ウェルビーイングに働く

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「People First」を掲げるデロイト トーマツ グループ。メンバーと語った組織のWell-being〈前篇〉

スマートだけどどこかクールなイメージ。「Up or Out」という言葉もあるように、成長のために誰しもがハードワーク・ハードスタディを求められ、Well-beingとは遠い印象のプロフェッショナルファーム。

しかし、デロイト トーマツ グループで「Personal Well-being ワーキングPMOリード」を務める石黒 綾さん、デロイト トーマツ グループ 合同会社Well-being リーダーを務める奥田 潤一さんの話を伺うと、そのイメージがガラリと覆った。

デロイト トーマツ グループが2024年3月に開催した「幸福Week」に登壇しているWellulu編集長の堂上 研も交え、Well-beingな組織作りと企業の業績との関係性、デロイト トーマツ グループがアスピレーションゴールに含めているWell-being社会の姿、導入されている人事制度などについて語り合った対談の様子を前後篇でお届けする。

 

石黒 綾さん

デロイト トーマツ グループ Personal Well-being ワーキングPMOリード

ベンチャー企業における組織開発の経験を経て大学院へ留学。帰国後デロイト トーマツ コンサルティング合同会社に入社。入社後は一貫して組織・人事のコンサルティングに従事。2019年に社内公募に手をあげてPeople First経営の実現のための部門へ異動、Well-beingな組織作りに日々邁進中。

奥田 潤一さん

デロイト トーマツ グループ 合同会社 Well-being リーダー

大学卒業後、一般事業会社に3年間の勤務を経て、現有限責任監査法人トーマツに入社。業務管理、HR等を経験後、グループのコーポレート業務を担う現デロイト トーマツ グループ合同会社(以下、DTG)の設立と同時に同会社に転籍。現在は、主として総務領域を担当しながら、DTGのWell-beingリーダーを務める。

堂上 研

Wellulu編集部プロデューサー

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザイン ディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。

誰もが能力を発揮できる職場を模索する中で「Well-being」という概念に辿りついた

堂上:先日は、デロイト トーマツ グループが取り組む「幸福Week」にお招きいただき、社内講演の機会を与えてくださりありがとうございました。数年前から取り組む外部の有識者を招いた社内勉強会という位置づけだと思いますが、やはりデロイト トーマツ グループというプロフェッショナルファームの中でも、Well-beingが注目されているのですね。奥田さんがWell-beingに興味を持ったきっかけはなんだったのですか?

奥田:私はグループのコーポレートを担う会社に所属しています。デロイト トーマツ グループでは従来より障がい者採用に積極的に取り組んでいます。障がいを抱えられている方については、活躍の場がミドルオフィスやバックオフィスが中心となります。

オフィスで共に働く中で、どうしたら全員が気持ちよく働けるようになるのか、能力を最大限引き出せるようになるのか、前々から強く関心を抱いておりました。そんな折、「Well-being」という言葉が登場し繋がっていった感じです。

堂上:どのようなハンディキャップを持たれた方の採用が多いのですか?

奥田:一般的な事務を担当する方から、特定の領域に対しての能力を発揮する方まで、幅広い人材が活躍しています。障がい者の中には、メンタル的に繊細な感覚を持っている方もおり、そういった方々に対して、どのようにして組織の心理的安全性を保ち、能力を発揮できる環境を作るかに意識を置いています。

堂上:奥田さんのお話、すごく共感します! 私たちもWell-beingを語る上で『誰も取り残さない社会を創るんだ』という想いがあって、皆がイキイキと働ける職場づくりはWell-beingな社会にとって欠かせない要素です。現代に生きる人事や総務の方々から、強い共感を得るお話ですね。

人生の命題は「人が活き活きと働くためには何が必要なのか」。「People First」を掲げる組織に喜びを感じた

堂上:では、石黒さんはいかがでしょうか?

石黒:まず先ほどのお話で、奥田さんがそのような背景でWell-beingにご興味を持たれたことをはじめて知りました! この時間でまた一歩お互いのことを知れてよかったです。

堂上:お互いを知り合うことでWell-beingな関係に近づきますよね。お互いのバックグラウンドや家族構成などを知っていくと、お互い興味をもってお互いが親密になったり、信頼できる関係になったりします。

奥田石黒仲良くなった気がします(笑)。

石黒:私がWell-beingに興味をもったきっかけですが、ちょうど私がいわゆる就職氷河期世代でして、私立文系の私が唯一いただけた内定先が“ド”ベンチャー企業だったんです。

今でこそ、立派な会社になっているのですが、当時はみんな必死に働くフェーズ。色々な意味でぎりぎりな生活だったように思うのですが組織のビジョン達成に向けて全員が活き活きと働いていたから、精神的にはWell-beingな状態といえました。まさに、チクセントミハイ教授がおっしゃられている「フロー状態」です※。

