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絵本の読み聞かせ効果を高めるポイントは?母親の読み聞かせによる脳発達への影響【福井大学・高橋客員准教授】

子どもの言語能力の向上、認知能力、社会性の発達などによい影響を与えると考えられている「読み聞かせ」。しかし、読み手の親密性が異なる人(自分の母親と他人の母親など)でも同じような「読み聞かせ」の効果は期待できるのだろうか?

福井大学医学系部門 医学領域 病態制御医学講座 精神医学の高橋哲也客員准教授が取り組んだ研究によると、親密性が異なることで脳活動、表情、集中力に違いが現れたという。

自分の母親による読み聞かせと、他人の母親による読み聞かせで一体どのような違いが現れたのか?また、子どもへの読み聞かせ時のポイントについてなどのお話を伺った。

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高橋 哲也さん

福井大学医学系部門 医学領域 病態制御医学講座 精神医学 客員准教授

臨床診療では、精神科医として幅広い精神疾患に対応している。研究では「脳のネットワークと精神疾患」をテーマに、非線形理論やグラフ理論などの数学的手法の精神医学へ適用を先駆的に進めてきた。福井大学医学部卒、福井医科大学医科学研究科精神医学修了。ピッツバーグ大学研究員、福井大学 医学部 精神医学講師 金沢大学子どものこころの発達研究センター特任准教授、福井大学保健管理センター准教授を経て、金沢大学研究協力員、福井大学客員准教授、魚津神経サナトリウム副院長。

本記事のリリース情報
研究成果 2023.11.07 母親による読み聞かせがポイント⁉子どもの脳と心を育む読み聞かせとは?

絵本の「読み聞かせ」が知的成長に影響する理由

──はじめに、今回の研究に取り組むきっかけや背景について教えていただけますか?

高橋客員准教授:私たちの研究室には多くの女性研究者がいるのですが、彼女たちが子育て中だったことにも関連しているのかもしれません。研究室で自閉症や発達障害に関する研究をおこなっている中で、「読み聞かせ」が非常に重要な要素として挙げられていました。

元々「読み聞かせ」は知的成長に良い影響を与えると言われているのですが、今回の研究では、この効果が母親に限られるものなのか、それとも他の人が読み聞かせをしても同じ効果が得られるのかについて興味をもち、子どもの反応にどのような違いがあるのかを調べることにしました。

言語能力、社会的スキル、感情の発達…、「読み聞かせ」の効果とは?

──具体的に読み聞かせはどのような影響をもたらすのでしょうか?

高橋客員准教授:読み聞かせは、言語能力の向上はもちろん、数学や社会的スキル、さらには感情の発達などにも大きく影響するとされています。アメリカの小児学会などでは、生まれたばかりの子どもにもすぐに読み聞かせを始めることが推奨されています。これは、言語の発達だけでなく、母子の愛着やさまざまな社会機能の発達にも寄与するとされています。

──なぜ読み聞かせがこれらの能力の発達に寄与するのでしょうか?

高橋客員准教授:読み聞かせは、子どもとの親密なコミュニケーションの一環として行われるため、その親密性が大きな役割を果たしていると私は考えています。親密性とは、子どもとの信頼関係や安心感を指します。親密性が高まることで、子どもはより積極的に情報を受け取り、学習を深めることができます。

絵本の「読み聞かせ」による脳のネットワーク機能を観察

──今回の研究方法とも関連するところなのですが、読み聞かせの際、子どもの脳はどのように活動しているのでしょうか?

高橋客員准教授:読み聞かせの際、子どもは話す、聞く、見るなどの多くの機能を使っています。

そのため、私たちの研究では、脳の特定部分だけを観察するのではなく、脳全体の活動を観察するようにしています。この時に「グラフ理論」と呼ばれる解析手法を用いて、脳のネットワーク機能を観察しています。

──グラフ理論について詳しく教えていただけますか?

高橋客員准教授:グラフ理論とは、複雑な事象の全体像をグラフ(頂点と辺)で表現することで、分かりやすく図形的に可視化して数学的に解析するための理論です。脳科学の分野では、どの部位がどのように連携して動いているのか、その構造を明らかにすることができます。この理論を用いることで、脳の各部位の連携の強さや、その構造を詳しく調査することができます。

母親による「読み聞かせ」が脳内ネットワーク強度の向上に影響

──今回の研究の方法について教えていただけますか?

高橋客員准教授:4歳〜10歳の健康な子ども15人を対象に、母親と他人が絵本の読み聞かせをおこなっている間の子どもの脳活動を「幼児用 MEG(体に全く害のない方法で頭皮上から脳の微弱磁場を計測

する装置)」を用いて計測しました。また、その時の集中度や感情なども表情解析をもとに分析しました。

──研究の結果、何がわかりましたか?

