電気代の請求書はわかりにくく、眺めるだけで終わりがちで「何にいくら払っているのか」「本当に納得できる電気なのか」まで考えることはほとんどないのでは?
そんな毎月の支払いが、気候変動へのアクションや寄付・地域の応援につながるとしたら——。株式会社ボーダレス・ジャパンが運営する「ハチドリ電力」は、毎月の明細で二酸化炭素削減量や植林効果を見える形にしながら、再生可能エネルギー100%の電気にこだわり続けている。
今回は、ハチドリ電力の杉本大地さんに生活者が安心して電気を選べる理由と、使うほどに応援が増えていく体験設計を伺った。
この記事の監修者

杉本 大地さん
生活者が電気を選ぶことで起きる意識変化

── ハチドリ電力の電力明細書では、二酸化炭素削減量・植林効果が見えるのが特徴的ですが、電力明細書で環境への貢献が見えるようにしたのはなぜですか?
杉本さん:電気は目に見えないインフラなので、電力会社を切り替えても何が変わったのかを実感しにくい面があります。だからこそ、毎月の電力明細書に二酸化炭素削減量や植林効果などを載せて、使う人が電気をより身近に感じられるようにしているんです。
日々の支払いが、ただの固定費ではなく目にみえるかたちで環境への貢献実感が伝わると、利用者のスイッチが入りやすくなると思っています。
── 確かに数字の効果が見えると、自分が環境に優しいことをしているとの意識につながりそうです!この電力明細書で環境への貢献だけでなく、運営固定費や電気料金までオープンにされている理由を教えてください。
杉本さん:大前提として、ハチドリ電力は「どこよりも正直な電力会社」であることを大切にしています。目に見えないものを可視化することが、お客様からの信頼にもつながると考えており、明細にはいただいている電気代の詳細項目と計算式をできる限りわかりやすく載せています。
また、明細書のデザインは社内のクリエイティブチームが担当しており、読み進めたくなる設計にしました。難しい業界用語が多い電気の世界で、生活者の目線に合わせた言葉に置き換える工夫も重ねています。
── 電力料金の仕組みについてもう少し教えていただけますか?

杉本さん:電気の契約には、大きく分けて「固定単価プラン」と「市場連動型プラン」2つの料金構成があります。固定単価プランは従来の料金構成で、市場連動型プランは電気の小売自由化によって誕生した新しい料金構成です。
固定単価プランは、電気の市場価格にかかわらず、あらかじめ決められた単価で電気を使う従来型の仕組みです。一方、市場連動型プランは電気の市場価格に応じて料金が変動します。
電気は発電事業者が発電したものを、電力取引市場で小売事業者が購入し、私たちの暮らしに届けられています。その取引が行われているのが日本卸電力取引所(JEPX)で、電気の価格は30分ごとに変動しています。
ハチドリ電力は、この市場連動型プランを採用しています。JEPXで決まる市場価格を基本的にそのまま電気料金に反映しているため、たとえば市場価格が下がりやすい日中の時間帯に電気を使うと、電気代を抑えられます。
市場連動型
電気料金の単価が市場価格と連動して変動する。電気の需要と供給の状況によって価格が変動し、需要の低い昼は安く、夜は高くなる傾向がある。
一般社団法人 日本卸電力取引所(JEPX)
国内唯一の会員制電力取引市場。発電事業者と電力の小売事業者間の電力売買を仲介している。
再生可能エネルギー100%の信頼をどうつくるか

