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「ウェルビーイングな社会」の実現に向けて。学会の理事・監事3人の想いと取り組みをご紹介

第1回ウェルビーイング学会学術集会

2023年3月5日(日)、「第1回ウェルビーイング学会学術集会 〜ウェルビーイングを協創しよう〜」がオンラインにて開催。ウェルビーイング学会は2021年12月の立ち上げ以来、「ウェルビーイングレポート日本版」の毎年発刊や、ウェルビーイング指標のニュースリリースの発表、2022年10月には会員募集を開始するなど、着々と歩みを進めてきた。

今回の第1回学術集会では、まず代表理事である慶應義塾大学大学院 教授/前野 隆司氏による開会挨拶と基調講演、そして発起人たちによる講演やパネルディスカッションが行われ、ウェルビーイングに関するそれぞれの活動や研究内容を報告。

ここでは、埼玉県立大学 教授/秋山先生、福井県立大学 准教授/高野先生、叡啓大学 教授/保井先生の3名によるパネルディスカッションの内容をレポートする。

 

高野 翔

高野 翔先生

福井県立大学地域経済研究所 准教授

英国シューマッハカレッジを卒業(Master of Arts)し、2009年~2020年まで、JICA(独立行政法人国際協力機構)に所属。アジア・アフリカ地域の約20カ国で持続可能な国づくり・地域づくりプロジェクトを担当する。2014年から3年間は、GNH(国民総幸福量)を国の政策として取り入れているブータン王国で、ウェルビーイングを中心にした国づくりに参加。それ以来、ウェルビーイングをテーマに研究を続けている。2020年から現職。出身地でもある地元・福井県で、まちづくり活動に携わっている。
保井 俊之

保井 俊之先生

叡啓大学ソーシャルシステムデザイン学部学部長・教授

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授も務める。財務省および金融庁で主要ポストを務め、地域経済活性化支援機構常務取締役、国際開発金融機関IDBの日本ほか5カ国代表理事を歴任した。地域活性学会理事兼学会誌編集委員会委員長、PMIJ理事、日本創造学会評議員。ウェルビーイングな社会の実現を加速するためのテクノロジーや「地域のおカネ」の未来を、広島や鎌倉はじめ日本各地を現場に、研究している。主な著書に『保険金不払い問題と日本の保険行政』(日本評論社刊)、『日本の売り方』(角川oneテーマ21新書刊)『無意識と「対話」する方法』(ワニプラス刊)、『ふるさの納税の理論と実践』(事業構想大学院大学出版部刊)などがある。
秋山 美紀

秋山 美紀先生

埼玉県立大学 保健医療福祉学部 看護学科教授。博士(保健学)

専門分野は精神看護学やポジティブ心理学。「人をケアする人のセルフ・コンパッション」を主な研究テーマに、「個人、地域、組織をもっと反映させるにはどうした良いか」というポジティブ心理学の視点を看護に活かす活動を行っている。主な著書に『看護師のための「困難を乗り越える力」自分を思いやる8つのレッスン』(メヂカルフレンド社刊)『看護のためのポジティブ心理学』(医学書院刊)がある。

ウェルビーイングな“まちづくり”のキーとなるのは「居場所」と「舞台」

ウェルビーイング

講演は、まず3名の先生方が「ウェルビーイングに対して取り組んでいること」について話し、それぞれがお互いの研究の気になるところをディスカッションする形式で進んでいった。最初に登壇した高野先生のテーマは、「まちづくり・地域づくりの観点からのウェルビーイング」。

高野先生:私が取り組んでいることのひとつは、福井県内の自治体と協力して、公共政策にウェルビーイングの概念を取り入れること。例えば、「食のまちづくり」のパイオニアとして知られている福井県南部の小浜市では、食のまちづくり計画の中心にウェルビーイングの概念が取り入れられ、「食を通じて、人々が幸せを感じられる街にしていく」という新たなビジョンが生まれています。

さらに、高野先生は「もうひとつの取り組み」について話を進めた。

高野先生:私が専門にしている「まちづくり・地域づくり」を進めていく上で、人にとって大切なことが見えてきました。それは、地域においてホッとできる「居場所」があること、そして自分を表現できる・活躍できる「舞台」があるということです。地域にこの2つがある人ほど、ウェルビーイング度が高く、「今の土地に住み続けたい」という気持ちが強いということもわかってきました。私はいま、まちづくり・地域づくりを通じて、人々の「居場所」と「舞台」を作っていくことに取り組んでいます。ウェルビーイングは、「自分と自分とのつながり」「自分と他者とのつながり」「自分と自然とのつながり」この3つのつながりでつくられています。

