Wellulu-Talk

公開日:  / 最終更新日:

【西田拓大氏×齋藤みずほ氏】生徒の自主性を大切にする“たくさん”のウェルビーイングとは?

教育の現場でCWO(Chief Well-being Officer)として活動し、学校教育をウェルビーイングに変えようと取り組んでいる人がいる。和歌山県白浜町立白浜中学校 校長の西田拓大さん、通称“たくさん”だ。

たくさんが、校長先生をしながらウェルビーイングを探求するようになったきっかけや、これまで行われた取り組みに込められた想いとは? より良い生き方をコーチングする『キャリア・クエスト』を運営している齋藤みずほさんもお招きし、Wellulu編集長の堂上研が話を伺った。

 

西田 拓大(にしだ・たくひろ)さん

白浜町立白浜中学校 校長 CWO(Chief Well-being Officer)/曹洞宗如々山不動寺 住職/WBDCファシリテーター/ラフターヨガファシリテーター他

和歌山県白浜町で中学校理科教員として24年、教頭職3年、小学校校長1年を勤める。現在は白浜中学校校長2年目を勤め、「学校はウェルビーイングなパワースポット」を目指している。曹洞宗如々山不動寺九世佛心拓大 大和尚として僧侶を兼職。

齋藤 みずほさん

キャリア・クエスト代表/人材開発コンサルタント/ビジネスコーチ/早稲田大学非常勤講師(リーダーシップ開発)

ANA、JALの客室乗務員を通じて培ったコミュニケーション力と独自の審美眼を活かし、研修業界に転身。教育工学に基づいた教育研修プログラムの設計には定評があり、さまざまな企業・大学などでコーチングやコミュニケーションを中心とした研修と講演を多数受ける。ウェルビーイングリーダーシップを提唱し、先生のウェルビーイング向上、ウェルビーイングな組織づくり、ウェルビーイング経営研究に注力している。

堂上 研

株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu 編集長

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。
https://ecotone.co.jp/

目次

「あるべき」からの脱却がウェルビーイングへの近道

堂上:子どもや教育現場でのウェルビーイングについてお話できることを、とても楽しみにしていました。みずほさん、西田さんを紹介してくださり、ありがとうございます!

齋藤:素敵な人をつなげることがウェルビーイングかな、と思いまして!

堂上:西田さんのことは、どのようにお呼びすれば良いでしょうか?

西田:ぜひ“たくさん”と呼んでください。英語のmany(たくさん)とダブルミーニングになっていて、気に入ってるニックネームです。

堂上:今日は“たくさん”が関わった、たくさんのウェルビーイングな話をどんどん聞いていこうと思います! 初めに、たくさんがウェルビーイングと出会ったきっかけを教えてください。

西田:元々強い関心を持っていたSDGsや、「平和学習」の学びを深めていく延長線で、ウェルビーイングという言葉に辿りつきました。きっかけは、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社で取締役 人事総務本部長を務めていた島田由香さんが運営する、ウェルビーイング関連のイベントに参加したことでした。イベントに参加している人たちが、みんなとても楽しそうにしていて興味が湧いたんです。

そこから、ウェルビーイングを高めるためのトランプ型対話カード『Well-Being Dialogue Card(ウェルビーイングダイアログカード)』の養成講座に参加するなどして、ウェルビーイングとの距離を縮めていきました。みずほさんはこの養成講座のファシリテーション役でしたね。

齋藤:養成講座はオンライン開催だったにも関わらず、画面を超えて、たくさんのお人柄が伝わってきたことを覚えています。内面の美しさが表情に出ている、なんて素敵な方なんだろうと思いました。

西田:そんなに褒められると照れてしまいますね。しかし私自身、大きな失敗もたくさんしてきました。その度に周囲の人に赦してもらえた経験が、今の私を形成してるのかもしれません。

堂上:失敗とはどのようなものでしょうか……?

