日常生活で呼吸に意識を向ける機会は少ないものの、ヨガでは意識的に呼吸をおこなうことで、気持ちを落ちつかせる、集中力を高める、雑念を沈める、不安感を和らげるといったさまざまな効果が期待できる。
今回は、ヨガ講師のサントーシマ香さんにヨガの呼吸法の効果や気持ちを落ち着かせるために大切な環境作りのポイントを伺った。さらに、「活力を与えてくれる朝の呼吸」や「気持ちを落ちつかせてくれる呼吸」も紹介しているので、ぜひチェックしてみて。
サントーシマ香さん
呼吸をする前に自分が落ち着ける環境を整えよう
普段の自分がどういう呼吸をしているか、落ち着いた状態で深い呼吸ができるかどうかはさまざまな要因からの影響を受ける。
まず大切なのが、環境。たとえば、腹式呼吸をするとリラックス効果があると言われているが、すごく苦手な人といたり、騒音や匂いなど気が散ったりする要因が多い場所で腹式呼吸をしても、気持ちを落ちつかせるのはハードルが高い。
ほかにもカフェインの取りすぎや、徹夜明けで体がへばっている時にいくら腹式呼吸をしても、その恩恵を受けるのは難しいだろう。
ヨガはポーズを取ることだけでなく、早寝早起きや何事もやり過ぎないことを健康の基盤として勧めている。ある程度内外の環境を整えた上で、ここで紹介したような呼吸をすると効果を実感しやすい。日頃から自分の身体がどういう状態になっているのかに意識を向けることが大切。
そのため、まずは自分が落ち着ける環境を作ることから始めよう。
- なるべく静かでリラックスできる場所で(音楽をかけながらはOK)
- 何かをしながらやらない(1つのことに意識を向ける)
- 眩しすぎず、暗すぎないくらい明るさで
- 空気がきれいで快適な温度の場所で
体を目覚めさせたい朝は自然光を浴びながらおこなう、夜はリラックス効果を促すように明かりを落として間接照明やダウンライト、ろうそくをたいてみるなどもやってみると楽しい。つまり、ヨガの方向性と環境を一致させること。
ヨガの呼吸の効果
鼻から吸って鼻から吐くのが呼吸の基本。吸う息は自然に、吐く息は無理のない程度にゆっくりと細長く出すことがポイント。
自律神経を整える
現代社会では就寝する直前までスマホをいじっていたりなど、交感神経が過度に高ぶる要因が多い。夜になっても眠れない、便秘が続くなど自律神経のバランスを崩している人も多い。睡眠不足や加齢、過大なストレスなど多数の要因があるので一概には言い切れないが、ゆっくりと鼻から腹式呼吸をすることで、自律神経の状態を調節することを狙う。
副交感神経の主成分となる迷走神経(Vagus nerve)が心臓のリズムを調整しており、息を吐いているときには心拍がスローダウンし、息を吸っているときは心拍があがる。
腰痛の予防や姿勢の改善
ヨガの呼吸すべてに当てはまるというわけではないが、横隔膜を使った腹式呼吸は適切なやり方でおこなうことで腰痛の予防や姿勢改善などにも効果が期待できる。
腹式呼吸は、みぞおちにある横隔膜を使っておこなう呼吸。難しく捉え過ぎなくても、お風呂に入ってリラックスしているときや寝る前などに自然とおこなっている人は多い。ピストン運動のように横隔膜を上下させて腹圧を高めたり、ゆるめたりすることで腹筋を刺激する
腹筋はいくつかのレイヤーにより構成されるが、最も深い部分には、体幹を安定させたり、姿勢を保持したりする働きを持ち、お腹周りをコルセットのように覆っている「腹横筋」という筋肉がある。
腹式呼吸では、お腹をへこませながら息を吐く。この時に腹横筋を収縮させている。次に息を吸いながらお腹をゆるめる。繰り返しおこなうことで体幹や姿勢が安定し、腰痛の予防や姿勢の改善につながっていく。
