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タンパク質を摂る量によって幸福度が変わる? 時間栄養学から紐解く食生活とウェルビーイングの関連性

心身の健康において、食が及ぼす影響は大きい。ダイエットを通してそれを感じる人は多いのではないだろうか。また、好きな食事を摂ることで幸福感を得られる人も多いはずだ。簡単な食事記録でカロリー計算・体重管理ができるAI食事管理アプリ「あすけん」では、個人への食事のアドバイスはもちろん、より良い食生活を提案するため、大学教授との共同研究を積極的に実施している。

時間栄養学を専門とする柴田重信教授と実施した調査によれば、コロナ禍の外出自粛により生活リズムが変化した結果、体重にも大きな変化が見られたという。食事を摂る時間、食生活と、ウェルビーイングにはどのような関係性があるのだろうか。

株式会社askenの取締役であり、管理栄養士である道江美貴子さんと広島大学・柴田重信教授に、​​Wellulu編集部プロデューサーの左達也とライターの齋藤優里花が話を伺った。

本記事のリリース情報
ウェブサイト『Wellulu』で広島大学 柴田教授と管理栄養士 道江の対談記事が掲載されました

コロナ禍で夜型化した人々に起こった変化とは

左:株式会社askenと柴田教授は様々な共同研究をされていらっしゃいます。きっかけは何だったのでしょうか?

柴田:私からご連絡したんです。時間栄養学に関して共同研究してくれる食事管理アプリの会社を探していて、何社かコンタクトを取ったのですが、株式会社askenは研究に対して歓迎的な反応をしてくれました。

道江:私は管理栄養士なので、先生の書かれた著書を読んだり、講演会を聞いたりして、時間栄養学について関心がありました。ですから、先生の方からご連絡を頂いて驚きましたし、ぜひ一緒に研究したいとお答えしました。弊社のスタンスとしても、共同研究によってエビデンスを積み上げていくことは重要視しています。

左:最初にどのような研究を始めたのですか?

道江:コロナ禍の外出自粛中に生活リズムがどう変化するかの調査を行いました。弊社が提供する食事管理アプリ「あすけん」の利用者に対してアンケート調査を実施し、約3万人から回答を得ました。

柴田:これまで食のタイミングや内容を考える時間栄養学の研究を進めてきた中で、体内時計の乱れや朝食欠食、夜食などと肥満の関連が明らかになっていました。しかし、実際にどのような食べ方や生活をすれば、体重をコントロールできるのかはよく分かっていませんでした。「あすけん」との共同調査を行うことで、コロナ禍の外出自粛により、生活習慣と体重変化の関係を掴める可能性があると考えました。

左:調査の結果はどうだったのでしょうか。

柴田:生活習慣は大きく二極化しました。仕事がリモートワークになり、通勤時間がなくなったことで、夜更かしするようになり、夜型に移行した人。付き合いで飲みに行くことがなくなるなどして、朝型に移行した人です。そして体重変化を比べたところ、夜型化した人が太っており、朝型化した人は痩せていました。明確に数値が分かれたのです。ここまで大きくデータが取れたのは、3万人という大きな調査母数があったからだと思います。

左:朝型というのは、何時から何時に起きる人のことを言うのでしょうか?

柴田:年齢や遺伝によって個人差がありますが、一般的には、6時30分より前に起きるのが朝型、9時30分より後に起きるのが夜型だと考えると良いでしょう。中間型はこの間になりますね。

齋藤:朝型や夜型に遺伝があるのですか?

柴田:ええ。遺伝的に朝型・夜型が決まっていることもあります。そういった人は、それを無理に変えるのは難しいですね。遺伝ではなく、通勤や通学など、社会的な制約によって夜型化している人は、少しずつ朝型に変えていけると良いです。朝型に変えるために重要なのが、食事です。早寝早起きしようと思って、早い時間に寝ようとしてもなかなか難しいじゃないですか。それでも早く起きて、日光を浴びて、食事を摂れば、段々と朝の習慣が増えて、朝型化していけるんです。

左:なるほど。朝のルーティンを決めると良いのですね。朝ごはんは何を食べたら良いのでしょうか。

柴田:まず炭水化物とタンパク質を摂ることを意識した方が良いですね。タンパク質の方を少し詳しく説明しますと、性別や年齢、運動量などによって差はありますが、大体1日に60~80gのタンパク質を摂ることが推奨されています。エネルギー比率で言うと、大体15~20%ですね。そう考えると朝は20g程度のタンパク質を摂ると良いのですが、大抵の人は足りていません。たとえば卵や牛乳など、タンパク質を加えると良いです。

