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ぼーっとする時間は大切?マインドワンダリング・マインドブランキングのメリットを脳活動パターンから解明【東海大学・川越講師】

いきなりですが、少しの間、ぼーっとしてみてください。
………………。

続けて、少しの間、何も考えないでください。
………………。

「ぼーっとする」と「何も考えない」で皆さんの頭の中に違いはあったでしょうか?
東海大学文理融合学部の川越講師によると、「ぼーっとしているとき(マインドワンダリング)」と「何も考えていないとき(マインドブランキング)」では、脳活動に違いがあるという。そこで今回、両者の脳活動の違いについてインタビューを実施。マインドワンダリング、マインドブランキングとはどういう意味なのか、どんな効果やメリットがあるのかについてもお伺いした。

川越 敏和さん

東海大学文理融合学部 講師

実験心理学・認知神経科学を専門とし、加齢を始め様々な心理現象あるいはその変化について研究している。最近興味を持っているのはマインドワンダリングなどの思考現象、無意識的処理、加齢変化、顔認知など。熊本大学大学院社会文化科学研究科(当時)修了、博士(学術)。島根大学医学部研究員、立教大学現代心理学部助教を経て現職。理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員兼務。

本記事のリリース情報
脳の活動について川越敏和講師(文理融合学部 地域社会学科)が解説!

「ぼーっとする」は2種類? マインドワンダリング、マインドブランキングの意味

── まず、先生がこれまで取り組まれてきた研究について教えてください。

川越講師:研究テーマは幅広いのですが、思考内容や認知システムの加齢研究に重点を置いて研究をしています。人は加齢に伴いさまざまな能力が衰える傾向にありますが、これとは反対に年を重ねても衰えない高齢者もいます。その個人差に影響する要因について調べたり、高齢者の知覚系に関する研究も行っています。例えば、若年者は耳からの声の情報のみで会話内容を理解しますが、高齢者は目に見える視覚情報を補助的に音声理解に使用するといった特徴があることが知られています。

大学院修了後、島根大学医学部で研究員として、MRI装置内でリラックスしている被験者の脳活動を観察する「安静時fMRI」の研究に携わっていました。被験者には「何も考えないでください」とか「ぼーっとしてください」といった教示をするのですが、これらの指示が脳活動にどのような違いをもたらすのか興味を持ったことが今回の研究のきっかけです。

── 普段意識していないので「ぼーっとする」ことに着目したというのはおもしろいですね!「ぼーっとする」とは、改めてどういう状態なのでしょうか?

川越講師:まず、ぼーっとするという日本語には、「マインドブランキング」と「マインドワンダリング」の2種類が該当すると考えられます。マインドブランキングは「何も考えていない状態」、つまり心が完全に空っぽの状態を指します。日本語で言うところの「ぼーっとしている」の中でも、頭の中に本当に何もない状態を意味します。

一方、マインドワンダリングは、「ぼーっとしている」中でも「何かを考えたり、想像したりしている」状態です。マインドワンダリングの例としては、誰かの講演を聞いているときや読書中に「今日の夕食は何にしようかな」とか「昨日の出来事は面白かったな」といったことを考えたりしますよね。このようなものがマインドワンダリングに該当します。

マインドワンダリングは誰もが経験したことがある一方で、マインドブランキングについては理解できない、あるいは経験したことがないという人もいます。実際に私が行った調査では、日本人の約7%、アメリカ人の約13%がマインドブランキングを経験したことがないと回答しています。回答の差については、日本人が「ない」と明確に言いきれない国民性を有していることが影響しているかもしれませんが、今のところ原因はわかりません。

「何も考えていないとき(マインドブランキング)」の脳活動はどうなっている?

── では、研究方法について詳しく教えていただけますか?

川越講師:今回の研究では、神経疾患および精神疾患の病歴のない29名の男女を対象に、「できるだけ何も考えないようにしてください」という教示を行い、MRIスキャナを使用し実験を行いました。スキャナ内では、じっと中央の点を見続けてもらうのですが、ランダムなタイミングで画面が切り変わり、「直前に何を考えていましたか?」という質問が表示されるというものです。その時点で考えていた内容が「現在」、「未来」、「過去」に関するものか、あるいは「何も考えていない」かの4択で回答してもらいます。

さらに、「何も考えていない」と回答した場合、それが教示通り意図的に「何も考えないようにしていた」のか、それとも「本当に何も考えていなかった」のかを問い、「本当に何も考えていなかった」と回答した場合のみを解析の対象としました。

── 「何も考えていない」をさらに細かく分けて解析したのですね。では、どのような研究結果が得られましたか?

