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メタボリックシンドロームや脂肪性肝炎が心不全や認知症に影響。その予防策とは?【富山県立大学・長井教授】

近年、食生活の欧米化などにより、日本でも肥満を中心とするメタボリックシンドロームや糖尿病の人が増加して大きな社会問題となっている。また、飲酒量に関係なくメタボリックシンドロームが原因で脂肪性肝炎を合併するケースも多くなっている。

脂肪性肝炎の進行は心不全や脳卒中、認知症などにも影響を与える可能性もある。そこで今回、脂肪性肝炎の発症や線維化の進行に関わる仕組みを解明した富山県立大学工学部医薬品工学科の長井良憲教授への取材を実施して、脂肪性肝炎によるリスクやメカニズムについてのお話を伺った。

脂肪性肝炎の進行には、腸内細菌や免疫細胞「マクロファージ」の構成の変化が影響しているんだそう。

長井 良憲さん

富山県立大学工学部医薬品工学科 バイオ医薬品工学講座 教授

2018年から富山県立大学工学部医薬品工学科 バイオ医薬品工学講座の教授に。所属学会・資格/医師免許(医籍第369596号)、日本免疫学会評議員、日本炎症・再生医学会、日本肥満学会、日本肝臓学会。受賞歴/第36回日本炎症・再生医学会 優秀演題賞(2015年)、日本リウマチ財団 塩川美奈子・膠原病研究奨励賞(2018年)など。

全世界の約25%が脂肪性肝炎に。その治療薬はまだ存在しない

──まず始めに今回の研究に取り組まれた背景を教えてください。

長井教授:元々、免疫学の研究をしているのですが、最近、免疫の異常が生活習慣病、特にメタボリックシンドローム(通称:メタボ)や脂肪性肝炎に大きな影響を及ぼすことが明らかになってきました。

多くの人が脂肪を単なる塊として認識しているかもしれませんが、実際には脂肪の中にもさまざまな種類の免疫細胞が存在しており、これらの細胞は脂肪の中で異常が起きないようパトロールする役割を持っています。

しかし、脂肪が過度に蓄積すると、悪玉の免疫細胞が集まり炎症を起こします。この炎症は、進行すると脂肪の蓄積だけでなく、糖尿病になることもあります。

──免疫細胞の炎症が糖尿病や肝炎につながるんですね。

長井教授:はい。従来、肝炎の主な原因はウイルスとされてきましたが、実はウイルスそのものが肝臓にダメージを与えるのではなく、ウイルスの侵入によって免疫細胞が過剰に反応し肝炎が起こることが分かりました。

要するに、肝臓や脂肪と免疫の関係、そしてそれがどのように生活習慣病と関連しているのかを解明するため今回の研究に取り組みました。

──ウイルス性の肝炎について、詳しく教えてください。

長井教授:ウイルス性の肝炎は、過去の日本でも大きな問題となっていて、肝硬変や肝ガンの主な原因となっていました。感染の一因として輸血が考えられており、輸血時に十分な検査がおこなわれなかったことから感染が広がったと言われています。

最近はウイルスに対する有効な治療薬が開発されたため、薬の服用でウイルス性の慢性肝炎を治療できる時代になっています。

そして今、肝臓に関連する疾患で非常に注目されているのが「脂肪性肝炎」です。これは「メタボの肝炎」とも呼ばれ、肝臓内に脂肪が過剰に蓄積され、炎症が起こった状態を指します。この病気は、肝硬変や肝ガンの原因にもなる重要な疾患です。驚くべきことに、全世界人口の約25%が脂肪性肝炎を持っており、日本においても約1,000万人がこの疾患に悩まされているといわれています。

──脂肪性肝炎の治療薬はまだ開発されていないのでしょうか?

