動物性たんぱく質のなかでも、消化性の高い「魚肉タンパク質」。鈴廣かまぼこの植木さんに、かまぼこなどの魚肉製品の研究について詳しくお話を伺った。伝統的な職人技の科学的分析や魚肉タンパク質の研究など、魚肉たんぱく研究所の取り組みについて、消化性が高く、アスリートから高齢者まで幅広い層に支持される魚肉タンパク質の魅力とは?
植木 暢彦さん
株式会社鈴廣蒲鉾本店 魚肉たんぱく研究所 所長
本記事のリリース情報
ウェルビーイングに特化した「Wellulu」にて取材を受けました。
注目のタンパク質!魚から摂れる魚肉タンパク質とは?
職人の技術を分析し、研究と製造の最適化に応用
── まずは、植木さんがいらっしゃる魚肉たんぱく研究所についてお聞かせいただけますか? 入社するきっかけは何でしたか?
植木さん:入社を決めたのは、鈴廣のかまぼこの弾力に驚いたことがきっかけです。鈴廣に興味を持ち参加したイベントでおみやげにいただいたかまぼこを食べたとき、それまでのかまぼこの概念を覆すような食感で、衝撃を受けたんです。
── 魚肉たんぱく研究所では、どのような活動をされているのでしょうか?
植木さん:私が魚肉たんぱく研究所に入ったのは設立から少し経ってからですが、大きな柱となるプロジェクトは「魚肉ペプチド」の研究でした。これは魚肉を使ってサプリメントのような製品を作るための研究です。
もう1つは、かまぼこ職人の技術を科学的に見える化することです。かまぼこは魚のサイズや状態によって製造条件の微調整が大切なのですが、かまぼこ職人の経験と感覚を科学的に分析することで、その技術を機械による大量生産に応用できればと考えたんです。職人たちのノウハウを見える化し、製造条件の最適化をおこないました。
── 「魚肉ペプチド」とははじめて聞きましたが、どのようなものなんですか?
植木さん:まず「ペプチド」とは、タンパク質が分解されてできるもので、アミノ酸が数個から数十個つながっている状態です。我々が研究している「魚肉ペプチド」は、魚のタンパク質を酵素で分解することで作られます。
元々かまぼこは、この分解を避けなければなりません。
かまぼこ特有の弾力は、タンパク質が絡み合ってできているものなのですが、これが分解されてしまうと、ぐちゃぐちゃな食感になっておいしくないんです。職人さんたちは、この分解を避けることを長年追求してきたので、どうしたら分解が起こってしまうかにも詳しいんですね。その知識を利用して、2005年ごろから健康に良いペプチドの研究を始めました。
── 魚肉ペプチドの研究にも、かまぼこ職人さんたちの経験とノウハウが生かされているんですね。
植木さん:職人さんの技術は本当にすごいです。「なぜその方法で製造するのか?」と尋ねると、「やって一番よかったから」といった答えが返ってくるのですが、実際にこれを検証してみると、科学的にも理にかなっていることがわかるんです。職人の手はまるでセンサーのようで、水分含量なども機械と同等の精度で感じ取れます。この技術には本当に驚きましたね。
魚肉タンパク質の研究でわかったこと
注目の「DIAAS」とは? かまぼこは高DIAAS食品
── 魚肉タンパク質は消化されやすく、アミノ酸を素早く身体に供給できるとのことですが、アミノ酸についても詳しく教えていただけますか?
植木さん:アミノ酸は、現在約500種類が知られています。そのうちの20種類のアミノ酸からタンパク質は構成されており、アミノ酸の並び方(配列)の情報はDNAに記されています。タンパク質の性質や機能は、このアミノ酸の並び方やつながりの長さによって異なるのです。
── それでは、タンパク質の質も、アミノ酸によって左右されるということでしょうか?
植木さん:はい、そのとおりです。タンパク質の質を比較するための指標はいくつか知られていますが、食品に含まれる「必須アミノ酸」のバランスを数字で示した「アミノ酸スコア」がよく使われています。
必須アミノ酸とは、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸のうち、体内で全くあるいは十分に作り出せず、食事から摂取する必要がある9種類のアミノ酸のことで、必須アミノ酸がバランス良く含まれる食品は、体内での利用効率がいいのです。
── アミノ酸スコアが高い食品はどのようなものがあるのでしょうか?
植木さん:それが、アミノ酸スコアの導入当時は、それで食材を比較することができていたのですが、数度の基準値や算出法の変更などを経て、現在では多くの食品がアミノ酸スコア100(満点)となっていて、アミノ酸スコアでの比較が難しくなったんです。
そのため最近では、「DIAAS」(消化性必須アミノ酸スコア)という新たな指標が用いられるようになりました。
── 初めて耳にしました。DIAASとは、どのような指標なんですか?
