加齢とともに減少するプラズマローゲンが、認知機能の維持に重要な役割を果たすことが最近の研究でわかってきている。丸大食品の研究によると、プラズマローゲンは脳や心臓、骨格筋に多く存在し、抗酸化作用を持つことで細胞を保護するだけでなく、DHAなどの有用な脂肪酸を貯蔵する役割もあるとのこと。そこで今回は丸大食品の琴浦さんにプラズマローゲンについて詳しくお話を伺った。
琴浦 聡さん
丸大食品株式会社 中央研究所 研究課長
認知機能に重要なプラズマローゲン!加齢とともに減っていく
── 本日は、丸大食品さまが研究を進められている「プラズマローゲン」についてお伺いします。まず、プラズマローゲンはどのような物質で、どのような役割を持っているのですか?
琴浦さん:プラズマローゲンとは、細胞膜などに含まれているリン脂質の一種です。
脂質は大きく分けると単純脂質と複合脂質に分かれます。単純脂質は大豆油やラードなどで、複合脂質は構造の中にリンや糖が含まれており、さらにリン脂質と糖脂質に分かれます。プラズマローゲンはリン脂質の中に含まれています。
私たち人間の体内にも存在し、抗酸化作用によって活性酸素から細胞を保護したり、DHAなどの有用な脂肪酸を体内に貯蔵したりする役割をもつと考えられています。
── 人間の体内にも存在しているんですね。プラズマローゲンはどこに多く存在しているのですか?
琴浦さん:プラズマローゲンは、とくに脳や心臓、骨格筋など酸素を多く使用する部位に存在しています。これらの部位では活性酸素が多く発生しやすく、プラズマローゲンが酸化ストレスから細胞を保護しています。
──プラズマローゲンの抗酸化作用は、どのような仕組みなのですか?
琴浦さん:プラズマローゲンは「ビニルエーテル結合」という特徴的な構造を持っており、プラズマローゲンが細胞の代わりに酸化されることで、過剰な活性酸素による酸化障害から細胞を保護していると考えられています。
──プラズマローゲンのはたらきは、その特徴的な構造によるものだったんですね。プラズマローゲンは人の体内でも作られるのですか?
琴浦さん:はい。プラズマローゲンは、基本的には体内で合成されますが、その量は30歳頃をピークに減少し、高齢者では大きく減少することが報告されています。
──30歳ごろから徐々に減少していくんですね…。プラズマローゲンが減少すると、どのような影響があるのでしょうか?
琴浦さん:プラズマローゲンが減少すると、活性酸素などの酸化ストレスから細胞を上手に保護できなくなってくると考えられます。これが慢性化すると、酸化ストレスの増加によってアルツハイマー病や高血圧などの病気のリスクが高まります。
とくにアルツハイマー病患者の脳ではプラズマローゲンの量が顕著に減少しており、この減少が記憶力や認知機能の低下と関連していることが研究で示されています。前頭前皮質と海馬という記憶に関わる部位でとくに減少していることも確認されました。
── 加齢によるもの以外で、プラズマローゲンの減少に影響する生活習慣などはありますか?
琴浦さん:具体的なデータはありませんが、不規則な生活や食生活の影響も否定できないと思います。
── プラズマローゲンの減少が、記憶力や認知機能の低下につながってしまうんですね。プラズマローゲンを増やすためにはどのような方法があるのでしょうか?
琴浦さん:現時点では、プラズマローゲンを含む食品やサプリメントの摂取が有効と思います。実験でプラズマローゲンを含む飲用水を与えたマウスの記憶力が改善し、脳内の炎症性物質が減少するという結果が得られました。プラズマローゲンを含む食品やサプリメントの継続的な摂取が、アルツハイマー病の予防に効果がある可能性が示されています。今後の研究で、さらに詳細が明らかになることを期待しています。
認知機能の上昇のために。プラズマローゲンの研究でわかったこと
── プラズマローゲンに関して丸大食品さんが進められている研究について、詳しく教えてください。まず、プラズマローゲンの研究をはじめたきっかけをお伺いできますか?