感謝を伝えるための「地域通貨」でウェルビーイングな場所を

次に登壇したのは保井先生。テーマは「ウェルビーイングとテクノロジー・自然」。

保井先生:おカネというのは、人類が生みだしたテクノロジーの際たるものです。もともとおカネとは、「ありがとうございます」という“感謝の気持ち”を形にして、恩送り・恩返しするためのもの。おカネに本来の機能をもう一度持たせることで、人々がつながり、ウェルビーイングは高まっていくというのが、私の研究のひとつです。おカネはウェルビーイングを阻害するものではなく、加速させてくれるもの。いま、神奈川県鎌倉市では10年後を見据えた壮大な実証実験を進めていて、人々を幸せにして、環境配慮を動機づけるような「使うとウェルビーイングになる地域通貨」を、2023年から導入し始めています。

保井先生はさらに自然とウェルビーイングの関係も語った。

保井先生:瀬戸内地方はウェルビーイング度がもともと高い地域で、多島海ならぬ多幸海と言われます。自然豊かな景観は美しく、島に住んでいる人たちも生き生きとしています。広島県の江田島市では、「笑い」と「自然」をテーマにして、「江田島」を「笑みが多い島=笑多島」にしようという“ウェルビーイングなまちづくり”のプロジェクトも進めています。地域のウェルビーイング度を、自然言語処理する人工知能(AI)に学習させて、テキストから判定させる研究も始まりました。高野先生が取り組んでいる「まちづくり・地域づくり」ともつながっていて、とてもうれしく感じました。

人の心を守る「感謝の介入」と「セルフ・コンパッション」の考え方

最後に登壇したのは、医療従事者の心に寄り添う研究をしている秋山先生。「感謝の介入」をテーマに話しを始めた。

秋山先生:保井先生のお話の、お金は「感謝を回すためのもの」という言葉にはハッと気づかされました。私がいま計画していることのひとつに、「感謝の介入」というものがあります。コロナ禍で医療従事者が疲弊している中、医療の現場でお互いが感謝を伝え合うことで、少しでも心が癒され、元気を取り戻してもらえるのではないかという研究です。

そして、秋山先生は自身が啓蒙活動を続ける「セルフ・コンパッション」についても解説してくれた。

秋山先生:「セルフ・コンパッション」とは、自分に思いやりを持つというセルフケアの考え方です。いま兵庫県の神戸市看護大学の船越先生と共に進めているのは、ひきこもりの方や家族の方に対して「自分自身に思いやりをもとう」と伝える活動です。その一環として、船越先生は神戸で、引きこもりの人たちのためのカフェという場を作っています。これは高野先生の、人の「居場所」を作るという取り組みともつながっているのではないでしょうか。

3人それぞれ専門分野は違っていても、「ウェルビーイングを実現するための取り組み」には多くの共通点が見られることがわかる。会員からも共感の声が上がり、今回のパネルディスカッションは大盛況のうちに幕を閉じた。


Wellulu編集部あとがき

ウェルビーイング学会のホームページとロゴのプロデュースをご相談いただき、いっしょにウェルビーイング学会を盛り上げていけたらと思っています編集部の堂上です。

今回の3人のトークセッションでは、それぞれのウェルビーイングのお話をおうかがいさせていただくと同時に、会員のみなさまがどんどんチャットで質問していく臨場感がありました。この会員のみなさまとの対話が、まさに「ウェルビーイングな場」であり「ウェルビーイングなコミュニティ」と思わせるものでした。私自身、街とウェルビーイング、おカネやテクノロジーとウェルビーイング、医療とウェルビーイングをどう捉えるか考えさせていただくきっかけになりました。私たち自身が、自分と向き合うと同時に、相手を思いやり、自然と共生する社会を意識的につくっていくことが、ウェルビーイングの生活の一歩だと感じることができました。

つながりの中でのウェルビーイングは、自らが主体となって、「Co-Create」つくっていくものである。その先には、人や自然、街への優しさが生まれてくることを期待して。

Wellulu 編集部 プロデューサー・ウェルビーイング学会 会員 堂上研

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