ビタミンやミネラルなどが含まれている大麦は食物繊維が豊富で、「β-グルカン」という成分はコレステロールの低下や血糖値の上昇を抑える効果が期待できるとのこと。学校給食やレストランでふとしたときに口にしている大麦の健康効果とは?白米に混ぜるだけ?今回、株式会社はくばくの手塚さん、三尾さんに詳しくお話を伺った。
三尾 建斗さん
市場戦略本部/開発部/研究開発課
手塚 俊彦さん
市場戦略本部/市場戦略部/PR課
食物繊維が白米の17倍!大麦の栄養とそのはたらきとは?
──大麦とはどのような食材なのでしょうか?見た目や味の特徴も含めて教えてください。
手塚さん:イネ科の穀物のひとつで、日本では主に麦ご飯やビール、ウイスキーなどの原料として利用されています。さらに身近なものでは、麦茶の原料としても利用されます。見た目は小麦よりも少し大きく、色は黄褐色がかった金色をしています。生の状態では硬く、加熱することで柔らかくなり、ほんのり甘い風味が特徴です。
大麦はビールやウイスキーに独特の味わいを加えたり、麦茶では、その独特の香ばしさとほのかな甘みが楽しめます。
また、大麦には食物繊維が多く含まれ、とくに「β-グルカン」という、コレステロールの低下効果や、血糖値の上昇を緩やかにする効果が期待されている成分が含まれており、健康食品としても注目が集まっています。
大麦の種類。粘り気のある「もち麦」とさっぱりとした食感の「うるち麦」
──ちなみに、大麦にはどのような種類があるのでしょうか。
手塚さん:大麦には「もち麦」と「うるち麦」の二つのタイプがあります。お米の「もち米」と「うるち米」と同じように食感や用途に違いがあるんです。うるち麦は一般的な麦ご飯に使われるもので、さっぱりとした食感が特徴です。一方、もち麦は粘り気があり、もち米に似た食感を持っています。
うるち麦は日本で昔から食べられている麦で、学校給食などで子どもたちにも親しまれています。食育の場でも地産地消の一環として重宝されており、日本人にとって馴染み深い食材です。
一方、もち麦は近年健康志向の高まりとともに注目されており、うるち麦と比較して食物繊維や大麦β-グルカンが豊富に含まれているため、健康効果が期待されています。
──もち麦が注目されるようになった背景にはどのようなものがありますか?
手塚さん:2016年にテレビ番組で特集されたことが注目を集めるきっかけとなりました。もち麦のダイエット効果が紹介されたあと、一気に認知度が上がり、国内での生産量も当時に比べると35倍と大幅に増加しました。それまでは日本では四国といった一部地域でしか食されていなかったもち麦ですが、このブームを通じて全国的に広まっていきました。
大麦には水溶性食物繊維と不溶性食物繊維がバランスよく含まれる
──大麦に含まれる成分について教えていただけますか?
三尾さん:大麦には食物繊維が豊富に含まれますが、水に溶けて粘り気をもつ「水溶性食物繊維」と水に溶けない「不溶性食物繊維」の両方がバランスよく含まれているのが特徴です。他の食物繊維を多く含む食品ではどちらかの食物繊維が多いことが一般的ですが、大麦にはどちらも含まれているのです。
また、不溶性食物繊維は腸を刺激して便通を良くする効果があり、水溶性食物繊維は水に溶けてゲル状になり、消化吸収を遅らせることで血糖値の上昇を緩やかにする働きがあります。
他にも、食物繊維の多い食材というとゴボウが思い浮かぶ人が多いかと思いますが、実は大麦はその2倍の量の食物繊維を含んでいるのです。
──両方含まれているというのは珍しいのですね。その中でも多く含まれるβ-グルカンについて教えていただけますか?
三尾さん:β-グルカンは水溶性食物繊維の一種で、もち麦の水溶性食物繊維の中で7割から8割を占めると言われています。β-グルカンは糖の吸収をおだやかにすることで食後血糖値の急激な上昇を抑えたり、脂質の吸収を抑えたりする効果もあります。これにより、心血管疾患の予防に繋がることが期待されています。
もち麦ご飯が食物繊維不足の解消につながる
──非常に多岐にわたる健康効果があるのですね。日本人の食物繊維摂取量について現状を教えてください。
三尾さん:日本人の食物繊維摂取量は目標量に比べて不足しているのが現状です。食物繊維というと、ごぼうやレタスなどのイメージが強いですが、実際には主食からも多く摂取されており、実は日本人の食物繊維摂取源の1位はお米、2位はパン、3位は麺類なのです。しかし、糖質を制限する食事法が流行している影響で、食物繊維も同時に減少してしまうことが懸念されます。
──おかず類ではなく主食から摂取していたのは意外です!摂取量を増やすアイデアはありますか?
