
海外での注目を経て、日本でも注目されてきた「グルテンフリー」。実際どのような人向けの食品・食生活スタイルなのか?健康にはよさそうだけどおいしいのかな?と思って一歩踏み出せていない人も多いのでは。グルテンフリー生活の背景や現代の私たちの食生活とともに、「ゆるっとグルテンフリー生活」を提唱するケンミン食品の田中さんと高垣さんにグルテンフリーについて詳しくお話を伺った。

高垣 良さん
品質保証部 副部長

田中 国男さん
ケンミン食品株式会社 執行役員 マーケティング部長兼広報室長
本記事のリリース情報
ウェルビーイングに特化したWEBメディア「Welulu」にて「グルテンフリー」に関するインタビュー記事が掲載されました。
体質とグルテンが合わない?グルテンに視点を当てた食事法
──まず、グルテンフリーとはどのようなものか教えていただけますか?
高垣さん:グルテンフリーとは、グルテンという小麦に含まれるタンパク質を摂取しない食生活やそのような食品のことを指します。グルテンを含む代表的な穀物には、小麦、大麦、ライ麦があります。
──小麦に含まれるものというと主食になるものも多いかと思います。グルテンフリーが注目されるようになった背景は何かあるのでしょうか?
高垣さん:グルテンフリーが注目されたきっかけには、著名なアスリートやセレブリティからの影響がありました。たとえば、テニスの人気選手が著書の中で、自身の体質にグルテンが合わないことを理由にグルテンフリーの食生活を取り入れたことで、パフォーマンスが向上したと公表したことやアメリカの女優やモデルがグルテンフリーの食生活をしている、といった発信をしたことで話題となり、現在のように世界に広まりました。
──なるほど。著名人が取り入れていて注目が集まったのですね。実際に、グルテンを摂りすぎた場合どのような健康への影響があるのでしょうか?
高垣さん:グルテンが皆さんの体に良くないタンパク質というわけではなく、グルテンに対する耐性が無い方が摂取すると体調不良を引き起こしたり、小麦アレルギーを持つ方は、摂取によって命にかかわる症状が出ることがあります。
──グルテンに対する耐性がない…?あまりピンとこないのですが…。
高垣さん:日本ではあまり知られていないのですが、セリアック病という遺伝性の自己免疫疾患があり、この病気ではグルテンを摂取すると自己免疫系が小腸の組織を攻撃することで炎症が起き、小腸の細胞が破壊されてしまい、これにより栄養吸収が妨げられたり、腹痛、下痢、倦怠感などといった症状が出ると考えられています。
また、小麦アレルギーの場合、蕁麻疹といった発疹だけでなく、重度の場合は呼吸困難を伴うアナフィラキシーショックという命にかかわる状態に陥ることもあります。
世界的に多いグルテン関連の患者数
──セリアック病は初めて聞きました。このようにグルテンが体質に合わないと感じている人はどのくらいいるのでしょうか?
田中さん:セリアック病やグルテン過敏症、小麦アレルギーを含めたグルテン関連の患者数は、アメリカでは全人口の約3.7%から8%の人が患っているとされ、これは約1200万人から2600万人が該当します。ヨーロッパでは全人口の約1.3%から15%で、約400万人から4900万人が患っていると推定されています。
──想像よりもかなり高い割合でした。日本はどうなのでしょうか?
田中さん:日本はある大学の報告によると、700名余の日本人調査の結果、約1%の人がセリアック病が疑わわれるといいます。
──日本ではあまり重要視されていないのでしょうか。グルテンフリー自体もあまり馴染みがない気がします。
田中さん:やはり日本ではお米が主食であるため、グルテン摂取の機会が少なかったことが背景にあります。しかし戦後、食生活の欧米化が進み、パンやパスタなどの小麦製品を摂取する機会が増えました。そのため、潜在的な小麦アレルギーの人が症状に気付かずに過ごしている可能性もあると言われています。
──自覚症状があまり感じられないということでしょうか?
田中さん:たとえば、症状として腹痛や下痢があったとしても、お腹の不調というのは日常の中で考えられる原因がたくさんありますよね。そのため、このお腹の不調はグルテンが原因かも!と考えるのは難しいといった背景もあると思います。
──たしかに、お腹が痛いといっても、何か変なものを食べたかな、お腹が冷えたかな、とかいろいろありますもんね。グルテンが原因となった体調不良にはほかにどのような症状があるのでしょうか?
