
「インナーユニット」という言葉を聞いたことがあるだろうか。インナーユニットとは、腹部の奥にある深層筋群(しんそうきんぐん)で、体幹の機能を支えている非常に重要な部分。このインナーユニットの機能は、日頃から意識的にケアをしていなければ、現代人の生活習慣や加齢が原因でどんどん衰えていくという。今回は、習慣的な「体幹ケア」を提案している一般財団法人日本コアコンディショニング協会(JCCA)の石塚さんに、健康的な身体づくりやパフォーマンス向上を目指す「コアコンディショニング®︎」(コアコン)に取り組むことの重要性や、その効果について詳しくお話を伺った。

石塚さん
日本コアコンディショニング協会
本記事のリリース情報
【掲載情報】Webメディア「Wellulu」にてJCCA副会長石塚インタビュー記事が掲載されました
コアコンディショニング®︎(コアコン)とは?
現代人の多くが自覚できていない「コア」の機能低下
── 本日は「コアコンディショニング」について、詳しくお話を伺えたらと思います。まずはじめに「コア」の定義をお聞かせいただけますか?
石塚さん:よろしくお願いいたします。我々が提唱している「コアコンディショニング®︎」は、体幹部を中心に身体の動きや姿勢を整えるためのアプローチです。
ここでの「コア」は、広義と狭義の2つの意味があります。
広い意味では、頭、腕、足を除いた胴体全体を指し、狭い意味では腹部の奥にある深層筋群(しんそうきんぐん)を指します。この深層筋群は「インナーユニット」と呼ばれ、体幹の機能を支える非常に重要な部分です。
── インナーユニットは、どのような筋肉で構成されているのでしょうか?
石塚さん:インナーユニットは、4つの筋肉で構成されています。
まず「横隔膜(おうかくまく)」があり、呼吸と体幹の安定に重要な役割を果たします。次に「腹横筋(ふくおうきん)」があり、腹部を包み込むように存在し、体幹のベースを支えます。「骨盤底筋(こつばんていきん)」は、骨盤の底を支える筋肉で、内臓を正しい位置に保つ役割があり、排泄にも関与します。背骨に付着している「多裂筋(たれつきん)」は、背骨を安定させる役割を担っています。
これらの筋肉が連動してはたらくことで、日常生活やスポーツにおけるさまざまな動きの中で、身体のバランスを保てます。
「コアコンディショニング®︎」は、これらの筋肉を効率的に活用する方法を身につけ、健康的な身体づくりやパフォーマンス向上を目指すプログラムです。
── インナーユニットがうまく機能しないと、どんな問題が起きるのでしょうか?
石塚さん:インナーユニットがうまくはたらかないと、身体の重心移動がスムーズにいかなくなったり、手や足への力の伝達効率が悪くなったりします。その結果、腰痛や膝の痛みといった身体の不調が出やすくなり、身体全体もうまく動かなくなってしまうんです。
現代の生活では、多くの人が日常的に身体を使う生活動作や時間が減っていますし、長時間座ったままの姿勢や運動不足が原因で、インナーユニットの機能がどんどん落ちてしまうんです。
でも、厄介なのは多くの人がその機能低下に気づいていないことです。
── 機能低下に気づくのが難しいというのは、どういうことなのでしょうか?
石塚さん:インナーユニットの機能の変化に気づくのは簡単なことではありません。とくに、普段から運動をしていない方だけでなく、毎日トレーニングをしているアスリートや運動愛好家であっても、自分のインナーユニットが正しくはたらいているかどうかは自覚できていないことが多いんです。
── 日頃から運動をしている人でも、インナーユニットが正しくはたらいていないことがあるんですか?
石塚さん:ええ、実はそうなんです。「毎日腹筋を鍛えている」「ベンチプレスで重いものを持ち上げている」という人でも、インナーユニットが適切にはたらいているとは限りません。なぜなら、腹筋の筋力とインナーユニットの機能は別のものだからです。
インナーユニットがうまく機能しない場合は、周囲の大きな筋肉がその役割を無理に補おうとするんです。そのおかげで動作自体はおこなえるケースが多いため、インナーユニットの機能に気づきにいく印です。
ただ、周囲の筋肉で無理に補い続けた結果、その筋肉が過度に緊張してしまい、腰痛や肩こり、さらにはなんとなく身体が不調な状態が続く不定愁訴(ふていしゅうそ)につながることもあります。
こういった身体の不調が出て初めて、自分のインナーユニットの機能低下に気づく人が多いのですが、それではもう遅いんです。普段からケアをして、インナーユニットの機能を維持していく必要があります。
── インナーユニットが機能していない状態を、ほかの部分でカバーしようとして、別の問題が出てしまうんですね。自分のインナーユニットがどのくらいはたらいているか、チェックする方法はあるのでしょうか?
