっているのだと考えています。
睡眠時の体温調整をサポートする寝具の役割
──ここまでのお話をお伺いして、布団や寝具って、単に「温かければ良い」というわけでもなさそうですね…。
梯さん:そうですね。「寝具は温かければ良い」と思われがちですが、実際には違います。体が自然に発熱し、汗をかきながら適切に放熱することで、最適な体温が維持されるのです。寝具が温か過ぎると放熱できず、むしろ逆効果になります。たとえば、電気毛布などで体を温め過ぎると、体の温度調整機能が低下してしまい、睡眠に悪影響を与える可能性もあります。
適切な寝具は、体からの放熱をサポートしながら、体温を奪いすぎず、適度に温かさを保つ必要があるんです。
「脱パンツ健康法」が睡眠時の体温調整を整える?
──体温調整のためにも寝具の役割が重要とのことですね。寝具へのこだわり以外にも何かよい方法などあるのでしょうか?
梯さん:北海道の丸山淳士博士が提唱されていた「脱パンツ健康法」なども面白い考え方です。裸で寝ることは、体を締め付けず、血流を妨げないための一工夫です。パンツのゴムが血行を阻害するため、体が冷えやすくなることもあるんですよ。ですから、寝具や寝る環境で体が自由に発熱し、自然な温度調整ができるように整えることも大切です。
私も脱パンツ健康法を実践しているんですよ。
──脱パンツ健康法…、一度やってみようと思います!でも冬だと、寒そうです…。
梯さん:冬の寒い日も外気温が10度程度であれば、「パシーマ」とおふとんを重ねるだけで快適に眠れていますよ。温湿度計を2台用意して、布団の中の環境と外気の変化を定期的に記録しながら、寝具がどう体温や湿度に影響しているかを確認しています。こうした実験は公的なものではありませんが、私的にやってみることで、仮説の検証や新たな発見ができるので非常に面白いです。
──夏は涼しく、冬は温かい寝具についてのお話、とても興味深いです。このような寝具が実現する仕組みについて、もう少し詳しく教えていただけますか?
梯さん:夏涼しければ冬寒かろう、冬暖かければ夏暑かろう。確かに「夏涼しく、冬温かい」なんてウソのようですが、実際に「パシーマ」はそのように機能します。
これは、素材や構造が自然に体温調整を助けるためなんです。
まず、夏は汗を吸い上げて、蒸発させることが涼しさのポイントになります。肌に触れてひんやりする「接触冷感」とは少し違いますが、汗を吸収し、中綿が吸水性が良く表面のガーゼに水分を伝えます。寝具の表面が蒸発しやすい状態を保つことで、夏の暑さと蒸れを減らしてくれるのです。扇風機などで「パシーマ」の表面に風を少し当てれば、より快適に過ごせるでしょう。
一方で、冬場は「保温性」を高める工夫があります。吸湿・発熱の効果も若干あり、わずかですが湿気を吸うことで熱を発生させる特性があるんです。また、布団の適度な重みが隙間をほどよく埋めてくれるため、温かさが持続します。保温性と吸湿性を両立させた構造なので、冬でもしっかり温かさを保ちながらもあたたかすぎず蒸れない状態が作られるのです。
──布団に入った瞬間だけの心地よさに注目しがちですが、本当に大切なのは、寝ている間に快適な環境が保たれていることなんですね。本日はありがとうございました。
Wellulu編集後記:
取材を通じて感じたのは、睡眠における「快適さ」を左右する要因がいかに多岐にわたるかという点です。「パシーマ」の開発背景には、創業者の想いも感じられました。また、アレルギー対策としての洗える寝具や、夏は涼しく冬は温かい素材の工夫など、「実用性」と「快適さ」の両立が印象的でした。「脱パンツ健康法」といったユニークなアプローチも興味深く、実践してみたくなる…。良質な睡眠は、健康だけでなく日々の活力にも直結します。今回の取材を通して、寝具の選び方一つで生活の質が向上する可能性を実感しました。
※「パシーマ」は龍宮株式会社の登録商標です。
1956年12月6日生まれ、福岡県うきは市出身。1980年に熊本大学機械工学科を卒業し、日本機械学会の「畠山賞」を受賞。大学在学中に創業者の父・禮一郎に請われて、一年間休学して家業を手伝う。大学卒業後に龍宮に入社。2012年に三代目の代表取締役社長に就いた。「パシーマ」一筋の経営を展開し、数々の賞を獲得。2021年には「JBAヘルスケア認定寝具」「地域未来牽引企業」に選ばれた。「パシーマ」の売り上げを順調に伸ばし、商品バリエーションも増え、社業を発展させている。日本睡眠改善協議会(JOBS)の「睡眠改善インストラクター」の資格をもつ。座右の銘は「天網恢恢疎にして漏らさず」「曲なれば全し」。著書に一品勝負(地方弱小メーカーのものづくり戦略)幻冬舎がある。