日揮ホールディングス株式会社のITサービス子会社として、デジタルの力で社会課題の解決に取り組むJGC Digital株式会社。
同社が手がける衣類回収サービス「するーぷ」は、無人の回収ボックスとスマートフォンアプリを組み合わせ、衣類を”ゴミ”ではなく”資源”として回収する仕組みだ。環境省のモデル実証事業にも採択され、神奈川・埼玉・鹿児島へと展開の輪を広げている。
今回は、するーぷ事業を牽引する長谷川さん・大神さん・新田さんに「日本における衣類廃棄の現状と課題」「するーぷが生まれた背景」「サービスが目指す循環型社会の未来」について話を伺った。
この記事の監修者

長谷川 順一さん
2020年に日揮ホールディングスに入社。キャリアの開始は、システムエンジニアとしてSierにてシステム開発の下流から上流までの経験を積む。大手複合機メーカーに転職後、サービス開発やソリューション企画、事業企画を経て、事業推進部を担当し新規事業を推進。

大神 智弘さん
2012年に日揮株式会社に入社後、カタールに駐在しスケジュールコントロールや建設スーパーバイザーとして現場を牽引。帰国後はITエンジニアとして3DシステムやVDI環境のシステム運用・開発に従事。
東京大学博士課程に在籍しながら、プラントからの避難シミュレーションシステムを共同開発するなど、技術と学術の両面で実績を重ねる。
現在はデジタルマーケティングを主導しつつ、衣類回収プラットフォームのシステム開発責任者として業務を推進している。

新田 享平さん
ヘルスケアドメインでのアプリ企画、医療DXプラットフォーム開発PJ経験等を経て、2025年よりするーぷ事業にアサイン。
ウェブマーケティング領域の強みを活かし、するーぷによる事業者・ユーザーへの行動変容を導き、CSV(共創価値創出)活動のための新規事業企画を担当。
日本では「年間で約50万トン」の衣類が廃棄されている

── まず、日本における衣類廃棄の現状について、率直にどのような課題があると感じていらっしゃいますか?
長谷川さん:日本国内に供給される年間約80万トンの衣類のうち、6割以上が「リサイクルやリユースに回ることなく廃棄されている」のが現状です。

一方、ペットボトルのリサイクル率はすでに86.9%に達しています。たとえば、「ラベルを剥がしてリサイクルに出す」という行動は、誰に言われるわけでもなく当たり前になっていますよね。
でも、衣類は同じようになっていない。そこに大きな課題があると思っています。
── ペットボトルと比較すると、その差がわかりやすいですね。これほど差がついているのには、どのような理由が考えられますか。
長谷川さん:ペットボトルのリサイクルも、昔から当たり前におこなわれていたわけではなく、法整備が進み、回収インフラが整備され、そして消費者の意識が少しずつ形成されていった。その積み重ねがあって、今の状態があるとも言えます。
「衣類はまだその途中にある」というイメージですね。
── 消費者の意識という点では、どの部分がボトルネックだと考えていらっしゃいますか?
長谷川さん:結局、捨てるかどうかの判断をするのは消費者自身です。衣類をリユース・リサイクルに回すという意識がまだ十分に形成されていない。そこが課題だと思っています。
ただ、これは悲観的な話ではなく「法整備」「回収インフラ」「消費者意識」の3つが整ってくると、徐々に消費者行動に紐づいていくと考えられます。
その中で我々ができるのは「回収インフラ」「消費者意識の変革」と認識しており、そこにアプローチしています。
── ありがとうございます。衣類のリサイクルの普及はこれからだと思いますが、リユース市場全体は右肩上がりに成長しているという話も耳にします。こちらについてお伺いしてもよいでしょうか?
長谷川さん:おっしゃる通り、日本のリユース市場は2024年時点で約3.3兆円規模になっており、右肩上がりで成長しています。

衣類の分野では、近年の古着市場の盛り上がりも影響が大きいのかなと思います。
また、日本人の意識も確実に変わってきていて、とくに若い世代は「シェアする」「捨てない」という価値観が当たり前になってきています。
ただ、それで十分かといったら、まだそうではない。本来使えるはずの衣類の廃棄量は依然として膨大で、循環型の社会をつくっていくためには、もっと大きな仕組みが必要だと強く感じています。
衣類回収が広がらない、構造的な理由とは

── 衣類廃棄の問題を「よくないこと」と認識している人は多いと思いますが、実際に行動に移している人が少ないのには、どういった理由があると思われますか。
長谷川さん:まず消費者側から言うと、「服を捨てることへの罪悪感」は実はかなりの人が持っているんです。アンケートを取ると「思い入れのある服を単純にゴミとして捨てるのは嫌だ、もったいない」という声が非常に多い。
ただ、そこから行動に至らない理由の1つとして「身近に持ち込める場所がない」ということがあげられます。
するーぷの回収ボックスを利用してくださっている方の中には、みなとみらいエリア以外からわざわざ足を運んでくださっている方も多く、本当にありがたいと思う一方で、かなりの手間をかけてしまっていると感じています。
やはり、生活の動線の範囲内に回収できる場所がないと「やろうと思っているけど、まあいいか」で終わってしまうんです。
── 気持ちはあっても、環境が整っていないということですね。事業者側にはどのような課題がありますか?