堂上:肉体的には疲れがあるけど、充実感を得ながら働けている状態だったと。どこの会社にいても、その人たちが「フロー状態」になって働いていることが楽しい状況はいいですよね。

石黒:はい。ただ数年経って上場もして企業が大きくなるとどうしても「数字ファースト」な雰囲気になっていきました。私が勝手にそう感じていただけかもしれないですけど、どうしたら昔の空気を維持したまま組織を成長させられるのか悩み、答えがでなかったのでそのタイミングで退職し、一度大学院に進学しました。その頃から、「人が活き活きと働くには何が必要なの……」という問いが“人生の命題”になっていった部分はありましたね。

大学院では「組織心理学」を専攻し、「組織や人はどのようにして動かすのか」といったことを学びました。「組織に所属しているメンバーがパフォーマンスを上げるために打てる手について」に強い興味を持ちながら、デロイト トーマツ コンサルティングに入社して今に至ります。

堂上:プロフェッショナルファームであるデロイト トーマツ グループが「People First」を掲げた時にはどう思いましたか?

石黒:私が所属するコンサルティング部門の当時のリーダーが現在の「People First」につながる概念を5年前に掲げた時にはびっくりしました。企業の経営資源である「人」を大切にしていくことが質の高いサービス提供に繋がり、ひいては組織の成長に繋がる……と明確におっしゃいました。

それまで外部のクライアントのためのコンサルティングサービスを提供していたのですが、「People First」を聞いて「私もデロイト トーマツ グループの組織づくりに加わりたい!」と強く思い、手を挙げてチームに加わりました。その頃から「Well-being」という言葉も意識するようになりましたね。

堂上:いい話ですね! やはり良い経営者に出会えるかどうかは、仕事のWell-beingを大きく変化させますね。

フロー状態:人間が対象の行為を行なっていることに完全に浸り、精神的に集中している感覚を得られる状態。完全にのめり込んでいて最高のパフォーマンスを発揮する瞬間。心理学者のミハイ・チクセントミハイ教授によって提唱された。

「Personal」「Societal」「Planetary」の3つのレベルでWell-beingな社会を目指す

堂上:デロイト トーマツ グループはPeople Firstともに、「Well-being社会」の概念図も対外的に出していますよね。これはいつ頃に作られたのですか?

石黒:2021年に弊社内で作りました。弊社では、私たち一人ひとりを起点とする個人のレベル(Personal/パーソナル)、私たちが属する地域コミュニティの集合体である社会のレベル(Societal/ソシエタル)、それら全ての基盤である地域環境のレベル(Planetary/プラネタリー)の3つのレベルでWell-being社会を実現することを「Aspirational Goal(強く掲げている目標)」としさまざまなWell-being促進活動を行っています。

堂上:僕は最初にこの図を見たとき、ちょっとびっくりしました。まさに僕が描いていたWell-beingの世界観と同じだったんです。「個人のWell-being」が充足していてはじめて、その周囲の家族や友人、地域社会といったコミュニティを大切にできるのだと。

ちなみに、僕はさらに内側に「PHR(パーソナルヘルスレコード)の連携」という線をひいています。個人の健康状態がどうであるのか、今日どれくらい人と喋ったのかといったデータを収集しミクロマクロを行き来してコミュニティの状態を把握できるようになることで、『一人も取り残さない社会』に近づくのではないかと思っているんです。

石黒:一緒にこの世界を作っていきたいですね!

堂上:さて、毎年3月にデロイト トーマツ グループ全体で実施されている「幸福Week(※)」ですが、どのような取り組みなのでしょうか?

石黒:「幸福Week」は、3つの円の中でいうと、一番内側の「Personal Well-being」について気づいてもらったり考える時間を持ってもらったりするために実施しています。2024年で2年目を迎え、国連によって定められた「国際幸福デー(3月20日頃)」の時期に合わせて開催されています。2024年は、3月13日から3月19日の間に開催されました

2024年は「本質的なWell-beingとプロフェッショナルワークの充実が両輪可能であることを感じてもらう」、「国内外で起きている事象に対する視野を拡げてもらう」、「社内外の様々な取り組みに触れ、Well-beingを身近なものと感じてもらう」がテーマでした。

このテーマに沿って、社内外のさまざまな取り組みに触れていただくべく、全10講演開催しました。堂上さんもそのお一人でしたね。

※ 参考元:1人ではできなくても、メンバーの多様性で変革を実行できる期待感がWell-beingにつながる ―木村CEO×長川COO対談 |D-nnovation|Deloitte Japan

