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動脈硬化症、認知症などを予防する「ポリアミン」を腸内で生成できる身体づくり【協同乳業】

すべての生物に存在し、細胞の成長、分裂、正常な機能維持に不可欠なポリアミン。特に細胞が自己の老廃物をリサイクルするオートファジーに関与し、神経細胞や免疫細胞を健康に保つことにも重要な役割を果たしている。また、ポリアミンの機能とそれを増やすビフィズス菌LKM512とアルギニンの組み合わせがもたらす健康効果やその相乗効果について協同乳業株式会社に詳しく話を伺った。

松本 光晴さん

協同乳業研究所 所長

農学博士。信州大学大学院農学研究科修了。岐阜大学で論文博士を取得。協同乳業入社後は研究員として腸内細菌やポリアミン研究、機能性商品開発を進める傍ら、早稲田大学総合研究機構客員教授などを併任。

本記事のリリース情報

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長寿や健康維持に大切?全生物に必須の物質「ポリアミン」とは

──協同乳業では、細胞を元気にする物質として「ポリアミン」を紹介されていますが、まず始めに、ポリアミンの役割や重要性について教えていただけますか?

松本さん:ポリアミンは、すべての生物の細胞に含まれる、重要なはたらきを担う低分子物質です。細胞の増殖や分裂、さらには細胞の正常な機能維持に必要不可欠で、すべての生物にとって必須な存在です。その役割は非常に多岐にわたり、例えば、ポリアミンは細胞のオートファジーというプロセスに関与しています。

──オートファジーとは?

松本さん:「オートファジー」という用語は、細胞が細胞内の古くなった部分や不要なものをリサイクルする一連のプロセスを指します。このプロセスを通じて、細胞は不要なタンパク質や古い細胞構造を分解し、新しい部品として再利用することができます。これにより、細胞は効率よく動作を続け、健康を維持することが可能になります。

──なるほど。細胞内でそんな働きがあるとは知らなかったです。

松本さん:ポリアミンはオートファジーを介して、脳の神経細胞や免疫細胞の健全性を保つため重要です。これらは細胞分裂することなく一生を過ごすことが多いため、長期間にわたってその機能を「維持する」必要があります。ポリアミンは、これらの細胞が健康を保ち、例えば認知機能の低下や炎症反応を抑制するのを助ける役割を担っています。

他にも、全身の血管や腸の健康にも寄与しており、特に高齢になるとその重要性が増します。

血管では、ポリアミンが同じく入れ替わりが遅い血管内皮細胞の機能を支え、動脈硬化などの症状の進行を遅らせると考えられます。反対に腸では、細胞のターンオーバー(新陳代謝)が非常に早く、ポリアミンが新しい細胞の生成を助けることで、腸内環境を健康に保つことが可能です。

──ここまで聞いただけで、ポリアミンには幅広い役割があることがわかりました。ちなみに、体内のポリアミンの量は性別や年齢によって異なるのでしょうか?

松本さん:ポリアミンの量については、性別での差は特に見つかっていません。私たちが行っている研究では、糞便を通じて日本人の腸内細菌から生産されるポリアミン量を調べていますが、特に性別による違いは確認されませんでした。

ただし、人それぞれの腸内フローラの違いにより、ポリアミンの量は大きく変わるため、個体差はあります。

年齢での差に関しては、若い時期には比較的高く、特に第二次性徴(子どもから大人へと成長する過程で現れる体の変化)が終わるころがピークとされています。その後、20代後半くらいから徐々に減少していきます。実際に、60代から80代にかけては、ポリアミンの量が顕著に低下していることが確認されています。

つまり、老年病など、長寿と健康を維持する上でポリアミンが非常に重要な役割を果たしていることを示唆しているのです。私たちの研究では、長生きしている人々の体内のポリアミン量が高いことが多く、ポリアミンが長寿に寄与している可能性があるのではないかと考えています。

ビフィズス菌LKM512が「ポリアミン」を生成する

──「ポリアミン」に出会うきっかけとなった「ビフィズス菌LKM512」の研究の過程を教えてください。

松本さん:ビフィズス菌LKM512の研究は、その整腸作用を謳うための特定保健用食品(トクホ)としての利用から始まりました。初めにビフィズス菌LKM512を含むヨーグルトの開発を行いました。理化学研究所で辨野義己先生の指導を受けて腸内細菌叢の解析を学びながら、ビフィズス菌LKM512が腸内でどのように生き延び、増殖するかを確認しました。