田中さん:お腹が緩くなったり、腹痛以外には、倦怠感もよく言われている症状です。自分はどうかな?と思う場合は、2週間程度グルテンを完全に断ってみて、症状が改善されるかどうか見るという方法をすすめられることが多いようですが、先ほどの例のように小麦は多くの食品で使われていることもあり、普段の生活で完全に避けるのは正直難しいところがあります。
──実際に、パンや麺類を2週間完全に断つというのもいまの生活から想像できないくらいです…。
高垣さん:パンや麺類の中毒性についてはよく聞きますが、実際のところ、中毒性が本当にあるかというのは現時点ではエビデンスは不足しています。が、おいしいですよね。
グルテンフリー認証マーク
──グルテンフリーの食品についている認証マークについて教えてください。
高垣さん:グルテンフリー認証マークについては、北米のグルテン不耐症の方の団体が立ち上げたグルテンフリー認証組織(GFCO)が作ったマークです。このマークがついた商品は、グルテンの含有量が10ppm以下であることを示しており、グルテン不耐症の方でも比較的安心して摂取できることを保証しています。
──マークがあるとすぐにわかってよいですね。やはり認証マークを得るには、審査が行われるのでしょうか?
高垣さん:そうですね。企業はまず申請を行い、厳しい監査を受け、認証を受けることでグルテンフリーを訴求する食品として提供ができるようになります。また定期更新が必要です。
──ケンミン食品では、実際にグルテンフリーの食品を販売されていますがグルテンフリーに着目したきっかけは何だったのでしょうか?
高垣さん:以前、アメリカ向けにビジネスを展開しようとした際、ビーフンやフォーといった米めんをアメリカ市場に展開するには、グルテンフリーを訴求できないと興味を味を持たれないよ、と言われたことでグルテンフリーについて意識し始めましたね。
すでにその前から小麦アレルギーで悩まれている方々に向けて取り組みを行っていたこともあります。ビーフンや2008年に発売したライスパスタといった製品は、お客様相談室へのご意見として「小麦アレルギーなので、この商品は助かります」といった嬉しい声が寄せられるようになっていて、小麦アレルギーで悩まれている親御さんのサークルやお医者さんとの連携を進めていました。
元々行っていた小麦アレルギーに対応する取り組みとグルテンフリーが日本にも広まってきたことを機に、グルテンフリーの取り組みも始めるようになったという感じです。
──既に小麦アレルギーを持つ人向けに取り組みを進めていたのですね。先ほどのスポーツ選手のように、アスリートとのグルテンフリーの取り組みもあるとのことですが、教えていただけますか?
高垣さん:たとえば、私たちはヴィッセル神戸のオフィシャルパートナーですが、ベテラン選手がよいコンディションを長く保つためにグルテンフリーに関心を持って取り組み、それを若い選手が見て真似をするというようなケースも聞いていて、アスリートからの関心の高さを感じています。
──よいコンディションを長く保つため、食事の面で高い意識を持って試行錯誤されているのですね!
高垣さん:そうですね。グルテンフリーな食生活を取り入れることで、パフォーマンスが「上がる」というよりも、『グルテンが体に合わない方が「本来のパフォーマンスを発揮できる」』のだと思っています。
──なんだか将来的には、ビジネスマンの仕事のパフォーマンスを上げることにも繋がったりしそうなお話ですね!
高垣さん:そうですね、興味がある場合はグルテンフリーを試していただく価値はあるかもしれません。
グルテンフリーな食生活がもたらす健康へのよい働きとは
──実際にグルテンフリーを実施することで期待できる健康への影響について教えてください。
高垣さん:グルテンフリーに関する著書の中ではよく、腸内環境の改善、倦怠感の軽減、便秘や下痢の改善、肌トラブルの軽減などが挙げられています(全ての人ではなく、グルテンが体に合わない方が対象)。
──お腹の調子は想像つきましたが、肌トラブルも改善するのですね!
高垣さん:そうですね。これについては、腸内環境とお肌の状態が関係していることは考えられます。
──ただ…、グルテンフリー商品は果たしておいしいのかな?と正直思ってしまっていました。
田中さん:例えば、私たちとしてはグルテンフリーで麺を作るという部分では、お米を使って小麦の麺と同じものを目指す必要はなく、お米の麺としておいしく提供するというイメージです。お米の麺はお米の麺として味の追求をしているので、そういった認識で食べてもらえると、グルテンフリー食品に対する考え方も変わるかもしれませんよ。
──なるほど!
田中さん:ただ、2年前にはグルテンフリーのラーメンの開発をしたのですが、これは苦労しましたね。この場合は、ラーメンに近づけるためには、ビーフンは細すぎる、ラーメン特有の太さにしないと、といった葛藤があり、機械の設定や製造プロセスの改良が必要でした。
──さまざまな苦労のもと、日々商品が生まれているのですね。現在日本ではグルテンフリーの取り組みを行っている企業は多いのでしょうか?
高垣さん:はい、日本でもグルテンフリーに取り組んでいる企業は増えてきていますね。例えば、麺類でいうと、私ども以外にもちろんいらっしゃいますし、グルテンフリー料理を作るための米粉もたくさん販売されています。
コロナ禍を経た健康意識の高まりと「ゆるっとグルテンフリー生活」
──では、日本でグルテンフリーを取り入れている人の数はどうでしょうか?
