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「“場”のウェルビーイングを構築するために」私たちが考えるべきこと

内田由紀子先生

2023年3月5日(日)、「第1回ウェルビーイング学会学術集会 〜ウェルビーイングを協創しよう〜」がオンラインにて開催。

ウェルビーイング学会は2021年12月の立ち上げ以来、「ウェルビーイングレポート日本版」の毎年発刊や、ウェルビーイング指標のニュースリリースの発表、2022年10月には会員募集を開始するなど、着々と歩みを進めてきた。

今回の第1回学術集会では、まず代表理事である慶應義塾大学大学院 教授/前野 隆司氏による開会挨拶と基調講演、そして発起人たちによる講演やパネルディスカッションが行われ、ウェルビーイングに関するそれぞれの活動や研究内容が語られた。

ここでは、京都大学 教授/内田先生の講演「文化心理学とウェルビーイング」の内容をレポートをお届けする。

 

内田 由紀子

内田 由紀子先生

京都大学 人と社会の未来研究院 教授

ミシガン大学、スタンフォード大学の研究員、甲子園大学の専任講師を経て、2008年より京都大学こころの未来研究センター助教に。2010年より3年間、内閣府「幸福度に関する研究会」委員を務める。専門分野は社会心理学・文化心理学。幸福感・他者理解・対人関係についての文化心理学を研究している。主な著書に『これからの幸福について 文化的幸福観のすすめ』(新曜社刊)がある。

「個」の幸せを実現するための「場」が、ウェルビーイングという考え方

内田 由紀子

内田先生の専門である文化心理学とは、心理学のジャンルのひとつであり、人の心理の観点から文化を研究していく学問だ。講演の冒頭、内田先生はある問題を提起した。

内田先生:私がいま関心を持っていることに、個と場のウェルビーイングという問題があります。私たちがウェルビーイングを考える上で、「自分がこうしたい」「こう生きていきたい」と思う「個」の考えはもちろん大切なのですが、それを実現するためには、自分がいる「場」が大きく関わってきます。

例えば会社という「場」を考えたときに、社員ひとりが「楽しくて幸せを感じている」状態だとしても、「社員のわがままを許すのですか?」「全員の要望を叶えられるのですか?」という話が出てくることがあると内田先生は話します。

内田先生:個人それぞれの幸せのあり方はとても大切です。一方で、社会はそう簡単なものではないというのが社会心理学の立場での意見です。例えば、Aさんが「こうしたい!」という思いをあまりにも強く打ち出すと、ほかのBさんの何かを搾取するということが起こるのです。

内田先生は「これは人間の歴史の中で、長い間苦労してきたこと」だと話し、「一人ひとりのウェルビーイングを実現していくことは、簡単なことではない」と指摘する。

国・文化によって変わる「ウェルビーイング」。日本人にとっての「幸せ」とは。

国・文化によって変わる「ウェルビーイング」

続いて内田先生は、ウェルビーイングの感じ方には、個人のとらえ方のほかにも、国や文化によって大きな違いがあると語った。

内田先生:ウェルビーイングは、いま世界各国で重要視され、研究されています。しかし、その調査方法や定義、価値観は「国・文化によって違う」と感じています。例えば、日本では、ウキウキ・ドキドキするような幸せの形よりも、比較的に穏やかな幸せを求める傾向があります。

どんなときに幸せを感じるかを問われて「お風呂に浸かっているとき」という回答が出てくるのは、「日本以外の国ではあまり見られないこと」だと話す。

内田先生:日本とアメリカのたった2つの国を比較しただけでも、幸福への考え方はまったく違います。アメリカで取られたデータでは「個人の自由と選択」など、自分の力で何かを獲得することに幸福を感じる一方で、日本の場合だと他者とのバランスを重要視する傾向があります。「幸せすぎて怖い」「まわりまわって自分にも幸せがくる」「残ったものに幸せがある」など、「幸せ」のとらえ方に、協調的な価値観が付与されているのではないでしょうか。

自分と他者と社会がウェルビーイングな状態で循環していく「場」

自分と他者と社会がウェルビーイングな状態で循環

では、私たちがウェルビーイングな社会を創っていくにはどうすればよいのだろうか。内田先生は、「場」のウェルビーイングについて3つの定義をしていると話す。

内田先生:ひとつは「人と人」、「場と個人」が搾取的な関係ではないこと。周りの大多数のために、自分を犠牲にするような関係性は、よい形の「場」にはなり得ません。2つ目は自分の幸せと周りの人たちの幸せが、相互依存であると感じ取ること。最後は自分の存在が、いかに他者に影響を与えているかを知ることです。

日本の協調的な文化は、この「場」のウェルビーイングを創っていく上で「強み」にもなると、内田先生の言葉は次第に熱を帯びていった。

内田先生:家族や友人、自分が住む街や国、学校や職場が「どうすればよい状態でいられるのか」を考えることは、そこに生きている人すべてにメリットがあることです。互いにWin-Winの関係を創り、よりよい「場」を創っていくため、共に考えていくというのが、まさにウェルビーイングを共創するということなのではないでしょうか。

内田先生は「学会の方の中には、技術の分野で活躍する方もいらっしゃると思います。私たちが共に考えていくことで、ウェルビーイングな社会の実現に向けた新たな発信ができるのではないでしょうか」という力強いメッセージを伝え、講義を締めくくった。

 


Wellulu編集部あとがき

内田先生の「これからの幸福についてー文化的幸福感のすすめ」(新曜社、2020年)の本で、多くの学びをいただいておりました。今回、内田先生のお話は「納得」と「可能性」を感じた講演でした。

ウェルビーイングに必要な「場」が重要で、社会の中の自分と対峙することで感じられるものであるという話は、今日の生活者が求めているものであります。また、家族や友人、自分が住む街や国、学校や職場が「どうすればよい状態でいられるのか」を考えることは、そこに生きている人すべてにメリットがあることであり、共創が不可欠というのも納得です。

Welluluの思想「つながりの中のウェルビーイング」が、まさに「場」の設定で、そこから生まれ「ウェルビーイングなコミュニティ」の和が拡がっていくことで、ひとりひとりのウェルビーイングを少しでもつくっていくお手伝いができればと「可能性」を感じました。

我々がつくる「場」が、誰も取り残さない、みんなが何かウェルビーイングを感じるものになることを願っています。

Wellulu 編集部 プロデューサー・ウェルビーイング学会 会員 堂上研

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