地域に根ざし、味噌づくりで100年以上の歴史を重ねてきた「ハナマルキ」。その看板を背負いながら、まだ誰も価値を知らなかった「液体塩こうじ」という調味料を、開発段階から世に送り出してきた「マーケティング部コミュニケーション室」の國吉優子さん。
『これ、何に使うんですか?』——そういった声があった商品を、どうやって人々の食卓に、そして世界へ届けてきたのか。一人で抱え込まず、人を頼り、巻き込みながら歩んできた國吉さんの仕事観に迫る。

國吉 優子さん
ハナマルキ株式会社 マーケティング部 コミュニケーション室 室長
「これ、何に使うんですか?」——誰も知らない調味料を任された

── 國吉さんは、塩こうじ商品のブランドを長く担当されていますが、塩こうじ商品に関わり始めたときのことをお伺いしてもよろしいですか。
國吉さん:私が2011年に商品企画の部署に配属になり、そのタイミングで商品化に向けて本格的に動き出しました。
当時は、メディアで塩こうじが少しブームになっていたくらいで、市販にはほとんど出回っていなかったので、まずは「商品を知る」ところからのスタートでした。
── 塩こうじを「知るために」どのようなことをされたのでしょうか。
國吉さん:他社製品の研究や「みんながこぞってテレビで取り上げているけど、何がそんなに響いているんだろう?」と考えながら、塩こうじの魅力や市場ニーズをリサーチしたりしていました。
塩こうじには、未知の魅力があったので「自分自身がもっと知りたかった」というのが大きいですね。どんな料理に使えるのかをを確かめるために、何度も試作を重ね、レシピも考えました。
── リサーチだけでなく、國吉さん自身もレシピ開発などに携わり、理解を深めていったのですね。ちなみに、液体塩こうじの開発に至ったきっかけは何だったのでしょうか。
國吉さん:従来の塩こうじに対するポジティブな感想をたくさんいただいていた中で、「焦げやすくて使いにくい」とか、そういった声をいただくこともあったんです。
そうしたお客様の声をもとに作ったのが、液体塩こうじです。完成したときは「今までにない新しい価値を見せてくれる商品」というワクワク感がありましたし、今では製造特許も取っていて、他社にない強みを持った商品になりました。
── お客様の「困りごと」が、そのまま商品になったんですね!購入された方からは、どういった声がありましたか?
國吉さん:もちろん、粒の塩こうじのよさもありますが、液体になって「使いやすい」という声が、圧倒的に多くなりました。
スープにも使えるし、ごはんにかけることもできる。「いつもの料理の手間を減らしてくれる」そういったお声をいただいているのがとても嬉しいですね。
「何に使うかわからない」を、どう伝えるか

── 今では、ハナマルキを代表する商品の1つである「液体塩こうじ」ですが、プロジェクトに関わっていく中で、最初に苦労されたのは、どんなところでしたか?
國吉さん:当初はパッケージを担当しており、「どういう見せ方をすれば商品の魅力が伝わるのか」という言葉の表現や見せ方に苦労しました。
たとえば、味噌やお醤油って、みなさん使い方がイメージできるから、パッケージに調理写真が入っていることがほぼないんですよ。
── 確かに、言われてみればそうですね!
國吉さん:でも、液体塩こうじは何に使えて、どんな価値があるのかがまだ伝わっていない。だから、パッケージにお肉の写真を入れたり、使い方の基本分量やレシピを入れたりするなど、試行錯誤しながらいろいろ試していましたね。
── 使い方そのものを、商品の顔として見せていく必要があったんですね!
國吉さん:そうなんです。まず「これは何に使えるものなんだろう」「自分にとってどんな良いことがあるんだろう」ということがイメージできないと、手に取ってもらえない。今でも、そこが一番お客様に届けていきたい価値であり、まだ届けきれていない価値でもあるんです。
商品を信じることで熱量が生まれる

── そういった経験を踏まえて、ご自身が「成長できたな」と感じた瞬間はありましたか?
國吉さん:「商品の価値を自分が一番信じて、しっかり継続して伝えていくこと」に気づけたのが大きいのかなと思います。
「この商品がどれだけよいものか」を自分自身が心から信じられることで、自分の中に軸ができ、その信念が周りを巻き込み、熱量が人を動かす力になると思っています。
── 「熱量」という言葉がとても印象的でした!國吉さんが、ご友人やご家族につい熱弁してしまう塩こうじの魅力はありますか?
國吉さん:ありますね(笑)。この商品を使ってもらうと、自分のお料理がおいしくなる。それが、作ってあげる人の笑顔につながって、連鎖していく。「いつもの料理に、これを使ってみてほしい」って熱く語っているときがあります。
全社で店頭に立った——「塩こうじ会議」と「塩こうじ新聞」