西田:生徒に対するエピソードは数えきれないです。たとえば、過去に厳しく生徒指導したことがありました。生徒が終始曇った表情をしていたことは分かっていましたが、「この子のために伝えるべきだ」と思って、自我を通したんです。しかし、数年経ってもその出来事がどうしても忘れられなくて、成人式の同窓会で再会した時に「あの時は申し訳なかった」と謝りました。そうしたら「先生、気にしないでください」と笑って赦してくれたんです。この一件で、自分の思いが強いことで知らず知らずに人を傷つけることがあるのだと学び、肝に銘じるようになりましたね。

齋藤:「〜であるべき」という思考は、必ずしも正しい判断ではない可能性がありますよね。たまに「学校においてウェルビーイングな取り組みをしたら、欠席者がゼロになった」という話を聞くのですが、欠席者ゼロを目指すというのではなく、私は生徒が学校に行くか行かないかを自分で考え選べる状態こそ、本当のウェルビーイングなのではないかなと思います。

堂上:同感です。だからこそ、ウェルビーイングを測量したり、数値化することは怖いことでもありますよね。「幸福度(ウェルビーイング)が100にならなくてはいけない」という考え自体が、誰かの押し付けになってしまう側面があります。個々がそれぞれ選択できる状態が理想な気がしますね。

学校をウェルビーイングなパワースポットに

堂上:たくさんの考える生徒たちのウェルビーイングって何でしょうか?

西田:私は、生徒にとって【自分の居場所があること】と【やりたいことに挑戦できる環境であること】の2つが重要だと考えています。

たとえば、不登校の理由はひとつではありません。学校に行きたくても行けない子には、その子に合った手立てが必要ですし、学校に行く必要がないと考えている子にはそこに至った気持ちを聞いてあげるスタンスも大事だと思います。そして、本人がやりたいことを形にできるように寄り添ってあげたいですね。

私は「学校をウェルビーイングなパワースポットにする」ことを目指して、生徒たちがやりたいことに挑戦できる学校づくりに取り組んでいます。

堂上:やりたいことに挑戦していくために、時にはルール(校則)を破ることも必要になりそうですが、どのように折り合いをつけているのでしょうか?

西田:実は、白浜中学校では少しづつ学校規則に変化が生まれてきています。これがとてもウェルビーイングな動きなんです。

修学旅行を例に挙げると、「スマートフォンは持ち込まない」ことがこれまでの規則でした。しかし、訪問先では現在紙のガイドマップを配布しておらず、機能はスマホのアプリに移行していたんです。そのため、生徒たちからスマホの利用を許可して欲しいという要望が多数届きました。しかし、スマホを所持していない生徒の対応や、旅先で紛失する可能性など、乗り越えるべき壁がいくつもあったんですね。生徒には「生徒、保護者、教員の三者を納得させることができたら、修学旅行にスマホの持ち込みを許可する」と伝えました。

堂上:生徒、保護者、教員……。それぞれ異なる立場の三者が納得するルールを考えるのは、簡単なことではありませんね。

西田:生徒たちの行動力は賞賛すべきものでした。担任の伴走の元、何度もディスカッションを重ね、子どもなりに完璧にルールメイキングした案を提出してくれたんです。しかし、昨年は修学旅行の時期がきてしまい、保護者と教員を説得するプロセスまで辿り着けませんでした。この経験を踏まえて、翌年の生徒たちは1学期からプランを練り始め、見事に三者を説得し、修学旅行にスマホを持ち込むことができたのです。

齋藤:素晴らしい話ですね! 生徒たちが考えたルールは、具体的にどのようなものだったんですか?

西田:「紛失していないか生徒同士でチェックする時間を設ける」「就寝前に充電したら先生に預ける」など、細部まで徹底していました。自分たちで作ったルールを守るという生徒の主体的な動きが生まれたことで、持ち物検査の手間が省けて、教員側の管理コストが減りました。このルール改善は、双方にとってメリットをもたらす結果になったのです。

堂上:ルールは必ずしも守らなくてはいけないという考え方ではなく、生徒がやりたいことを叶えるために突破する方法や、それに見合ったルールを自ら考えて行動していくことを良しとするのが“たくさん流”なんですね。これはとてもウェルビーイングな動きで、興味深いです。

西田:驚くべきは、取り組みを継続した結果、生徒だけではなく、教員にも変化が現れたことでした。ウェルビーイングという言葉を口にする先生が増えてきたんです。なかには、学習指導案を作成する際に、ウェルビーイングの観点から授業設計を考える先生もいます。

堂上:本当にたくさんは、たくさんのウェルビーイングを生んでいますね。挑戦している人は幸福度が高い印象なので、たくさんの学校は生徒にとっても先生にとっても、チャレンジを受け入れてくれる素晴らしい環境なのでしょうね。

齋藤:本当に素晴らしい取り組みですね。学校はさまざまな行事があり、挑戦できる機会が多いので、ウェルビーイングになるチャンスがより多い場所なのかもしれませんね!