息を吐くときに、お腹を背骨側にぐっと引き寄せるイメージで、腹横筋をしっかり使って腹圧をかけることを意識しよう。ただし、高血圧の人や心疾患を患う人、妊婦さんや、眼圧が高い人、骨盤底筋が弱っている人など、腹圧を高めることを避けるべきと医師から告げられている場合はやらないこと。
血流の改善
深い呼吸をおこなうことでみぞおちにある横隔膜が上下し腹圧が変化する。それにより内臓もゆるやかに刺激され、血行の改善にもつながる。
血行促進を目的にする場合は、心肺機能を亢進するような運動的な要素を入れよう。その場で呼吸に合わせて大きく腕を振っての足踏みや、スクワットをするのもよい。座りっぱなしの姿勢を保持する代わりに、積極的に筋肉を動かすことで血行が促進される。
ヨガであれば足腰を使うウォリヤーポーズ群や、手を心臓より上にあげたり、体幹を使ったりしてバランスをとるようなやや非日常的な姿勢をあえてとる。それにより体に負荷がかかり心臓がパンプし体中に血流をめぐらせようとする働きが促される。
身体を動かしながら呼吸も意識するのが難しい場合は、負荷をやや落とす。多くの場合はヨガを続けているうちに自然にできるようになってくるので、あまり真面目に頑張り過ぎず、気楽に取り組もう。
一般的にはリラックス反応が深まると呼吸は自然に整っていくので、気持ちのよい範囲で呼吸を長くすること、とくに息を普段より少し丁寧に吐くことを意識してみて。
身体の緊張をほぐす
伝統的な解釈では、ゆっくりと深い呼吸をすること、特に自然の中で深呼吸をすることで、プラーナ(生命エネルギー)を身体の内側に取り入れることができると考えられている。
プラーナが身体の中を循環し滋養を与えることで、全身の機能が最適化される。逆に流れが滞り詰まってしまうことで、心身に不調が生じる原因にも。身体が強張っていたり、緊張している部分は流れが悪くなっている。ヨガのポーズをし、使っている部分を意識することで、身体をしなやかにほぐしていき、プラーナを循環させ生命力を高めることができる。
1日のコンディションを整えてくれる朝の呼吸
- 波の呼吸
- カパルバティ呼吸
波の呼吸
集中力を高めたいとき、1日をリラックスした気持ちでスタートしたいときにおすすめの呼吸法。波音のような静かな摩擦音が気持ちを穏やかにしてくれる。
- 口からハーと息を吐ききる
- 最後まで吐いたらハーと息を吸う
- 喉の奥を締める感覚が掴めたら口を閉じ、鼻呼吸で同じように繰り返す
- 吸いながら腕を上げて、吐きながら腕を下げる
- 微細な音を響かせながらゆっくり5回ほど繰り返す
- 自然な呼吸に戻して、体を楽に。余韻を味わう
カパルバティ呼吸
頭蓋骨を輝かせるという意味をもった呼吸法。朝すっきりと目を覚ましたいときや身体を温めたいときにおすすめ。
- 両手を腹部にあてて背筋を伸ばす
- 目を閉じた状態で何度か深呼吸を繰り返す
- 腹部を引っ込めてフッと勢いをつけて鼻からフッ!と息を吐く
- 吐ききった流れで腹部をゆるめ吸う息は自然に入る
- 3~4をテンポよく10回ほど繰り返す
- 自然な呼吸に戻して体を楽に。余韻を味わう
【注意点】
食後は避ける。高血圧や心疾患の人、妊婦さん、眼圧が高い人、骨盤底筋が弱っている人など、腹圧を高めることを避けるべきと医師からいわれている場合は避ける。
心身のリラックスを促す呼吸法
- 片鼻式呼吸
- 腹式(横隔膜)呼吸
- ブラーマリー呼吸(ハミングビーブレス)
- 4-7-8呼吸
片鼻式呼吸
指で鼻の入口を交互に押さえて片鼻ずつ息を出し入れする呼吸法。気持ちを落ち着かせ疲労感をリフレッシュさせてくれる。仕事でプレッシャーを感じているときや、夜の就寝前など、1日の中でいつでも好きなタイミングで取り入れてみて。
- 背筋を伸ばし、楽に座る
- 親指で右の鼻を軽くおさえる
- 左の鼻から5カウントで息を吐く
- 左の鼻から5カウントで息を吸う
- 両方の鼻を軽くおさえる
- 右の鼻を開いて5カウントで息を吐く