石塚さん:自分で判断するのは難しいのですが、普段の生活でとくに体幹のケアをしていない場合は、インナーユニットがうまくはたらいていない可能性が高いと考えてよいと思います。
また、仰向けになって膝を立てた状態で、軽くお腹をへこませながら指でお腹の下部を触ってみるという方法もあります。そのとき、筋肉が軽く収縮する感覚があるかどうかを確認します。もしうまく収縮していない場合、インナーユニットがはたらいていない可能性が高いです。
ただ、インナーユニットの機能を自分で確認するのはかなり難しく、このチェック方法だけでは不十分なこともあるので、コアコンディショニングを提供している専門家に相談するのが効果的です。
正しいフォームや適切なエクササイズを知ることで、インナーユニットの機能をしっかり引き出すことができますよ。
コアの機能を取り戻すには「コンディショニング」が重要
── 痛みや不調が出るまで、インナーユニットの機能低下に気づかないことが多いとのお話でしたが、それを防ぐためにはどうしたらいいのでしょうか?
石塚さん:そうですね。痛みや不調が出るまで気づかないというのはよくあることです。でも、それでは遅いので、普段からコンディショニングに取り組む必要があります。
ここで学びにつながるのが「赤ちゃんの発育・発達の過程」です。ここにコンディショニングの大きなヒントがあり、私が今着ているコアコンのTシャツも赤ちゃんの発達過程を表しています。
── 赤ちゃんの発達過程ですか…?
石塚さん:赤ちゃんの発達過程を思い出してみてください。
赤ちゃんは、生まれてから立って歩けるようになるまで、誰かに教えられるわけではなく、自然に決まった過程を経て成長します。最初はほとんど動けない状態で、泣いたり声を出したりすることから始まり、首を動かし、寝返りを打ち、四つん這いで動き、つかまり立ちをして、やがて歩き出します。この過程で、重力に適応しながら体幹の機能を獲得していくんです。
── 確かに、立ち始めたばかりの赤ちゃんは筋力がないはずなのに、大きな頭を絶妙なバランスで支えていますね。
石塚さん:それは、体幹が自然に効率的にはたらいているからこそ可能なんです。
この赤ちゃんの成長過程には、実は身体を効率よく使うための基本的な動きのパターンが詰まっています。私たちが日常のケアでやるべきことは、この動きの原則に戻ることです。
基本的な動きを再確認して、インナーユニットを正しくはたらかせる習慣をつける。それがコンディショニングの本質であり、健康維持の第一歩だと考えています。
── 赤ちゃんの動きに、体幹を鍛える基本が詰まっているんですね。赤ちゃんの頃に獲得したこの機能も、大人になるにつれて失われていってしまうんですね…。
石塚さん:はい、残念ながらそういうことが多いです。成長の中で学校生活やデスクワークで長時間座りっぱなしになると、自然な姿勢が崩れていきます。姿勢が悪いまま座り続けたり、家でゲームやスマホに夢中になったりしていると、インナーユニットがはたらきにくい状態になってしまうんです。
日頃から運動をしている人でも、野球でずっと右打ちを続けていれば、右肩が前に出たり、右腕だけが太くなったりといった偏りが生じます。このようにスポーツや日常生活で同じ動作を繰り返すと、特定の部位に負担が集中してしまい、左右の偏りが生じることもあります。
── 偏りが進行しないように日頃からできることはありますか?
石塚さん:身体は常に適応する仕組みがあるので、スポーツや日常生活で、身体の使い方が偏るのは避けられない部分もあります。
「偏ること自体が悪い」というわけではありません。問題はその偏りを補正するためのケアを怠ることなんです。
身体の左右のバランスや姿勢を整えるコンディショニングを習慣化することで、長く健康を保つことができます。
── 生活の中で自然と生じてしまう偏りや機能の低下を、意識的にケアしていくことが重要なんですね。身体の偏りを補正するためには、どのようなケアやコンディショニングが必要ですか?
