日本の食文化には欠かせないお茶。毎日なにげなく手に取って飲んでいる人も多いのでは? 緑茶は健康によさそうというイメージはありますが、詳しく知るとその健康効果の数々に驚くはず。ほっと一息、緑茶を飲むことで生活の質も上がる!今回は、緑茶の健康効果について、緑茶に含まれる成分を研究している太陽化学の小関さんに詳しくお話を伺った。
小関 誠さん
太陽化学株式会社ニュートリション事業部研究開発グループ 部長
本記事のリリース情報
ウェルビーイングに特化した「Wellulu 」に取材記事が掲載されました。
緑茶に含まれる成分「茶カテキン」と「テアニン」
── まず、緑茶に含まれる成分である「カテキン」について教えてください。
小関さん:緑茶にはさまざまなポリフェノールが含まれており、その中に「カテキン」があります。緑茶には8種類のカテキンが含まれ、これらが緑茶のおもな活性成分とされています。多くの健康効果が期待でき、さまざまな研究が進んでいます。
── 緑茶には「カテキン」をはじめ、さまざまなポリフェノールが含まれているんですね。
小関さん:ほかには、渋味成分として知られる「タンニン」や、抗酸化作用や消臭作用がある「フラボノイド」なども含まれています。これらのポリフェノールが集まって、緑茶の風味や健康効果を作っているんです。
── 緑茶の独特な風味は、どのように作り出されているのでしょうか?
小関さん: 緑茶の苦味や渋味は、おもにカテキンによって生み出され、カフェインがさらにその苦味や渋味を引き立てます。また、お茶特有の成分である「テアニン」は旨味に関与し、少量の糖類も含まれているので、ほのかな甘味はそこからきています。
── 「テアニン」とは、どのような成分なのですか?
小関さん: ほかの食材にはほとんど含まれていない、お茶特有のアミノ酸です。旨味成分として、緑茶の風味にも重要な役割を果たしているだけでなく、リラックス効果や心を落ち着かせる効果があるとも言われています。
── 緑茶を飲んでほっとするのは、含まれる成分の効果なのですね。それぞれの成分の含有量は、緑茶の品種や種類によって変わるのでしょうか?
小関さん: 品種や種類によって成分の含有量に差はあります。最も多く栽培されている「やぶきた」種で作られた煎茶では、渋味成分である緑茶ポリフェノール、つまりカテキン類が茶葉の約13%を占め、旨味成分であるテアニンは約1.2%くらい。テアニンとほかのアミノ酸をまとめた総アミノ酸は、約2%ほどとなっています。「ゆたかみどり」は「やぶきた」と比べると、カテキン類は若干少ないものの、テアニンは4倍多く含まれています。
日本では、お茶の品種である「やぶきた」の栽培面積が全体の約80%を占めており、次に多い「ゆたかみどり」は全体の約5%程度なので、日本において「やぶきた」が主流ということがわかります。みなさんの多くが「やぶきた」を飲んでいますので、煎茶など同じ種類のお茶であればカテキンやアミノ酸の構成は同じようになりますね。
── 全体の8割が「やぶきた」なのですね。風味の差はどのように出るのでしょうか?
