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座りっぱなしが死亡リスクに!まずは気軽にできる血流・内臓脂肪対策を【京都府立医科大学・小山講師】

日中に座っている時間の長さが、我々の寿命に影響を及ぼしているとしたら…

「京都府立医科大学大学院医学研究科 地域保健医療疫学」小山講師らの研究グループは、「座っている時間」と「死亡リスク」の関係について研究を行った。

6万人を超える日本人を7.7年間追跡したデータによって「座位時間が長いほど死亡リスクが増加する」ことが判明。また、長時間座り続けることによる血流の滞りや内臓脂肪の蓄積が、メタボリックシンドローム、動脈硬化、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病に影響し、心筋梗塞や脳卒中などのリスクにもつながるとのこと。

今回は研究の第一人者である小山氏に、座っている時間と死亡リスクの関係について伺った。

小山晃英さん

長野県出身(長野県長野高校卒)。岡山大学を卒業後、信州大学大学院医学系研究科 循環病態学講座にて医学博士取得。大学院時代から心血管内分泌代謝領域の研究に取り組んでいる。2014年からは京都府立医科大学にて、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究)などの疫学研究と、行動科学を取り入れた社会実験に取り組んでいる。

目次

長時間座ることが血流や内臓脂肪に悪影響を与える

世界と比べても日本は1日7時間と座っている時間が長い

── はじめに、小山先生が今回の研究をしようと思ったきっかけを教えてください。

小山先生:もともと私は血管の研究をしており、代謝や肥満などからくる死亡リスクに興味を持っていました。たとえば「人は太るほど死亡リスクが高まる」と多くの人は考えていると思うのですが、じつは「普通の体型でも代謝次第では死亡リスクが高くなる人」も存在するのです。

これは内臓脂肪の蓄積などによる「代謝的に不健康かどうか」が鍵になっています。

そんな中、海外では「Sitting is the New Smoking (座りすぎはタバコを吸うことと同じくらい健康に悪い)」と表現され、「長時間座っていること」が血流を阻害し、不健康であることが提唱されていました。海外の職場では積極的にスタンディングデスクが取り入れられ、立って会議することも歓迎されています。

日本では立って仕事をするスペースが準備されていることは、ほとんどないですよね。また、「座り続けていること」に関して、日本人についての研究も少なかったので、興味深い分野だと考えました。

── なるほど、それで6万人もの調査をされたのですね。それにしても、ただ長く座っているだけで死亡リスクが上がるのは驚きです。

小山先生:そうですよね。こちらの図が実際の検証を簡単にまとめたものになるのですが、「歩行」の時間が伸びると内臓脂肪もBMIも下がり、「ただ立つだけ」でも内臓脂肪は低下するのです。しかし、座っている場合にはその時間が伸びるほど内臓脂肪が増えていきます。

小山先生:ちなみに、WHO(世界保健機関)の「WHO身体活動・座位行動ガイドライン」でも「座りすぎで不健康になる。」と記載があります。つまり考え方としては「長時間座っている状態を続けること」は「運動しないこと」と同じくらい体によくない生活習慣だと認識していくべきかと思います。

さらに日本人は、シドニー大学が行った「世界20か国における平日の総座位(座っている状態)時間」の調査で、1日で座っている時間がサウジアラビアと並んで7時間と最長だということもわかりました。

── 日本人って、世界の人と比べてもずいぶん長く座っているんですね…!「死亡リスク」が上がるのは、この内臓脂肪の蓄積が大きいのでしょうか。

小山先生:そうですね。座っていると代謝が下がり内臓脂肪が蓄積していきます。内臓脂肪が蓄積すると、メタボリックシンドローム、動脈硬化、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病に影響し、心筋梗塞や脳卒中などのリスクにつながります。また座ることにより血流が滞りやすくなることも悪影響を及ぼす原因の一つと考えられます。

座る時間が2時間延びるごとに死亡リスクが1.15倍に!

── 座る時間が延びれば延びるほど、そのリスクは高まるのですか?

小山先生:今回の研究では、座位時間が2時間増えるごとに死亡リスクが1.15倍になることが明らかとなりました。また、座位時間が5時間以内の人を基準とした場合、7〜9時間で1.20倍になって、9時間以上で1.54倍になりました。

ほかにも、日常的に座位時間が長い方は「転倒」や「転びそうになる」といった経験との関係(座位時間が5時間以内の人を基準とした場合、7〜9時間では1.70倍)もあることもわかりました。

とくに年齢を重ねてからの転倒は、骨折といったケガだけでなく、それを機に寝たきりになり痴呆が進んでしまうなど、大きなリスクがあるのです。「体が動く」ということは健康寿命に直結することなので、ここは注意したいポイントです。

“座りっぱなし”を避けてリスクを回避しよう

── 内臓脂肪だけでなく、さまざまなところに影響が出てくるのですね。ちなみに「長時間座ったあと、余暇にジムなどで運動しても効果がない」という発表もありましたが、その理由も教えてください。

小山先生:グラフを見ていただくとわかりやすいと思います。余暇の運動頻度と時間から身体活動量を計算して、活動量別に4つの群に分けて解析しました。その結果、座位時間と死亡リスクの関係は、余暇の身体活動量にほとんど影響を受けていませんでした。

つまり、座る時間が長いからあとでケアする…といった方法は通用せず、「一定時間座ったら少し立つ」という行動の方が大事なようです。

ただ、余暇の適度な運動は、筋力の維持やストレスの発散などの効果もありますので、健康維持の目的としてはもちろん有効です。筋肉は血流を促す「ポンプ」の役割もあるので、日常生活に運動を取り入れることはとても大切です。

※余暇時間の運動は、座位時間と死亡の関連性はほぼ影響しないという研究結果

15分に1回、15秒を目安に立って血流を改善

──「あとで運動」より「とりあえず立つ」ほうが効果はあるのですね。何時間ごとに、どのくらい立つとよいのでしょうか?