石塚さん:普段使われにくい筋肉を意識して動かすエクササイズや、体幹を整えて鍛えるトレーニングが有効です。
そこで私たちの協会が提唱しているのは、赤ちゃんの発達過程に基づいた動作をおこない「良好な姿勢」と「連動した効率の良い動き」を取り戻すことです。一度赤ちゃんの時期にみんなが獲得した体幹機能を再学習するイメージですね。
── 赤ちゃんの頃の動きの過程を取り戻すには、どのようなアプローチをするのでしょうか?
石塚さん:私たちのプログラムでは、赤ちゃんが成長する中で自然におこなう動きをベースにしたエクササイズを取り入れています。
たとえば、仰向けで身体を動かす運動、うつ伏せでの動き、横向きから立ち上がる動きなどです。これらは、赤ちゃんが重力に適応しながら身体をコントロールするのと同じ原理で、大人にも効果的なんです。
新しい動きを覚えるというよりも、赤ちゃんの時に一度身につけた「動きの土台」を再び呼び覚ますイメージです。その結果、身体のバランスや安定性が向上し、効率よく動けるようになります。
疲れにくい身体に? コアコンディショニングの嬉しい効果
── コアコンディショニングを通して「動きの土台」を取り戻すと、日常生活や運動においてどんな変化が期待できるのでしょうか?
石塚さん:身体の中心部分であるコアが安定することで、手足への力の伝達がスムーズになるため、身体全体が連動して効率的に力を発揮できるようになります。
これにより日々の動作がスムーズになり、日常生活での疲れにくさを実感する人も多いです。さらに、スポーツや趣味の活動でもパフォーマンスが向上しやすくなります。
転倒などのリスクも減らせますし、年齢を重ねても健康的な身体を維持しやすくなります。単に不調を防ぐだけでなく、健康寿命を延ばして、より快適な生活を送るための基盤を作ることにつながるといえますね。
また、美容を意識されている女性にとっては、ウエストが引き締まるという点も嬉しい効果かもしれません。体幹トレーニングを続けることで、お腹周りの筋肉がしっかり機能するようになり、自然と姿勢が良くなるため、見た目にもいい変化が現れます。
── ウエストが引き締まるなど、見た目にも変化があるのは嬉しいですね。
石塚さん:コンディショニングにはさまざまなアプローチ法があるのですが、たとえば、呼吸法の指導があります。深い呼吸をすることで横隔膜を動かし、同時に腹横筋や骨盤底筋を意識して鍛えるエクササイズです。骨盤底筋はとくに意識しにくい部分ですが、これを鍛えると下腹部が引き締まり、体幹全体の安定感が増すんです。
実際にこうしたエクササイズを1回おこなっただけで、ウエストが3センチから5センチ細くなる人がいらっしゃいます。
ただし、これは一時的な変化ではなく「本来の状態に戻った」ということなんです。普段は姿勢や体幹の機能が崩れているために、身体が緩みウエスト部分も緩んでいる状態になっているだけなんですね。
「ウエストが細くなるみたいだからやってみよう」という動機でも、それをきっかけに身体全体のバランスを見直してみると、健康面でも多くのメリットが得られるんですよ。
── 日常生活で姿勢が崩れがちな人にとっては、取り組む意義が大きそうですね。スポーツ面でもコアコンディショニングの効果が得られた印象的な例などはありますか?
