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【渡邉瞬氏】野菜がウェルビーイングな職場をつくる

「健康経営」というワードとともに、中小企業を中心に話題となっているサービスがある。オフィス内に設置された冷蔵庫内の野菜やフルーツ、惣菜を1つ100円〜で購入できるという、設置型の健康社食サービス「OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)」だ。

今回お話を伺ったのは、「OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)」を展開している株式会社KOMPEITOの渡邉瞬さん。どんな想いでサービスを開発したのか、そして従業員の健康を促進するサービスを提供する会社自体のウェルビーイングな取り組みとは? Wellulu編集部の堂上研が話を伺った。

 

渡邉 瞬さん

株式会社KOMPEITO 代表取締役CEO

1983年、神奈川県生まれ。横浜市立大学商学部卒業後、新卒で日系コンサルティングファームに入社。主に製造業の製造・物流部門のコンサルティングに従事。農業コンサルの研究を2010年頃から始め、農業界の活性化に向け大きなインパクトを!と、新たな流通の仕組み構築に向け2012年に株式会社KOMPEITOを創業。2014年から、設置型の健康社食サービス「OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)」を開始。
好きな野菜はミニトマトとナス。

堂上 研

Wellulu編集部プロデューサー

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。

言いたいことを言える=ウェルビーイング?

堂上:「OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)」、個人的にすごく興味があるんです。オフィス環境は「ウェルビーイングに働くこと」に深く関連していると思っているので、今日はお話を伺えるのをすごく楽しみにしていました。渡邉さん、本日はどうぞよろしくお願いします!

渡邉:こちらこそよろしくお願いします。

堂上:早速ですが、まず簡単に自己紹介をしていただいてもよろしいでしょうか。

渡邉:横浜生まれ横浜育ち。現在は藤沢の鵠沼海岸の近くで、妻と子ども2人との4人暮らしです。

堂上:自然が豊かな街! 良いですね。自己紹介のはじめに家族の話をする方はウェルビーイング度が高いと思います。Welluluでもはじめてかもです。ご家族は仲が良さそうですね。

渡邉:仲は良いと思います。ただ平日は僕が会食ばかりですし、子どもは中3と小6なので、部活や友達と遊ぶので忙しくてなかなか顔を合わせられませんが……。それでも週末は一緒にご飯を食べたり、最近は次女が好きなアーティストのライブに一緒に行ったりしています。

堂上:へぇ! 素敵なお父さんですね。会社でもこういった親しみやすい雰囲気なんですか?

渡邉:どうなんでしょう。怒るときは怒りますが、雰囲気はそこまで変わらないかもしれません。

堂上:素敵です。お父さんとしても経営者としても、渡邉さんのような明るい方がいるコミュニティは雰囲気も自然と明るくなりますよね。物事を常にポジティブに考えている感じがすごく伝わってきて、もうすでに「ウェルビーイングな方だ!」と感じました。

すみません、脱線しました……。自己紹介の続きをお願いします。

渡邉:はい(笑)。大学を卒業した後は、日本能率協会コンサルティングという日系のコンサルファームに入り、コンサルタントとして5年半ほど働いていました。オペレーションコンサルタントとして地方の工場に行って現場の状況を分析したり、データ分析をもとに改善の提案をしたり。

そんななか、仲の良かった先輩が農業のコンサルサービスを立ち上げるということで声をかけていただいたのが、農業や食に関わり始めたきっかけです。そのサービスを通して生産者の方が販路に困られていることを知り、新しい流通モデルを作れば農業や地方が活性化するのではないかという思いで、株式会社KOMPEITOを立ち上げました。

堂上:そうだったんですね。「KOMPEITO」って、いわゆるお菓子の金平糖ですか?

渡邉:はい。会社を辞めて独立を決めたとき、どうせやるなら世の中が変わるような取り組みをしたいと思っていました。とはいえ「世の中を変える」と言うと偉そうな印象があったので、世の中を変えるための刺激を与える存在になりたいと思ったんです。

そしてそのためには、良い意味で棘のある人や色々な色を持った人を集めた組織、かつ、その棘や色を大切にする組織が必要だと思い、「KOMPEITO(金平糖)」という社名にしました。

堂上:なるほど、面白いですね! 金平糖が、野菜を運ぶということですね。

堂上:ちなみに、渡邉さんは小さい頃から楽しいことや新しいことをするのが好きだったんですか? 渡邉さんからはものすごいバイタリティを感じるので、その原体験を知りたいです。

渡邉:「変わっていた」とよく言われます。クラスでは少し浮いていたような気がしますね。子育てをするようになって、自分がいかにひねくれていたかを改めて実感しました。

堂上:そうなんですか! たとえば?

