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子どもとのスマホルールはどう決める?社会心理学者に聞いた上手なスマホ育児の活用法とは?【久留米大学・浅野准教授】

子どもへのさまざまな影響が示唆されている「スマホ育児」。“スマホ育児は自己制御の発達を阻害する”という指摘もあるが、実際の影響はどうなのだろうか?

久留米大学の浅野良輔准教授らの研究によると、幼少期におけるスマートフォン・タブレットの利用と自己制御との関連を調べた結果、スマートフォン・タブレットを使用する1週間あたりの回数(利用頻度)や目的(利用用途)、状況(利用場面)とは、ほとんど関連が見られなかったという。

今回は、久留米大学の浅野准教授に、研究の背景と内容、スマホ育児におけるスマートフォンの上手な使い方などについて詳しいお話を伺った。

浅野 良輔さん

久留米大学文学部心理学科 准教授

社会心理学者。専門領域は幸福感、パーソナリティ、対人関係。北海道生まれ。名古屋大学大学院教育発達科学研究科修了。博士 (心理学)。日本学術振興会特別研究員、浜松医科大学子どものこころの発達研究センター特任助教、久留米大学文学部心理学科講師を経て、2019年より現職。

本記事のリリース情報

文学部心理学科の浅野 良輔 准教授の「『スマホ育児』は子どもの自制心を阻害しないかもしれない」とする研究成果についてのインタビュー記事がWell-Being関連のWebサイト「Wellulu」に掲載されました。

目次

スマホ育児はデメリットだけなのか?

── まず、浅野准教授がこの研究をおこなったきっかけを教えていただけますか?

浅野准教授:研究をはじめた2016〜17年頃、「スマホ育児」に否定的なポスターやリーフレットを見かける機会も多く、世間で「スマホ育児」の悪影響が話題になっていましたが、根拠が漠然としていて、はっきりとしたエビデンスがないなと感じていたんです。

社会心理学者として、エビデンスがないまま「スマホ育児」を否定することは、今育児を頑張っている方々に不必要なプレッシャーを与えてしまうのではという危惧を抱いたのがきっかけです。

「スマホ育児」に関するエビデンスを提示できればと、発達心理学や家族心理学を専門とする同僚たちに声をかけ、この研究をはじめました。

エフォートフル・コントロールの関連性についてを調査

── 今回の研究では「スマホ育児」について、どのようなことを調べられたのですか?

浅野准教授:“幼少期におけるスマートフォン・タブレット利用とエフォートフル・コントロールの関連”を検証しました。

エフォートフル・コントロールは、待ちなさいと言われたら待つことができる、絵を描くときに集中することができるといった“自制心”(自己制御能力)を表す概念のことですが、ただ我慢するということではなく“先を見据えて、今の行動を抑える力”というイメージです。

自制心に関するよく知られている実験に、「マシュマロテスト」というものがあります。実験参加者である子どもの前にマシュマロを1つのせた皿をおき「食べるのを15分間我慢できたらもう1つあげる」と伝え、どう行動するかをみるというものです。

マシュマロをもう1つもらうため、目の前のマシュマロを食べずに我慢することができた子どもたちは、我慢できずに食べてしまった子どもたちよりも、その後の学業成績や対人スキル、問題行動の少なさなどの面で優秀でした。

ほかにも国内外のさまざまな研究で、幼少期のエフォートフル・コントロール(自制心)が、その後の学業成績や収入、対人関係、精神的・身体的健康、非行・犯罪などにつながることが実証されています。

子どもの健全な発達を理解するにあたり、自制心に関わる要因を知ることはとても重要です。

── 今回の研究は、どのようにおこなわれたのでしょうか?

浅野准教授:2~6歳の子どもをもつ夫婦455組にインターネット調査をおこない、スマートフォン・タブレットを子どもに使わせている頻度、どのような目的で使わせているかという利用用途、どのような状況で使わせているかという利用場面、どのようなルールを設けているかという利用規則について回答してもらいました。

利用用途では“写真を見せる”や“動画を見せる”、利用場面では“自分から使いたがるとき”“家族が使っているのを見て使いたがるとき”、利用規則では“場所を暗くしないようにしている”“使い方の約束を守れなかったら注意する”といった項目への回答が多くみられました。

子どもに関する研究では、夫か妻のどちらか一方に調査をしているケースが多いのですが、データの信頼度や貴重性を上げるため、今回の研究では夫と妻の双方に協力をしてもらっています。

スマホの利用頻度や用途、場面は自制心に影響しない

── 調査の結果から、どのようなことがわかったのですか?

浅野准教授:結果として、スマートフォン・タブレット利用におけるルールを設けている夫婦ほど、子どものエフォートフル・コントロールが高い傾向にありました。

一方で、スマートフォン・タブレットを利用する頻度や目的、利用場面は、子どものエフォートフル・コントロールとほとんど関連していないことがわかりました。

そのため“スマートフォンやタブレットを使わせることで、自制心の発達を阻害してしまうのではないか”と過度に不安や心配をする必要はないでしょう。

とはいえ、スマートフォンやタブレットの使いすぎは、視力や運動機能、思考力など、子どもの心身の発達に悪影響を与えかねないので注意が必要です。

子どもとのスマホ使用ルールを設けることがポイント

── スマートフォン・タブレットの利用にルールを設けている夫婦ほど、子どものエフォートフル・コントロールが高かったとのことですが、どのようなルールを設けていたのでしょうか?