石塚さん:私が過去に大学教員として研究した例では、女子バレーボール選手を対象にコンディショニングをおこないました。その結果、ジャンプ力が向上し、着地時の安定性が高まるという効果が見られました。
とくにバレーボールでは、着地時の不安定さが原因で膝の怪我や捻挫が起こりやすいですが、体幹を安定させることでこれらのリスクを減らすことができるんです。
──スポーツパフォーマンスの向上だけでなく、怪我の予防にも役立つということですね。
石塚さん:はい、スポーツや日常生活における怪我の予防につながります。
また、腰痛や肩こりの軽減にも効果があります。
とくにレントゲンやMRIでも原因がはっきりしない「非特異的腰痛(ひとくいてきようつう)」というケースが多くありますが、これはコンディショニングを取り入れることで改善する例が多いんです。体幹が安定し、姿勢が整うと、腰への負担が減るため、再発の予防にもつながります。
肩こりも姿勢の崩れが大きな原因の一つです。頭は非常に重いので、姿勢が悪いとそれを支える筋肉に過度な負担がかかります。しかし、正しい姿勢で骨の上に頭が自然に乗る状態を作ると、筋肉が無駄に頑張らなくて済みます。その結果、肩こりや首の痛みが軽減しやすくなります。
── 痛みで悩んでいる人にはぜひコアコンディショニングに目を向けていただきたいですね。ただ、こういった症状が出る前に、ケアを始めておくことが重要なんですよね。
石塚さん:そうですね。不調が現れる前にケアをすることは、健康寿命を延ばすためにも非常に重要です。たとえば、腰痛や肩こりが出ているということは、身体がすでにアンバランスな状態に陥っている可能性があります。それを修正するより、未然に予防するほうがはるかに簡単で効果的です。
コアコンディショニングは、ただ弱った身体を改善するだけではなく、今の身体をよりよい状態に高めることが目的です。これにより、長く健康で快適な生活を送れるようになるんです。
コアコンディショニング®︎の取り組み方
── コアを整えるための具体的な方法についても、ぜひ教えてください。
石塚さん:まず、コアコンディショニングの基本的な流れは「コアリラクゼーション」「コアスタビライゼーション」「コアコーディネーション」の3つのステップに分けられます。この順番が非常に重要で、これを我々は「コンディショニングピラミッド」として説明しています。
まず最初の「コアリラクゼーション」は、身体の緊張を解き、崩れた姿勢を整える段階です。身体が硬直している状態では、正しい姿勢を作ることも難しいので、最初に身体を緩めることが必要です。これにはストレッチポール®︎を使ったエクササイズが効果的で、身体全体をリラックスさせ、、背骨全体を整えるのが目的です。
次は「コアスタビライゼーション」で、ここで体幹を安定させます。これは先ほど説明したインナーユニットを適切に機能させる練習をする段階です。姿勢が崩れているとインナーユニットがうまくはたらかないため、このステップでは整えた姿勢を維持する筋力を高めることが重要となります。
最後は「コアコーディネーション」です。これは体幹と四肢を協調して動かすトレーニングです。いわば、身体全体の連携を高める段階で、本来持っている自然な動きを引き出します。このステップが進むことで、運動のパフォーマンスが向上し、日常生活でもスムーズな動きができるようになります。
── コアを整えるための具体的な方法についても、ぜひ教えてください。
石塚さん:土台が崩れたまま筋力トレーニングをすると、逆に身体を痛めるリスクも高くなってしまいますので、この順番が非常に重要です。
とくに骨盤の歪みがある場合、インナーユニットがはたらかないことがよくあります。骨盤は身体の中心であり、姿勢や動きに大きく影響を与える部分です。歪みがあると筋肉や関節に偏った負荷がかかり、不調や怪我の原因になることもあります。
── 骨盤の歪みはどのように起きるのでしょうか?
石塚さん:とくに女性では、出産後に骨盤が歪みやすいと言われています。妊娠・出産による身体の変化で、骨盤周りの筋肉が弱まりやすく、これが歪みの原因になります。また、スポーツ選手やデスクワークの多い人も、片側に負担がかかる動きや姿勢のクセで歪みが生じることがあります。
── 骨盤の歪みはどうやって改善できるのでしょうか?
石塚さん:骨盤の歪みは手技で矯正する方法もありますが、一時的に歪みを整えても、長年の習慣やクセが原因でもとに戻りやすいため、やはり自分で改善する習慣を持つことが重要です。そのため、骨盤の位置を安定させるエクササイズが効果的です。
たとえば、専用の器具やストレッチポール®︎を使ったエクササイズで、骨盤を微調整しつつ、周囲の筋肉を強化します。これにより、歪みを抑えるだけでなく、骨盤周りの安定性が向上します。また、体幹の安定性を高めることで、自然と正しい姿勢が維持されやすくなります。
日々の「体幹ケア」でいつまでも若々しく動ける身体をつくろう【LPN】
本記事のリリース情報 ウェルビーイング発信メディア「Wellulu」 体幹ケアとは? ── 「体幹ケア」という言葉は初めて聞いたのですが、どのようなものなのでし.....