100%にこだわるのは再生可能エネルギーを広げるため
── ハチドリ電力が使用している再生可能エネルギーには、どのような特徴がありますか?。
杉本さん:再生可能エネルギーの大きな特徴は、発電時に二酸化炭素を出さないこと、そして太陽光・風力・水力など、自然の力を活かして持続可能なエネルギーをつくれることです。
日本は火力発電への依存が大きく、石炭や石油などの燃料のほぼすべてを海外から輸入しており、石炭や石油を燃焼して電気をつくるときに二酸化炭素が排出されています。
その問題があるからこそ、ハチドリ電力が届ける電気は再生可能エネルギー100%にこだわっています。
── 再生可能エネルギー100%にこだわっているんですね!
杉本さん:そうですね。電気をつくる人がいて、買い取る小売事業者がいて、生活者に届く。その流れの中で「再生可能エネルギー100%しか買わない/売らない」というスタンスを明確に示すことが、再生可能エネルギーを広げるうえで重要だと考えています。
ハチドリ電力は、そもそも再エネ100%プランしかありません。さまざまな電力会社から再エネプランが打ち出されていますが、その電力は再エネの純度100%ではないケースもあります。だからこそ、100%を貫くことに意味があると思っています。
この事業を運営するボーダレス・ジャパンは2007年の創業以来、社会課題をビジネスで解決するソーシャルビジネスに向き合ってきました。CEOの田口は「生まれたときよりいい社会を」という思いを大切に持っています。中でも、気候変動という地球規模の社会課題に対しては「電気という日常の入口からアクションを増やしたい」という考えがあります。
再エネは高い?停電しやすい?不安をそのままにしない仕組み
── 一般の電力から再生可能エネルギーに切り替える料金は高くなりますか?
杉本さん:再エネだから高くなるとは限りません。再エネの発電コスト自体が火力と同程度、場合によっては低いケースもあります。
さらに今は電気が余り、出力抑制が起きるほど供給が増えています。九州のように太陽光発電が多い地域では、電気が余って市場価格が下がる時間帯も多く、再生可能エネルギーでも料金が高くなりにくい傾向があります。
── 一般の電力から再生可能エネルギーに切り替えたときに、停電の不安はないのでしょうか?
杉本さん:「再生可能エネルギーを使った電力会社に切り替えると、停電しやすくなるのではないか」こうした不安の声は、実際によく耳にします。
しかし、ハチドリ電力に切り替えたからといって、停電が起きやすくなることはありません。電気を届ける送電線や配電網は、これまでと同じものが使われているからです。
再生可能エネルギーか火力発電かという違いは、あくまで「電気をつくる方法」の違いにしかすぎないんです。家庭に届く電気そのものの品質や安定性が変わるわけではなく、普段の暮らしで体感する電気の使い心地も変わりません。
そのため、日常的な停電への不安はもちろん災害時の対応についても、一般的な電力会社と変わらず、安心してご利用いただけます。
── 再生可能エネルギーの切り替えも安心してできそうです!
杉本さん:普段の電気使用時の停電だけでなく、災害時の対応も普通の電力会社と変わらないので、安心して使っていただけます。
停電対応は利用している電力会社にかかわらず、それぞれの地域の送配電事業者が担う仕組みになっています。国のルールとしてトラブル時の対応がある点を安心材料として伝えています。
── 生活者が再生可能エネルギーを納得して使用するために、ハチドリ電力としての工夫を教えてください。
杉本さん:再エネといっても、山を切り開いて作るメガソーラーの問題があります。ハチドリ電力ではホームページ上で電源構成比のページをつくり、買い取っている発電事業者のインタビュー記事を掲載しています。
「メガソーラーを使っているのか」と聞かれたときにも、根拠をもって説明できる状態をつくることが信頼につながると感じており、「どこから来た電気なのか」をたどれる情報があると生活者の納得感は大きく変わります。
── 電力調達先はどのように決めていますか?
杉本さん:生態系を壊す形になっていないか、地域住民の反対を押し切って設置していないか、景観を大きく損ねていないかなどの点を重視して電力を調達しています。
地域に負荷をかけずに災害リスクなども含めて無理のない形で発電できることが、大切だと思っています。
使う電気が寄付・応援になる体験設計