長井教授:脂肪性肝炎の確実な治療薬は存在していません。多くの製薬メーカーが治療薬の開発に取り組んでいますが、非常に効果的だとされるものはまだ公式に承認されていないのが現状です。

我々の研究チームとしても免疫の視点から脂肪性肝炎について研究することで、新たな治療に役立つようなメカニズムを解明したいと考えています。

心不全や脳卒中…、メタボリックシンドロームが引き起こす症状とは?

──医学的な視点で見たときの「メタボリックシンドローム」のリスクについて教えてください。

長井教授:メタボリックシンドロームとは肥満を基盤病態として、高血糖、高血圧、脂質異常症という3つの症状が伴う状態を指します。この症状が進行すると、ドミノ倒しのように次々に他の病気が発症していき、最終的には心不全や脳卒中などの重篤な症状を引き起こす「メタボリックドミノ」と呼ばれる現象が起こる可能性があります。

他にも、認知症の原因となったり、血行障害により下肢を切断しないといけない症状まで進行する場合もあります。糖尿病の合併症として網膜症に進行すれば失明のリスク、腎症に発展すると透析が必要になることもあります。

そして、これら多くの疾患の前段階として脂肪性肝炎が位置しています。

──メタボリックシンドロームが想像以上に多くの症状を引き起こすとは…。脂肪性肝炎にならないように、そしてメタボリックシンドロームや肥満にならないように、生活習慣を大切にした方がよさそうですね。

脂肪性肝炎の発症や線維化を促す腸内細菌叢の変化

──今回、脂肪性肝炎の発症や線維化(内臓を構成する結合組織が異常増殖し硬くなってしまう)を解明するために、どのような研究に取り組んだのでしょうか?

長井教授:脂肪性肝炎から肝硬変に至る線維化の進行がヒトに類似しているマウスを使用して実験しました。免疫細胞がどういった動きをしているのか、腸内細菌はどう変化しているのかを調査しました。

そして、脂肪性肝炎を誘導する特定の餌をマウスに与えた結果、免疫細胞の構成が大きく変化していることがわかりました。

──どのように変化したのでしょうか?

長井教授:「マクロファージ」という免疫細胞が増加していたのです。そのため、このマクロファージが線維化を引き起こす可能性があると私たちは考えています。

また、腸内細菌の状態も調査していたのですが、誘導食を食べたマウスはヒトの脂肪性肝炎の悪化に関わるとされる特定の腸内細菌が増加していました。

──脂肪性肝炎の悪化に関わる腸内細菌について、詳しく教えてください。

長井教授:まず腸内細菌の変動を見るため、バンコマイシンとメトロニダゾールという2種類の抗生剤を誘導食と合わせてマウスに毎日与える実験をしました。この2つの抗生剤はそれぞれ異なるタイプの腸内細菌に作用するもので、バンコマイシンと誘導食を摂取したマウス、メトロニダゾールと誘導食を摂取したマウスに分けて調査を行いました。

──バンコマイシンとメトロニダゾール、それぞれの抗生剤を投与されたマウスはどうなったのでしょうか?

長井教授:バンコマイシンを投与したマウスの脂肪性肝炎は劇的に悪化しました。しかし、メトロニダゾールを投与したマウスのなかには、脂肪性肝炎の症状がわずかに改善している個体がいることが確認できました。

現状としてまだ細菌の特定はできませんが、バンコマイシンで殺菌された腸内細菌の中には、脂肪性肝炎の進行を抑制する菌がいること。そして、メトロニダゾールで殺菌された腸内細菌の中には、脂肪性肝炎の進行を悪化させる菌がいることを示唆しています。

──腸内細菌の変化以外にわかったことはあるのでしょうか?