- 右の鼻から、5カウントで息を吸う
- 両方の鼻を軽くおさえて息を止める
- 左の鼻から5カウントで息を吐く(←これで1ラウンド)
- 3番-9番を繰り返す
腹式(横隔膜)呼吸
副交感神経を優位にして気持ちを落ち着かせたいときにおすすめ。高負荷のストレスがかかっていたり、気が昂っているときなどに一服する気持ちで。またはイライラの予防として1つの作業が終わったあとや、ちょっと疲れたなと感じる手前の段階で取り入れてみて。
- 楽な姿勢で座ったり、横たわったりする
- おへその下あたりに両手を添え、軽く目を瞑ってもよい
- 自然な息の流れが鼻を出入りすることを感じる
- お腹をゆるめ、ゆっくりと息を吸う
- 鼻から息を吐いてお腹を引っ込める
- ゆったりとしたペースで4-5を繰り返す
※お腹の中にある風船を膨らませる/縮めるようなイメージ
ブラーマリー呼吸(ハミングビーブレス)
全身に細かな振動が伝わり、リラクゼーション反応を促す呼吸。いつおこなってもよいが、寝る前に1日のストレスを払うような気持ちで微細なバイブレーションを全身に広げて。
- 楽な姿勢で座るか、横たわる
- 口は閉じる
- ゆっくりと息を吐き切る
- 鼻からたっぷりと息を吸ってから、鼻から吐きながら「ンーーー/Mmmmm…..」と細く長く音を立てる
- ゆっくりと息を吐ききったら、4に戻り5回ほどを目安に繰り返す
- 音に耳を済ませ、没頭するのがポイント
4-7-8呼吸
「今この瞬間に意識を向ける」ことで、マインドフルな感覚を手軽に味わうことができる。不安感が軽減され、睡眠の質を高めてくれる呼吸法。
- 楽な姿勢で座ったり、横たわったりする
- 舌先を前歯の裏側につける
- 鼻から4カウントで息を吸う
- 7カウント息を止める
- 口をすぼめて8カウントで息を吐く
- 2−4の流れを4回繰り返す
- 自然呼吸に戻り、前後の変化を感じる
ヨガにおける呼吸法のポイント
ヨガの呼吸をするにあたって、意識すべきポイントをヨガ講師のサントーシマ香さんに伺った。
自分が気持ちいいと感じるペースで呼吸を続ける
鼻呼吸、腹式呼吸がおすすめ。自分のペースで気持ちよく呼吸をすることが大切。
前提として鼻が詰まっていないことが必須。ヨガでは鼻うがいなどをして、基本は鼻から息を吸ったり吐いたりする。真面目な人ほど呼吸も必要以上に力が入り、逆に効果が出づらい場合もある。公園など樹木/自然のある場所で1つの呼吸の美味しさを味わうような気楽なアティチュードでやってみるのもよい。
適切な呼吸は、肺活量や運動経験など身体の状態によっても異なるため、秒数ではなく自分のカウントに合わせる。薄目を開けたり、軽く目をつむったりすると内面に意識を向け、ちょうどいいペースを掴みやすくなる。
呼吸の感覚にただ集中する
現代社会ではマルチタスクの要求が高く注意が散漫になりがち。あえて日々の忙しさから離れて自分が「今・ここ」で体験している感覚に意識を向けることがバランスを整えるのに役立つ。
1日のうち、少しの時間でもいいので「身体が伸びている感覚」や「息が入って出ていく感覚」などに意識を向けながら、ゆったりと呼吸する時間を作るようにしよう。
日常生活の中でも「呼吸が浅くなっている」「体が固まっている」と感じたら、いったん大きく伸びをしてから、深呼吸をしてみよう。
1978年ニューヨーク生まれ。専門はヨガとアーユルヴェーダ。大学在学中にヨガと出会い卒業後渡米。インドやオーストラリア、北米を中心に学ぶ。女性のバイオリズムを整えるムーンサイクルヨガ、眠りのヨガなどを中心に講師育成、オンラインヨガの配信を行う。「疲れないからだをつくる夜のヨガ」(大和書房)など著書多数。
Instagram:https://www.instagram.com/santosimakaori/