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痩せた女性は糖尿病リスクが高い?血糖値の高い若年女性に多い”やせメタボ”とは【順天堂大学・田村教授】

近年、日本の女性、特に若年層の低体重の増加が健康上の問題として注目されている。順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターの田村好史教授の研究によれば、運動不足や食生活の乱れにより「エネルギー低回転型」となっている若い女性が多く、糖尿病のリスクが高まる可能性が示されている。

そこで今回、「遺伝的要因」や「環境的要因」などの糖尿病を発症するリスクについて、そして瘦せ型女性に潜む糖尿病リスクについてお話を伺った。また、糖尿病予防のカギとなる、適切な食事や運動などの健康づくりについてのヒントも教えてもらった。

田村 好史さん

順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンター 教授

2007年順天堂大学 医学部内科学代謝内分泌学講座 准教授に就任。2017年より順天堂大学国際教養学部 グローバルヘルスサービス領域 教授(併任)に。2021年からはスポートロジーセンター・センター長補佐(併任)。2009年度日本体質医学会研究 奨励賞、2018年度日本内分泌学会 研究奨励賞を受賞。

本記事のリリース情報
痩せた女性は糖尿病リスクが高い⁉若年女性に多い”やせメタボ”とは?【順天堂大学・田村教授】

目次

糖尿病のリスク。遺伝的要因と環境的要因

──まず初めに「糖尿病リスク」の研究に取り組むきっかけについて教えていただけますか?

田村教授:私たちは糖尿病に関するさまざまな研究を行っているのですが、究極的な目標は「病気を予防する」ことです。その中でも、アジア人で体重が増加していないにも関わらず糖尿病になる理由や、逆に痩せていても糖尿病になるケースなど、あまり解明されていないメカニズムを解明するための研究を行っています。

血糖値の上昇につながるインスリン分泌(遺伝的要因)と効果(環境的要因)

──糖尿病の発症リスクとして、どのような要因があるのでしょうか?

田村教授:糖尿病の原因は、大きく分けて遺伝的な要因と環境的な要因の2つに分けられます。遺伝的な要因としては、家族に糖尿病の人がいる場合そのリスクが高まることが知られインスリンが出にくい体質が多いと考えられています。インスリンは血糖値を下げるホルモンなので、インスリンの分泌が不足すると血糖値が上昇しやすくなります。

一方、環境的な要因としては、運動不足や食生活の乱れなどが挙げられます。特に過度な食事や運動不足により体重が増加すると、脂肪が増えインスリンの効果が低下する状態(インスリン抵抗性)になります。この状態が続くと、血糖値が上昇し、糖尿病のリスクが高まります。

生まれつきの部分(遺伝的な要因)を変えることはできないので、糖尿病を予防するためには、適切な食事や適度な運動を心掛けることが大切です。有酸素運動や減量によりインスリンの効果を向上させることが推奨されます。

肥満者より糖尿病リスクが高い⁉ 瘦せ型女性の“やせメタボ”

──先生が取り組んだ研究のなかで、「痩せている女性」と「アメリカの肥満者・標準体重の女性」の血糖値について言及された研究がありましたが、痩せている女性の糖尿病リスクについて教えてください。

田村教授:まず、日本人を対象にした疫学調査で痩せている男性も女性も糖尿病になりやすいことが知られています。また、日本では痩せた20歳台の女性が20%程度おり、先進国の中で最も高いのです。これらのことから、日本では痩せた女性が若い頃から糖尿病のリスクを持っている可能性があるのですが、その実態は不明です。

そこで、調査を行った所、若い痩せている女性と標準体重の女性を比較すると、痩せている女性は主に筋肉量が少なくて体重が低くなっていることがわかりました。また、普段の身体活動量、つまり歩く量や運動量が少ないこと、エネルギー摂取量が少ないことがわかりました。私達はこのような女性を「エネルギー低回転型」と呼んでいます。

「エネルギー低回転型」の痩せた若年女性の血糖値を調査

──痩せているのに、不健康そうな感じがしますね。やはり糖尿病のリスクが高いのでしょうか?

田村教授:実際に、この痩せた若年女性で、血糖値が正常より高い状態にある「耐糖能異常(75gのブドウ糖を経口摂取し、2時間後の血糖値を調査。値が140mg/dl以上、200mg/dl未満ならば、食後高血糖の状態と判定される)」の割合を調査したところ、13.3%でした。この数値は、標準体重の若年女性に比べて約7.4倍も高く、アメリカの肥満者の10.6%も上回っていました。

──若くて痩せてても、そんなに血糖値が高いんですね。なぜ高くなるのでしょうか?