田中さん:まだまだ海外に比べると、日本でグルテンフリーを取り入れている人は少ないと感じます。しかし、コロナ禍をきっかけに消費者の健康志向は高まっていて、リモート勤務などで自宅で食事をする機会が増えたのもあり、健康に対する意識の高まりを感じています。
──たしかに、リモート勤務の場合、あまり動かなくなり、太ってしまったという人が周囲にもたくさんいます。
田中さん:ですよね。そういったこともあり、私たちは「ゆるっとグルテンフリー生活」というのを提唱しています。これは、毎日ストイックにグルテンフリーを続けるのではなく、週に1回や2回、または一食だけグルテンフリーにしたり、調味料に含まれる小麦は気にせずに、食材で小麦を使ったものだけを他の素材で置き換えるという方法です。
──「ゆるっとグルテンフリー生活」、なんだか素敵なネーミングですね。
田中さん:先ほどのグルテンフリーラーメンは、アメリカのボストンでラーメン店を経営している方との共同開発だったのですが、その方もラーメンを提供している訳ですので、グルテンを完全に否定するのではなく、美味しい食事を長く楽しむために、「グルテンデトックス」という言葉を用いて時々グルテンを抜いてみるのはどうか?というふうに仰っているんです。
──「グルテンデトックス」、「ゆるっとグルテンフリー生活」、その言葉を聞いて、一気にグルテンフリーを取り入れるハードルが低く感じられました。
高垣さん:私は小麦麺とビーフンの食べる割合を半々にして楽しんでいます。実際にラーメンを食べるとき、ビーフンを食べるときと割合を考えながら小麦の摂取量を調整しています。
田中さん:あとは週に1日か2日はグルテンフリー生活をやってみたり、3食のうち1食は主食をグルテンを含まないものにしてみたりというのもおすすめですね。例えば、普段食べているパンやパスタを一度お米やライスパスタに置き換えてみるとか。
──麺を変えて、小麦の摂取量を減らしていったのですね。日々このように何を摂取するか?を考えるだけでも、健康意識につながりそうです。
高垣さん:正直、自分自身も食生活に対する意識が高まったと感じています。栄養バランスを意識し、小麦を食べ過ぎたらお米を選ぶ、お肉を食べ過ぎたら野菜を増やすといったように、食全体のバランスを考えるようになったというか。これにより、体調の良し悪しを自覚しやすくなり、常に食に前向きに過ごせて楽しみも増えたと思います。
「ゆるっとグルテンフリー生活」にトライしてみよう
──グルテンフリー生活をやってみる上で、どういった食品から始めたらよいのでしょうか?
高垣さん:スーパーで手に入りやすいライスパスタやグルテンフリーのパンから始めてみるのはどうでしょうか。代替しやすく、普段食べ慣れている味に近いので取り入れやすいと思います。グルテンフリーコーナーを設けているスーパーも増えているので、意識して見てみるとよいと思います。
──ほかにも何かおすすめのグルテンフリー食品はありますか?
高垣さん:麺であれば、ビーフンや春雨がおすすめです。例えば、夏だとそうめんの代わりにビーフンを使うだけでも簡単にグルテンフリーを実践できます。こんにゃくもグルテンフリーの食材として手軽に使われています。
──グルテンフリー生活を行う際、何か気を付けるべきことはありますか?
高垣さん:栄養バランスとカロリー摂取に注意してください。グルテンフリーはダイエット目的ではなく、あくまで食の選択肢として考えてほしいです。栄養バランスを崩さないように、他の食材ともバランスよく摂取し、必要なカロリーを適切に摂取することが大切です。
──グルテンフリーによるネガティブな影響はあるのでしょうか?
高垣さん:これはほとんどありません。ただし、栄養バランスを考えずに過度に偏った食事をすると、健康に悪影響を及ぼす可能性があるので気をつけてほしいですね。
──まずは試してみたいですね。グルテンフリー生活の効果はどれくらいで感じられそうですか?
高垣さん:個人差はありますが、一般的には2週間ほど続けると何らかの変化を感じることが多いと言われています。例えば、1日のうち1食をグルテンフリーにするという方法でも効果を感じることができると思います。
──なるほど!ちょっと試してみたくなりました。本日はありがとうございました。
Wellulu編集後記
健康に関するキーワードの1つとして、耳にしたことはあるものの、しっかりした知識はまだなかった「グルテンフリー」。世界的に注目されたきっかけや日本での広がり、体質に合った食のスタイルの1つとして、食の欧米化が進んだ私たちにも大きく関わりのあるものだと感じました。何か不調を感じつつも、何が原因かわからないということもあるある。食をたのしむことも忘れずに、少しずつグルテンフリーを取り入れてみるのもいいなと思いました。