長井教授:ただ誘導食を食べたマウスよりも、バンコマイシンを投与したマウスの肝臓内では免疫細胞の構成が変わり、線維化に関わるマクロファージがすごく増えていました。

脂肪性肝炎の状態になると、肝臓内で異物の処理をおこなうマクロファージの数は減少し、血液から異なるタイプのマクロファージがやってきます。この異なるマクロファージが、肝臓内の炎症や線維化を起こす原因となります。

同じマクロファージでも、異なるタイプのものが肝臓内で増えると、肝炎の進行が加速すると考えられています。

──免疫細胞のマクロファージが増えすぎることで、脂肪性肝炎にも影響するということでしょうか?

長井教授:はい。脂肪性肝炎における最も大きな変化はマクロファージのタイプが変わることです。最初は、この異なるタイプのマクロファージも組織を修復する役割で肝臓にやってきていると考えられるのですが、持続的な炎症やそのマクロファージの増加が続くと、線維化や肝炎の進行が促進されることになります。

脂肪性肝炎の背景には、このような免疫細胞の制御が関わっていると考えられているため、新たな治療方針を検討するうえでも重要なことです。

まだ、私たちの研究結果が脂肪性肝炎の発症や線維化の原因であるとは断定できませんが、基礎研究として価値のある研究だったと感じています。

メタボリックシンドロームや脂肪性肝炎の予防としてできること

──メタボリックシンドロームや脂肪性肝炎の予防としてできることはあるのでしょうか?

長井教授:多くの専門医の方々が言われているように、やはり食生活と運動はとても重要です。特に食生活においては「よく噛むこと」が非常に効果的だと、最近は言われるようになっています。

よく噛んで食事をする人は脂肪性肝炎になりにくいというデータもあり、よく噛むことで分泌されるホルモンやペプチドが、血糖値や中性脂肪値の改善に関与していると考えられています。

食事のときに食べ物をよく噛むことも大事ですが、ガムを噛むことでもホルモンの産生が促されるので、脂肪性肝炎やメタボリックシンドロームに良い効果が期待できます。

定期的な検診を受けることも、脂肪性肝炎の予防には欠かせないことです。

──最後に、今回の研究を踏まえて今後取り組む予定の研究について教えてください。

長井教授:最近の研究で、誘導食を食べさせても脂肪性肝炎になりにくいマウスが存在することが明らかになりました。脂肪性肝炎になるマウスとなりにくいマウスでは、肝臓の中の免疫細胞の構成や腸内細菌が異なるのではないかと考えています。

実際に、脂肪性肝炎になりにくいマウスでは、脂肪性肝炎の発症を抑える役割を持つ免疫細胞が多く存在することを確認しています。そのため、今後はこの免疫細胞が脂肪性肝炎の発症を抑える仕組みを解析していく予定です。

また、脂肪性肝炎になりにくいマウスでは、腸内細菌も大きく異なっていることが判明しています。同じ餌を食べて同じ環境で飼育していても、その腸内細菌の構成は異なるようです。

つまり、同じ生活習慣をしていても、病気になる人とならない人が存在するのは、遺伝的背景や腸内細菌の違いが原因である可能性が高いと考えています。この点を研究し、脂肪性肝炎を誘導する重要なメカニズムを発見できれば、それを人間に応用して治療方法を見出すきっかけになるかもしれません。

──長井教授、本日はありがとうございました。

Wellulu編集後記:

今回の取材を通じて、全世界で約25%の人が脂肪性肝炎の患者さんだという事実と、まだ治療薬が開発されていないという現状にとても驚きました。また、私たちの身体を守ってくれるはずの免疫細胞のちょっとした変化(構成の変化)によって、脂肪性肝炎の線維化が進行することも全く知らない事実でした。

肥満にならないためにも、定期的な運動習慣や食生活の改善、そしてよく噛んで食べることも効果的だということを知れたことは良かったです。メタボリックシンドロームによる影響から、ましてや生活習慣の乱れからあらゆる病状に影響を与えることを理解できたことで、より良いライフスタイルを送る意識を持つことができました。

本記事のリリース情報

「Wellulu」に医薬品工学科 長井良憲教授の記事が掲載されました

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