渡邉:授業を真面目に聞かず寝ていたり、ずっと絵を描いていたり……。運良く勉強も得意だったので、「やることやれば授業なんて聞かなくて良いでしょ!」みたいな態度を取っていました。

あとは「給食は残さず食べなさい」と言う先生に、「なんでこっちが給食費払ってるのに無理して食べなきゃいけないんだ!」と言い返して親が呼び出されたり……(笑)。

会社に小学校時代の同級生がいるんですけど、「小学校の時はひどかったよね」と今だによく言われます(笑)。

堂上:小学生が納得いかないことを先生に聞く。素晴らしいですね。でも、実はおかしいと思ったことをおかしいと言えるのはウェルビーイングな生き方ともすごく関連しているんですよ。

組織やコミュニティで色々な人と付き合いながら生きているなか、価値観を押し付けられたりルールで縛られたりしているときって、ウェルビーイングではなくなってしまうことが多いんです。そんななか、言いたいことを言う人が組織の中に一人でもいると、周りの人にも良い影響を及ぼします。子ども時代からそれを実現していた渡邉さんはすごいです。

渡邉:ありがとうございます。

「上手くいくはずない」と言われた事業が急成長

堂上:ここからは株式会社KOMPEITOでやられている事業「OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)」について伺えればと思います。簡単にサービスの紹介をしていただいてもよろしいでしょうか?

渡邉:もちろんです。「OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)」は、新鮮な野菜やフルーツ、惣菜を冷蔵庫ごとオフィスにお届けするサブスクリプション型の福利厚生サービスです。月に150個お届けで月額利用料は6万8,000円、従業員の方は1つ100円からご購入いただけます。

実際にオフィスに設置される冷蔵庫の例

堂上:素敵なサービスですよね。僕も普段はビルの23階で仕事をしていて、ランチの時間にエレベーターで下まで行くのが面倒なことがあるので、そんな時に「OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)」があったらすごく便利なのだろうなと思っています。

渡邉:ありがとうございます。そのようなニーズも多く、これまで累計で導入台数は1万3,000台を突破しました。

堂上:すごいですね! 実は新規事業に関わるようになってから、似たようなサービスの企画に携わったことがあったんです。でも、当時はなかなか上手くいく未来が見えず、実装まではいきませんでした。

それに、数年前にはコロナの影響もあってリモートワークが主流になりましたよね。そんな中、オフィスに野菜を届けて社員に食べてもらうというビジネスモデル自体に無理があるのではと思っていたのですが、「OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)」はグンと業績を伸ばしています。事業が一気に成長したきっかけや、ターニングポイントは何かあったのでしょうか。

渡邉:サービスをスタートさせたのが2014年だったのですが、当時は周りから「絶対にうまくいかない」と言われていました。だからこそ、根底にあるのは諦めずにやり続ける力なのだと思います。2017年頃からは、「健康経営」というワードが世の中的にも注目されるようになって、少しずつ軌道に乗ってきたような感じですね。

それから、コロナ禍も僕らにとってはターニングポイントでした。堂上さん、リモートワークが増えると「OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)」のようなサービスの需要は減ると思いませんか?

堂上:まさにそう思ってました。単純にオフィスにいる人数が減りますからね。

渡邉:実はそうでもなかったんです。コロナ以前は、お客様のほとんどが東京・大阪・名古屋などの都心部だったのですが、コロナ禍に山陰地方で1番大きな会社の社長から直々に問い合わせをいただきました。話を聞いてみると、「業態的に出社しなければいけないけど、周りの飲食店がみんな閉店してるから困っている」とのことだったんです。

堂上:なるほど……! 確かに、あの頃は飲食店がほとんど休業していましたよね。

渡邉:コロナ禍じゃなくても、特に地方の場合は会社の周辺に飲食店がなくてランチに困っている会社が多いんです。地方にニーズがあるとわかってからは、これまで都心部にかけていた広告費を地方に回したり、地域金融機関やその土地の企業様と組んだりしながらサービスを広めていきました。

堂上:それでサービスの業績がグンと伸びたわけですね。素晴らしいです。

もうひとつ、僕がこの事業が上手くいかないと思った理由があって……。野菜やチルド商品は基本的には生もので消費期限が短いものが多いから、衛生面も気をつけなきゃいけないですよね。その辺りはどう解決したんでしょうか。

渡邉:僕たちも、全部の冷蔵庫できゅうりが腐ってしまうという大変な事件が創業当初にありました。幸いなことに、ちょうど同じタイミングで食品メーカーのキユーピー株式会社さんに興味を持っていただいていて、この事件をきっかけに品質管理のノウハウを教えていただくことになったんです。

堂上:素敵な出会いですね。渡邉さんのウェルビーイングな生き方が、出会うべきタイミングで出会うべき人に出会わせてくれたのでしょうね。

「Free! Flat! Fun!」で、ウェルビーイングな働き方を実現

堂上:こうして渡邉さんとお話ししていると、渡邉さんの雰囲気自体が周囲を明るくウェルビーイングにしているのではないかと思えてきました。渡邉さんは普段、経営者として、社員が楽しく働けるように意識していることはありますか?

