グルテンフリーの商品を多く見かけるようになった今日このごろ、グルテンフリーや健康への意識の高まりにともない、米粉の注目度が上昇中?伝統の和菓子やお馴染みのお菓子まで、日本で古くから親しまれてきた米粉にはどんな特徴があるのか、料理やお菓子作りまで、米粉の特性を活かしておいしく楽しむ方法について、今回、全国穀類工業協同組合の三上さんに詳しくお話を伺った。
三上 伸治さん
全国穀類工業協同組合 専務理事
本記事のリリース情報
和菓子だけじゃない!最近なぜ米粉が注目されているのか?
──本日はよろしくお願いします。近年、グルテンフリーへの注目度の高まりにより米粉への注目も高まっているとのことですが、現状いかがでしょうか?
三上さん:以前、国内でおこなわれた米粉の使用に関する調査では、「グルテンフリー対応」という理由が多く、次に「健康ヘルシー志向の高まり」や「米粉ニーズの高まり」という理由が並んだように、日本では健康志向とニーズの高まりを受け、米粉が注目されており、アレルギー対応は相当低い状況となっています。
調査の実施者は、明確な根拠の少ないグルテンフリーの独り歩きを懸念しており、みなさんに正しく認識していただきたいと思っているとしています。
──急速な広がりの裏では、正しい認識がされていない現状があるのですね……。
三上さん:グルテンフリーはテニスの有名選手がおこない、成功したことから話題になりました。著書によれば、その方は元々、グルテン不耐症という病気があり、医師の勧めによりグルテンフリーの食事を始めました。しかし彼が実践したのは、単にパンを食べないということにとどまらず、非常にストイックな食事を実践するというものでした。
──なるほど、かなりストイックな食事がおこなわれたのですね。
三上さん:米粉の効果そのものよりも、どのように米粉を使って食べるかが重要だと考えています。ただ単にヘルシーだからという理由で米粉を選ぶのではなく、エビデンスに基づいた情報をしっかりと理解することが重要です。たとえば、GI値(血糖値の上昇度合い)は国民によって異なり、何と一緒に食べるかによっても異なるといわれています。日本人に適した食事とは何かを考える必要があります。また、何と一緒に食べるか、どの順に食べるかが大切です。
バランスのとれた食事が一番重要で、食事内容の見直しの一環として、米粉を適切に取り入れることが重要となります。
──なるほど。最近ではグルテンフリーの食品もかなり増えてきましたよね。
三上さん:そうですね、米粉の活用範囲は非常に広くなってきています。従来の米粉は主に和菓子に使われており、たとえば冠婚葬祭でよく見かける、お団子や落雁(らくがん)などの和菓子は米粉で作られています。さらに、最近では小麦粉を用いて作られていたパスタやパンにも米粉を使用した製品が見られるようになりました。今ではグルテンフリーのニーズに対応するためにも、米粉を使用したパンやケーキなどの製品が見られます。
白玉はもち米のベーター型!もち米とうるち米に分類される米粉は
──米粉の歴史について教えていただけますか?
三上さん:米粉の歴史は古く、平安時代に中国から伝わってきました。広く米粉が普及するようになった江戸時代には、柏餅(かしわもち)や桜餅(さくらもち)などの季節の和菓子の原材料として使われるようになりました。日本ではお米を粒のまま食べる文化が基本だったため、粉末に加工する技術が普及するまで時間がかかりました。明治以降は、機械が導入され、近年の細かい粒子にすることが可能な技術革新によって、米粉の利用が一層広まりました。
──米粉の分類について教えてください。
三上さん:米粉は大きく分けると、もち米とうるち米に分類されます。そしてそれぞれにアルファ型とベーター型があります。アルファ(α)型は熱を加えて糊状(のりじょう)にしたもので、ベーター(β)型はそのままの状態のものです。
ベーター型の米粉は特定のお菓子や料理に使われており、たとえば、ご家庭でもよく使われている白玉粉はもち米のベーター型で作られたものです。
──白玉粉は小さいころに親子で一緒に白玉作りをした思い出があります!米粉の種類にはどういったものがあるのでしょうか?
三上さん:米粉には主なものでも、うるち米のベーター型の上新粉(じょうしんこ)、もち米のベーター型の白玉粉、もち粉、もち米のアルファ型の道明寺粉(どうみょうじこ)、落雁粉(らくがんこ)、寒梅粉(かんばいこ)、みじん粉、うるち米のアルファ型の乳児粉(にゅうじこ)の8種類あります。たとえば、道明寺粉は桜餅・おはぎ、白玉粉は白玉団子や大福の外側に使われます。同じ米粉でも用途に応じてさまざまな名前や特性があるんですよ。
もち米とうるち米に含まれる成分
──米粉だけで8種類もあるのですね。米粉に含まれる成分についてはどうでしょうか?
三上さん:米粉に含まれる成分はもち米とうるち米で大きく異なります。もち米はアミロペクチンというでんぷんが100%で、うるち米にはアミロースとアミロペクチンが一定の割合で含まれています。
アミロースの量が多いと粘り気が少なく、食感はパラパラし、少ないと粘り気が出るなど、食感に違いが生まれます。
油分が少なくヘルシーで調理も楽!米粉の特性を知り、活かす
米粉はタンパク質・脂質が少ない
──米粉に含まれる栄養素について教えていただけますか?