── その熱量を社内に浸透させるために、やられたことはあるのですか?
國吉さん:社内的にも、商品の可能性を理解・共有する必要があったので、塩こうじだけの話をする「塩こうじ会議」の立ち上げメンバーになったり、「塩こうじ新聞」という社内報のようなものを作ったりしました。
── 塩こうじ新聞……。ユニークですね!どういった内容なのでしょうか?
國吉さん:塩こうじの採用事例やレシピ、開発や販売に携わる方へのインタビュー、売上動向など、ありとあらゆる塩こうじの「今」を伝えています。
あとは、経営層・管理部門も含めて全社で店頭に立って、みんなで試食販売をしたんです。お客様の声を直接聞くことで「液体塩こうじ」の魅力や強みを再確認することができました。
── 会社のみんなで、お客様の反応に触れたんですね!
國吉さん:地道な積み重ねでしたけど、会社として商品のよさを共有できるようになり、そこから歯車が回り始めた感覚がありました。
それが自分たちの自信にもなりましたし、こうした経験を通じて「チームで動くことの大切さ」にも気づかされました。
誠実に向き合い続けたことで、信頼が生まれた

── ちなみに、「液体塩こうじ」を担当される前は、どのようなお仕事をされていたのでしょう?
國吉さん:最初は、業務用の営業だったんです。数字目標を達成するために、行動していく中で、お客様のニーズを聞くのが最初はすごく大変でした。
── 國吉さんとお話しているとそんな感じがしないのですが(笑)。何が大変だったのですか?
國吉さん:相手が何を求めているのかがわからないと、商品の売り込みに行っても興味を持ってもらえず、会話が一方通行になってしまいます。その引き出し方が、最初は全然わからなくて。
── 業務用となると、商談の相手も幅広いですよね。
國吉さん:そうなんです。外食チェーンさんのメニューに入れてもらったり、食品メーカーの開発の方にお話をしに行ったりしていたのですが、自分の知識がまだ浅い中で、しっかりお客様のニーズを引き出すというのが、本当に難しかったですね。
── そこから、何か転機やきっかけはありましたか?
國吉さん:単純なことかもしれないんですけど、がんばった分だけちゃんと見てくれていた方がいたんです。それが当時の取引先の方でした。
── といいますと?
國吉さん:見積もりや提案を何度続けても、なかなか土俵に乗らなかったんですよ。
それでも続けていたら、あるとき、そのお客様がすごく困ってしまったことがあって。そこで、こちらが積極的にフォローに入ったことがあったんです。
そこから取引先ではなく個人として信頼してくださるようになり、その方とは、今でもお付き合いがあります。誠実に、しっかりとお客様に向き合うことで「相手も誠実に接してくださる」と感じた出来事でした。
「表面上ではない関係」を、自分から出していい

── 長く続く信頼関係に変わったんですね。その経験から、得たものは大きかったのではないでしょうか。
國吉さん:仕事以上の信頼関係が築けたときに「表面上ではない関係性を、自分からもっと出していい」ということに気がつきました。
難しいことではあるんですけど、表面上のやりとりではなく「人」と「人」として、聞いて、話して、プライベートな話もする。そういう関係になれたことで、今でもお付き合いが続いているのは、本当にありがたいことだなと思います。
一人で抱え込まない。会社を巻き込んだら、ブランドが動き出した

── ここまでのお話から、國吉さんには「人を頼る」「周囲を巻き込む」という姿勢が一貫しているように感じました!昔からそうだったのですか?
國吉さん:いえ、むしろ昔は逆で「一人で何でもやろう」「できなきゃダメ」と思っていた時期がありました。
当時は、すごくがむしゃらに仕事をしていたので、疲れたり、体調を崩したりすることもありました。
でも、「チームで仕事をする」「誰かに頼る」ことができるようになってからは、すごく楽になったんです。
── 人に頼れるようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか。
國吉さん:特別なきっかけがあったというよりは「周囲の協力で乗り越えられた」という経験を少しずつ重ねていく中で、「ここは自分でやる」「ここはお願いしよう」と、見極められるようになったことが大きかったと思います。
弱みを見せると、相手も開いてくれる