渡邉:目標を定めたりスケジュールに追われたり、仕事自体にはある程度のストレスがかかるものですし、かかるべきだと思っています。だからこそ、仕事以外の部分、たとえば働く時間や場所はできるだけ自由にできるように環境を整えていますね。オフィス自体も木があったりカラフルに装飾されたりしています。

堂上:楽しそうな雰囲気が伝わってきます。

渡邉:そうですね。僕自身も含め、従業員にはできる限りリラックスした状態で仕事をしてほしいという思いで、クレドにも「Free! Flat! Fun!」を掲げています。特に楽しく仕事をするということは重視していて、意思決定の際にも「楽しめるかどうか」は大切にしていますね。

堂上:僕たちも『Wellulu』を通して「ウェルビーイングな組織とは」についてよく考えますが、やっぱり働く環境はとても大切なんですよね。

それから、渡邉さんの小さい頃の話にもつながりますけど、みんなが言いたいことを言える、自分がやりたいことを主張できるというのも大事な気がします。たとえば、会社にいるとどうしても希望していなかったポジションを任されることがありますよね。その時、「私は本当はこれをやりたいんだ!」と言えるかどうか。

渡邉:そういう面では、弊社はかなりフラットに意見を言い合える環境が整っていると思います。ポジションや部署についても、これまで希望があった場合には希望を叶えられるように調整していますね。

堂上:素晴らしいですね!

50歳で引退、その後は世界一周旅行をしたい

堂上:従業員がウェルビーイングに働くためにさまざまな工夫をされているとのことでしたが、渡邉さんご自身はどんな瞬間に「幸せ」「楽しい」と感じますか?

渡邉:仕事において、上手くいくかわからない瞬間ですね。資金調達とか、大事なプレゼンテーションとか……。

堂上:上手くいくかわからない時からもうワクワクしてるってことですか? 一般的には順調に進んでいるときに楽しさを感じる気がしますが……。

渡邉:僕の場合は上手くいった瞬間に、そのワクワクは一気に下がります(笑)。もっと言えば、一番楽しいのは「大ピンチのとき」です。会社が上手くいっている時よりも、業績が悪いときのほうが楽しいですね。

堂上:やっぱり、変わってますね……(笑)。落ち込むことはありませんか?

渡邉:もちろん勝負に負けたときは落ち込みますが、すぐに何がダメだったか振り返って、アップデートしたい気持ちのほうが大きくなります。

堂上:回復力がすごいのでしょうね。なんとなく分かるような気もします。茨の道を自分でわざわざ作って克服していっている感じが面白いんですよね。

それに、サービス開始当初も「上手くいくはずがない」という意見を、むしろ糧にして、ピンチが訪れても、それを楽しみながら泥臭く踏ん張り続けてきた渡邉さんだからこそ見えている景色があるのだと思います。このお話を伺って、改めて渡邉さんはウェルビーイングに生きている方だと実感しました。

堂上:最後に、渡邉さんは「10年後や20年後、こうなっていたい」という理想はありますか?

渡邉:今後10年かけて、実現したいことが3つあります。

1つは、食品の流通を新しく作ること。僕らはこれまで、中小企業の方々に対して従業員の欠食を少なくする、つまり食の格差を埋めるという課題解決をしてきました。サービス開始から10年が経って、徐々に実現できている実感があります。今後はそれをもっと拡大させて、地域全体の食の格差をなくしたいです。そのために、社食という枠を超え、スーパーや給食なども統合化させた事業を展開したいと考えています。もちろん、「健康」という視点は今後も忘れません。

2つ目は、地域の食の格差をなくす取り組みを軸にして地域活性化につなげるビジネスモデルを確立させることです。

堂上:素晴らしいですね。会社の想いであり、渡邉さん個人の想いでもあるんですね。

渡邉:そうですね。3つ目は、海外事業です。実は2024年5月にアメリカで法人を立ち上げました。「OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)」のように、設置型のサービスで従業員の方が食事をしやすい環境を作ることを、グローバルスタンダードにしたいという想いがあるので、海外事業にも今後さらに力を入れていきます。

僕は今ちょうど40歳なのですが、10年かけてこの3つを実現して、50歳で第一線を退こうと思っています。

堂上:え! そこまで決めてるんですか?

渡邉:実はライフプランは割としっかり立てるタイプなんです。50代のまだ体力があるうちに妻と世界一周旅行をしたいという夢があって……。それで世界で感じた課題に対して、また何かしらの形で関われたらいいなと思っています。

堂上:すごい……! きっと渡邉さんのバイタリティなら有言実行してしまうのでしょうね。世界一周旅行から帰ってきた頃、また取材させてください! 僕もそれまでに成長した姿を見せられるよう精進しておきます。

渡邉:もちろんです!

堂上:今日は、本当に素敵なお話を伺えてすごく楽しかったです。渡邉さん、ありがとうございました!

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