── ハチドリ電力の電気代の1%を寄付する取り組みを詳しく教えてください。
杉本さん:ハチドリ電力では、毎月の電気代の1%を社会課題の解決に取り組む団体や地域へ寄付できる仕組みを取り入れています。利用者が追加でお金を支払う必要はなく、電気を使うだけで、その支払いの一部が自動的に社会への応援につながるんです。
寄付先は環境・教育・人権・地域づくりなど、66の団体と2つの地域から選べるので、自分の関心に近いテーマを応援できるのも特徴です。
── 電気代の1%を寄付する取り組みは、生活者が電力会社を選ぶ基準になっていますか?
杉本さん:実際に「寄付できる仕組みが決め手になった」という声は届いています。毎日使う電気の支払いが、特別な手続きなしで自動的かつ継続的な寄付や応援につながる。これは、暮らしに欠かせない電気というインフラだからこそ実現できた仕組みだと思っています。
── 60以上の支援先があると、どこの団体を支援しようか迷いそうです……。
杉本さん:そうですね。選択肢が多い分、迷う方もいらっしゃいます。そこで、「1つに決められない」という人に向けて、すべての団体に寄付する選択肢も用意しています。
また、寄付先はあとから変更することも可能です。最初の選択が固定されてしまわないように、関心や価値観の変化に合わせて、寄付という行動も更新できる設計にしています。
── 寄付後、影響があったのかが気になります。寄付後の変化がわかるような仕組みはあるんですか?
杉本さん:今年からは連携している団体の「活動報告会」をおこない、活動内容や支援金の使い道をユーザーの皆さんにきちんと伝える機会をつくっていく予定です。
ただ寄付して終わりではなく、「どんな活動が進んでいるのか」を見えるようにすることで、納得して応援しやすくなると思っています。
── ハチドリ電力に切り替えることで、利用者の行動に変化はありましたか?
杉本さん:はい。たとえばハチドリ電力を利用している学校では、生徒たちの行動に変化が見られました。気候変動やエネルギーをテーマにした探究活動の中で、私たちが授業やワークショップをサポートしたところ、「使っていない部屋の電気を消すようになった」「冷暖房の使い方を意識するようになった」といった話を先生から聞いています。
電気代の1%が社会貢献につながるという仕組みが、“電気を使う”という日常の行動そのものを見直すきっかけになっているのだと思います。
家庭に広がる再エネの循環と共感
── 電気の背景や発電者の声が見えるようにした影響はありますか?
杉本さん:発電所やつくり手を開示することで、「こんな発電方法があるんだ」と知ってもらえること自体が大きいと思っています。
たとえばソーラーシェアリングは、耕作放棄地などで農業をしながら発電する仕組みです。太陽光パネルの影が作物にとってちょうどよく、農業と発電を両立できます。
こうした取り組みを「電気の向こう側」として伝えることで、地域の土地活用や新しい発電の選択肢への理解が進みます。まずはその認知が、次の循環につながると考えています。
── 再エネの利用者を増やすために、今後取り組みたいことを教えてください。
杉本さん:後は、実際に使ってくださっている人の生の声や、どんな哲学で選んでいるのかを社会に広げていきたいです。
気候変動の話を聞いて「大切だよね」で終わって、切り替えというアクションにつながらないことも多く、気候変動が自分ごと化しづらいという壁があると思います。
電力会社は5分で切り替えられますが、実際にはその5分が面倒に感じてしまう。だからこそハチドリ電力は、寄付や地域応援などの付加価値を重ねて、「自分が応援したい社会につながる選択」に変えていくことを大切にしています。
── 電気という日常の選択が、環境と地域、そして社会課題の解決にじわりとつながっていく。使う電気の向こう側を開示し、発電所やつくり手の姿まで見える化する取り組みは、生活者が初めて「自分も参加している」と実感する入口になるのだと感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました!
2000年生まれ、大阪府大阪市出身。大学卒業までの12年間は野球に打ち込み、卒業後は台湾の大学院へ国際経営学を学ぶために留学。そこで、フィリピンの貧困問題と出会い、社会課題の解決に関心を抱く。新卒でボーダレス・ジャパンに入社し、現在は気候変動を止めるために自然エネルギー100%の電気だけを届ける電力事業「ハチドリ電力」にて、事業開発を担当。暮らしの中から未来を変えるエネルギーの選択肢を広げるべく、日々活動している。
HP:https://hachidori-denryoku.jp/