高橋客員准教授:脳活動の面では、母親の読み聞かせの際に、子どもの脳内ネットワークの強度が高くなり、より効率的(スモールワールド性)な働きになっていることが確認できました。また、行動面や表情においても変化が見られ、母親の読み聞かせの際に、子どもの集中度が高まり、ポジティブな表情が増えることが確認されました。

この研究から、母親の読み聞かせが子どもの脳の発達や行動に非常に大きな影響を与えることが明らかになり、子どもの健全な成長に寄与する要因として読み聞かせの重要性が再認識されています。

──その他、なにか研究での気づきなどはありますでしょうか?

高橋客員准教授:我々の仮説として、母親が読むことに関連した脳の活動強度やスモールワールド性は、リラックスした環境や親密な環境での読み聞かせがもたらすものと考えています。つまり、読み聞かせを通じて母子の良好な関係性を築くことで、子どもたちの不安を軽減し、精神衛生上も非常に良い効果をもたらしていると考えられます。

読み聞かせのポイントは、親密性とリラックスできる環境づくり

──「読み聞かせ」の時間や分量について、目安やおすすめの方法などがあれば教えてください。

高橋客員准教授:読み聞かせの初期段階では、親密性や子供がリラックスする環境を作ることが非常に重要です。読み聞かせは、子供の情緒的な安定や成長に寄与する大切な時間です。子供がポジティブな反応を示さない場合、その活動が逆にストレスとなる可能性も考えられるので、子供の反応を大切にし、無理に進めるのではなく、子供のペースに合わせて進めることが重要です。そして子供の反応を観察して情緒的な交流を深めることで、より良い関係性を築くことができます。

また、子供の反応を見ながら声のトーンを変えることで、より効果的な読み聞かせができると思います。

──子供が同じ本を何度も読んで欲しいと要求することがありますが、その背景にはどのような理由があるのでしょうか?

高橋客員准教授:子供は興味を持ったものに対して集中します。同じ本を繰り返し読むことで、彼らは安心感を得ることができるんです。また、繰り返しの中で新しい発見をすることもあります。一般的な学習理論でも、興味を持ったものに対しての学習が効果的であると言われています。

──読み聞かせ以外にも、子どもの脳活動を活発にさせる自宅でできるあそびや活動について教えていただけますか?

高橋客員准教授:言語を使ったコミュニケーションがベースになるのですが、非言語コミュニケーションも重要です。例えば、子どもとの見つめ合いや、静止画を一緒に見ることなどはおすすめです。実際、自閉症の子どもたちは目を見ることが苦手なことが多いので、目と目でのコミュニケーションを重視した活動もとても大切なんです。

──ノンバーバルな非言語コミュニケーションによる活動の効果や研究についても教えていただけますか?

高橋客員准教授:最近の研究では、目を見ることによって、子どもの情緒が安定し、親子の関係が深まることがわかってきています。これは読み聞かせにも共通することなのですが、ちゃんと目を見てコミュニケーションを取ることで、子どもはリラックスし、ポジティブな感情を持つことができます。

親密性や安心感をもたらす行動が、子どもの脳の発達や情緒の安定に寄与します。

──最後に、今後の研究の方向性や展望について教えてください。

高橋客員准教授:今回の研究では、読み聞かせの際の子どもの脳活動を詳細に観察し、この結果をもとに、どのように脳が活動しているのか、そしてどのようなメカニズムが関与しているのかを明らかにすることができました。今後は、読み聞かせの効果をさらに深く探るとともに、親密性を高めるさまざまな方法とその効果についても研究を進めていきたいと考えています。

また、読み聞かせにおいて母親と他の人との比較を今研究では中心におこないましたが、今後はさまざまなパターンの読み聞かせについても検討していきたいと考えています。

──高橋先生、本日はありがとうございました。

Wellulu編集後記:

今回、子どもの成長において「読み聞かせ」が果たす役割について、高橋先生から貴重なお話を聞けました。言語能力、数学や社会的スキル、感情の発達などへの影響、そして母親の読み聞かせが子どもの脳のネットワークを強化し効率的な働きを促すことがわかりました。読み聞かせは親子の絆を深め、子どもの心の安定に寄与します。高橋先生に読み聞かせ時のポイントなどもお伺いしましたが、何よりも一番大切なのは、子どもの反応を見ながら双方向コミュニケーションを意識することが重要なんだと改めて痛感しました。

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