その結果、ビフィズス菌LKM512は、腸内で非常に増殖することがわかったので、増える過程で何か体によいものを作っているだろうと色々と調べる中で、ポリアミンに出会いました。 ビフィズス菌LKM512が入ったヨーグルトを食べたヒトの多くでポリアミンが増えていたのです。

但し、増えないヒトもいて、もっと安定的にポリアミンを増やす方法がないかと試行錯誤しました。その中で、個体差のある腸内細菌叢でも安定的にポリアミンを作るアルギニンというアミノ酸を見つけました。

──ビフィズス菌LKM512を単体で摂取するより、アルギニンと組み合わせて摂取する方がより多くのポリアミン生成につながるのですね。どのようなメカニズムなのでしょうか。

松本さん:ビフィズス菌LKM512が腸内で酸を沢山生成すると、酸が苦手な大腸菌などが、苦手な酸を菌体内で排除するためにアルギニンを利用します。この排除の過程で、使用されたアルギニンはアグマチンという物質になって大腸菌から排出されます。次に、このアグマチンはエンテロコッカス・フェカリス属という殆どの日本人に定着している菌に、エネルギー産生のための栄養として利用されます。その過程で、使用されたアグマチンはポリアミンになってエンテロコッカス・フェカリスから排出されます。

その結果、腸管内でポリアミンが増加します。

このようにして、ビフィズス菌LKM512とアルギニンの組み合わせは、非常に複雑な相互作用を経て、腸内でのポリアミンの生成促進に繋がるのです。この発見は、腸内細菌の代謝コントロールを通じて健康を向上させる新たな方法として、非常に注目されています。

ビフィズス菌LKM512×アルギニンの相乗効果!血管と認知機能を守る

──続いて、最近発表された2つの研究についてお伺いしたいのですが、まず1つ目の研究「アルギニンおよびビフィズス菌LKM512入りヨーグルトを用いた動脈硬化予防効果」に関して教えてください。

松本さん:研究では、BMIが高めの健常成人(平均年齢45歳)を対象に、1日1カップ(100g)を12週間に渡って食べてもらい、血管の健康にどのような影響を与えるかを調査しました。ビフィズス菌LKM512×アルギニン入りヨーグルトあるいは、ビフィズス菌LKM512およびアルギニンを含まない通常のヨーグルト(プラセボ)を用いました。

その結果、アルギニンおよびビフィズス菌LKM512入りヨーグルトを食べた群で、血管内皮機能が向上することが認められました。また、糞便および血中のポリアミン濃度の上昇も確認されました。詳細なメカニズムは今後の課題ですが、本ヨーグルトの摂取で増えたポリアミンが血管内皮細胞に作用し、血管内皮機能が向上したと考えられます。

──ありがとうございます。2つ目の研究「アルギニンおよびビフィズス菌LKM512投与による認知的柔軟性向上」に関して教えていただけますか?

松本さん:まず、これまでの我々および海外グループのマウスを用いた研究で、外因的ポリアミン投与(生体外からのポリアミン摂取)が学習記憶力を改善することや、腸内ポリアミンの増加によりマウスの空間学習記憶力が改善することが明らかになっていました。

そして今回は、同様にマウスを用いて、ビフィズス菌LKM512およびポリアミンが認知症初期に低下する、認知的柔軟性に与える影響を調査しました。

──認知機能はわかるのですが、認知的柔軟性とは?

松本さん:認知的柔軟性とは、環境変化に柔軟に適応する能力で、記憶を常にアップデートする能力を指します。我々は、この認知的柔軟性をマウスで正確に評価する手法を早稲田大学と共同で開発し、研究を進めています。その結果、アルギニンおよびビフィズス菌LKM512投与により認知的柔軟性が向上しました。

上述のように、神経細胞の機能維持にポリアミンがオートファジーを介して関与していることが報告されていますが、他の可能性もあり、詳細なメカニズム解析は現在実施中です。

──「腸と脳がお互いに影響し合っている」と最近の研究やメディアなどでもよく見ますが、腸から脳機能(認知的柔軟性)を改善できる可能性があるとは!

