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サステナブルな宇宙を実現するために。挑戦の先に見えてくるこれからの暮らしと働き方<アストロスケール>

アストロスケール

「宇宙空間の持続可能性(スペースサステナビリティ)」を追い求める、ある企業が世界中から注目を集めている。株式会社アストロスケールは、宇宙ゴミ(スペースデブリ)除去を含む軌道上サービスに取り組むスタートアップ企業。その活動は、どこか遠い世界の話に聞こえてしまうが、実は私たちの暮らしにも大きく関わっているという。

株式会社アストロスケール・上級副社長の伊藤 美樹さんに、宇宙環境と生活とのつながり、未来の宇宙産業を担う人材について伺った。

「宇宙ゴミ」という脅威に立ち向かい、宇宙環境のバランスを保つのが使命

株式会社アストロスケール

- はじめに、アストロスケールの活動内容を教えてください。

伊藤:私たちが目指しているのは、「宇宙のロードサービス」です。地上の道路に交通ルールや交通状況のモニタリング、事故やガス欠が発生した際の対応があるように、宇宙空間にもロードサービスが必要だと考えています。

そのひとつとして、創業から取り組んでいるのが「宇宙ゴミ(スペースデブリ)」の除去を含む軌道上サービス。「衛星運用終了時のデブリ化防止のための除去」、「既存デブリの除去」、「人工衛星の寿命延長」、「故障した人工衛星や物体の観測や点検」など、4つのサービスの展開を進めています。

- 「宇宙ゴミ」の除去とは、どういったサービスなのでしょうか?

伊藤:「宇宙ゴミ」とは、地球の衛星軌道上にある役割を持たない人工物体のことです。機能が停止した人工衛星や打ち上げに使ったロケット、その部品などが宇宙ゴミになっていきます。

「宇宙ゴミ」と言われると、小さくて軽いものが宇宙に漂っている状況を想像するかもしれませんが、実際は違います。サイズは様々ですが、大きいデブリになると、大型バスくらいのサイズがあります。そして、スピードは弾丸の約10倍。大型バスが弾丸の約10倍の速さで人工衛星に衝突してくると考えると、その脅威を認識していただけるのではないでしょうか。

いま地球の暮らしは、人工衛星によって支えられています。その人工衛星に襲い掛かる脅威を取り除き、「宇宙空間の持続可能性(スペースサステナビリティ)」を守るのが私たちのサービスです。

「宇宙」を指し示す言葉は、ユニバースやスペースなどたくさんありますが、「アストロ(ASTRO)」はその中でも最も古くまで遡れる言葉です。そして、「スケール(SCALE)」は「天秤」という意味。「アストロスケール」という社名には、創業者の岡田が、宇宙ゴミの問題を知ったときに感じた「人の宇宙での活動と、宇宙環境とのバランスを保たなければならない」という思いが込められています。

実は私たちの暮らしのインフラを支えている人工衛星

伊藤 美樹

- 私たちの暮らしは人工衛星からどのような恩恵を受けているのでしょうか?

伊藤:CS・BSなどの衛星放送はみなさんもご存じかもしれませんね。ほかにも、「GPS(全地球測位システム)」には人工衛星から発信されている信号が使われています。GPSは、飛行機や船の自動運転、私たちがスマートフォンで見ているマップにも活用されていて、私たちの暮らしに大きく関わっています。また、証券取引所もGPSの「時刻データ」を使って取引を行っています。

例えば、衛星軌道上にデブリがあふれて、人工衛星が使えなくなってしまうと、流通も世界経済も大混乱に陥ってしまうのではないでしょうか。

宇宙ゴミの問題については、「ゴミが問題になるなら、宇宙を使わなければいい」という極論になってしまうこともあります。しかし、私たちの生活の中で「宇宙を使わない」というのは、もうあり得ないことになっています。だからこそ、使い続けていけるようにサステナブルな未来の宇宙をつくっていく必要があるのです。

- 実際に「宇宙ゴミ」はいまも増えているのですか?

伊藤:ここ数年を見ても、急激に増えていると思います。人工衛星に何かが迫ってきた場合、観測者にはアラートが届きます。「1km以内に何かが接近した」というアラートの回数は、2021年の約2,000回(/月)と比べても、2022年は約6,000回(/月)と、3倍に膨れ上がっています。また、世界中で人工衛星が原因不明の故障をしたというレポートが上がってきていて、これも宇宙ゴミの衝突が原因なのではないかと考えられています。

「ケスラーシンドローム」という問題もあります。これは、デブリ同士が衝突して細かい破片となり、散らばった破片がさらなる衝突を生み、地球の周りを覆い、衛星軌道が使えなくなってしまうという危惧があります。

宇宙ゴミ問題の解決には、世界規模の協力体制が必要になるのは間違いありません。しかし、国連が発表しているのはまだガイドラインに留まっていて、罰則規定のあるルール化には至っていません。このルールメイキングにも弊社が貢献していければと思っています。

地上のサステナビリティを守るために。宇宙の問題を知ってほしい

伊藤 美樹

- 「宇宙ゴミ」が増え続けている背景には、宇宙ビジネスの普及もあると思います。その点についてはどう感じられていますか?

