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“心を照らす医療”の情報格差をなくし「ささやかな幸せ」を取り戻す〈アトラスト・ヘルス〉

生涯を通じて、4人に1人(※)はこころの病気にかかっているといわれる昨今。精神医療の課題は増え続ける一方で、「病院には恥ずかしくて行けない」「1〜2時間の待ち時間がしんどい」「動けなくなって初めて症状の深刻さに気づいた」という人も多いのが現状だ。
※出典:こころの情報サイト

この課題にアプローチするために開発されたのが、オンライン×対面の総合精神医療プラットフォーム。オンライン上で予約から診療まで受けることが可能となっている。サービスを立ち上げたバローチ ニールさんは、大学3年生の時に起業。ニールさんが精神医療に着目したのは、ある友人のうつ病がきっかけだったと語ってくれた。

 

バローチ ニールさん

アトラスト・ヘルス株式会社 創業者、代表取締役

中央大学商学部卒。高校生の時に起業に関心を持ち、大学1年次にスニーカーマーケットでの情報交換、購入、販売をサポートするスニーカー愛好家向けのオンラインプラットフォームの立ち上げやプロダクトの設計に従事。2019 年7月にアトラスト・ヘルス株式会社を創業。「“心を照らす医療”を拡張する。」、「個を深く見つめ、広く人類の心を救う。」という2つのMissionを掲げ、自宅から手軽に精神科医療を受けられる精神科・心療内科系疾患特化型オンライン診療プラットフォームと、医療現場のデジタル化をサポートするクリニックDX支援を提供。
https://atlasthealth.co.jp/

堂上 研

Wellulu編集部プロデューサー

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。

外国籍の父を持つことで生まれた多様な価値観との出会い

堂上:まずはニールさんの自己紹介をお願いできますか?

ニール:僕は日本で生まれ育ちましたが、父が外国籍でその友人にはさまざまな国のルーツを持つ方々がいます。高校生の時に起業に興味を持ち、大学1年生の時にスニーカー愛好家向けのオンラインプラットフォームを立ち上げました。そして2019年、大学3年生の時にオンライン×対面の総合精神医療プラットフォームを運営するアトラスト・ヘルス株式会社を創業しました。

堂上:なぜ、オンライン×対面の総合精神医療プラットフォームを立ち上げようと思われたのでしょうか。

ニール:中学校の友人の影響が大きいです。彼はうつ病で通院していたのですが、通院するようになるまでうつ病であることには全く気がつかず、通院している様子を見ていても、精神医療には物理的ハードルだけでなく、心理的ハードルが高いと感じました。それによって医療へのアクセスがしにくいですし、まだまだ社会的なスティグマも残っている。そういった社会への疑問が関心軸へ変わっていき、自分で事業として立ち上げるに至りました。

堂上:日本では、まだまだ精神医療への心理的ハードルが高いですよね。海外の企業事例を参考にされることもありますか?

ニール:アメリカは特に市場が大きいので、参考にしています。文化の違いや、保険制度の違いによって異なる部分も多いのですが、疾患においては共通のものも多いと思います。

堂上:なるほど。ニールさんご自身についても伺いたいのですが、幼少期はどのようなことをして過ごしているのが楽しかったですか?

ニール:色々なことに関心のあるタイプでした。父親の影響で、海外のルーツを持つ方と触れ合う機会が多く、多様な価値観を持つ人と出会う機会も多かったんです。小学校の頃は一般的な学校に通いつつ、平日の放課後は別の外国語の学校で、外国籍の同年代の子と一緒に英語やアラビア語を勉強していたので、さまざまな価値観の方と交流する機会が楽しかったですね。

堂上:その影響もあって、早い段階から起業に興味を持たれたのですね。

ニール:そうですね。自分で何かをやるということには、小学生の頃から興味がありました。高校生の頃に起業のことを考え始めて、大学3年生で起業をしました。

堂上:素晴らしいですね。今はまだ26歳ですよね? チームのメンバーも若い方が多いのでしょうか。

ニール:いえ、僕は若いほうで、チーム全体の平均年齢は35歳くらいです。

堂上:オンライン×対面の総合精神医療プラットフォームをやりたいと思っても、ご自身が医療の知識があったわけではないですよね。どのように事業を推進していかれたのでしょうか。

ニール:起業当初から知り合いに医師がいたので、相談に乗ってもらうことも多かったです。そこからは、優秀な仲間を一人ひとり、想いを伝えながら集めていきました。僕らの主語は患者さんで、患者さんのために何ができるかを共に考えてくれる方を選んでいます。

堂上:素晴らしいです。まさに起業家ですね。ウェルビーイングに関する調査をしていると、人間関係における悩みが非常に多く寄せられます。ニールさんはチームマネジメントをするうえで、気をつけていることはありますか?