西田:最近は「みんなで挑戦しよう」というスタンスから、「それぞれの関心に合わせた挑戦」を支援する動きに変わってきました。2023年から白浜町立白浜中学校では、生徒が思い思いの時間を過ごす「朝の時間」を月1回導入しています。読書や勉強をする生徒もいれば、写真撮影、カラオケ、運動などさまざまです。ちなみに私は瞑想の時間を提供したこともありました。

齋藤:瞑想ですか! いいですね。たくさんは校長先生でありながら、住職でもありますもんね。

堂上:「それぞれの関心に合わせた挑戦」は、他にどのようなものがありますか?

西田:2024年からは「ハウス活動」という学年縦割りの活動を始めました。グループでやりたいことを出し合い、企画運営まで生徒が主体で行う活動です。これが個性豊かで面白いんです。普段走ったら怒られる廊下を思いっきり走りたいという気持ちから、テレビ番組『逃走中』をオマージュしたグループなど、活動を通じてゆるくルールを破ってくれましたね。始業式でスイカ割りを企画したチームもあって、夏休み明けの学校を盛り上げてくれました。

齋藤:楽しそう! やりたいことを応援してもらえる環境って、嬉しいですよね。

堂上:現在も「ハウス活動」は続いているんですか?

西田:活動をしてみて、ストレスを感じる子がいることにも気づきました。主に3年生になると、受験を控えていることもありますし、入学して2年間は当たり前に学級のなかで育ってきたところから、急に新しい縦割りの活動が始まったことで混乱もあったのでしょうね。

ウェルビーイングな活動はどこかの場面で全員が楽しめるものでないと意味がないので、「ハウス活動」は現在休止することにしました。継続を希望する声も多く集まっているので、これから生徒と先生がどのようにルールを破ってくれるのか、期待しています。

堂上:次は、これまでと違う「ハウス活動」の形が生まれるかもしれませんね。

齋藤:そうやって乗り越えていく先には必ず成長や喜びがあります。どのように変わっていくのか楽しみですね!

挑戦を応援してくれる存在が成長を促す

堂上:みずほさんの考える、ウェルビーイングを教えていただけますか?

齋藤:まずは「楽しい」というポジティブな感情です! 友達がいるから楽しい、チャレンジできることが楽しいなど、人によって「楽しさ」の定義は異なると思いますが、自分の心を表に出せる状態こそウェルビーイングではないかなと思っています。

実は、私は恥ずかしがり屋で、人前で上手に話せないような子どもだったんですよ。けれど、小学校の担任の先生がサポートしてくれたおかげで、少しづつ変わっていくことができました。学習発表会で劇をすることになった時に、先生が「みずほは声がいいし、裏方でできるからナレーターをしてみないか?」と勧めてくれたんです。劇が始まったら緊張で声が出せなくなるかもしれないと不安な気持ちを伝えると、「私が隣にいるから大丈夫。もし話せなくなったら、代わりに読み上げてあげるから」と言ってくれて、それで安心して頑張ることができたんです。一人でも自分を見守り応援してくれる人がいるって、なんて大きな力になるんだろうと思いましたね。今の自分があるのは、先生のおかげです。

堂上:寄り添い方が素敵な先生ですね。

齋藤:その人のペースに合わせて、スモールステップで良いので挑戦できるように見守ってあげることは大切ですよね。

堂上:外資系企業では、チームビルディングの一環でグループメンバー同士でお互いを褒め合うそうです。褒めるためには相手の良いところに目を向ける必要があるので、お互いを知る機会が増え、団結力が増します。結果、ウェルビーイングな組織に近付きますよね。

