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抗がん作用・抗酸化作用、さらに抗肥満効果まで?ブロッコリー由来成分「スルフォラファン」の研究【東京農業大学・井上教授】

東京農業大学の井上順教授らの研究グループは、ブロッコリー由来の成分「スルフォラファン」に肥満を抑える効果があることを見出し、そのメカニズムを明らかにした。すでに抗がん作用や抗菌作用をもつ成分として知られ、肥満にも効果があると言われていた「スルフォラファン」だが、抗肥満効果をもたらすメカニズムはわかっていなかった。

今回の研究で詳細なメカニズムがわかったことにより、今後「機能性食品」の開発への応用なども期待されるとのこと。この研究の第一人者である東京農業大学 応用生物科学部 農芸化学科 井上順教授に、「スルフォラファン」の効果や実際にどう摂取すればよいかなどについて伺った。

●「スルフォラファン」とは?

ブロッコリーやブロッコリースプラウトなどに含まれる成分。解毒力や抗酸化力を高める作用、抗がん作用、抗炎症作用などが報告されており、さまざまな健康効果が期待されている。また、スルフォラファンは熱に弱いため、生で食べるか、軽く加熱して食べるのがおすすめ。

井上 順さん

専門分野は食品機能学。2000年に博士(薬学)を取得(大阪大学薬学研究科)。2000-2005年に新潟大学医学部、2005-2006年にカリフォルニア大学サンディエゴ校、2006-2018年に東京大学大学院農学生命科学研究科、2018年から東京農業大学生物科学部に勤務。2019年より現職。

健康を維持する生体調節作用として「スルフォラファン」に注目

──まず、この研究がおこなわれた背景を教えていただけますか?

井上教授:食品には“栄養を摂る”という一次機能、“食べることで楽しむ”という二次機能、健康維持や向上に関わる“生体調節作用”という三次機能の3つの機能があるといわれています。

私たちはこの三次機能について注目しており、今回は“分子レベルでの科学的根拠のある食品成分を見つけよう”という目的で研究をはじめました。

たとえばトクホの緑茶カテキンは、きちんと分子メカニズムが解明されていて“脂肪を燃焼しやすくするという科学的根拠のある食品成分”ですが、科学的根拠のない、いわゆる健康食品と呼ばれるものもたくさんあるんです。

“ちゃんと科学的根拠のあるものを見つけていこう”というのが今回の研究のテーマです。

──どうしてブロッコリーの成分に着目したのでしょうか?

井上教授:はじめからブロッコリーに着目したわけではなく、まずは抗メタボリックシンドロームや抗肥満に効果がありそうな成分を、約300種類の⾷品成分を含む「⾷品由来成分ライブラリ」の中から導き出すという研究をおこないました。

どうやって「スルフォラファン」を導いたかは、かなり専門的な話になってしまうのですが、簡単に話をすると、ライブラリの中から“FAS遺伝子(脂肪酸合成酵素)のプロモーター活性を低下させるもの”を探しました。

該当する成分がいくつか見つかり、その中の一つがブロッコリー由来の「スルフォラファン」です。

同じく導き出されたホップ由来のキサントフモール、イソキサントフモールについては、前にメカニズムを解析した論文を発表しました。

今回の研究は、この「スルフォラファン」に焦点をあてて詳しく解析していったということになります。

脂肪肝やインスリンの感受性も改善?「スルフォラファン」の肥満を抑えるメカニズム

脂質合成を抑制することで抗肥満効果を発揮

──なるほど、抗肥満に効果がありそうな成分を探した結果「スルフォラファン」が見出されたという流れなのですね。「スルフォラファン」は、どのように抗肥満効果を発揮するのでしょうか?

井上教授:スルフォラファンに抗肥満効果がありそうだということは、前から言われていましたが、今回の研究で詳しいメカニズムを解明することができました。

専門的な話になりますが、体内でのコレステロールや脂質の合成に関わる転写因子「SREBP」というものがあります。

肥満や糖尿病のマウスの肝臓では、「SREBP」が過剰に活性化しており、この活性を抑えることで肥満や糖尿病が改善するということが報告されています。

つまり転写因子「SREBP」の活性を抑制することが、肥満や糖尿病などの生活習慣病予防につながると考えられているんです。

今回さまざまな実験をおこない“「スルフォラファン」には「SREBP」の前駆体を分解する働きがある”ということがわかりました。前駆体が分解されることにより転写因子「SREBP」の活性が抑えられたことで、脂質の合成も抑制されるというわけです。

簡単にまとめると、「スルフォラファン」が脂質合成を抑制し、結果として抗肥満に効果があるということがわかりました。

──抗肥満効果というのは、具体的にいうと「痩せる」ではなく「太りにくくする」ということでしょうか?