齋藤:タンパク質を20g摂るなんて、意識したことがなかったです。卵や牛乳を摂るようにしたいと思います。

柴田:だからと言って、同じものばかり食べるのも良くないですよ。お肉やお魚、乳製品、大豆など、バリエーションよく摂ることが重要です。人間は進化の過程で雑食に行き着いているわけですから、様々な種類の食べ物を摂るのが自然です。そういった観点でも、和食文化というのはとても良いですね。和食、洋食、シリアル食などに分けて分析すると、朝型の人ほど和食を、夜型の人ほど洋食やシリアル食を摂っています。朝の時間がないから、簡単に用意出来るシリアルを食べている人が多いわけですね。朝は時間がなくて大変だと思いますが、10~20分で良いので早く起きて、様々な食材を使った和食を食べることをおすすめします。

タンパク質とウェルビーイングの関連性

左:コロナ禍の共同研究では、間食についても調査されていらっしゃいますね。

柴田:どの時間に間食を摂ったかまで調べることはできないのですが、夜型の人ほど間食を摂っていたということは明らかになっています。

道江:特に若い世代にその傾向が見られましたよね。学校も通学がなくなり、リモートに切り替わったことで夜型にシフトし、間食が増えていました。

左:朝ごはんのお話も踏まえると、朝にタンパク質を摂っていない、タンパク質の量が足りていないことで、満足感がなく、間食が増えているようにも思えます。

柴田:実はタンパク質というのは、ウェルビーイングと関連性があるんですね。たとえば炭水化物を摂りすぎると健康に良くないことは分かっていますが、ウェルビーイングとの関連性はあまりないんです。ウェルビーイングに良いという結果も悪いという結果も出ていません。一方で、タンパク質は主菜で摂ることが多いので、健康にはもちろん、ウェルビーイング、満足度にも影響を与えています。これは食事において非常に重要だと思いますね。健康になるからと言って、ウェルビーイングに繋がらない食事ばかり摂っていても心身の健康にはつながりませんから。

道江:「あすけん」のアプリでは主観的な今日の調子を記録できるようになっていて、今摂っている食事がウェルビーイングに繋がっているかどうかも提示していきたいと考えています。

柴田:よく「毎日3食、ずっと健康的な食事を摂るなんてやってられない」と言われるのですが、毎日3食やれと言っているわけではないんです。たまにはご褒美をあげても良いんですよ。人間の体内時計は24時間ピッタリで動いているわけではなく、少し余裕があるんですね。たとえば時差ボケをしても戻るでしょう。要するに、リカバリーが効くようになっているのです。ですから、リカバリーが効く範囲で、たまに好きなように過ごすのは良いんです。ただ夜型の毎日がずっと続いたら、なかなかその習慣を戻すのは大変です。生活リズムが崩れていってしまう。その兼ね合いをコントロールすることが大切です。

齋藤:「あすけん」のアプリで食事のウェルビーイングに関して実現したいことはありますか?

道江:我々のアプリでは食事を記録し、アドバイスを提示したり、栄養摂取状況を可視化したりしています。最初はダイエット目的でアプリを使い始める方が多いのですが、長く継続される方にお話を伺ってみると、食事を変えたことで調子が良くなったと答える方が多いです。仕事に集中できるようになったとか、気持ちが落ち着くようになったとか。食事はウェルビーイングと大きく関わっていると感じます。ただそれにまだ気づいていない方が多く、病気になってから食事の重要性に気づく方もいます。そうなる前に、食事を見直すきっかけをお渡ししたいという思いがありますね。

左:なぜ、事前に気づけない人が多いと思われますか?

道江:現状、体に不具合がないと、気づくきっかけがないですよね。本当は誰もが一生涯健康でいたいはず。もし今がウェルビーイングの観点では問題がなくとも、病気になってしまったらそれが一気に崩れてしまいます。その前に、食事に関して少しでも考えていただくきっかけを作っていきたいです。

左:食べ物に関する知識を学校で教育される機会が少ない現状では、家庭環境の影響も大きいでしょうか。

柴田:親の影響は大きいです。特に子どもをメインでケアする人の生活リズムと、子どもの生活リズムは類似します。子は親を見て育ちますし、たとえば夜にスマホを見て、アイスやジュースを食べていたら、なかなか寝られませんから、夜型になっていきます。やはり子どもの食生活のためには、親の食生活と生活リズムを正すことは重要です。朝食を食べないと学力に影響が出ることも研究で明らかになっています。

道江:朝食は家族のコミュニケーションの場にもなりますよね。受験生だと、塾に通ったりして夜ごはんは親と別の場合も多いと思います。昼ごはんが給食となると、親が調整できるのは朝食なんですよね。「あすけん」のユーザーさんは食事への意識が高いですが、子育てや仕事で忙しい方は、時間がない中で食事の管理に悩まれています。そういった方々に向けて、栄養が摂れるだけでなく、受け入れやすいように、簡単に作れるかどうかも大切にしていきたいです。

食生活をいきなり変えるのは困難。出来ることから習慣化を

左:Welluluの読者の中にも、食事を変えたいという意識はありながら、どこからどのように変えたら良いか分からないという方は多くいます。そういった方にアドバイスはありますか?