目指すのは人それぞれのWell-beingの価値観を受け入れられる世界

堂上:幸福Weekでは、内部講演が4組・外部講演が6組行われたとお聞きしています。お二人がそれぞれ印象に残った講演を教えてください。

奥田:今インタビューしていただいているからというわけではなく、堂上さんの講演ですね。堂上さんがお話されていた「私たちはWell-beingをあえて定義しません」という言葉が印象に残っています。

堂上:ありがとうございます! 実は最近気づいたのですが、Well-beingの各有識者の方々とお話をしていて、Well-beingと一言でいっても定義や主張に違いが見られるなと感じたんです。

たとえば、グローバルデータをもとに基準値の定義づけを目指している方や、抽象的な概念として捉えて仏教でいう「南無阿弥陀仏」的な「まず口に出すことから始めましょう」と唱える方。あとは幸福心理学の切り口から他者との比較の中にWell-beingな状態を定義づけようとする方などです。

それぞれの定義や背景の考え方を否定する気はまったくないのですが、Well-beingって哲学的な要素やそのコミュニティの文化が強く影響を与えているので、根本的に“人それぞれ”だと思います。だから、「Wellulu」ではWell-beingを定義しないと決めました。

堂上:「こういう行動がWell-beingなのである」と型にはめてしまうと、その瞬間に外の人が「Not Well-being」になりますよね。そうではなく、誰しもが自分の価値観を受け入れてもらえる社会が何より重要だと思いますので、会社側でWell-beingな働き方・組織の在り方を厳密に定義づけることはちょっと違うかなと考えています。

石黒:私が印象に残っているのは、株式会社プロノバの岡島悦子さんの講演です。彼女が「組織におけるWell-beingってお花畑の話じゃなく、コレクティブ・ジーニアス(※)のためなのよ!」とはっきりおっしゃった言葉が個人的に胸に響きました。

コレクティブ・ジーニアス(Collective Genius):各分野の突出した才能を集めれば、一人の天才をも凌ぐことができるという考え方のこと。社会に価値を生み出す際に、突出した天才の出現に頼るのではなく、一人ひとりの能力・情報を有用に引き出し絡ませ、組織の力で一人の天才以上の能力を発揮することを目指すもの。

組織のWell-beingと業績は対立構造ではない。「単年度P/L主義」からの脱却が次世代成長企業の考え方

奥田:堂上さんの講演の中でもうひとつ印象的だったのが、Well-beingを浸透させようとすると、“二項対立が起きます”というお話です。Well-being推進派が声を上げると、「いやいや、Well-beingなんてものはNice to haveなものでしょ」「業績を伸ばす上では一定の個人の犠牲は必要」という考えと、必ずと言っていいほど対立すると。

でも堂上さんがメッセージとして伝えられていたのは、仕事で一定のストレスがかかりながらその中でフロー状態に入って高い成果を出す……その時に感じる多幸感も、仕事におけるWell-beingな状態なんだということでした。それだったら対立しないなと感じました。

堂上:Well-beingの定義は、一人ひとり違うという前提が大事で、たとえば仕事でメンタルを崩してしまった人でも、ある役割を付与することで、その人が輝ける場所を作ってあげると次第に目の輝きが戻ってくることがあります。それぞれの人にとっての心地よい場所は、絶対に存在すると信じています。

そもそも相手の立場にたって物事を考えられる人が上司にいたら、精神的に追いつめられる必要はなかったかもしれない……そんな事例は多いはずです。

奥田:仕事はあくまでも企業活動ではありますが、その中で一緒に喜んだり悲しんだり笑いあえたり、働くメンバーに共感力をもってコミュニケーションすることがWell-beingな職場に大切だと感じました。

堂上:僕が言うのはおこがましいのですが、経営者自身が「Well-beingな社員が増えると業績も後から連動してくる」ということを理解することが大事だなと。業績かWell-beingかの二者択一ではなく、双方は同じベクトルなんだよと多くの経営者に気づいてもらいたいですね。

石黒:社会がすごい勢いで変化して、どんな組織でも求められる価値や、社員が組織に所属することの意義も変化し続けていますよね。10年、20年先もクライアントや社会に新たな価値を創造し続けるには、メンバー一人ひとりが心身共に健康であることを大切にし、周りのメンバーの思いにも目をむけて互いの意見に耳を傾け、対話を通じて信頼と共感が育めるような組織文化が醸成できることが大事だと思います。そのことでお互い新たな可能性が見つかったり、成長できたり、結果としてその集合体としてのチームや組織がイノベーティブだったり、高い品質だったりを生んでいけるのだと思っています。

堂上:これからの経営を共創社会へシフトして、多様な価値を持つ社内外メンバーとの交流や協業を増やしていくことが業績に繋がっていく。それを信じて動けるような経営者が一人でも生まれることを願いたいです。

[後編はこちら]

デロイト トーマツ グループが実践する「傾聴」と「対話」が生むWell-beingな取り組みとは

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