三尾さん:ここでぜひもち麦を普段の食事に取り入れることをおすすめします。もち麦は、白米の約17倍の食物繊維を含んでおり、毎日のご飯に混ぜるだけで、簡単に食物繊維の摂取量を大幅に増やすことが可能です。もち麦を1日2杯取り入れるだけで、食物繊維の不足分を補えます。この方法は、たとえば食物繊維の多い野菜を多く取り入れたりするよりも、食生活の変更や手間をあまりかけること必要がなく、手軽なため継続しやすいのが魅力です。
──たしかに、わざわざ献立を考えたりするよりも、白米ご飯をもち麦入りに変えるだけというのは楽ですね!では大麦もいくつか種類があると思いますが、どのような基準で選ぶとよいのでしょうか。
三尾さん:選び方としては、家族の食の好みに合わせることが重要です。たとえば、もち麦はその独特の食感が好きで、食物繊維の摂取を優先する人に向いています。一方で、押し麦は白米に近い食感を求める人に適しており、クセが少ないため、食べやすいという特徴があります。また、見た目が大きく変わらないように加工された米粒麦もあるので、麦の風味や食感が苦手な人におすすめです。家族全員が食べやすい形を選んでみてください。
大麦に含まれる「β-グルカン」が脂肪の蓄積や血糖値上昇を抑える
──大麦の研究の歴史や現在行っている研究について教えてください。
三尾さん:大麦の機能性に関する研究は古くから大学や研究機関で進んでいました。当時から日本人が伝統的に食べてきた食品として、大麦の研究は自然と行われてきたんですね。私たちは食品メーカーとして、やはり消費者に大麦の健康効果をより理解してもらい、日常的に摂取してもらうことが目標です。そのため、より多くの人々に大麦を受け入れてもらえるよう研究を進めています。現在は、大麦β-グルカンに焦点を当てて研究を進めています。
──β-グルカンの研究においてわかった効用について詳しく教えてください。
三尾さん:β-グルカンの研究で注目されているのは、腸内環境や体質の改善に対する効用です。
β-グルカンは胃の中でゲル状になり、食べたものの消化吸収をゆっくりにするので、それによって間食を減らす助けになったり、長時間満腹感を持続させることが可能です。これによって食べ過ぎを防ぐことができます。
また、小腸でコレステロールやコレステロールを原料につくられる物質と結びつき排出を促すことで、コレステロールが高めの人では血中コレステロール濃度を下げることが明らかになっています。これにより心血管疾患のリスクを減少させることができ、体質改善に寄与します。
さらに、β-グルカンは腸内細菌のエサとなることで、有用菌を増やし腸内環境を整える作用があります。また、これらの有用菌が身体にとって有益な物質を生み出し、腸の健康を保つことも分かっています。これにより腸内環境の正常化に役立ち、スッキリとした腸の状態を支えます。
腸内環境によって効果は異なる!自分に合う食品をみつけよう
──続けて、大麦の摂取が血圧に及ぼす影響の研究について教えていただけますか?