井上教授:はい、その通りです。マウスに「スルフォラファン」を摂取させた結果をみていただくとわかりやすいと思います。

私たちが「食餌性肥満マウス」と呼んでいる“高脂肪食によって太らせたマウス”を使った実験です。

グラフは経過日数ごとの体重の変化を表していて、黄色いグラフが高脂肪食を続けたもの、オレンジのグラフが高脂肪食に0.1%の「スルフォラファン」を混ぜた食事を続けたものです。

含まれているのは0.1%なので、1gの中に1mg入ってる程度。ものすごく微量ではありますが「スルフォラファン」を摂取しているマウスの体重増加は、摂取していないマウスに比べて緩やかになっているのがわかります。

また、細かな話にはなりますが、糖尿病にも関わってくるインスリンの感受性や、脂肪肝の改善などもみられました。

「スルフォラファン」の抗肥満効果については“高脂肪食による体重増加を抑制する”と考えていただくといいと思います。

──微量の「スルフォラファン」でも、しっかり効果がわかりますね。今回はマウスでの結果でしたが、たとえば人間が同じように「スルフォラファン」を摂ると、同じような効果が期待できるのでしょうか?

井上教授:みなさん気になるところだとは思うのですが、今はまだマウスでの実験段階ですので、それを人に応用するというところまでは、私の口からは言えない部分ではあります。

今回の研究ではありませんが、ブロッコリーとブロッコリースプラウト(ブロッコリーの芽)に関するヒト試験の論文もいくつか発表されていて、100gのブロッコリーを1週間食べてLDLコレステロール値(悪玉コレステロール)が低下、10gのブロッコリースプラウトを4週間食べて2型糖尿病が改善するなどの結果がでています。

ただし、薬ではなく食品ですので「ブロッコリーを食べると症状が改善する」と断言することは、やはり難しいですね。

「マウスの実験ではこういう結果になりました」「ヒトの臨床試験では、この条件で食べてこういう結果がでました」とはお伝えできますが、人によって健康状態や生活習慣などの違いもありますし、食べた人みなさんがそのような健康の改善を得られる、とは言えないのが正直なところです。

バランスよく栄養を摂るというのを大前提に、特にこの「スルフォラファン」を意識してブロッコリーを取り入れるという、イメージを持ってもらえればいいのではないでしょうか。

スルフォラファンの効率的な摂取は“咀嚼”が重要

──ちなみに、ブロッコリーを食べれば「スルフォラファン」は自然と摂取できるものなのでしょうか?何か効率的な摂取方法などありますか?

井上教授:「スルフォラファン」は反応性が高く、ずっと安定して存在するのが難しい成分ではあるんですね。

ブロッコリーの中に「スルフォラファン」がどういう形で含まれてるかというと、少し難しい話になりますが、糖が結合した配糖体「グルコラファニン」として存在しています。それが「ミロシナーゼ」という酵素によって加水分解されることで「スルフォラファン」になるわけです。

「グルコラファニン」が「ミロシナーゼ」に出会うというステージを経ることが大事になります。

──それでは、加水分解を経て「スルフォラファン」にするためには、どのように食べるのがいいのでしょうか。

井上教授:一番簡単なのは“咀嚼”ですね。一般的には「よく噛んで食べる」ことで、ある程度加水分解を促せると思います。

ブロッコリーやブロッコリースプラウトをどういうふうに調理するかというのも影響してきます。栄養素が水に溶け出してしまうのはダメだと思いますが、比較的「スルフォラファン」は熱に安定性があるとされています。

──ブロッコリーにも品種があると思いますが、品種によって「スルフォラファン」の含有量に差があるのでしょうか?

井上教授:ちょうど今研究を進めており“「SREBP」活性抑制性能の強いブロッコリー品種の選別”を試みています。

今回の研究で「スルフォラファン」を見出し、せっかく農大にいるということもあり、農産物をターゲットにして実験をしようと考えました。

国内外29品種のブロッコリーを、葉、花蕾、花茎の3部位に分け、それぞれの成分を抽出して細かく調べました。調べた結果、やはり品種によって活性が違いそうだということがわかり、中でも「SREBP」活性抑制性能が強いと思われる、2品種のブロッコリーをさらに詳しく調べているところです。

今おこなっているこの研究は、農大の高校生向けパンフレットや読売新聞の中高生新聞などにも取り上げていただきました。

ブロッコリーの品種についてもそうですし、先ほども質問されていた「どれだけ食べればより良いか」なども、今後研究が進むにつれてわかってくるかもしれないので、私もそのときを待ちたいなと思っています。

── 品種や摂取量についての研究結果も楽しみです。井上教授、本日はどうもありがとうございました!