琴浦さん:当社がプラズマローゲンと初めて出会ったのは2007年でした。農研機構の生物系特定産業技術研究支援センターが課題を公募した実用化研究促進事業に「親鶏由来の機能性リン脂質に関する研究」を応募して採択となったことがはじまりです。
親鶏は皮が厚く肉も硬い上に産肉量も少ないため、一部が食肉製品に利用されるほかは、ほとんどが産業廃棄物として処理されていました。国内で卵を生産・消費する限りそれを産み出す親鶏も生産され続ける(推定で9000万羽/年)わけなのですが、食肉としての利用が限定的であったことから、未利用資源として有効活用することが望まれていました。
この親鶏からプラズマローゲンを抽出することで、未利用資源である親鶏を有効に活用していこうということで、研究が進められました。
── プラズマローゲンには、どのような効果が期待できるのでしょうか? 研究で解明されていることがあれば教えてください。
琴浦さん:私たちの研究の中でとくに注目しているのは、プラズマローゲンがアルツハイマー病の予防にどのように効果を発揮するかについてです。
アルツハイマー病はある日突然発症するのではなく、生活習慣や遺伝的要因などが長年積み重なって発症します。アルツハイマー病になると、記憶や認知機能が徐々に低下していくという特徴があります。
── プラズマローゲンの減少が、アルツハイマー病のリスクを高める要因のひとつとなる可能性があるということですね。
琴浦さん:そうですね。そこで、健康なうちにプラズマローゲンを摂取することで、炎症などのリスクに対する耐性ができるのではないかと考え、研究を進めました。
具体的には、3ヶ月間プラズマローゲンを摂取させたマウスでは、脳内に炎症を引き起こす物質(IL-1βやTNF-α)の量が大幅に抑えられました。さらに、プラズマローゲンを摂取したマウスではアミロイドβの蓄積が抑制していました。
この実験を通して、若いうちからプラズマローゲンを摂取することで、将来の認知症リスクを軽減できる可能性を示唆しています。
── なるほど。ちなみに他の研究などもされているのでしょうか?
琴浦さん:はい。60歳以上の男女に3ヶ月間プラズマローゲンを摂取していただき、そのあとに認知機能を測定する記憶力テストもおこないました。プラズマローゲンを摂取しなかった群と比較した結果、プラズマローゲンを摂取した群のほうが「言語記憶力」や「認知機能速度」が改善する結果となりました。
── プラズマローゲンは、脳でどのようにはたらくのでしょうか?
琴浦さん:おもに酸化ストレスに対する効果が大きいです。脳内での炎症やアミロイドβの蓄積を抑えることで、神経細胞の破壊を防ぎ、認知機能の低下を予防していると考えています。脳内や血液中のプラズマローゲンの量を増やすことで、健全な脳機能を維持する助けになると考えられます。
──アミロイドβとは何ですか?
琴浦さん:アミロイドβはアルツハイマー病の原因物質のひとつであり、脳に炎症を引き起こす物質です。アミロイドβは若くても年老いても誰にでも生成されています。問題となるのは、このアミロイドβが特定の酵素によって生成され、そのあと細胞外に移行して「老人斑」と呼ばれる塊を形成することです。これが脳内に蓄積し、神経細胞を攻撃し続けることで、記憶力の低下や認知機能の低下が引き起こされると考えられています。
── 誰にでも生成されているんですね。普段の生活で少しずつ蓄積していくものだと思いますが、記憶に影響を与えるのはどのくらいの年齢からなのでしょうか?
琴浦さん:20代や30代でもアミロイドβは産生していますが、40歳頃から蓄積が進むといわれています。若い時は、体内でアミロイドβを排除するシステムが働くので脳に蓄積しにくく、年齢を重ねるとこの排除機能が低下し、アミロイドβが蓄積しやすくなるためです。
蓄積は若い時からはじまっていても、記憶力に明確な影響を与えるのは高齢者に多いです。ただし、アミロイドβが蓄積している人すべてが記憶力低下を経験するわけではありません。実際、アミロイドβが多く蓄積していても、認知機能が低下していない人もいます。これがこの問題の複雑なところです。
── 認知機能の低下などの自覚症状が出てから、プラズマローゲンを摂取しても効果があるのでしょうか?
琴浦さん:プラズマローゲンは予防的に摂取することが重要です。医薬品ではありませんので、病気が発症してから治療のために用いるのではなく、日常的な健康維持として摂取することが推奨しています。
「ブレインフード」としてプラズマローゲンの摂取を!
── プラズマローゲンの摂取は、若いうちからがいいとのことでしたが、大体何歳くらいからを指しますか?