新田さん:実際に、衣類の回収センターを用意して着払いで送ってくださいと消費者にアナウンスしても、手間がかかるためにほとんど集まらないというアパレル事業者さまの話も聞いたことがあります。
── 継続するには、事業者と消費者の双方にメリットがある形で、事業として成立させないといけないということですね。
長谷川さん:そうなんです。やらなければいけないとはわかっていても、直接的な利益につながらないとなると、予算を出しにくい。
CSR(企業の社会貢献活動)の枠でやっていると、儲かっていないと継続が困難になってしまうケースもあります。
社会課題の解決を事業の中に組み込んでいく仕組み、つまりCSV(共通価値の創造)の発想に変えていかないと、この問題は根本的には解決しないと考えています。
するーぷが目指す「資源回収の新しい形」

── ここまで、衣類廃棄・回収の現状や課題についてお伺いしましたが、その中で「するーぷ」というサービスはどうやって立ち上がったのでしょうか。
長谷川さん:まず前提として、私たちJGCグループは総合エンジニアリングの会社です。
もともとは石油精製のプラントをつくるところから始まり、今もメインの事業は液化天然ガスなどのエネルギー関連です。「衣類回収サービスをつくる会社」というイメージとは、少し遠いですよね。
でも実は、するーぷの誕生にはJGCグループとしての大きな文脈があります。グループ全体として再生可能エネルギーや資源循環の領域に力を入れていく中で、ポリエステルのケミカルリサイクル技術のライセンス事業を手がけるようになりました。
この技術は、使用済みポリエステル繊維製品を化学的に分解し、再び原料レベルに戻すものです。
── それがどのように「するーぷ」へとつながったのでしょうか?
長谷川さん:その技術を活かしてリサイクルを実装しようとしたとき、大きな壁にぶつかりました。アパレル企業の方々と話すと、「そのリサイクルに回す原料がちゃんと集まるのか?」という問いが必ず出てくるんです。
リサイクル技術がどんなに優れていても、「原料となる衣類が集まらなければ事業として成り立たない」という課題に直面したわけです。
であれば、原料回収の仕組み自体を事業として成り立つ形でつくれないか、というところからするーぷの構想が始まりました。
服を集めて古着として売りたいということではなく、資源回収のインフラをつくるというのが、私たちの立ち位置です。
── なるほど。そこからどのように形にしていったのですか?
長谷川さん:最初はとにかく「ユーザーにこの仕組みが刺さるのか」を確かめることが先でした。
2024年1月から約2ヵ月半、神戸の三宮エリアに4つの回収ボックスを設置して実証実験をしました。実際にアプリとボックスをつくって、とりあえずやってみようと。

始める前は正直「1日1回くらいボックスがいっぱいになればいいな」というくらいでした。ところがふたを開けてみたら、1時間に3〜4回いっぱいになるくらいユーザーさんが来てくれた。
ほぼずっと衣類を運び続けているような状態で、正直びっくりしましたね。
── それはかなりの手応えですね!その後の展開を教えてください。
長谷川さん:「ニーズは間違いなくある」という確信が持てました。そこから神戸での実績を見ていただいた三菱地所株式会社さまや相鉄ホールディングス株式会社さまなどからお声がけいただき、2024年7月から横浜での実証実験へと展開していきました。
新田さん:また、「設置先の施設やパートナーさまとコラボしたボックスをつくる」ということにもチャレンジしました。
たとえば、京浜急行電鉄株式会社さまとは電車のカラーリングをボックスに取り入れたラッピングにしてみたり、熊谷市を拠点とするラグビーチーム「埼玉パナソニックワイルドナイツ」とコラボしたデザインにしたり。
ただの回収ボックスではなく、その場所に馴染んで人の目を引く存在にしたいという思いで、いろいろなアイデアを考えました。

── どれも個性的で目を引くデザインですね!単純に「服を集めて売る」ビジネスとは、根本的に発想が違うということが伝わりました。
長谷川さん:そこは強調したいところです。私たちは回収した服を使って利益を出すモデルではありません。
回収した衣類はナカノ株式会社さまなど、既存の再資源化事業者さまに引き渡して、リユース・リサイクルに活用いただく。既存のプレイヤーと競合するのではなく、一緒に循環の仕組みをつくっていく、というスタンスです。
だからこそ、多くのパートナーさまと協力関係を築けているのだと思っています。
ただの回収ボックスじゃない!するーぷが持つ「ほかにはない強み」