── やはり日々のコンディショニングが基本なんですね。
石塚さん:我々が提唱している「コアコンディショニング®」は、7つのエクササイズのセットである「ベーシックセブン」が基本です。
この7つのエクササイズは、ストレッチポール®︎を使っておこなうことが特徴で、自宅で誰でも簡単に取り組める内容となっています。
大切なのは、「自分でケアを続ける習慣」を身につけることです。ただ骨盤や姿勢を整えるだけでなく、それを維持するための運動を取り入れることが健康維持の鍵となります。そして、その上で適切な負荷を身体に与え、徐々に体力やパフォーマンスを向上させることが理想的です。
コンディショニングの習慣をつけることで、好きなことを長く続けられる身体を作ることができます。また、日常生活の中でのちょっとした不調も未然に防ぐことができるため、より快適で健康的な毎日を送れるようになりますよ。
【キッズ向け】身につけるべき“動きの土台”を作る
── 子どもにもコアコンディショニングを取り入れることは効果的でしょうか?
石塚さん:はい。子どもにとってコンディショニングは、運動能力を向上させるだけでなく、身体の使い方を学び、自分の身体をコントロールする力を身につけるための重要な基盤になります。キッズ向けのコアコンディショニングのプログラムも提案しています。
たとえば、足が速くなる、ボールを投げるのが上手くなる、ジャンプ力が向上するなど、いわゆる「運動神経」と呼ばれる能力も、しっかりとした土台があってこそです。
子どもたちは遊びやスポーツを通じて、自分の身体を動かす楽しさを学びます。たとえば、ボールを投げる技術を身につける過程でも、最初は腕だけで投げていた子が、身体全体を使って投げられるようになるのは、身体の連動性や動きの効率性を経験的に学んでいくからです。
また、小さなけがや失敗を経験することで、身体を守るための動きを学ぶこともできます。たとえば、転んだときにとっさに手が出る、身体を丸めるといった動きです。これを幼少期に経験しておかないと、いざ転んだときに手を出せず大きなけがをしてしまうことがあります。こうした基本動作を通じて、自分の身体をコントロールする力を身につけられるんです。
── けがや失敗の経験も大切なんですね。キッズ向けのコンディショニングは、具体的にどのような内容になるのでしょうか?
石塚さん:土台作りの鍵は「運動発達」のプロセスを促すことです。
ご説明したとおり、寝返り、はいはい、立ち上がり、転がる、といった赤ちゃんが発達する過程でおこなう基本的な動きがその基盤になります。
逆に、こうした基盤が不足していると、新しい動きを学ぶ際にぎこちなさが残り、腕だけで投げる、力任せで動く、といった非効率な身体の使い方になりがちです。それが運動能力の伸び悩みや、けがのリスクにつながることもあります。
── 寝返りや転がる動きなどはシンプルですが、その動きがどう運動能力に影響するのでしょうか?
石塚さん:成長期の子どもは、急激な身体の変化に適応するのが難しいときがあります。身長が急に伸びたり、骨格が変化することで、昨日までできていた動きが急にうまくできなくなることも少なくありません。これは、身体の実際のサイズや形と、頭の中でイメージしている身体の認識がズレてしまうためです。
このズレを解消するには、「身体のフォルム」を感じられるようにする経験が必要です。たとえば、寝返りや転がる動き、身体を様々な方向に動かす体操を取り入れると、全身に刺激が伝わり、自分の身体の側面や背中、手足の位置を感覚的に把握しやすくなります。これが、実際の身体とイメージのズレを埋め、動作のスムーズさや効率性を高めるポイントなんです。
── 感覚的に身体を捉える能力を高めるという点も興味深いですね。
石塚さん:また、こうしたシンプルな動きをおこなうことは、重力に対するバランス感覚や、身体の連動性を育むうえでも非常に重要です。身体のどこに重心があるのか、転びそうになった時にどこに手や足を出せばいいのか、といった感覚も自然に身についていきます。
コンディショニングでは、こうした身体の感覚を養うためのエクササイズを取り入れています。代表的なものでは「コアキッズ体操」があります。
── 「コアキッズ体操」とは、どのようなエクササイズでしょうか?