琴浦さん:臨床試験はおもに20歳以上を対象におこなっています。40歳からアミロイドβの蓄積が進むことや、30歳をピークに徐々にプラズマローゲンが減少していくことを考えると、30代後半から摂取をはじめるのが理想的です。
── 30歳前から摂取するのは、あまりよくないのでしょうか?
琴浦さん:食品として摂取するプラズマローゲンは、過剰摂取による悪影響はほとんどありません。むやみに摂取するよりも、身体が必要とする量を摂取することが大切です。
ただし、機能性表示食品としてのプラズマローゲンは、未成年者や妊産婦などを対象にしていないため、その点を注意していただく必要があります。過剰摂取による有害事象は認められていませんが、体調に異変を感じた際は摂取を中止し、医師に相談するようにしてください。
──また、プラズマローゲンを多く含む食品にはどのようなものが挙げられますか?
琴浦さん:プラズマローゲンは哺乳類、鳥類、貝類などに含まれていて、鶏肉の中では、むね肉、モモ肉、手羽先などに多く含まれています。
── 日本では肉の消費量が増えているとも聞きますが、認知症患者も増えていますよね。日々の食事から、プラズマローゲンがあまり摂取できていないのでしょうか?
琴浦さん:確かに、日本では戦後から肉の消費量が増加していますが、それにもかかわらず認知症患者は増加しています。
食品中のプラズマローゲンは、調理や消化の過程で量が減少したり、体内での利用効率が低かったりするためだと考えられます。
── では、プラズマローゲンのサプリを摂取するおすすめのタイミングについて教えてください。
琴浦さん:基本的にはいつでも摂取可能ですが、とくに夜寝る前に摂取するのが効果的と思います。睡眠中に脳内のゴミが排出され、新しい記憶が構築されるため、その前に摂取しておくことで、プラズマローゲンの効果を最大限に引き出すことができます。睡眠前の摂取は、脳の健康をサポートするために最適なタイミングです。
社内で睡眠に何らかの悩みをもつ20代~60代の男女を対象に睡眠の改善試験をおこなったことがあります。参加者からは「よく眠れるようになった」「目覚めが良くなった」「悪夢を見なくなった」といった睡眠に関するいい反応が返ってきました。このことから、プラズマローゲンは睡眠にも効果があるのではないかと考えています。
── 就寝前の摂取が効果的なんですね。ちなみに、どのくらいで効果を感じられる人が多いのでしょうか?
琴浦さん:当社が実施した臨床試験では、12週間の継続摂取により、言語記憶力と認知機能速度の2つの認知機能領域で統計学的に有意な差が得られました。この結果をもとに、機能性表示食品として届出を行っています。
ブレインフードとしてのさらなる研究が進められている
── 言語記憶力や認知機能速度を維持することで、脳の健康を維持してくれるプラズマローゲン。多くの人に知っていただきたいですね。
琴浦さん:はい、認知症予防の1つとして、知ってもらえると嬉しいです。認知症の予防については、まだ完全には解明されていません。バランスの取れた食生活が非常に重要だと考えられますが、さらに科学的なデータに基づいたサプリメントや素材を取り入れることも効果的と思います。
現在、脳の活性化に役立つとされる「ブレインフード」が世界中で注目されています。たとえば、代表的なものとしてDHAはすでに広く知られています。
高齢人口の増加とともに、世界の認知症患者も増加しており、ブレインフードの市場はとくに認知症予防の観点から今後さらに拡大していくと予測されています。プラズマローゲンもその一環として、多くの研究が進められています。
── 研究が進むにつれて、また新たな効果がわかっていきそうですね。今後の研究や展望についても教えてください。
琴浦さん:今後は、プラズマローゲンの全身への影響についてさらに研究を進めていきたいと考えています。たとえば、心臓や筋肉に対する効果や、サルコペニアの予防など、全身の健康維持にどのように役立つかを明らかにしていきたいです。運動パフォーマンスの向上や健康寿命の延伸にも寄与する可能性があるため、幅広い年代層の健康維持に役立つのではないかと期待しています。
Wellulu編集後記:
今回の取材で、プラズマローゲンの多岐にわたる働きについて詳しく知ることができました。認知機能の低下を予防するためには、日常的なプラズマローゲンの摂取が有効であり、特に30代後半からの摂取をおすすめされています。丸大食品の研究によれば、プラズマローゲンは脳の健康を維持し、ストレスや睡眠にも良い影響を与えるとのこと。今後の研究でさらに多くの効果が解明されることを期待しつつ、日々の健康維持に取り入れてみてはいかがでしょうか。