小関さん: おちゃの旨味に関係するテアニンの含有量は栽培方法や摘む時期に影響されます。テアニンはカテキンの一歩前の成分で、テアニンが日光に当たることでカテキンに変化するんです。つまり、若い芽や木を覆うようにして、日光を遮って栽培された茶葉にはテアニンが多く含まれます。
ですので、お茶の種類別にご説明しますと、一番早い摘採時期、つまり一番茶の新芽を摘んで作られる新茶は、旨味成分であるテアニンがとくに豊富です。 二番茶、三番茶は、日光を浴びて育つためカテキンが多く、やや渋みが強いという特徴があります。番茶はこの中でもとくに遅い時期、日光をたくさん浴びて大きく成熟した茶葉を使うため、渋みが強く、価格も比較的安価になります。また、栽培方法では、碾茶を粉にした玉露やかぶせ茶は日光を遮って栽培されるため、旨味成分であるテアニンが多く含まれ、まろやかな味わいがあります。
── 早い時期に摘まれ、日光に当たる機会が少なかったお茶は旨味が強く、だんだんと遅くなるにつれ、日光に浴びる時間が長くカテキンの量が多くなり、渋味が強くなっていくのですね。
小関さん: そうですね。緑茶は種類によって味わいが大きく異なりますので、ぜひいろいろな種類を試してみてください。また、お茶を入れる温度でも抽出される成分が変わりますので、熱いお湯、冷水で入れたお茶など、それぞれの特徴を楽しむことができますよ。
緑茶を飲んで健康効果!カテキン・テアニンのはたらき
── 緑茶に含まれる成分、とくにテアニンの研究を始めたきっかけを教えていただけますか?
小関さん: 私たちの会社は三重県にあるのですが、日本ではお茶の生産量が最も多いのは静岡県、次いで鹿児島県、そして三重県となっており、三重県は日本で三番目にお茶の生産量が多い地域なんです。地場産業としてお茶に着目し、その健康素材についての研究をはじめたことがきっかけです。地域の特産品を活かし、地場産業の発展に寄与できればと考えて研究を進めてきました。
── お茶の生産量が多い地域も、国内のさまざまなエリアに分散しているんですね。
小関さん: 生産量は静岡県が圧倒的に多いのですが、地域ごとにお茶の風味や品質に特徴があります。地場産業の発展のために、それぞれの地域で研究や改良が進められています。
カテキンのはたらき
── まずは、カテキンのはたらきについて詳しく教えていただけますか?
小関さん: まずは、みなさんも知っているようなものですと体脂肪に関する働きですね。脂肪の吸収を腸で抑える効果や肝臓での脂肪代謝を促進する効果が期待できます。
実際にヒトを対象にした臨床試験や動物実験でも、カテキンのダイエット効果が確認されています。
── たしかに、ダイエット効果は耳にしたことがあります。ほかの効果はあまりイメージがないのですが、どのような健康効果があるのでしょうか?
小関さん:食べた糖の吸収を抑えることによる、糖尿病予防効果も期待できます。また、腸内環境の改善にも寄与します。悪玉菌の増殖を抑えるだけでなく、善玉菌には影響を与えないので、腸内環境が整うんです。
そして、抗酸化作用もあり、酸化反応を抑えることで、糖とアミノ酸が結びつくAGEs(終末糖化産物)の生成を抑制し、糖尿病や老化の予防に役立ちます。肌への直接的な効果についてはまだ十分な研究がされていないものの、この抗酸化作用による美肌効果も期待できるのではないかと言われています。
── 魅力的な効果がたくさんありますね。
テアニンのはたらき①「リラックス効果」
── では続いて、小関さまが研究されている「テアニン」について詳しくお伺いできたらと思います。まずは、テアニンの効果についても教えていただけますか?
小関さん:テアニンは脳に移行するアミノ酸の1つで、脳に直接作用し、リラックスや抗ストレス効果など、さまざまな影響を与えることがわかっています。
緑茶を飲むと「ほっとする」という感覚がありますが、その要因を探るためにテアニンを研究しました。リラックス状態を示すアルファ波に着目し、テアニンを摂取したときと摂取しなかったときのアルファ波の違いを脳波を測定して調べたんです。水を飲んだときはアルファ波がほとんど出ませんが、テアニンを飲むと30分後くらいからアルファ波が増加しており、テアニンを摂取するとリラックス効果があることが分かりました。
── 飲んで30分後くらいから、リラックス効果が出ていたのですね。効果の感じ方には、個人差があるのでしょうか?