松本さん:まだメカニズムは不明な点が多いのですが、最近は、腸内細菌由来の物質が作用していると考えることが主流となっており、ポリアミンも最有力候補の一つといえるでしょう。

腸でポリアミンを増やして全身を健康に

── ポリアミンを多く含む食材について教えていただけますか?

松本さん:ポリアミンを多く含む代表的な食材には、大豆製品、そして特定の野菜や肉類があります。納豆は日常的にも取り入れやすい高ポリアミン食材とされていますが、発酵でポリアミンが作られるのではなく、大豆に多く含まれているというだけです。どちらかというと大豆そのものより発酵過程でポリアミンは減っているので、大豆を食べた方が沢山摂取できます。野菜では、例えば、ピーマンやブロッコリーといった特に成長期の野菜がポリアミンを多く含んでいるとされています。あらゆる食材は成長過程の細胞や組織でポリアミンを多く生成しているため、たとえば、熟した赤いピーマンよりも成長過程の緑のピーマンに含まれるポリアミン量の方が多いことなどを知っておくと効率的に摂取できると思います。

また、魚介類、特に貝類にもポリアミンが多く含まれています。これは、筋肉ではなく内蔵などの重要な器官や組織を食する(丸ごと食べる)食材ほどポリアミンが多く含まれているということだと考えられます。鶏のレバーなどの臓器の肉も、ポリアミンが非常に豊富です。

加えて、地中海式の食事はポリアミンが多いといわれており、地中海地域で一般的な食材であるオリーブオイルやナチュラルチーズなどにはポリアミンが多く含まれています。特にブルーチーズなどの発酵期間の長いタイプのナチュラルチーズは、ポリアミンの豊富な食材です。一方で、プロセスチーズのポリアミン含量は多くありません。発酵や熟成プロセス、あるいはカビによるものである可能性がありますが、未解明で興味深いポイントです。

──ありがとうございます。こういった食材からポリアミンを摂取するのも良いけれど、松本さんが提案されているのは「おなかの中でポリアミンをつくる」ことも重要ということですよね?

松本さん:そうですね。食事から摂取する以外にも、充分なポリアミンを腸内細菌を利用して生成できる身体づくり(菌叢づくり)も大切だと思います。食からでも腸内細菌からでも、生体内に吸収されれば同じ働きをしますので、どちらが多く摂取できるかということが大事になります。我々は糞便中ポリアミン濃度のデータベースを作っておりますが、それの平均値から算出しますと、大腸内には納豆約6パック分もポリアミンが含まれていることになります。従いまして、腸内細菌由来ポリアミンを利用するのは効率的です。上述のメカニズムを参考にして、アルギニンを含む赤身の肉類などと一緒に、腸内を酸性化する働きのあるビフィズス菌LKM512や食物繊維を一緒に食べることも有効です。

──ポリアミンの1日あたりの摂取量や摂取のタイミングについて教えていただけますか?

松本さん:ポリアミンの「1日あたりの必要摂取量」はまだわかりません。ポリアミンを生体内で合成できる若齢期、それが低下しつつある壮年期、さらに低下している高齢期では、外部から摂取すべき量が大きく異なります。可能な範囲で高ポリアミン食材を摂取したり、我々が研究している腸内細菌のポリアミン産生を増やすプロバイオティクスやヨーグルトを利用したりして頂くのも良いと思います。

──ポリアミンを摂りすぎた場合、健康に悪い影響はあるのでしょうか?

松本さん:便利なことに、体は過剰なポリアミンを自動的に調節する機能を持っており、合成されすぎた場合にはその生産を停止し、分解するためのメカニズムがあります。そのため、ポリアミンは体内で必要以上に摂取しても、過剰なものは特定の代謝経路で分解されるため、通常は健康へ悪影響を与えることはありません。普段の食事から摂取する範囲内であれば、過剰摂取による健康リスクは基本的に心配不要です。

Wellulu編集後記:
私たちの身体に不可欠なポリアミンのはたらきから、ビフィズス菌LKM512とアルギニンの組み合わせによるポリアミン生成の促進効果が、血管の健康や認知機能向上に有効であることを知り、そのメカニズムはもちろん、単体摂取ではなく一緒に摂取することで相乗効果があるということが非常に興味深かったです。今後のさらなる研究に期待をしています。

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