── ところで、するーぷというサービス名には、どんな意味が込められているのですか?
長谷川さん:これ、実はダジャレなんです(笑)。「”ちょっといいこと”を、るーぷ(習慣に)する」という意味で、「するーぷ」という名前にしました。
アンケートを取ってみると、メインのユーザー層は30〜50代の女性で、お子さんのいる方も多い。子どもと一緒に楽しめる、ワクワクするようなデザインにしたいという想いから、カラフルなロゴにしました。

「服を捨てることへの罪悪感を楽しい体験に変えたい」そんな想いがサービス全体の設計に込められています。
── 配色が可愛くて目を引きますね!衣類を回収ボックスに持っていくとポイントが貯まるという仕組みも面白いなと思いました。
長谷川さん:最初は「ポイントがもらえるから参加してくれているユーザーが多いんだろうな」と思っていたんです。でもアンケートを取ってみると、ポイントと同じくらいの割合で「服を捨てる罪悪感を減らせるから」という回答があったんです。
「罪悪感がなくなる」という感情的な動機と、「ポイントがもらえる」という実利的なインセンティブ、この両輪がそろって初めて人の行動が後押しされるということが、データとしてもはっきりわかりました。

── ポイントはクーポンと交換したり、寄付したりできると思いますが、こうした楽しみ方があると続けやすそうですね。
長谷川さん:ポイントを貯めること自体を楽しんでいただいているユーザーさんもいますし、貯めたポイントをクーポンに交換するなど、まずは楽しんで参加してもらうことが大切だと考えています 。
その先に、少しずつ「こういう活動って大事だよね」という意識を持ってもらえると嬉しいですね。
── するーぷにはさまざまな面白い仕組みがありますが、独自の強みはどこにあるとお考えですか?
長谷川さん:一番は、アプリを通じてユーザーさんと継続的な接点を持てることだと思っています。
今ある衣類回収の仕組みは、ただ置いておくだけのものがほとんどなんです。誰がいつ何を入れたか、まったくわからない。でも私たちは、どのユーザーさんがいつどこで回収に出したかがわかる。
また、ユーザーアンケートをお願いしたところ、1,000人近くの方から一気に回答をいただいたこともあります。このように、コアなユーザーさんとの接点を持ち続けられているというのは、独自の強みかなと思います。
── アプリの機能として、ポイント付与以外にも工夫されている点はありますか?
長谷川さん:服を持っていったときにしかアプリを開かないのでは、アクティブユーザーが増えにくいんですよね。
そこでログインボーナスを付けたり、ビンゴ機能を追加したりしました。服がなくてもアプリを開いてもらえる理由をつくることで、アクティブユーザー数がかなり伸びてきています。
ほかにも、チェックインボーナスといって、回収ボックスに行くとポイントがもらえる仕組みもあります。
アプリを含めた「するーぷを利用する」行為が施設への集客にもつながっていて、アンケートによると「するーぷを使うために外出したことがある」というユーザーさんが約4割もいるんです。
設置先の企業さまにとっては「するーぷがあることで来店・来館のきっかけになる」というメリットにもなるので、衣類回収をコストとしてではなく、マーケティングの手段として位置づけていただける。これが私たちが目指している形です。
── ユーザーさんが楽しめる仕組みが、満足度にもつながっているのですね。ところで、回収した衣類はどのように活用されているのでしょうか?
大神さん:回収した衣類はナカノ株式会社さまに引き渡して、リユース・リサイクルに活用していただいており、担当者さまからは「通常の市中回収よりも状態のいい服が集まっている」と言っていただいています。

また、回収した衣類のリユース・リサイクルによるCO2削減効果について、東京大学・早稲田大学の監修のもと、算出方法を策定しました。
2024年7月から2026年3月末までの約615日間で、最大約391.7トンのCO2削減効果が得られており、これはスギの木に換算すると約4.5万本分に相当します。
この数値を設置先の企業さまの統合報告書などに活用していただけるのも、するーぷの特徴の1つです。
ユーザーの声に応えるために ー するーぷが挑む次のフェーズ

── 今後の取り組みやチャレンジしたいことについてお聞かせください。
長谷川さん:今は横浜を中心に神奈川・埼玉・鹿児島と展開していますが、ユーザーさんからいただく声で多いのが「もっと近くに置いてほしい」「ボックスがすぐ満杯になってしまう」というものです。
実際に、ゆめが丘ソラトスで不定期に実施している イベントでは、40分待ちの列ができるほど来てくださる方がいらっしゃいます。