小関さん:やはり、とくに不安が高い人のほうがテアニンによるアルファ波の増加が顕著でした。もともと落ち着いている人にはあまり効果がないかもしれませんが、不安を感じやすい人にはリラックス効果が強く現れることが分かりました。
これは、健康な人に薬を渡してもあまり効果がわからないけれど、病気の人に薬を渡すと効いたのを感じやすいのと同じような感じですね。
日本のみならず、イギリスでおこなわれた研究でも同様の結果が得られているため、人種を問わず、リラックス効果をもたらすことが証明されています。
── 不安を感じやすい人は、お茶を飲むことでよいリラックス効果を得られそうですね。
テアニンのはたらき②「冷え性改善効果」
小関さん:さらにテアニンには、冷え性改善の効果も期待できます。冷え性に悩んでいる日本人女性も多くいらっしゃるかと思います。女性は寒さからお腹を守るために、末梢の血管を収縮させ血液の流れを抑えることがあります。末梢の血流が悪くなってしまうことで、冷え性が引き起こされるのです。
テアニンは自律神経に作用し、交感神経の緊張を和らげる効果があります。交感神経が緊張すると末梢血管が収縮します。交感神経が緊張しなければ末梢血管が収縮せず、血液の流れが良くなるため、冷え性を改善する可能性が期待できるんです。
── お茶を飲んで身体が温まるだけでなく、冷え性の改善も期待できるんですね。
小関さん: 実際に冷水に手をつけた後、手を取り出して体表面温度の回復を見る実験で、テアニンを摂取した場合のほうが体温が早く回復することが分かりました。体温の回復が早かったのは、血流が良いためだと考えています。
同時に自律神経の活動を測定した結果でも、テアニンを摂取したほうが交感神経の活動が低下しにくいという結果が得られています。末梢血管を収縮させず、開いた状態を保つことができ、血流が改善されるのです。
── テアニンには、本当にさまざまな効果がありますね。
テアニンのはたらき③「睡眠の質改善効果」
小関さん: さらにテアニンには、睡眠の質を改善する効果もあるんです。
── まだまだ効果があるなんて驚きです!
小関さん: テアニンの睡眠に関する効果を検証するため、国立精神・神経医療研究センターと共同で臨床試験をおこないました。テアニンを摂取した被験者にアンケートを実施した結果、眠りの質が向上し、中途覚醒の回数が減少することが確認されました。また、自律神経の測定でも、テアニン摂取により睡眠中の副交感神経が高まり、交感神経が低下することが分かりました。
── この効果によって、寝過ぎてしまうことはないのでしょうか?
小関さん:実験では、テアニンを摂取したグループでは、睡眠時間自体は変わりませんでしたが、実際に眠っている時間の割合が増え、睡眠の質が向上しました。とくに、中途覚醒が減少し、夜間に安定した睡眠が得られるようになりました。
── 夜中に目が覚めてしまうことがある人には、ぜひ知ってもらいたい効果ですね。
小関さん: そのとおりです。テアニンを摂取していない場合、覚醒時間が平均で20分だったのですが、テアニン摂取後は12分に減少していました。適度なテアニンの摂取が、効率的で質のよい睡眠につながるということです。
テアニンのはたらき「PMS症状の軽減効果」
小関さん: 最後にご紹介するのは、多くの女性が経験する症状であるPMS(月経前症候群)症状への効果です。とくにイライラしたり、怒りやすくなるという症状が多いと思いますが、私たちはテアニンの抗ストレス効果でこのイライラを抑えられないか?と思い、研究を始めました。
── PMSで悩んでいる女性はとても多いと思います。テアニンの効果はどのようにはたらくのでしょうか?
小関さん: アンケートの結果、約7割の女性がPMSの症状を感じていたのですが、テアニンを摂取した場合、テアニンが含まれていない偽薬のプラセボと比べて症状が軽減される傾向が見られました。とくに精神的な症状において、テアニン摂取グループのスコアが低く、イライラや怒りっぽさが軽減されていることが確認されました。
── 痛みで悩む人もいらっしゃると思いますが、痛みへの効果はあるのでしょうか?