三尾さん:この研究では、大麦の摂取と血圧の関係を腸内細菌叢の違いを通じて分析しました。まず、大麦には血圧を下げる効果が期待される一方で、すべての人に同じような効果が現れるわけではありません。私たちは、なぜこのような差が出るのかに注目したのです。
大麦を摂取して高血圧ではない人と高血圧な人を比較し、その腸内細菌の組成を分析したところ、血圧が高くないグループの腸内には「短鎖脂肪酸」を多く産生する細菌が豊富であることが判明しました。短鎖脂肪酸は、腸内で発生し体内の炎症を抑える効果があるため、これが高血圧の予防に寄与している可能性があります。
逆に高血圧と診断されたグループでは、この種の細菌が少なく、別の種類の細菌が優勢であることがわかりました。これにより、大麦の摂取効果が腸内細菌によって左右されることが明らかになり、個々の腸内細菌叢の違いが健康への影響をもたらす重要な要因であることが示されました。
── なるほど。腸内細菌のバランスが重要なのですね。自分の腸内細菌のバランスを整える方法があれば教えてほしいです。
三尾さん:実際に自分の腸内細菌叢を測定するキットは販売されているものの、まだ費用が高いこともあり、それを活用して自分の腸に合う具体的な食事プランを立てるのはまだ現実的ではありません。
そのため、腸内環境を整えるためにできることとしては、まずは食物繊維を多く含む食品を積極的に摂取することが挙げられます。食物繊維は腸内細菌のエサとなり、良好な腸内環境を促進します。たとえば、大麦や納豆などの食品は腸内細菌にとって有益です。これらを定期的に摂取することで、体調の変化を感じたり、便通が改善されたりと、食事の影響を体感することが可能です。何が自分に合うか、どの食材が効果的かを見極め、続けてみるのがポイントです。
── それぞれの腸内細菌の違いによって、食品の選択も異なるということですね。
三尾さん:そのとおりです。たとえば、ヨーグルトはメーカーによって含まれている乳酸菌の種類が違いますよね。あるヨーグルトを食べてみて、合わない場合は、お腹がゴロゴロするなどの症状が出ることも。こういった身体の反応から、自分に合う食品を見つけることがおすすめです。
白米に混ぜるだけ!すぐに取り入れられる大麦生活
── 大麦の摂取方法や調理法を教えてください。
手塚さん:やはりまずは白米に混ぜて炊く方法が一番一般的です。白米にもち麦や押し麦を混ぜて炊くことで、食物繊維の摂取が簡単に増やせるだけでなく、食感もたのしめます。たとえば、白米一合に対して50グラム程度を目安に混ぜて炊くと、バランスよく楽しめます。この際、水洗いの必要もありません。浸水の必要はありません。また、通常の白米と同じように炊飯器で炊けます。
茹でてサラダやスープなどに使用する際には、たっぷりの水を使って鍋の中で対流が起きるように茹でるようにしてください。
── より日常生活に多く取り入れるために、その他に大麦と相性のよい食べ物のおすすめなどありますか?
手塚さん:これまでどのような料理と相性がよいか、いろいろと検証を行ってきました。その中でも、カレーともち麦を合わせるのはおすすめです。もち麦のほんのりとした甘みが、カレーのスパイスとよく合い、より一層の味わい深さを楽しむことができます。とくにシーフードカレーや野菜カレーとの組み合わせはおすすめですが、ビーフカレーにも合います。
また、焼肉やホルモンといった比較的脂っこい食事の際も、押し麦の入ったご飯を合わせるとさっぱりと食べることができます。
他には、大手コンビニチェーンでは、もち麦を使ったおにぎりが販売されています。調理の必要もなく、手軽に摂取することが可能です。健康的な食事の選択肢のひとつとしても、大麦を使用したご飯の入り口としても、ぜひ手に取って試してみていただきたいです。
── 大麦を取り入れやすい料理にはどのようなものがありますか?
手塚さん:リゾットやサラダ、スープの具として使いやすいです。たとえば、もち麦リゾットは、押すなどの加工をしていないためアルデンテ食感を楽しめ、その噛み応えと風味がリゾットのクリーミーさが合わさり、満足感のある一皿になります。サラダに加えることで、普段のサラダに食感と栄養価をプラスすることができます。さらに、スープやシチューにもち麦や押し麦を加えることで、料理にボリュームを出すことができ、より満足感が得られるはずです。
── 想像以上にいろいろな食事に取り入れられそうです!大麦の適切な摂取量について教えていただけますか?
三尾さん:通常のご飯に大麦を混ぜる場合、全体の約10%から30%程度を目安に大麦に置き換えるのがおすすめです。大麦は食物繊維が豊富ですが、摂取量が多すぎるとお腹がゆるくなることがあるため、栄養のバランスを取りながら消化器系への負担も考慮し、摂取量を徐々に増やしていくことが大切です。
── 今後の研究展望についてもっと詳しく教えてください。
三尾さん:私たちは、大麦の摂取が腸内細菌叢にどのように影響を及ぼし、それが健康にどのように作用するかの研究を進めています。まだ解析途中なので具体的なことは言えませんが、長期間にわたる腸内細菌叢や大麦の摂取を含む食習慣の変化がメタボリックシンドロームや糖尿病などの生活習慣病に及ぼす影響を詳細に分析しています。
今後も腸内細菌叢の変化と健康状態や病気との間にどのような関連性があるかを探求していきたいと思っています。
Wellulu編集後記
食物繊維は若い世代の不足が顕著とのこと。食物繊維が豊富で、日本人の食生活にも深く根付き、白米に混ぜるというシンプルな方法で、すぐに取り入れられる大麦。まずはコンビニのおにぎりからのスタートもいいなと感じました。お米をたくさん食べる私たちの食生活のベースの一部を変えていくことで、食物繊維をしっかり摂れる食生活も実現できそうです。