ニール:僕はエモーショナルな部分とロジカルな部分、双方を持っている方と一緒に仕事をしたいとよく言っています。双方を持っていないと達成できないことが多い市場だと思うので。人と人との関係性の中でも、感情を切り分けて、ロジカルに話すことは意識しながらも、感性的に寄り添うという両軸を意識しています。僕は「エモロジ人材」と勝手に呼んでいます。

堂上:「エモロジ人材」、良いネーミングですね! どの仕事でも重要だと思います。

精神医療領域における情報格差をなくす

堂上:僕も20代の頃に友人がうつ病で、何もできない自分に力不足を感じました。失わなくてもすんだ命になぜ寄り添えなかったのか、っていうのが今だに鮮明に覚えていることです。ニールさんの場合は、お友達にはどのように寄り添われたのですか?

ニール:基本的に医療に繋がることは、信頼できる医師に任せるのが一番だと思うのですが、いわゆる投薬や認知行動療法のアプローチ以外のケアという点では、うつ病に対して理解のある人間として接することはできたかと思います。

堂上:アトラスト・ヘルスのプロダクトも、うつ病の方に寄り添うというイメージですか?

ニール:僕たちのプロダクトで取り組んでいるのは、情報格差をなくすということです。精神科や心療内科などの医療との接点がない方も多いと思うので、まずは医療へのアクセスを改善したり、患者さんに必要な情報を提供したり、そういった場にしていきたいと思っています。

堂上:オンラインで診療を受けることができれば、外に出られない方もサービスを受けることができますね。

ニール:はい。ただ重症度が高い場合は対面で診てもらわなければならないので、提携院の医師の判断のもと、連携している全国の病院をご案内しています。

堂上:今、日本に患者さんはどのくらいいるのでしょうか。

ニール:厚生労働省の調査によれば、令和2年の発表では400万人(平成29年度)を超えています(※)。ただこの数字は既に通院している、いわゆる顕在層なので、通院していない潜在層を合わせるとその数倍ともいわれています。
※出典:厚生労働省ホームページ

堂上:そういった方々は、自覚症状があるものなのでしょうか。

ニール:顕在層については、自覚症状が発症して病院に行かれる方が一定数いらっしゃいます。朝起きられなかったり、不安でモヤモヤしたりして、それが家事や育児、仕事に影響し、いつもの生活ができないことに違和感を覚えて通院を始めるというケースです。

堂上:なるほど。オンラインサービスだとデータがたまっていくので、それを活かしていくこともできそうですね。

ニール:そうですね。診断の支援をしたり、治療の選択肢を広げたりすることに活用していけると良いなと考えています。

堂上:ひとりで悩んでいて、誰にも相談できないという人も多いと思います。そういった方々にはアプローチするのが難しそうですが、どうやって情報を届けようと思われていますか。

ニール:そこは難しい課題ですね。僕らが今できていることは、病院に行こうと思った段階で、さまざまな選択肢を提供すること。また通院だけでなく、制度に関する情報も提供しています。

たとえば該当する病気であれば、通院の医療費が下がる制度もあるのですが、内容が難解であまり知られていません。またメンタルが不調の方にとって、難解な長文を読むのは大変負担です。それを分かりやすく伝えることで、まずはサポートができたらと思っています。

堂上:なるほど。制度を利用することで金銭的にも負担が減ると良いですよね。

ニール:医療体験というのは、単体で完結するよりも生活のインフラとして、必要な支援やサービスと連携されているとより良い体験になっていくのではないかと思います。たとえば、通院を終えた後も、社会や経済的に復帰するためのサポートが必要です。そういった精神福祉の領域もつなげることで、自立までトータルでサポートする、新しいスタンダードを作っていきたいですね。

堂上:サービスを利用する方は、どの世代の方が多いですか?