──キャリアを重ねるほど「わからない」「教えて」と言いにくくなることもあるかと思うのですが、そういったことを考えたりはされますか?
國吉さん:そこは気にしていなくて「教えることもあれば、教えてもらうこともある」くらいの感覚ですね。
普段から、「わからないことは積極的に聞く」くらいの姿勢でいます。弱みを見せることもありますし、やりたいことをはっきり伝えたりもします。そうやって自分を見せることで、相手も心を開いてくれるのかなと思っていて、一人で抱え込まないことで、結果的にうまくいくことが多いんですよ。
── そういった仕事の進め方に、國吉さんなりの「マイルール」のようなものが表れている気がしたのですが、大事にされていることはありますか?
國吉さん:1つ目は自分の軸を持つこと、2つ目はポジティブに仕事をすることです。「ちょっと難しいな」と思ったときでも、「何か成長できることがあるかな」くらいの感じで捉えるようにしています。
── 軸はしっかり持ちつつも仕事を楽しんでいらっしゃるんですね!
國吉さん:自分の軸は持ちつつも、変化することに躊躇はないので。変に頑固にならず、そのバランスというか、柔軟性みたいなところは大事にしていますね。
伝統を「液体」にして世界へ。次の100年をつくる

── 長く液体塩こうじに携わってきた國吉さんにとって、改めてこの商品の魅力はどんなところでしょうか。
國吉さん:普段は諦めてしまっているような料理の小さなストレスを、解決できる商品だと感じています。
その魅力を知ってほしくて、私は、初めてお会いする方や、友人へのちょっとした手土産にも、いつも持って行っているんですよ(笑)。
── 國吉さんご自身が、日常的に人へ薦めたくなるほど、商品の価値を実感されているということですね!
「SHIO KOJI」として、世界の食卓へ

── 今後、塩こうじの価値をどのように広げていきたいと考えていますか?
國吉さん:発酵調味料ということで、塩こうじをグローバルな調味料にしていきたいですね。「こうじ(koji)」は、海外でも「koji」で伝わるんですが、塩こうじは「まだこれから」といったところです。
発酵というものは、皆さんすごくよくご存じですし、健康によいと認識されている。塩こうじも、たくさんの人に知ってもらいたいですね。
── 確かに、海外で塩こうじのイメージはないかもしれませんね(笑)。
國吉さん:そうなんです。海外では、塩こうじがどんなものか、まだそこまで知られていないので、ちょうどこの春、海外向けに「Cultured Umami Essence(発酵うま味エキス)」という新たなコピーを打ち出したところなんです。
── 海外のスーパーでも販売されているんですか?
國吉さん:まずはスーパーの棚ではなく、一流のシェフの方に使ってもらうところからチャレンジしています。
発酵の価値や和食以外のお料理にも使えることを説明し、今では、実際に使ってくださる三ツ星シェフの方も増えてきました。
── 塩こうじを使った海外の料理というのはとてもおもしろいですね!
「面白いことをやっているハナマルキ」へ

── 塩こうじに絡めた面白い取り組みもされていると伺いました。
國吉さん:ハナマルキの技術で「こんなに面白いことができる」という可能性を、もっと世の中に知ってもらいたくて、2023年に「ハナマルキ醸造 麹 研究室」というブランドを立ち上げました。
── そこではどのようなことをされているのですか。
國吉さん:「やってみる i try!」というスローガンのもと、塩こうじを使った飴やチーズなどを発売しました。

最近では、発酵つながりで、お酒も開発したんですよ。スーパーには並べにくい、手間のかかる商品なんですけど、だからこそ面白くて。
── 商品のラインナップがユニークですね!
國吉さん:そうなんですよ!よく「伝統と革新」という言葉が使われますが、ハナマルキもまさにそうです。新たな挑戦から生まれるものとの出会いを、私たち自身も楽しみに思っています。
2018年に100周年を迎え、今度は「次の100年」に向けて「ハナマルキは面白いことをやっているね」というイメージをつくっていきたいですね!
Wellulu編集後記
「これ、何に使うんですか?」——そう問われる、誰も価値を知らない商品。國吉さんの仕事は、その問いに答え続けることから始まりました。
まず、自分が知る。心から「いい」と信じる。そして、一人で抱え込まずに、弱さを見せ、人を頼り、会社ごと巻き込んでいく。その地道な熱量が、伝統調味料を「液体」に変え、海を越え、「次の100年」へと動かしていきました。
壁にぶつかったとき、すべてを一人で背負う必要はありません。軸は持ちながら、しなやかに。信じるものを、正直に伝え続ける。その先に、まだ誰も知らない価値を世の中に届ける道がひらけているのだと、國吉さんの歩みが教えてくれました。
文教大学人間科学部卒業後、2002年にハナマルキへ新卒入社。
外食などの業務用営業を経験後、営業推進や商品企画を担当する。2012年に発売した「液体塩こうじ」では、パッケージデザインや営業販促を担当。以降も、液体塩こうじの社内外でのポジションを向上させるべく、ブランド強化に邁進してきた。
2023年には、オリジナルブランド「ハナマルキ醸造 麹 研究室」プロジェクトリーダーを務め、2025年4月からはコミュニケーション室で広報宣伝にも従事している。