川越講師:「本当に何も考えていなかった」と回答した場合、特定の脳領域の活動が低下していることがわかりました。特に、言語を司る「ブローカ野」と記憶に関わる「海馬」の活動が減少していたことが重要な発見だと考えています。「海馬」は、マインドワンダリング中に活発になる脳の領域「デフォルトモードネットワーク」の一部であるため、「何も考えていない(マインドブランキング)」状態で、「海馬」の活動量の減少が統計的に有意だったことは、マインドブランキングがマインドワンダリングとは異なる現象であることを脳科学的に示唆していると言えます。

「海馬」は、とくに記憶にアクセスするような領域です。「海馬」の活動が減少しているということは、マインドブランキング中には記憶へのアクセスも抑制されているのかもしれません。ちなみに記憶は未来のことを想像するにも重要な働きを担っています。

また、実験中に「何も考えていない」状態になったのは全体の約3割の回数だったのですが、通常のマインドブランキングが自然に発生する頻度が数パーセント程度であることを踏まえると、意図的にマインドブランキングを試みることで頻度の上昇が起きることを示しています。

── 他に興味深い点や新しい気づきなどがあれば教えていただけますか?

川越講師:国際学会で発表した際に、安静時fMRIを行う際の指示として、「何も考えないでください」と「ぼんやりしてください」では、どちらがより適切か?という興味深い質問がありました。帰国後にさらなる解析を行ったところ、意図的に「何も考えないようにしていた」と回答した人において、脳の前頭領域の活動が上昇していました。

これは、何も考えないように努力している状態が、課題をこなしているような状態と同じであることを示唆しています。つまり、「意図的にマインドブランキングを試みること」と「自然に生じるマインドブランキング」は異なるものである可能性があるということです。この結果から、自然に生じるマインドブランキングの調査では、今回の調査方法とは異なる、より自然な状態での観測が望ましいと考えています。また、マインドブランキングを引き起こす条件について、現在、国内外の研究グループと共同で研究を進めているところです。

創造的なひらめきを導く?マインドワンダリングのメリット・効果とは

── 日常生活でぼーっとすることには、どのようなメリットが期待できるのでしょうか?

川越講師:マインドワンダリングに関しては、新しいアイデアや創造性のヒントにつながる可能性があります。何かを考えずにぼんやりとしている時に、新しいアイデアが生まれることがありますが、これにはマインドワンダリングが影響している可能性が示されています。

一方、マインドブランキングに関しては、まだよくわかっていません。しかし、マインドワンダリングとは独立した現象であるため、マインドワンダリングとは異なる意味が何かある可能性が高いと考えています。

── 新たな創造に繋がるかもしれないのですね。

脳がリラックスする?マインドブランキングのメリット・効果とは

──まだ仮説段階だと思いますが、現状考えられるマインドブランキングに期待できる効果があれば教えていただけますか?

川越講師:マインドブランキングによる脳活動の低下にはいくつかの興味深い側面があり、例えば、マインドブランキングの状状態が脳にとっての休息・リラックスに相当する可能性があると考えられます。マインドブランキング中に「ブローカ野」や「海馬」など特定の領域の活動が低下することが研究で確認されている通り、これが脳活動の休息につながっているかもしれません。

睡眠時に夢を見ることがあるように、私たちが寝ている間も脳は活動を続けていますよね。そのため、活動が低下するということが必ずしも脳の休息・リラックスと同義ではないのですが、代謝的な面では、脳の活動の低下によりエネルギー消費は減少しているはずなので、ある種の休息に相当する可能性はあると思います。

この研究により、意図的なマインドブランキングでは、こころが「無言」になることで「何も考えてない状態」がつくり出される、あるいは本人がそう認識することが明らかになったことから、例えばうつ病における反芻思考、つまりネガティブなことを繰り返し考えてしまうことの抑制などに応用できる可能性が見込まれます。

── ぼーっとすることがうつ病などの疾病の治療に応用…これほどに展開するとは驚きです。では最後に、現在行っている研究や今後取り組もうとしている研究について教えてください。

川越講師:現在、マインドブランキングやマインドワンダリングに関しては、ローカルスリープすなわち脳の特定の部分が局所的に休息する、という概念に基づく研究を検討しています。また、「ぼーっとすること」が創造性に繋がるというポジティブな効果についても検討予定です。

高齢者の認知機能に関する研究については、特にマスク着用の影響についての研究を進めています。COVID-19の影響で世界中で急速にマスクが普及しましたが、マスク着用が人々の感情や認知機能にどのような影響を与えるかを調査しています。既に、マスクを着用することで対人的な不安が減るという研究結果を得ています。また、マスクの着用が他人の声を聞き取りにくくする可能性についても研究しています。

このように、私の研究は、日常生活における認知機能に焦点を当てたもので、脳科学と心理学の交差点に位置しています。これからも、よりよい生活のための知識や対策を提供することを目指して研究を続けていきたいと思っています。

Welulu編集後記:
今回、東海大学文理融合学部の川越敏和講師に、「何も考えていない」というマインドブランキングがという現象が、脳の特定の領域の活動の低下と関連していることについてお話を伺いました。これは、マインドブランキングが脳の休息・リラックスの一形態である可能性を示唆しているということは大変興味深く、今後のさらなる展望を期待しています。この記事を通して、「何も考えていない」という現象の裏で、私たちの身体はどのような働きをしているか、興味を持っていただけると幸いです。

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