ビタミン、ミネラル、アミノ酸、不飽和脂肪酸など幅広い栄養素をバランスよく含む藻類の一種「ユーグレナ」。特有の成分であるパラミロンも含み、近年では食品や化粧品などのヘルスケア分野での活用も注目されている。
ユーグレナを継続的に摂取することで、機敏さや心の健康を維持する可能性があると報告され、アルツハイマー型認知症患者に不足しがちな神経栄養因子(BDNF)の量を増加させることも示唆されている。
また、最近の研究では、老齢マウスを用いてユーグレナの継続的な摂取が加齢による記憶力の低下を抑制する可能性も示された。その多面的な健康効果が注目されているユーグレナと認知機能の関係性について、至学館大学の多田敬典教授にお話を伺った。
多田 敬典さん
至学館大学 健康科学部栄養科学科・健康科学研究所 教授
本記事のリリース情報
ウェルビーイングメディア【Wellulu】に掲載されました
日本における認知症の現状とユーグレナに期待できる効果
──先生が「健康寿命」や「認知症」についての研究を始めたきっかけを教えてください。
多田教授:私が健康寿命に関する研究を開始した動機は、日本の人口高齢化とその社会的影響にあります。特に注目されているのは2025年問題です。一般的に、75歳以上で要介護リスクが急増すると言われており、団塊の世代が75歳を迎える2025年に医療費が増大すると予測されています。このような背景から、健康寿命延伸のための対策が急務となっています。
また、実際に、75歳を境にして要介護者が増加する傾向があり、この問題に対するひとつの大きな要因として認知症が挙げられています。認知症の研究は健康寿命の延伸に大きく関連すると考えています。
──具体的に認知症の方はどのくらいいるのでしょうか?
多田教授:現在、日本には約600万人の認知症の方がいると言われています。さらに2030年には830万人に増加すると予測されています。また、治療費・医療費・介護する家族の負担など、社会的なコストの増大が危惧されています。私は認知症の早期発見と予防・治療に焦点を当てており、具体的には認知症の発症や重篤化に関わる要因を遺伝子レベルから研究しています。この研究を通じて、健康寿命の延伸に貢献することが私の主な目標です。
── 認知症の研究をしている先生が、なぜユーグレナに関心を持ったのでしょうか?
多田教授:初めてユーグレナに興味を持ったのは、生活習慣と認知症の関係について研究していた時でした。その研究で生活習慣病が認知症の進行に関連していることがわかり、ユーグレナが糖尿病などの生活習慣病に有益な効果を持っているという報告に出会いました。それが最初の興味のきっかけです。
他にも、ユーグレナを摂取することによって、いくつかの健康効果が期待できることが報告されています。神経栄養因子であるBDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor)のレベルが上がることで、認知機能の向上や心の健康にも好影響を与える可能性があります。さらに、免疫力が高まる、炎症が抑制される、腸管内の神経細胞に作用するなどといった効果にも期待でき、これらが総合的に健康寿命の延伸につながると考えています。
ユーグレナの摂取が認知機能や運動量の低下を防ぐ
──今回行った研究方法について改めて教えてください。
多田教授:Y字型迷路テストという、マウスの認知機能、特に空間記憶能力を評価するための研究方法を採用しました。このテストは「Y字型」の三つの通路から成る迷路を使用します。直前に進入した通路とは異なる通路に入ろうとするマウスの習性を利用した試験方法で、マウスが自分の訪れた場所を正確に覚えているかを評価できます。
このY字型迷路テストで20ヶ月齢の老齢マウスの認知機能を評価しました。
ユーグレナを含んだ餌を2ヶ月間与えた老齢マウスと、通常食を摂取した老齢マウスを比較して、Y字型迷路の新しい通路にどれだけ正確に進むことができたか正答率を記録しました。
──その研究の結果、どのようなことがわかったのでしょうか?
多田教授:ユーグレナを摂取した老齢マウスは、通常食を摂取した老齢マウスよりも高い正答率を示すことがわかりました。この結果は、ユーグレナが認知機能の維持や改善に有益であることを示唆しています。詳細なメカニズムについては今後研究していく予定です。
──他に解明できたこともあるのでしょうか?