村上農園の担当者に聞いたブロッコリースプラウトの特徴や食べ方

スルフォラファンを高濃度に含むブロッコリースプラウトを販売している「村上農園」の広報ご担当者さんに「おすすめの食べ方」や「食べ方の注意点」についてお話しを伺った。

「スルフォラファン」含有量はブロッコリー以上

── まずはブロッコリースプラウトの特徴について教えていただいてもよいでしょうか。

村上農園 ご担当者:ブロッコリースプラウトとは、発芽したばかりのブロッコリーの新芽で、「スルフォラファン」を成熟したブロッコリーよりも多く含んでいるのが特徴です。

ただ、使用する種子や栽培方法によって含有量に大きな差があるので、購入する際は、パッケージや商品HPで含有量を確認することをおすすめします。

ブロッコリースプラウトは生で食べるのがおすすめ

── 「スルフォラファン」の摂取を目的とした場合の、おすすめの食べ方はありますか?

村上農園 ご担当者:一番は生でよく噛んで食べることをおすすめしています。

加熱調理をする場合は、生食より「スルフォラファン」の摂取効率は悪くなってしまいますが、腸内細菌によって、スプラウトに含まれるグルコラファニンが「スルフォラファン」に変換されるので、吸収率がゼロになるわけではありません。

生食が苦手な方は、焼きそばやパスタなどの麺類や、丼物などを器に盛った後、最後にスプラウトを盛り付けて、混ぜて食べると、しんなりして食べやすいと思います。

もっと細かなことをいうと、できるだけ熱を与えないように、熱々の状態ではなく、少し冷めたくらいで混ぜるのがよいと思います。

個人的には、納豆に混ぜたりパスタにのせたりして食べるのが、手軽で美味しいのでおすすめです。

── いろんな取り入れ方があるんですね。生食が苦手で加熱調理する場合、注意点はございますか?

村上農園 ご担当者:加熱をすると「スルフォラファン」の前駆体であるグルコラファニンが流れ出てしまうので、加熱した際に出る水分ごと摂れる料理、たとえば汁物や卵焼きなどがおすすめです。

また、加熱して失われた「ミロシナーゼ」はほかのアブラナ科野菜で補うことができるので、たとえば、ブロッコリースプラウトを使った卵焼きに、大根おろしを添えるなどの工夫をするとよいと思います。

1週間に1パック(50g)程度、2〜3日に1度を目安に

── 詳しくありがとうございます。1日にどのくらいの量を目安に食べるのをおすすめしていますか?また、摂取する上で気を付けることはありますか?

村上農園 ご担当者:野菜ですのでとくに決まった量はありませんが、当社のブロッコリースーパースプラウトであれば1週間で1パック(50g)程度を目安に、無理のない量で続けていただければと思います。

「スルフォラファン」の効果持続時間は72時間以上といわれていますので、摂食頻度としては、2〜3日に1度くらいでもいいですが、ぜひ習慣化してほしいと思っておりますので、毎日の朝食などで手軽に食べてもらうことをおすすめしています。

スムージーにして摂取していただくのもおすすめです。ミキサーにかけることで細胞が壊されて吸収率が高まります。

ただし、スルフォラファンは揮発性の物質になるので、ミキサーにかけたあとはなるべく早めにお召し上がりください。

── 「ブロッコリースプラウト」を活用すれば、手軽に美味しく「スルフォラファン」を摂取することができそうです! 詳しいお話をありがとうございました。

Wellulu編集後記

あくまでもまだマウスでの実験段階で、人に応用できるかは断言は難しいという中で伺ったお話しでしたが、「スルフォラファン」の抗肥満効果の仕組みや、実際にマウスの体重増加が抑えられている結果を知り、これからさらに研究が進み、人への応用についてわかっていくのが楽しみだと感じました。

栄養バランスの良い食事を摂ることはもちろん、ブロッコリーやブロッコリースプラウトも意識して食べるように心がけたいです。

本記事のリリース情報

・農芸化学科の井上 順 教授が取材協力した、ブロッコリー由来の成分「スルフォラファン」の抗肥満効果についての記事が掲載されました
・ 「Wellulu」でブロッコリースプラウトについて取材を受けました

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