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ミラツク代表が人と良い関係性を築ける理由。対話を重ね始めた原体験とは

NPO法人ミラツク

ウェルビーイングな心の状態に、自身を取り巻く「人間関係」は強く影響している。実際、知人に今の困りごとを尋ねると、人間関係にまつわる悩みが出てくることが多くはないだろうか。

人と心が豊かに、穏やかになる関係性を築きたい。でも、なぜだか壁を作ってしまう。そんな人と関係性を築くうえで生まれがちな悩みを、この人はどう考えているのだろうか。

話を伺ったのは、領域を超えて対話を重ね、さまざまな課題解決に取り組んでいるNPO法人ミラツク代表の西村 勇也さん。『反集中 ANTI FOCUS(ミラツク出版)』というこれまでの対話集も出版した彼に、人と良い関係性を広げるうえで考えていること、ウェルビーイングな関係づくりの原体験を伺った。

発足から15年。対話を軸にウェルビーイングな輪を拡大

西村 勇哉

堂上:まずはじめに、ミラツクを立ち上げた経緯をお伺いしてもよろしいですか?

西村:会社員時代にアフターファイブの取り組みとして対話の場を作ったのがはじまりでした。当時の勤務地だった渋谷のカフェを貸切って40人ほどをお招きして試してみたのが最初です。ソーシャルテクノロジーのノウハウを取り入れ、今のミラツクの原型ができました。2008年のことです。

堂上:ミラツクではどんな活動を?

西村:15年経ち、今では、セクター、職種、領域を超えたイノベーションプラットフォームの構築や、大手企業の新規事業開発支援に取り組んでいます。

昨年12月には、3年にわたり「時代にとっての問いを問う」をテーマに取り組んだ22名へのインタビュープロジェクトをまとめた『反集中(ANTI – FOCUS)』を発刊。年明けから代官山蔦谷書店さんや紀伊國屋新宿本店さんなどでフェアを行っていただいた他、ちょうど今、丸善日本橋店さんで、反集中を主題とした全70冊の大型フェアを開催していただいています。

堂上:読者からはどんな声が寄せられていますか?

西村:印象的だったのは、アートキュレーターの方にコメントいただいたことで、「これはデッサンのような本ですね」という言葉。「デッサンは輪郭を描くことで絵が浮かび上がってくる。反集中はまさにデッサンだな、と思いました」と。

堂上:昔から今のミラツクの活動分野には関心があったのですか?

西村:もともとは研究者になりたかったんです。学生時代は「人格心理学」を専攻し、統計的な分析や人格構造の研究をしていました。でも、せっかく研究成果が積み上がってもなかなか社会に実装されていないと感じていました。

それで、「これは現場に行くしかない」と思い、人材開発系ベンチャー企業を経て、財団法人日本生産性本部へと2つの組織で働き、対話の場づくりを始めたのはその頃でした。

人との関係性も仕事も、好きなことで埋め尽くしてもいい

NPO法人ミラツク

堂上:私はこれまでウェルビーイングについてさまざまな調査を行なってきたなかで、6~7年前に「あなたの困りごと調査」というものを実施したことがあります。というのも、一人ひとりが抱える“困りごと”を解決していくと、人はよりウェルビーイングな状態に近づいていくのではないかと考えたためです。

調査の結果、一番多い悩みは「人間関係に関すること」でした。例えば、上司と部下の関係性や家族間の関係性、近所の人との関係性など。そして面白いのが、その次の悩みに「朝起きるのがツラい」など、健康状態の悩みが来ることが多かったことです。

西村:へーおもしろいですね。

堂上:ここから考えられることが、良い人間関係が築けていれば健康状態もポジティブになるということ。健康状態はウェルビーイングな生活に欠かせませんから、良い人間関係が中心となって、睡眠も良くなるし、食べ物も美味しくなるしと良い循環がまわっていくのかなと思います。

西村:なるほど、今の話を聞いて思ったのですが、ここ10年くらいはとても穏やかに生きているなと感じていて。もともと結構短気な部分もあるのですけど、なんでだろうな……。

人との関係性を強く意識しているわけでなく、自分が興味のある仕事にどんどん寄せていっていることが私のウェルビーイングな状態を作っているような気がします。

堂上:といいますと具体的に?

西村:ミラツクでは毎年、事業の仕分けを行なうんです。売上の規模ではなく、毎年つまらなかった仕事を次の年にはやらないようにしている。それを10年間繰り返していくと、事業内容が面白いもので満たされていく。

堂上:売上への影響は気にされないのですか?