伊藤:いま、宇宙にある活動中の人工衛星は約7,500基といわれています。今後10年でその数は数倍〜10倍になると予測されていて、宇宙ゴミの問題そして軌道の混雑化はより深刻になっていくでしょう。その背景には、コンステレーションビジネスという、宇宙ビジネスが広がっているという世界の流れがあります。

コンステレーションとは星座を意味していて、複数の通信衛星を協調させて機能させるシステムを言います。いままでは1社が運用する人工衛星はだいたい1基、多くても数基程度だったのですが、現在、アメリカの「スペースX社」が保有している人工衛星は数千基の規模に達しています。

宇宙ビジネスの広がりは、もちろん人々の暮らしにいろいろな恩恵をもたらすはずです。コンステレーションの人工衛星は地球の周りを覆うような形で配備され、海でも、山でも、砂漠の真ん中でも、世界中どこにいてもインターネットが利用できるようなサービスを展開しています。

- 便利にはなりますが、宇宙の環境問題はさらに深刻に。私たちはどう考えて動いていけばいいのでしょうか?

伊藤:地上のサステナビリティを考えるように、宇宙のサステナビリティを共に考えていただければ。「SDGs(持続可能な開発目標)」には17の目標と169のターゲットがありますが、そのターゲットのおよそ4割には人工衛星が重要な役割を担います。つまり、地上のサステナビリティを守るには、同時に宇宙のサステナビリティを考えなければならない。まずは、このことをひとりでも多くの方に知っていただくことが、弊社の活動の後押しになっていきます。

アストロスケールでは、人と地球と宇宙を持続可能にするために「宇宙の持続可能性(Space Sustainability)」に取り組んでいます。「Space Sweepers(スペーススイーパーズ)」としてこの活動に賛同してくれるメンバーも募集しています。

憧れの「宇宙業界」で仕事をすることは、もう遠い夢ではない

伊藤 美樹

- 宇宙業界に憧れを持つ人もいると思いますが、やはり働くには専門的な知識やスキルが必要なのですか?

伊藤:そう思われがちなのですが、いまはそんなことはありません。たしかに10年前までは、大企業のメーカーに入るか、国立の研究機関に入るか、または宇宙飛行士になるか、道は狭かったと思います。しかし、宇宙ベンチャーが一般に広がり、「宇宙業界で働くこと」は遠い夢ではなくなりました。弊社もエンジニアだけではなく、広報・マーケティングや法務、経理や総務など、いろいろな人材に支えられています。

求められる能力も多種多様で、職種によっても違いますが、宇宙の専門的な知識を知っていなければならないわけではありません。

エンジニアの中でも、自動車業界や家電メーカーなど、多様なジャンルを経験した社員が多く、みんなが「まさか憧れの宇宙業界で働けるなんて、思ってもいなかった」と口をそろえていますよ(笑)。

- 自分の持っているスキルを使って、夢だった場所で働くことができる。そういった働く環境は心の充足を生むのかもしれませんね。

伊藤:そう感じてもらえているとうれしいですね。もともと宇宙業界というのは、いわば村社会のような閉じられた場所でした。ほかの業界から新しい価値観を入れてくれることは、会社にとっても大きな成長につながっていくと思っています。

本当に広告ひとつを取っても、いままで宇宙業界で行っていたものとは、全く違うアプローチで提案してもらえて。「こういう手法があるんだ」と、目からウロコが落ちることが多いですね。私たちの活動を、一般の方々にわかりやすく伝え、面白いと思っていただくには、新しい視点がどうしても必要なのだと気づかされました。

アストロスケール
アストロスケールの想いが詰まった求人広告(公式Twitterより)

ものづくりのまち、墨田区から見据える宇宙と人の未来

アストロスケール

- 5月には本社の移転も予定されています。最後に、成長を続けるアストロスケールの今後の目標と、読者へのメッセージをお聞かせください。

伊藤:「SDGs(持続可能な開発目標)」の最終目標年である2030年までに、弊社の軌道上サービス「宇宙のロードサービス」を当たり前のものにしていくことです。そうなれば、より宇宙が身近になり、新しい価値を与えることができると信じています。

現在の住所も移転先も東京都墨田区なのですが、墨田区は町工場とか伝統工芸に昔からなじみのある地域でもあり、いろいろなサポートをしていただいています。墨田区とも相談しながら、区内の小学校や中学校の社会科見学を誘致することも企画しています。人工衛星の開発現場を見学して、これからを担っていく子どもたちに「宇宙ゴミ」の問題を知り、考えてもらえればと思っています。

宇宙のサステナビリティを考えていくには、宇宙に携わっていない人たちの知見や経験が必ず助けになります。多様な価値観が宇宙業界に集まって、さらに発展していく。そのためにも宇宙環境を守っていくことが私たち全員の幸せにもつながっていくのではないでしょうか。

伊藤 美樹さん

株式会社アストロスケール 上級副社長

内閣府最先端研究開発支援プログラム「ほどよし超小型衛星プロジェクト(通称)」にて人工衛星の熱・構造設計、試験業務に携わる。2015年4月アストロスケールに入社し、同社代表取締役社長に就任。組織編成に伴い、2023年2月より現職。

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