田村教授:これは、二つ要因があります。1つはインスリン分泌があまり良くない人で血糖値が増加していました。ただ、それだけではなく、「エネルギー低回転型」のためか肥満者と同様のインスリン抵抗性が背景にあることも確認できました。痩せているのに、インスリンの効きが悪く、糖や脂肪の代謝に異常をきたしてしまうような状態を“やせメタボ”(代謝的肥満)と呼んでいます。

運動と食生活で、糖尿病のリスクを下げる

──糖尿病のリスクを下げるために筋肉量をつけることが重要とのことですが、運動面で取り入れた方がいいものはありますでしょうか?

田村教授:筋肉を増やすという点ではレジスタンス運動(筋トレ)を取り入れることをおすすめします。筋肉量を増やすことは、糖尿病だけでなく、多くの病気の予防にも役立ちます。特に高齢になると、筋肉量が不足すると膝の痛みなどの問題が出てくるので要注意です。

──軽い運動でも、糖尿病のリスクを減少させる効果はあるのでしょうか?

田村教授:ウォーキングやヨガのような軽い運動も有効です。特にウォーキングは基本的な有酸素運動として非常に重要で、筋肉の質を向上させインスリン効果を高めることができます。ただ、理想は筋肉量を増やしながらインスリンの効果を高めることなので、少し強度のある運動(筋トレやジョギングなど)を取り入れることをおすすめします。歩くスピードを上げることや、段階的に運動の負荷を上げることも効果的です。

──日本の痩せた女性は筋肉量が少ないようですが、栄養面ではどのような対策を取るべきでしょうか?

田村教授:食事に関しても、筋肉量を増やすためにタンパク質の摂取が必要です。目安としてですが、体重1kgあたり1g〜1.5gのタンパク質を摂取することが推奨されています。例えば体重50kgの女性の場合、1日に250gの鶏肉を摂取することで、この目安を満たすことができます。

──他に食生活で気をつけた方が良いことはありますか?

田村教授:血糖値が上がりやすい人は糖質を摂り過ぎないことも大切です。日常のカロリーの約60%は炭水化物からきているといわれています。炭水化物を多く摂取すると血糖値が上昇しやすくなるので、炭水化物がどの食品に含まれているかを知り、過剰摂取を避けるとよいと思います。

──具体的にはどのような食品が炭水化物を多く含んでいるのでしょうか?

田村教授:ご飯、パン、麺類、芋、カボチャ、果物、せんべい、甘いもの全般、ジュースなどは炭水化物が多く含まれている食べ物です。また、摂取したエネルギーを消費しないと、それは脂肪として蓄積されてしまうので、炭水化物を適量に控えつつ、タンパク質を取り入れたバランスの良い食事をしていきましょう。

──最後に、これからの取り組みや現在進行中の研究について教えていただけますか?

田村教授:現在、日本の女性、特に20代の女性の間で低体重が増加していることが問題となっています。5人に1人がBMI18.5未満となっており、これは健康上のリスクを伴うことが考えられます。多くの女性が目標とする体重は45kg、次いで50kg、48kgが多いのですが、これらの数字に健康的な意味での根拠はありません。芸能人などの影響で、特定の体重が理想とされる傾向があります。

過度なダイエットは肌や髪の健康を損なうだけでなく、月経の問題などさまざまな健康上の問題を引き起こす可能性があります。私たちは、このような健康リスクを認識し、適切な情報を提供することで、健康的な体重を維持することの重要性を伝える活動を行っています。

現在、健康診断ではメタボリックシンドロームのリスクを持つ人を特定し、アドバイスをおこなっていますが、女性の低体重に対するサポートはまだ十分ではありません。私たちは、健康診断においても低体重の問題に対する取り組みを強化することを提案しています。

Wellulu編集後記:

今回、瘦せ型女性の糖尿病リスクについてのお話を中心に、糖尿病に関係する要因や予防策について田村先生にお話を伺いました。運動による筋肉量、食生活、飲酒など、さまざまな環境的要因が糖尿病のリスクにつながることがわかりました。また、日本人の場合、欧米の方々と比べて糖尿病の発症リスクが高くなることにも驚きました。特に、痩せている女性の糖尿病リスクが高まる背景には、「エネルギー低回転型」、「痩せメタボ」という状態が関与していることが示唆されています。

今記事を通じて、糖尿病のリスクやその背景を正しく理解し、日常生活における健康管理の参考としていただければと思っています。

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