西村:もちろんまったく気にしないわけではありません。確かに、売上比率を大きく占める事業を辞めることは勇気がいりますが、不思議とリソースに空きができると、別の新しい仕事の声がかかるんです。空いた場所に、面白い仕事がポコッと入ってくるみたいな。だから、無理やり何かを達成しようとはしていません。

堂上:ミラツクでは大きなゴールはあるのですか?

西村:法人として事業計画もありますし、また何より事業として抱えているミッションがあって、それらにどれだけ近づけているかという視点は常にもっています。もっていますが、重要なのは達成の仕方だと考えています。無理やり、数字を合わせて達成してもしょうがない。KPIは状況を確認できても、絶対目標化は出来ない。あくまでも経過指標だと考えていますし、組織として“ナチュラルに行動し、結果として達成すること”を大切にしています。

深い対話力には、学生時代のカウンセリング経験が活きている

西村 勇哉

堂上:ミラツクは対話を通じて人とウェルビーイングな関係性を築かれていますが、どんなことを意識して対話の場をセッティングしていますか?

西村:ミラツクを立ち上げた当初は、対話についてある種安易に捉えていた部分があると思います。とりあえず、いろんな人が集まって交わればいいのかなって。しかし、「対話」と一言でいっても、対話の目的やテーマによって適したソーシャルテクノロジーは異なります。

ただし、これは振り返ってですが、一貫しているのは反集中的であること。フィールドワークするにしても対話するにしても、既存の境界線を超えて広げることをしています。この一度視点を広げてから、収束させていく流れがミラツクで取り組む構想設計や、事業仮説、プロジェクトづくり、全てに共通するプロセスです。

堂上:ウェルビーイングな関係性を広げていくなかで、多様なバックグラウンドがある人たちとなぜうまく対話できるのですか?

西村:学生時代に心理学の授業で「1分間相手の話を聞いてみる」演習がありました。初めはたった1分でもものすごく難しいのですが、回を重ねていくとできるようになっていく。

あの共感的な態度で深く丁寧に耳を傾け、相手に話をさせる聞き方。これができるようになると、相手の中に答えがあることをだんだんと知っていくと思うのですが、それは同時に“自分の中の答え”を教えてもくれます。そうして、相手の中に答えがあり、自分の中の答えも引き出されていく中で、自分と相手、哲学者のマルティン・ブーバーが言う“我と汝”という関係が見えてくる。そこに対話の基盤があると思います。

堂上:カウンセリングの分野では「鏡になる」とよく言いますもんね。でも、一対一の対話だけではなく、一対数人や数人同士の対話の場合、話が望んでいない方向に飛んでしまうことがよくあるじゃないですか。これを防ぐために意識されていることは?

西村:良い対話を行なうには、まずはじめに「場の方向性」が定まっている必要があります。この場には、何を目的として集まっているのか参加者がないと、対話は雲散霧消な展開に進みがちです。場の目的がまずあり、その上で逸脱したら少し整えるようにしていくことで、良い対話が起こってきます。

チベットで怪しいオランダ人と出会い、人との関係性を見直す

堂上 研

堂上:西村さんが対話を通じていろいろな人とウェルビーイングな関係性を築けるのは昔からですか?

西村:いえ、昔からではないですね。ただ、学生時代にバックパッカーでいろいろな場所を訪れ、その経験が少し活きているかもしれません。例えば、チベットを訪れた時、ラサから車で1時間ほど走ったさらに高地で高山病になったことがあります。

高山病から回復するためにはとにかく低地に降りないといけないし、街へ戻らなければならなかったのですが、当時のチベットでは観光客が一人で車を借りられなかったため、たまたま相部屋だったメンバー数人で一緒に行ってたんです。で、その相部屋のメンバーにものすごい怪しいオランダ人が泊まっていて、彼も一緒に行ってたんですよね(笑)。キラキラの服を着て、朝から瞑想しているような人。

「朝起きたらいつもキラキラの服で瞑想していて、この人、絶対怪しい」と思ってました。でも、さっきの高山病になったとき、この人が帰り道ですごく僕に寄り添ってくれるわけですよ。「僕の酸素ボンベ使っていいよ」みたいな。

で、高山病が落ち着いてから彼に感謝を伝えにいくと、そのオランダ人は仏教の原点を求めてチベットに訪れた熱心な仏教徒だと分かったのです。それで、なぜ彼が朝から部屋で瞑想していたのか、なぜあんな服装をしていたのかがやっとわかった。

堂上:距離を縮めようと寄ってきてくれた相手を受け入れたことで、はじめて見えてきたその人の部分があったと。

西村 勇哉

西村:当時の私は、すごい世界が狭いわけですよ。だからチベットに行くといっても、他人と壁を作って自分の世界を保とうとしてる。でも、話してみるとすごくいい人だった。ウェルビーイングな人間関係のためには、「まず相手のことを知ることが大事」だと思います。