小関さん: テアニンには痛みの刺激に反応するグルタミン酸レセプターを抑制する作用があり、痛みにも多少の効果があるかもしれませんが、疼痛を完全に抑えるほどの強い効果は期待できません。痛みの感じ方は気分にも影響されるため、テアニンが精神的なリラックス効果をもたらすことで、結果的に痛みが和らぐことは考えられますね。
── 精神的な部分からリラックスできるだけでも、とても大きな効果ですね。
小関さん: そうですね。テアニンを摂取することで、リラックス効果を始め、睡眠の質がよくなったり、緊張がほぐれて集中力がアップしたり……、とくに女性にとっては冷え性やPMS(月経前症候群)に効果があったりと、テアニンの効果は多岐に渡りますので、気になる方はぜひ注目していただけたらと思います。
心と身体の健康を思いながら緑茶をたのしもう
── テアニンのさまざまな効果についてお話を伺いましたが、摂取におすすめのタイミングはあるのでしょうか?
小関さん: たとえば、睡眠への効果を感じたい場合は、寝る30分から1時間前に摂取するのがおすすめです。集中力を高めたい場合も、集中したい30分から1時間前に摂取するのがよいと思います。緊張を和らげたい場合も同様に事前に摂取するようにしてください。
── 30分〜1時間前を目安にするといいんですね。ちなみに、カテキンも摂取によいタイミングがあるのでしょうか?
小関さん:カテキンは、身体全体にはたらきかけるので、摂取のタイミングはとくに気にしなくてよいです。あとは日常的な摂取が健康維持につながります。
── テアニンは特定の効果を期待する前にタイミングを見計らって、カテキンは日常的な摂取がよいのですね。1日のお茶の推奨摂取量についてはいかがでしょうか?
小関さん: 糖尿病の発症リスクや死亡率、循環器系疾患の発症率の疫学調査によると、1日3〜4杯のお茶を飲むことで、これらのリスクが低減することが分かっています。1日に数杯のお茶を飲むのがおすすめです。
── テアニンを摂りすぎた場合、健康によくない影響があったりしますか?
小関さん:テアニンについては、1日5gを30日間摂取しても副作用がないことを確認しています。また、24時間で代謝されるため、体内に蓄積される心配もないので、安心してください。
ただし、緑茶や抹茶などで摂取する場合は、テアニンだけでなく、利尿作用があるカフェインも含まれているので、摂取しすぎるとトイレに行く回数が増えることがあります。
── テアニンだけでなく、ほかの成分も摂取することになりますもんね。
小関さん:はい。カフェインはテアニンとは逆の効果を持つのですが、一部の研究ではカフェインとテアニンを同時に摂取することで集中力が向上するという結果もでています。ほかの成分との関係については、これからの研究に期待しています。
── それぞれの成分とその効果を理解しながら選択することが重要なのですね。
小関さん:そうですね。ダイエット目的であればカフェインとカテキンの組み合わせが、一方、リラックスや集中力向上が目的であればテアニンが有効です。目的に合わせて成分とその効果を考えつつ摂取していただけるとよいと思います。
Wellulu編集後記
カテキンは耳馴染みがあったものの、旨味成分でもあるテアニンの効果については、今回の取材ではじめて知りました。リラックス効果や睡眠の質向上、集中力維持、緊張の緩和といった効果をはじめとし、冷え性改善やPMS症状の軽減といった女性に嬉しすぎる効果があるとは驚きです。お茶や抹茶で手軽に摂取することができるので、ぜひとも効果を感じたい30分〜1時間前に摂取して効果を感じてみたいと思いました。
岐阜大学大学院農学研究科卒、太陽化学株式入社、その後同大学にて博士号を取得。現在、三重大学大学院生物資源学研究科連携大学院の教授を兼任。