石塚さん:子どもたちが楽しみながら身体を動かし、自分の身体を知るためのプログラムです。寝返りや転がる動き、地面に手足をつく動きなど、シンプルながらも全身に刺激を与えるエクササイズを取り入れています。これにより、身体の認識力が高まり、運動の基盤となる感覚が養われます。
さらに、こうした体操を通じて「身体を動かす楽しさ」を実感することも大切です。楽しみながら自然に身体の使い方を学ぶことで、運動が得意な子にも、苦手な子にもメリットがあります。
── 運動が苦手でも楽しく身体を動かす経験ができるのはとてもいいですね。
石塚さん:コアキッズ体操以外にも、赤ちゃんの発育発達の過程を参考にした運動の基本的な考え方をベースに、各指導者が独自の工夫を加えたプログラムを提供しています。
たとえば、「だるまさんが転んだ」をほふく前進でおこなったり、「はいはい」で鬼ごっこをするなど、ゲーム性を加えて飽きさせない工夫をしたりします。
グーチョキパーを身体で表現するジャンケンも効果的です。
身体で表現するジャンケン「グー」
身体で表現するジャンケン「チョキ」
身体で表現するジャンケン「パー」
シンプルな遊びに体操要素を加えることにより、自然と基礎的な運動能力を高めることができるんです。
── 運動をしているという自覚がなく、遊んでいる感覚でコンディショニングができそうですね。
石塚さん:そうですね。さまざまなプログラムを考えることができるので、対象となる子どもの年齢や運動レベルに応じて、さまざまなアプローチが可能です。
小学校高学年から中学生を対象にしたプログラムでは、赤ちゃんの動きを基にした基礎的な体操からスタートし、それがしっかりできるようになった子どもたちには、次のレベルの運動を段階的に取り入れていく…といったようにステップアップ形式で進められる点も特徴です。
しっかりとした土台ができた子どもたちは、競技スポーツに進んでも、身体を効率よく使えるため、高いパフォーマンスを発揮しやすくなります。実際に、トップレベルで活躍している選手の中にも、幼少期にこのようなプログラムを経験している人が増えているんですよ。
【シニア向け】“いつまでも歩き続けられる身体”を作る
── シニア世代においても、コアコンディショニングを取り入れることで効果が期待できるのでしょうか?
石塚さん:シニア世代では、コアコンディショニングを取り入れることで、筋力やバランス感覚を維持し、不調やけがを予防する効果が期待できます。骨盤底筋や体幹を鍛えることで姿勢を安定させ、足腰の力を保つことができますので、転倒予防にもつながります。
また、夜中に何度も目が覚めるといった睡眠の悩みや、尿漏れなどのトラブルにも効果がある場合があります。とくに骨盤底筋は、膀胱や腸の機能を支える筋肉で、加齢とともに筋力が低下しがちですが、適切なエクササイズで鍛えることで症状の改善が期待できます。
── 姿勢の改善についても効果があるのでしょうか?
石塚さん:はい、シニア世代では加齢に伴って姿勢が悪くなりがちです。たとえば、背中が丸くなったり、身体が前かがみになったりすると、見た目だけでなく、呼吸や消化、体全体のバランスに影響します。これを完全にもとに戻すことは難しい場合もありますが、コアコンディショニングによって姿勢を改善し、それ以上の悪化を防ぐことはできます。
実際に、姿勢は健康寿命にも大きな影響を与えるというデータがあるんです。姿勢が悪くなると、椎間板が潰れたり、背中が丸くなったりすることで、身長が縮むことがあります。大規模な調査によれば、身長が2年間の間に0.5センチ程度縮むと、死亡リスクが20〜30パーセント増加するという結果も出ています。これは、姿勢の悪化が呼吸や消化、血流など、全身の機能に影響を及ぼすためです。
そのため、コンディショニングを通じて姿勢の悪化を防ぎ、現在の状態を維持し、改善することは、健康寿命を延ばす鍵ともいえます。
── 姿勢の悪さは健康寿命にも大きく影響するんですね。高齢になるとストレッチポール®︎に乗ること自体が難しい方もいらっしゃるかと思いますが、エクササイズの内容はどのように工夫されていますか?