道江:食生活を正しくしようと思うと、自炊しなきゃいけない、外食しちゃいけない、飲みにいっちゃいけないと考える方がいますが、長い人生を考えた時、ウェルビーイングを保ちながら食事を変えるということを考えると、無理に完璧にする必要はないと思うんです。「あすけん」のユーザーさんは食事への意識は高いですが、「今日はいいや」と思える緩さがある人の方が長期間継続します。辛くならないポイントを自分で知っている方が、長く続いていると感じます。

柴田:いきなり完璧にやりすぎないことですね。朝コーヒーしか飲んでいないなら、まずはコンビニでタンパク質が摂れる飲み物を買うところから始めてみる。それなら簡単に出来るでしょう。慣れてきてから、少しずつ自炊すれば良いんですよ。

左:習慣化するためには、どの程度の時間が目安でしょうか?

道江:食生活の習慣を変えるには3ヶ月~半年くらいはかかると思います。しかし、その習慣に慣れたら、一度崩れても戻しやすくなりますよ。ぜひ「あすけん」を活用して、習慣化していってほしいです。一生涯、ウェルビーイングな状態を継続するためには、欲望のままに食事をしていたら、生活習慣病などのリスクがあがって、ウェルビーイングな期間が短くなることもあります。食事を楽しみながらも調整することが出来る「食事の選択力」が身につくと、ウェルビーイングな状態を長く続けられると思います。

柴田:健康寿命というのは、体の健康だけではないですからね。健康というのは心も体も健康で、社会に参加できてこそです。そういった観点では、3食のうち1食は誰かと一緒に、会話しながら食べるということも大事ですよ。孤食はやはり良くないです。

左:誰かと一緒に食事を摂るというのはウェルビーイングの根幹かもしれません。

柴田:誰かと共に食べるという点でも、和食は良いと考えられています。シリアルを食べる人より、和食を食べる人の方が孤食が少ないというデータもあるんですよ。

齋藤:自分1人のためにお米を炊いて、お味噌汁を作って……ということは、なかなか習慣的に続けにくい人が多いのかもしれません。シリアルの方が簡単ですし。

柴田:様々な観点から、朝の食事というのは生活の基準であり、ウェルビーイングにつながります。そもそも人間は昼に活動する生き物です。社会も昼に働くように出来ていますよね。夜型の人は社会との接点も作りにくくなっていきます。また睡眠に関しても、夜型の人は平日は短時間睡眠になりやすく、太りやすいという結果が出ています。夜中に食べて寝ると、睡眠の質も下がりますし、やはり人間の基準は夜ではないんですね。朝から始まって、昼に活動する生き物ですから、やはり朝の時間と朝食というものを大事にしたいですよね。

左:様々な課題に気づくためにも、まずは自分の食事や時間を見える化するということが大切だと感じました。長くウェルビーイングを維持する人生を送るために、食事と生活リズム、時間との深い相関性を知ることができました。

道江 美貴子さん

株式会社asken取締役 管理栄養士

女子栄養大学栄養学部卒業後、グリーンハウス(100%出資親会社)に入社。これまで100社以上の企業で健康アドバイザーを務める。2007年、「あすけん」の立ち上げに参画し、企画・コンテンツ制作・開発管理などに携わる。
現在、あすけん事業統括責任者。 著書『結局、これを食べるが勝ち』(ワニブックス)、『なぜあの人は、夜中にラーメン食べても太らないのか?』(クロスメディア・パブリッシング)など。

柴田 重信さん

広島大学

1953年生まれ。76年九州大学薬学部薬学科卒業。81年九州大学大学院薬学研究科博士課程修了。薬学博士。早稲田大学人間科学部教授などを経て、2023年まで同大理工学術院先進理工学部電気・情報生命工学科教授を務めたのち、早稲田大学名誉教授、広島大学医系科学研究科特任教授、日本時間栄養学会理事・顧問などを兼任。
監修書に『食べる時間を変えるだけ!知って得する時間栄養学』、共著書に『Q&Aですらすらわかる体内時計健康法−時間栄養学・時間運動学・時間睡眠学から解く健康−』、著書に『食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門 体内時計が左右する肥満、老化、生活習慣病』ほかがある。

左 達也さん

Wellulu編集部プロデューサー

福岡市生まれ。九州大学経済学部卒業後、博報堂に入社。デジタル・データ専門ユニットで、全社のデジタル・データシフトを推進後、生活総研では生活者発想を広く社会に役立てる教育プログラム開発に従事。ミライの事業室では、スタートアップと協業・連携を推進するHakuhodo Alliance OneやWell-beingテーマでのビジネスを推進。Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。毎朝の筋トレとランニングで体脂肪率8〜10%の維持が自身のウェルビーイングの素。

齋藤 優里花さん

ライター

慶応義塾大学文学部卒業。JTB首都圏(現:JTB)、リクルートコミュニケーションズ(現:リクルート)にて勤務したのち、独立。マーケティングからweb制作ディレクション、取材・ライティング、メディア運営と幅広く活動。幼少期の海外在住経験や、大学時代にシェイクスピアについて学んだ経験から、芸術が自身のウェルビーイングに必要不可欠。

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