ニール:現在は、20代から40代までの方が多いです。

堂上:就職活動が終わって、会社に入ってライフステージが変わったタイミングでメンタル不調が起こるケースも多いのでしょうか。

ニール:ライフステージが変わることで、メンタルヘルスに不調が起きるケースは一定数あると思います。僕たちのサービスは対面診療の他にオンライン診療の支援も行っているため、デジタルネイティブの方々も使ってくださっているという傾向もあると思います。

堂上:デジタルネイティブの方々にとっては、心理的ハードルを下げて診療を受けることができますね。

ニール:心の病気において、早期に発見・治療を行うことは重要です(※)。なるべく早い段階で医療との接点を作るために、今後も開発に取り組んでいきたいと考えています。
※出典:厚生労働省ホームページ

日常のささやかな幸せを取り戻す

堂上:ニールさんご自身は、どういった時にウェルビーイングを感じますか?

ニール:新しい価値観に触れたり、社会になかった仕組みからインフラ作りをしているのが責任を感じつつ楽しいです。

堂上:僕もウェルビーイング産業というのを創っていきたいと思っているので、とても共感します。ニールさんは、たとえば2050年に、どんな未来が広がっていてほしいと思われますか。

ニール:そうですね。ウェルビーイングな社会というのはとても素敵なことだと思うのですが、身体・精神ともに完全に満足できる状態を指すような感じもします。

一方で、僕らがご一緒させていただいている患者さんは、-1の状態からスタートするようなケースが多いんです。なので僕らは全ての人が、ささやかな幸せを取り戻せる世界を作ることを目指したいと思っています。今までの生活では気づけなかったけれど、実はそこに小さな幸せがあって、それに気づけるようになる。それだけで良いなと思いますね。

堂上:医療では-1から0に戻す、治すということに注力しがちですが、0をキープするというのもとても大事ですし、普段の何気ない生活の中で幸せを感じるというのは、とても重要ですよね。

ニール:はい、そう思います。あるうつ病の患者さんは、精神医療に出会うまでは何も手がつけられず、世界がモノクロノームに見えていたそうです。そこから精神医療に出会って、通院を続けていく中で、少しずつ良い時と悪い時の波が発生し始めました。

医師から調子が良い時に、本を読んでみたらと提案されて、本を読むようになったんです。そうしたら本を読むことが趣味になって、最終的には、町に小さな本屋を作るのが夢だと語られるようになりました。この方のお話を聞いて、改めて僕らは、医療へのアクセシリビリティを高めることと、通院後の人生を歩んでいくためのサポートの2つを行うべきだと感じ会社のビジョンを設定しました。

堂上:ものすごく素敵なお話です。僕らはウェルビーイングメディアですが、ウェルビーイングとはこういうものである、という定義はしていません。それはきっと人の価値観や生まれ育った価値観によって多様であって、「これがウェルビーイングだ」と押し付けることは「Not ウェルビーイング」だと思います。

だからこそ、メディアを通してさまざまな人のウェルビーイングを知っていただくことで、自分のウェルビーイングに気づいてもらうきっかけになったらと思っています。今お話された患者さんにとっては、本を読む瞬間や、本屋を作りたいという夢がウェルビーイングに繋がっていると思うし、そういうきっかけを作られているのは、僕らときっと同じ想いでやっていらっしゃるんだなと思いました。

ニール:そうですね。素敵なことだと思います。

堂上:世界では戦争や対立が起こったり、貧困の問題も根深くある中で、よりみんながウェルビーイングな生活を送るためにはどのようなことをしていけば良いと思われますか。

ニール:経済的な格差などさまざまな状況があるので、必ずしも僕らが行っているアプローチだけでプラスに働くわけではないと思います。しかし、どの世界にもその生活に小さな幸せがあるはずです。ささやかな日常の幸せに気づける、それを取り戻すというのは、世界のウェルビーイングを考えた時に共通していることなのかな、と思いますね。

堂上:多様な価値観を知っているニールさんだからこそのお言葉だと思います。人によってバックグラウンドや価値観が異なる中で、ウェルビーイングな世界を目指すにはどうしたら良いのか、その問いを持ち続けることが重要だと思います。本日はありがとうございました。

 

堂上編集後記:

ニールさんとは、この対談のあと、サッカー談義で盛り上がりました。僕自身もサッカー少年だったこともあり、ニールさんもサッカー経験者で、ポジションからその人ならではの性格が出てくる。ニールさんの、相手の気持ちに立つ姿勢と、最後は自分の意志を持って進む形は、フォワードの攻めからの守りを献身的に行うところと、自分でシュートを決めたいというリーダーシップを感じ取った。

また常にグローバルな環境にあった生活環境は、ニールさん自身の多様な方たちとの共生が当たり前になっていることも感じるものだった。僕たちも、世界を変えていくプラットフォーマーになっていくべく、大きな視点で挑戦を続けたい。とても勇気を頂く対談になった。ありがとうございました。

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