他にも、中国の四川省に行ったとき、露店でめちゃくちゃ辛そうな唐辛子付きの焼き鳥が売ってあって。数元とかめちゃくちゃ安いのですが、ちょっと怖いじゃないですか。でも、買ってその辺に座りながら食べていると周りの人も同じように食べているから、だんだん仲良くなる。そうして「君は何しに四川に来たの?」と聞かれ、話をしているうちに距離が縮まっていくんです。

だから、人とウェルビーイングな関係性を築くためには、“ちょっと踏み込む”ことが大事だと思います。

堂上:とはいえ、相手との距離の縮め方は一歩間違えるとおせっかいだったり、「自分の世界にこれ以上入ってこないでください」と思われてしまう場合もあるじゃないですか。そのような反応をされたときは、どう考えていますか?

西村:別にその人が悪い人ということではなく、緊張してカタくなっているとか、新しい人との関係性の築き方が掴めていないとか、そんな風に捉えています。

ある意味、昔の自分を見ているような感じ。根はいい人だと思って、こちらも相手が望む距離感を尊重してあげる。そうすればハレーションは起きないかなと思います。

自分にも落ち度がある。人と合わないときも、そう素直に省みる

西村 勇哉

堂上:コミュニティのような限定された状況もあると思うのですが、西村さんはどうしても価値観の合わない人と一緒に過ごさざるを得ない場合、どのようにその人と向き合われるのですか? ウェルビーイングな状態を作るためには、そのような人との関係性も無視できないかなと思いまして。

西村:これは二つのケースに分けられるかなと思います。一つ目は、コミュニティ全体の価値観が自分と合わない場合。その場合は、根っこの価値観がどうしても自分と合わなければ距離を取るようにしています。

二つ目は、コミュニティのビジョンには共感できるけど、その中に一部価値観が合わない人がいる場合。この場合は、“自分にも至らない部分があるんだ”と考えながら、相手と対話するように意識しています。

堂上:そこですよね、重要な部分は。自分のことを棚に上げるのではなく、至らなさを自覚しながら、相手の声に丁寧に耳を傾けるということですね。

西村:誰しもがコミュニケーションにおいて、至らなさはあると思っていて。周りの人に指摘されたときに、素直に受け入れられる気持ちが大切なのではないでしょうか。

堂上:西村さんはやっぱり人が好きなんですか?

西村:難しい質問ですね。昔はそんなに好きじゃないかと思っていたのですが……、どちらかというと「人に興味がある」のほうが正しい感じです。

堂上:西村さんにとっては、一つの研究テーマなのかもしれませんね。それぞれの人がどんなウェルビーイング観をもっていて、なぜそんな行動を取るのかもっと探っていきたいという好奇心が、西村さんの人と関係性を築く力に繋がっているように感じました。

人と関係性を築くときは、広く浅く関係性を築くことを意識していますか? それとも、一人ひとりと深い関係性を望んでいますか?

西村:例えば、研究者にヒアリングするとき、サラっと話を聞くだけではもったいないと思ってます。研究者の方はほんと誰でもですが、人として、深く話を聞いていくとみんなすごく面白い。これは研究者に限らず、他の人との関係性も同じだと思います。そう言う意味では、人としての一人ひとりと深く関係性を築きたいです。

堂上:今日一番お聞きしたかったのが、西村さんの『人と深い関係性を築ける力』の秘密でした。話をして感じたのは、西村さんが不思議と人に興味をもたれる、人に好かれるのは、西村さんが他の人たちを“受け入れて好きになるから”ではないかなと。だから、西村さんの周りはウェルビーイングな空気で包まれているのでしょうね。

西村:そう言われるとなんだか照れますね(笑)。でも人としてのおもしろさに出会えると、そのおもしろさには興味を持ってしまう自分がいます。そこに新しい関係性のきっかけがあるかもしれません。まさに今ここでやってもらったことだと思います。

NPO法人ミラツク

堂上 研さん

Wellulu 編集部プロデューサー

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。

西村 勇哉さん

NPO法人ミラツク代表理事 / 株式会社エッセンス代表取締役

2011年、NPO法人ミラツクを設立。セクター、職種、領域を超えたイノベーションプラットフォームの構築、大手企業の新規事業開発支援に取り組む。2021年に、インパクト投資家と共に研究「知」を社会につなげるKnowledgeTechカンパニー株式会社エッセンスを設立。大阪大学SSI特任准教授。

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