浅野准教授:今回の調査では、“場所を暗くしないようにしている”“食事中や寝る前は使わないと約束する”“使い方の約束を守れなかったら注意する”などの項目でスマートフォン・タブレット利用におけるルールを測定しました。

おそらく多くの家庭で実践されている内容で、とくに珍しいルールではないはずです。

── 子どものエフォートフル・コントロールのことを考えると、一般的なルールを設けておくほうがいいということですね。

浅野准教授:ただ、スマートフォン・タブレットの利用規則が高いほどエフォートフル・コントロールも高い傾向はありますが、それも統計的には弱い関連にすぎません。

今回の研究から私たちが強調したいのは“スマートフォン・タブレット利用に関する回数、目的、状況、ルールがエフォートフル・コントロールとそれほど強い関連を示さなかった”という点です。

お子さまのエフォートフル・コントロール(自制心)を高めることを意識して、スマートフォンやタブレットを上手に使えばよいくらいに捉えてもらえればと思います。

── 子どものエフォートフル・コントロールを高めるために、家庭でできることはあるのでしょうか?

浅野准教授:子どもが健全に成長できる「環境」を整えることが大切ですね。スマートフォンやタブレットが身近にあるということも、子どもを取り巻く環境のひとつです。

「子どもの発達格差」の著者である森口佑介先生によれば、発達格差を生み出す要因として“家庭の経済状況”や“他者への信頼”があります。貧困により住居や食事、学校生活が安定しない環境であったり、養育者や友人、教師などの身近な他者を信頼できない環境である場合、エフォートフル・コントロールをはじめとする自制心の発達を阻害しかねません。

“家庭の経済状況”はすぐに改善することが難しい点でもありますが、“他者の信頼”においては家庭で子どもと積極的にコミュニケーションを取ったり、友人との交流を促すことなどで、エフォートフル・コントロールを育んでいくことができると思います。

スマホを“コミュニケーションのきっかけ”に

── 今回の研究で、エフォートフル・コントロールとは関連がないということがわかったかと思いますが、他の視点からスマートフォン・タブレットを取り入れたスマホ育児のデメリットはあるのでしょうか?

浅野准教授:視力や身体機能の低下はデメリットとして挙げられるのではないでしょうか。

今は小中高などの学校で、学習用にタブレットが配られていますが、子どもの視力が落ちているという話も耳にします。

スマートフォン・タブレットに限った話ではありませんが、昔と比べて、外でもゲームができる環境ですので、それによって遊びも含めた運動量が減り、身体機能の発達に影響するということは十分に考えられそうです。

スマホを活用した情報が「学びの質」を高める?

── 反対に、スマホ育児のメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?

浅野准教授:僕が子どものときじゃ考えられなかったことですが、スマートフォン・タブレットを使うことで、海外のプロスポーツ選手のプレーやピアニストの演奏などを今では簡単にいつでも見ることができますよね。それを見ながら練習をすることもできます。

勉強だけでなく、運動や芸術なども含め、世界中からさまざまな情報を取り入れることで、“学びの質”を上げられるかもしれません。

ただし、うまく使える・使わせる家庭と、そうではない家庭で、情報収集の力という点で格差が生まれてしまうきっかけになる可能性もありますね。

何よりも子どもとのコミュニケーションを大切に!

── スマートフォン・タブレットをうまく取り入れていくには、家庭でどのようなことを意識したらいいのでしょうか?

浅野准教授:あくまでも個人的な提案ベースになってしまいますが“コミュニケーションのきっかけにする”のがいいのではないかと思います。

子どもに動画を見せっぱなしにしている時間が増えると、他者と関わる時間も減ってしまいますよね。

先ほどの例を使うなら、プロスポーツ選手のプレーや一流ピアニストの演奏など、子どもの興味がある内容を見せて、「こういう風に身体を使ってみたらいいんじゃないか」「今はこうやって弾いているけど、この動画のようにしてみるともっといいかもね」と話題を作ってみるのがいいと思います。

── アドバイスをありがとうございます。今回の結果を踏まえ、これから研究をしようと思っていることはありますか?

浅野准教授:今回の研究は、インターネット調査のみ、かつ母親・父親からの回答だけで測定したものでしたので、今後さまざまな視点からエビデンスを蓄積していくことが重要だと考えています。

そこで現在、地域の保育園のご協力を得ながら、新しい研究に取り組んでいるところです。保護者の方には、子どものスマートフォン・タブレット利用やエフォートフル・コントロールに関する調査に回答いただき、園児のみなさんには、カードを色あるいは形で分類する、複数の数字を聞いた後に逆から言うといった自制心に関する課題に取り組んでいただいています。

現時点では、スマートフォン・タブレット利用に関するさまざまな指標は自制心とあまり関連しておらず、今回の研究と同様の結果が得られています。

── 浅野准教授、本日はどうもありがとうございました!

Wellulu編集後記

様々な観点から問題視をされることも多い「スマホ育児」ですが、“なんとなく良くなさそうだから避ける”ではなく、“何が問題なのかを理解して、良い取り入れ方を考える”ことが大切なのだと感じました。

今回の浅野准教授の研究では、「スマホ育児」と自制心(エフォートフル・コントロール)については関連がみられなかったとのこと。

「スマホ育児」に不安を抱えている読者の方には、自制心の発達への影響については心配しすぎず、浅野准教からいただいたアドバイスを参考に、子どもの個性を伸ばしたり、コミュニケーションのきっかけにしたりすることで、うまく「スマホ育児」を取り入れてもらえたらと思います。

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