小山先生:どのタイミングでどのように立つのが効果的かは、まだまだ研究が必要です。現状ですと車椅子の方のケア方法が参考になります。

車椅子の方は当然ながら、座っている時間が長くなります。とくに同じ姿勢で体が椅子に当たっていると「褥瘡(じょくそう:皮膚が体重で圧迫されている場所の血流が悪くなることで、皮膚の一部がただれたり、傷ができてしまうこと)」になるリスクが高くなるのです。

そこで、「プッシュアップ」といって、15分〜1時間ごとに椅子に手をつき、15秒ほどお尻を車椅子から浮かせることが推奨されています。

実際に自分でやってみると、座った状態で15秒お尻を浮かせるのって大変なんですよ。でもやってみると体の巡りがすこしスッキリするような感覚を覚えます。末梢の血管まで血流が行き届くまでにはそのくらいの時間が必要なんです。

立てる方は15分に1回、15秒くらい立っていただいて、最低でも1時間ごとに15秒くらい立つことを取り入れられたらよいのではないかと思います。

「姿勢」を改善することもポイントに

── どうしても立ち上がれない環境の場合、座りながらできるケアはありますか?

小山先生:足を曲げ伸ばしするなど、血流が促される動作をするのがよいと思います。あとポイントになるのが「姿勢」です。体が右に傾いているなど、偏った姿勢は体に負担がかかります。

これも車椅子の方の検証でわかったのですが、人により座っているときの癖があり、左右のバランスが崩れている方がいます。

どのような圧がかかっているのかモニタリングしながら、体が傾きやすいほうの腰元にタオルを挟むなどしてケアしたところ、腰痛が改善してさらに腕の可動域も広がったんです。

車椅子以外の方にもすべてが当てはまるかどうかは、まだ検証しきれていませんが、左右のバランスを整えて姿勢をよくすることで凝りや血流は改善するはずです。

座っているときはとくに腰やお尻周りに圧がかかっているので、自分で意識するのが難しいときは、正しい姿勢を保ちやすくしたり、圧を分散させたりする椅子を利用するのもよさそうです。

小さなことでも行動することで「死亡リスク」は減らせる

── 本日はありがとうございました。最後に研究で新たにわかったことや、小山先生が研究を進めていることがありましたら教えてください。

小山先生:座位や睡眠などの生活習慣や、社会環境が及ぼす健康への影響を研究しています。誰にでもわかりやすい研究成果を目指しています。今回の検証は、10万人規模の方が長年研究に協力してくださったことにより可能となりました。データを有効活用することで研究に協力してくれた方々に恩返しをしたいですね。

自分の目標としてさまざまな病気と予防方法の研究から、社会の「ヘルスリテラシー」向上に貢献したいという思いがあります。病気になってから健康になるのは意外と難しいんですよ。だからこそ、健康を意識して行動することが大事なんです。

とはいえ、「内蔵脂肪を減らすには運動がいい」とすでにわかっていることでも、毎日実行するのは難しいですよね。仕事や育児で忙しい人も多いですから。実行できないものを提案して、そのままになってしまうのはもったいない。じゃあ簡単に行動してもらうにはどうしたらいいか…「行動変容」というのも私の研究のテーマです。

ゼロをイチにするのは新しいことを行うため難しいと感じる人もいるかもしれません。しかし、元々行っていることを少し減らすことならやれるかもしれません。例えば、運動しない人に「運動しよう」と投げかけてもそう簡単に行動は変わらないわけですが、「座る時間を減らそう」とメッセージを変えることにより響く人がいるかもしれません。

座位時間は1日の活動時間の半分以上にあたると言われています。そのために、まずは座ることが日本人の体にも悪いことを証明しようというのが、今回の研究の始まりです。

これからも研究を進めていく中で、日常生活や働いている最中にも簡単に取り入れられるものを見つけて、社会に還元していきたいと思っています。

Wellulu編集後記

今回は座っていることと死亡リスクの関係について、小山先生にご説明いただきました。

「仕事で長時間座る」というのが当たり前の生活をしていて、そこに何のリスクも感じていなかったので、お話を聞いて多くの気付きがありました。

時間ごとに「立つ」だけで内臓脂肪の増加を防ぎ、死亡リスクを減らせるというのは、本当に簡単にできるのでぜひ毎日取り入れたいですね。

今回の取材で「ヘルスリテラシー」を高めることの大切さを実感しました。

本記事のリリース情報

・小山講師の研究成果がWelluluに掲載されました

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