齋藤:某大企業では経営陣とトップマネージャーで褒め合いを実践したところ、それを見ていた従業員のモチベーションがアップしたという報告を聞いたことがあります。

西田:教育現場でも似た現象がありますね。先生たちが仲の良い学校は、問題になることが少なく安定している傾向にあるといわれています。子どもたちは大人のことをよく見ていますので、先生たちの関係性が生徒たちにも影響し、学校中が良いムードになっていくのでしょう。

堂上:楽しそうに仕事をしている大人が増えると、楽しく生きる子どもも増えますよね。

齋藤:たくさんはロールモデルの一人ですね。先生や身近な大人が新しいことにチャレンジしていく姿勢は、子どもたちにも伝わっているのではないでしょうか。

西田:ありがとうございます。周囲が私の挑戦を認めてくれることが大きいと思います。受け入れてくれる相手があってこそ、今の活動ができています。

文化の創造と教育現場での実践を目指して

堂上:たくさんは、ウェルビーイングな社会をつくるために、どのようなアクションを起こしたいですか?

西田:「自分で考える」ことの実践ですね。私自身も考えて行動することを大事にしたいですし、子どもたちにもそういった教育を提供できているのか、いつも考えています。生徒それぞれがきちんと考えて、行動に移していける環境を作り、習慣化させていきたいです。

堂上:自分で考える文化ができると、社会が大きく変わっていきそうですね!

西田:従来の学校の授業は先生から知識を習う場所とされていましたが、これからの学校は生徒自身が自分で考えて学ぶ場、学び方を学ぶ場なんだという認識に変えていきたいです。そのためには、先生側の思考もシフトチェンジすることが求められますし、学校側の仕組みづくりも改める時期がきていると思います。

堂上:先生たちがアンラーン(※)できれば、生徒への教え方や接し方など直接的な変化が生まれていきそうですね。みずほさんはどのように思いますか?
※アンラーン:unlearn:既に学んだ知識・思考・習慣などを見つめなおすこと

齋藤:自分で自分を幸せにしていく力を培うことです。そのために、自分のウェルビーイングを知っていることが大事だと思っています。自分で自分を幸せにする能力を身につけられる場所が学校であり、社会なのかもしれませんね。

堂上:そのためには、対話がポイントになってきますよね。

齋藤:そうですね! 私が『Well-Being Cafe®(ウェルビーイング・カフェ)』を運営している理由は、社会における対話の場を創出したいという気持ちからなんです。カフェでは、年齢・性別・肩書きを超えた参加者と一緒に、幸福学やポジティブ心理学について対話します。最近では、中学生も参加してくれるようになりました。対話やワークショップを通じて、「私はこうなりたいんだな」「相手が幸せになるために、自分は何ができるかな」と考えを巡らせることで、人にも自分にも優しくなっていけるのではないかなと思っています。

堂上:対話することは大切ですよね。今日も二人と対話をすることで、私自身たくさんウェルビーイングな気づきを得ることができました。ありがとうございました!

RECOMMEND

←
←

Wellulu-Talk

【加藤寛之氏】まちで暮らす人々が「今、いい感じ」と思える場所をつくる都市計画とは

Wellulu-Talk

【安居長敏校長×タカサカモト氏×堂上研】子どもたちの興味と関心が無限に広がっていく学校――ドルトン東京学園での学びを体験する

Wellulu-Talk

【武井浩三氏×堂上研】“共感資本主義”から考える、お金に縛られないウェルビーイングな生き方

Wellulu-Talk

【船橋俊一氏×宮田裕章教授×堂上研】豊かなまちづくりに欠かせないエリアの個性とコミュニティの自発性

Wellulu-Talk

【関口未穂子氏】「占いから何をどう受け取るかは自由でいい」四柱推命で選択する自分らしい生き方

WEEKLY RANKING

←
←

Others

ダイエット中でもOKの太りにくいお酒6選!飲み方のコツや太りやすいお酒も紹介

Others

ダイエット中におすすめのお菓子13選!市販品や手作りレシピも紹介

Others

2ヶ月で5kg痩せられる? 短期間でダイエットを成功させる食事や運動メニューを紹介

Others

縄跳びダイエットは痩せる?効果・やり方・おすすめの種類を紹介

Wellulu-Talk

【田牧そら氏】挑戦こそがウェルビーイング。18歳、仕事も学業もどちらも頑張りたい