石塚さん:たしかに、ストレッチポール®︎に乗ることが難しい人も多いです。
シニア向けのコンディショニングでは、椅子や床に座った状態でおこなえる簡単なエクササイズを中心にしています。椅子に座った状態で骨盤を前後に傾けたり、背筋を伸ばす運動をおこなうことで、体幹を意識しながら動かす感覚を養えます。
骨盤底筋を活性化させるトレーニングには、椅子に座ったまま使用できる「ストレッチポール®︎®︎ひめトレ」という専用のツールを使用することもありますよ。
また、ツールがなくても簡単にできる運動を提案することも大切です。たとえば、深い呼吸をおこないながら背筋を伸ばすエクササイズや、軽く身体をひねる運動などは多くの人が取り組みやすい内容です。
── 簡単な動きであれば、思いついたときにでも気軽に取り組めそうですね。
石塚さん:はい、プログラムの継続性を高めるためにも、無理なく取り組める内容にすることを重視しています。また、ツールを活用することでエクササイズがより効果的になると実感できるため「ストレッチポール®︎®︎ひめトレ」などを使用することもおすすめしています。
「自分の身体は自分で守る」習慣を身につけよう
── 本日のお話で、コアを整える重要性がよくわかりました。
石塚さん:コンディショニングの基本的な考え方は「自分の身体を自分で守る」という意識を持つことにあります。現代では、痛みが出てから医療機関に頼る、薬を使って対処するという流れが一般的です。ですが、自分の身体の状態を日常的にチェックし、ケアすることで、痛みや不調を未然に防ぐことができます。
それが「セルフコンディショニング」の最大の意義です。とくに、体幹の重要性や姿勢の大切さを意識し、無理のない方法で日々の習慣に取り入れていくことが大事です。
── 早速、今日からはじめられる取り組みはありますか?
石塚さん:寝る前にストレッチポール®︎を使って「ベーシックセブン」をおこなうだけでも、姿勢が整い、リラックスしてぐっすり眠れるようになります。このような簡単で効果を実感しやすいものから取り組んでみるのがポイントです。
調子がよくなってきたら、次のステップとして「コアスタビライゼーション」や「コアコーディネーション」といったプログラムを取り入れるといいですね。これらは、姿勢を維持する筋肉を強化したり、体幹と四肢を連動させる動きを改善する内容で、身体を効率的に使えるようになります。
── 寝る前に少し時間をとって、自分の身体をケアする時間を作ってみたいと思います。
石塚さん:はい、ぜひ取り組んでみてください。また、たまにおこなうだけでなく「習慣化」することも非常に大切です。
私たちの身体は、日々の習慣によって作られています。たとえば、長時間座りっぱなしの生活や、片側だけに負担がかかる動作を続けることで、身体のバランスが崩れたり、筋肉が硬くなったりします。そのため、定期的に身体をリセットし、正しい動きや姿勢を保つことが重要です。
セルフコンディショニングを習慣化することで、小さな不調を早めにキャッチし、身体を本来の状態に戻しやすくなります。
── この記事を読んだ一人でも多くの人がコアに目を向け、コンディショニングへの意識を持ってもらえると嬉しいですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
石塚さん:ありがとうございました。コアコンディショニングは、子どもから大人、シニア世代まで、アプローチを少し変えるだけでどの世代にも適用できます。
子どもにとっては運動能力を伸ばす良い機会である一方、大人にとっても新たな気づきを得られるいいエクササイズになります。たとえば、転がる動きや足を使って進む動きは、見た目は簡単そうに見えますが、実際にやると自分の身体の硬さや左右のバランスの違いに気づくことが多いんです。
とくに、大人は日常生活で同じ動作を繰り返すことが多いため、使わない筋肉や関節が硬くなっていることがあります。こうした動きを試すことで、普段使わない身体の部分を動かす感覚を取り戻し、身体全体のバランスや柔軟性を高めるきっかけになります。
まずは無理をせず、楽しみながら取り組み、動きが難しい場合は、簡単な動きから始めて少しずつレベルを上げていくのがおすすめです。
ぜひ今日から取り組んでみてください。
Wellulu編集後記:
さまざまな動きの基盤となるインナーユニット。現代の生活では意識してケアしていなければ、機能がどんどん落ちてしまうと聞き、日頃から自分のコアをケアすることの大切さを実感した取材でした。
また、キッズやシニア世代の方でも、取り組むことで身体に嬉しい効果が期待できるとのこと。さほど時間もかからず、自宅で手軽に取り組めるため、コアコンディショニングをやらない手はありません。
動ける健康な身体を維持するためにも、今日からコアコンディショニングに取り組んでみようと思いました。
順天堂大学スポーツ健康科学部を卒業後、米国の大学院に進学。スポーツ医学を学び、コンディショニング研究をしながら、アスレティックトレーナー資格を取得。
元福岡大学スポーツ科学部教員、同大学にて多様なスポーツチームと選手のコンディショニングをサポートするアスレティックトレーナーを経て、一般財団法人日本コアコンディショニング協会(JCCA)副会長に就任。現在もトップチーム、トップ選手の指導に携わりながら、コアコンディショニングを提供する指導者育成に従事している。