三上さん:はい、米粉にはたんぱく質や炭水化物、脂肪、無機質、ビタミンB1、ビタミンEなどが含まれます。
小麦粉と比べ米粉は、たんぱく質の量が少ないことです。パン作りに使う強力小麦粉は、グルテンが多くたんぱく質の量が多いのが特徴で、薄力小麦粉は強力粉よりたんぱく質の量が少なく、米粉は薄力粉よりさらに少なくなっています。また、小麦粉に比べ米粉は脂質も若干少ないです。
──たんぱく質と脂質が少ないのですね!小麦粉の代わりに米粉を使った場合、どのような点で違いがあるのでしょうか?
米粉は油の含有量が少ない
三上さん:農林水産省の資料によると、油の吸収率は米粉では21%であるのに対し、小麦粉では38%であり、米粉を使った揚げ物は油を吸いにくく、ヘルシーな仕上がりになります。
米粉はダマになりにくく、洗い物がしやすい(調理が簡単)
また、米粉にはダマになりにくい特性があるため、たとえば片栗粉や小麦粉でとろみをつける際には、水溶きをしなければダマになりやすいですが、米粉は水溶きしなくてもダマになりにく、調理が簡単です。
──ヘルシーな上にダマになりにくいのは助かりますね。
三上さん:そうなんです。お菓子作りの際、小麦粉だとふるいにかける必要があり、面倒だと感じている方も多いと思いますが、米粉の場合はふるいにかける必要はありません。
また、小麦粉は洗い流すのが大変ですが、米粉は簡単に落ちるため、洗い物がしやすいという特徴もあります。これにより、調理後の片付けも楽におこなえます。
──調理後の片づけまで楽なんですね。米粉を広げるためにどのような取り組みをされているのでしょうか?
三上さん:もちろん米粉を小麦粉に置き換えることもよいと思います。しかし、それ以上に、これまで米粉があまり使われてこなかった部分に注目し、利用を伸ばすことが大切だと考えています。米粉の利用を広げるためには、製粉技術の改良や新しい用途の開発に力を入れ、消費者に新しい選択肢を提供できるようにしてゆきたいです。また、米粉の特性や成分についての研究が進み、用途に応じた最適な米粉を提供することで、さまざまな食品に利用できるよう力を入れてゆききたいと考えています。
もちもちの食感!米粉を使って楽しくおいしく
──米粉を使ったレシピを教えてください。
三上さん:まず従来の食べ方は、和菓子があります。たとえば、柏餅、だんご、大福、桜餅などが代表的です。米粉の特性を活かした伝統的なものと言えますね。
ほかにも、小麦の代わりに米粉を使用するという点では、米粉を使ったパンやケーキ、クッキーなどもあります。
──これまでのお菓子作りで粉を変えて作ってみるのはおもしろそうです。
三上さん:ほかには、米粉を使った、から揚げ、たこ焼きやお好み焼きがおすすめです。これも通常小麦粉を使うところ、米粉を使うことで、から揚げはカリット、たこ焼きやお好み焼きはもちもちの食感が楽しめます。ダマになりにくい特性もあり、調理も楽なはずです。
──たしかに、たこ焼きもお好み焼きもダマが気になることが多々ありました!
三上さん:米粉を使ったパンや菓子は、生地を休ませる必要がなく、短時間で調理できるというメリットがあるので、これを活かして、忙しい日常でも手軽においしい料理が楽しめるのがポイントです!
健康効果や成分にとらわれすぎず、美味しさを楽しんでください。食べる楽しみを大切にしながら、米粉の魅力を存分に味わっていただきたいです。米粉は、種類により、用途が限定されていることがあります。調理する際は、製造業者のホームページなどで確認したレシピに基づいて調理することをおすすめします。
──米粉を使ったレシピでの注意点はなにかありますか?
三上さん:米粉を使った料理やお菓子はとても魅力的ですが、アレルギーに注意することも重要です。米粉製品には種類によってグルテンが含まれているものがあるので、アレルギーがある方は商品の表示ラベルなどをしっかり確認するようにしてください。特にお子さんや高齢者の方が米粉を使った食品を試す際は、より一層注意し、安全に配慮して楽しんでいただきたいです。
──必ず商品ラベルを確認して使う、楽しく・安全に食事をするために大事なポイントですね。子どもと一緒に楽しめる、おすすめの米粉レシピはありますか?
三上さん:そうですね、コロナ禍では、家族で白玉粉を使った料理が人気でした。白玉粉を使った白玉団子は、粘土感覚で作れるので、小さなお子さんと一緒に楽しめます。白玉を使っていろいろな形を作ったり、アイスにトッピングしたりすることで、楽しい時間を過ごせると思うので、ぜひ一緒に作って美味しく食べていただけたらと思います。
編集後記
グルテンフリーや健康志向の高まりのもと、米粉への注目度が上がっているものの、きちんと理解が進んでいないとのこと。私たちの食に身近な食材だからこそ、米粉の特性を知り、おいしく栄養バランスよく摂取したいと思いました。白玉作りは小さな子どもと一緒に米粉に触れられる機会でもあるので、これを機会に、大人も子どもも一緒になって米粉をおいしくいただきたいですね。
参考資料
・米粉の購買データから読み解くトレンドと急成長の実態(令和6年2月 農林水産省 米・米粉消費拡大推進プロジェクト)
・グルテンフリー・ダイエットの間違った情報に惑わされないために(2018年5月 下方浩史
製粉振興)
・Glycemic Index(GI)を活用した栄養管理(2013年7月 黒川香奈子 CDEJ News Letter)
・米粉をめぐる状況について(令和6年3月 農林水産省)
・もちもちフワフワ! 食べておいしい米粉の魅力(令和5年12月 政府広報オンライン)
・米粉製品による小麦アレルギーに気を付けましょう!!(平成27年6月 消費者庁)