本当にありがたいことですが、一方で「使いたくても使えない」という状況をつくってしまっているのも事実です。そのため、回収ボックスの設置場所をもっと増やしていくことが、何より重要だと考えています。
── 40分待ちはすごいですね!テーマパークのアトラクションみたいです(笑)。回収ボックスを増やすうえでの課題はあるのでしょうか

大神さん:満杯になったときの収集オペレーションをどうするかが非常に重要です。今は設置先の施設の方々に一時保管をお願いしております。この負担が施設様側には重く、少しでも緩和できる施策が必要になります。
事業が軌道に乗ったタイミングで、収集にも資源を投下して一気に拡大していきたいと考えています。
── マネタイズはどのような方法で取り組んでいるのでしょうか。
長谷川さん:私たちが目指しているのは、衣類回収を設置先の企業さまにとってのマーケティング投資として位置づけてもらうモデルです。
アプリを通じてユーザーさんに企業の商品情報やクーポンを届けることで、客数増・売上増につなげていただく。そのためのプラットフォーム利用料をいただくという形です。
実際に、株式会社ワコールさまとの実証実験では、アプリ内広告やメルマガを活用して店舗への誘導を試みました。ワコールの商品は購買頻度が年1回ほどと低いため、購買に至るまでに時間がかかるということもわかってきました。

そういったこともデータとして蓄積されているので、より効果的なアプローチを一緒に模索しているところです。
今後、ユーザー数が増えれば増えるほど、マーケティングツールとしての価値も高まる。まずはユーザー数と設置台数を積み上げていくことが、今の優先事項です。
衣類を捨てないことが「当たり前」になる日に向けて

── 現在のサービスの延長として、どのような展開を考えていますか?
長谷川さん:衣類で培った仕組みを、ほかの資源にも広げていきたいと考えています。
たとえば小型家電。家族の衣類や家の中の不用品を管理しているのは、主婦層の方が多く、「服以外に小型家電も出せる」という仕組みができれば、資源を集めるプラットフォームとして、より機能していけると思っています。
「捨てるのがもったいないけど、どうしたらいいかわからない」という方の受け皿になりたい。それが、するーぷの目指す姿の1つです。
── JGCグループ全体の文脈では、どのような意味を持つ事業なのでしょうか?
長谷川さん:グループ全体で見ると、するーぷは「資源を集める」という入口の部分を担っています。これに加え、廃食用油をSAF(持続可能な航空燃料)に転換するという取り組みも実施しています。
現時点では航空機を電気だけで飛ばすことは難しいため、燃料が必要です。そこに植物由来の廃食用油などを使ったバイオ燃料を混ぜることで、CO2排出量を大幅に削減できる。
日本全国から廃食用油を回収してSAFにつなげる「サプライチェーンを担う会社」も、グループ内で立ち上げています。

するーぷで衣類の資源循環を実装する。その仕組みと知見を活かして衣類以外の資源循環にも広げていく。
そしてグループ全体として、CO2削減・脱炭素社会の実現に貢献していく。服を手放すという小さな「ちょっといいこと」が、大きな社会の変化につながっていく。そういう循環をつくっていきたいと思っています。
── 本日は貴重なお話をありがとうございました。最後に、するーぷを通じてどのような社会を実現したいか、改めて聞かせてください。
長谷川さん:「服を捨てない」ことが当たり前の社会にしたい、というのが一番の想いです。ペットボトルをリサイクルに出すことが今では当たり前になったように、衣類もいつか「捨てるなんて考えられない」という価値観が当たり前の社会になってほしい。
無理せず、できる範囲で、できるときにする。その小さな「する」がループして、いつか当たり前になる。それがするーぷという名前に込めた思いでもあります。
社会課題を楽しみながら解決していく。そんな仕組みを、これからも一緒につくっていきたいと思っています。
Wellulu編集後記
今回の取材を通じて、「服を捨てない社会をつくる」という言葉の裏にある、緻密な設計思想と地道な積み重ねを知ることができました。
印象的だったのは、するーぷが「環境のためにいいことをしよう」という呼びかけだけに頼らず、「罪悪感がなくなる」「ポイントがもらえる」という人が自然と動きたくなる仕組みを徹底的に考え抜いている点です。社会課題の解決と、人の行動原理への深い理解が組み合わさることで、はじめて「続く仕組み」になるのだと気づかされました。
タンスの奥に眠っている服を、次にどうするか。「捨てる」以外に「回収に出す」という選択肢を持つ人が増えることが、循環型社会への確かな一歩になるのだと思います。
日揮HDでは新規事業企画とそれに伴うITサービス開発・提供体制の整備を計画・推進。JGC Digital社設立に至り、代表取締役社長兼CTOを経て代表取締役社長兼CIOに就任している。
2015年青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科(MBA) 修士過程修了。