多田教授:ユーグレナを摂取した老齢マウスの方が、運動量(自発運動)の低下も抑制されていることがわかりました。
認知機能や運動量低下を防いだ理由として、いくつかの要因が影響していると考えられます。まず、ユーグレナの摂取によって腸内細菌叢が変化し、認知症のリスク因子である老化や生活習慣病に対して、良い作用を与える腸内細菌が増加した可能性があります。この影響によって、免疫の活性化や免疫バランスの調整など、老化・生活習慣病に関連する要因の改善が起こったのかもしれません。
さらに、ストレスも認知症リスク因子の一つであることが知られていますが、ストレスによる諸症状の改善や自律神経バランスの調整にもユーグレナは寄与していると考えられているため、ユーグレナの摂取がストレスホルモンの変動を正常化した可能性もあります。
これらの結果を踏まえて、ユーグレナの摂取が認知機能の維持や改善に寄与する可能性が示唆されています。ユーグレナ摂取によるさまざまな機能性が確認されておりますが、その詳細な作用機序や影響要因については今後の研究でさらに解明していきたいと考えています。
──腸内環境が整うことで、認知機能にも好影響を与えるんですね。
多田教授:はい、近年の研究でよく注目されているのは、腸脳相関とよばれる腸内環境と脳の関係性です。腸内細菌の状態が認知症に影響を与えるとも言われており、脳内の炎症を引き起こす可能性があると考えられています。年齢だけでなく、身体の健康状態や生活習慣が認知症に密接に関連しているため、これらの腸内環境と認知機能との関係についてもこれから解明していく予定です。
認知症や健康寿命を伸ばすための食生活とライフスタイル
━━ ユーグレナを摂取するのに最適なタイミングはあるのでしょうか?
多田教授:一番は定期的に摂取することが重要と考えられています。大量に摂るよりも、規則正しく続けることが最も効果的です。また、人ぞれぞれの体調や生活スタイルによっても、最適な摂取タイミングは異なるため、ご自身で少しずついろいろな摂取タイミングを試しながら、体感を観察いただくと良いかと思います。
━━ ユーグレナのほかに認知機能に対する効果が期待できる食材はあるのでしょうか?
多田教授:健康寿命の延伸や認知機能の改善などに良い効果が期待できる食材としては、緑黄色野菜、豆類、果実類や緑茶などがあります。その他には、青魚に含まれるDHAやEPAも注目されています。インド料理のスパイスに使われるクルクミンもアルツハイマー病の予防として良いのではと考えられています。
━━ DHAやEPA、クルクミンのおすすめの摂取量はあるのでしょうか?
多田教授:摂取量が多い人で認知症リスクが軽減するという報告はありますので、摂りすぎに注意しながら、バランス良く摂取していただくのが良いと思います。一方で、マーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸の過度な摂取は避けた方がよく、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
━━食生活以外で、認知症の予防の方法はありますか?
多田教授:社会的な繋がりも認知症の予防に重要な要素のひとつです。同居家族がいる方、友人との交流がある方は、認知症の発症リスクが低くなる傾向があります。特に高齢者においては、引きこもりや孤立が認知症のリスクを高めると言われています。また、適切な体重を維持すること、運動も認知症予防には有効です。
総合的に考えると、栄養改善だけでなく適度な運動や社会的な繋がりなどを意識することが認知症の予防や改善につながります。
━━ これから研究しようと思っているテーマや取り組みたいことについて教えてください。
多田教授:私が研究しているテーマは、栄養、運動、社会的環境が脳機能に与える相互的な影響を明らかにすることです。それぞれの要因を適切に組み合わせることで、最も効果的な認知症に対する予防・治療方法を見つけたいと思っています。
また、このような研究成果を通した教育にも取り組みたいと思っています。今後は研究で得られた栄養、運動、社会的環境に関する知識を教育現場に還元することで、最先端科学に基づいた栄養指導や運動指導が行え、社会交流に積極的に関われる人材を育成し、健康長寿社会への実現に貢献していきたいと考えています。
━━ユーグレナなど、栄養成分の研究についてはいかがでしょうか?
多田教授:ユーグレナや主成分であるパラミロンは、健康に有益な成分として今後も注目しています。高齢者だけでなく、ストレスや環境の影響を受けやすい現代の若い人々にもこれらの成分は有効だと考えています。安全性も高く、アスリート向けのサプリメントとして使用されたり、アンチエイジングの観点からも高い評価を得るようになっています。
━認知症や運動機能の向上だけでなく、もっと幅広い人に向けた効果も期待できそうですね。多田先生、本日はありがとうございました。
Wellulu編集後記
今回は健康寿命や認知症のリスクについてのお話をベースに、食生活に関するお話を伺った。脳機能や免疫力の向上など、ユーグレナに含まれる幅広い栄養素が好影響を与えると考えられている機能の多さに驚いた。
認知症というと若い世代にはあまりピンとこないかもしれないが、バランスの良い食生活や適度な運動、そして社会的な繋がりなど、健康的なライフスタイルを送るためにはどれも重要であることを改めて考えさせられた。また、「トランス脂肪酸」の摂り過ぎにも注意を!