植木さん:DIAASは、含まれているアミノ酸のバランスだけでなく、必須アミノ酸の消化吸収率も考慮しています。摂取したタンパク質やアミノ酸が、どのくらい消化されやすく体内で利用されやすいかまでを、総合的に評価した指標です。
たとえば、アミノ酸スコアで比較すると、植物性タンパク質と動物性タンパク質がほぼ同じスコアになるのですが、DIAASで比較すると、植物性タンパク質は低めに、動物性タンパク質は高めに出ます。
── DIAASのほうが、より実態に即した評価ができるのですね。
植木さん:はい、そうですね。私たちが扱っているかまぼこや魚肉ペプチドも、このDIAASを算出してほかの素材と比較してみました。
数値が高いほど、タンパク質の質が高いことを示しているのですが、かまぼこやすり身、魚肉ペプチドなどの魚由来の素材は鶏むね肉やゆでたまご、乳タンパク質、ホエイタンパク質などの動物性タンパク質と同等の高い値を示しました。
── 鶏むね肉やゆでたまごより数値が高いんですか? タンパク質補給に優れた食品なんですね!
植木さん:はい、非常に優れた食品といえると思います。さらに、魚肉は高タンパク質低脂質という特徴を持っています。かまぼこや魚肉ペプチドの原料となるすり身は、魚肉を水でさらす工程を経ることで、もともと少なかった脂質がさらに除去され、水分以外の組成で約95%がタンパク質と非常に高純度に精製されます。牛肉や豚肉と比べると、牛肉は約3/4が脂肪、豚肉は約半分が脂肪ですので、すり身の純度の高さは驚異的です。
また、かまぼこは消化が良く、アスリートが身体を動かしたあとや高齢者の方にも適しています。私たちの製品「サカナのちから」は、とくに消化吸収が良い魚肉ペプチドを使用しており、筋肉痛の軽減や目覚めのよさなど、多くの効果が報告されているんですよ。また、抗酸化作用が非常に高いため、臨床試験でも抗疲労効果が認められ、機能性表示を取得しました。
── かまぼこに、そんなさまざまな効果が期待できるなんて知りませんでした!
アスリートも注目!スポーツや疲労時の栄養補給にも最適
── アスリートの間でも、魚肉タンパク質が注目されているそうですね。
植木さん:はい、最近アスリートの方々が魚肉に注目しているのは、消化性が非常に良いことが大きな理由ではないでしょうか。とくに激しい試合やトレーニングのあと、消化器官が疲れている状態では、胃もたれせずに消化吸収できる魚肉が選ばれることが多いようです。実際に私が話を伺ったアスリートの中にも、試合後に魚を選ぶ方が多くいました。魚肉はほかの肉と比べて消化が良く、身体への負担が少ないため、アスリートにとって非常に適しているのだと思います。
── 魚肉タンパク質の消化のよさについて、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?
植木さん:はい、魚肉タンパクの消化性についても研究したデータがあります。
最初は、かまぼこの研究から始まりました。かまぼこの弾力性の違いを調べるために、タンパク質変性剤を使ってタンパク質を溶かす実験をおこなったんです。その結果、過剰な加熱などで無理やり弾力を強くしようとすると消化されにくくなることが分かりました。興味がわいたので、それから様々な食材との比較実験を続けてみたんです。
── 具体的にはどのような実験をおこなったのでしょうか?
植木さん:かまぼこやほかのタンパク質源を人工胃液に入れ、その消化速度を測定しました。その結果、かまぼこは非常に早く消化されることが分かりました。たとえば、牛乳由来のホエイや大豆のタンパク質と比較しても、魚のタンパク質は圧倒的に消化が早いというデータが得られました。
これは消化速度を示したグラフです。0分が消化前の状態で、時間が経つにつれて重量が減少していく様子を表しています。消化速度で比較しても魚肉タンパクがほかのタンパク質と比べて急激に分解されていることがわかります。
── 消化速度の速さが際立っていますね。かまぼこが消化されやすい理由は何でしょうか?
植木さん:かまぼこの製造過程でタンパク質がちょうどよく変性し、消化しやすい形になっているためです。かまぼこは、魚肉を塩でほぐし、新しい形に組み合わせて作ります。これにより、タンパク質の構造が消化しやすい形に変わるのです。もともと魚のタンパク質は消化されやすいのですが、刺身のように、タンパク質が綺麗に並んでいる状態よりも、かまぼこにすることでさらに消化が速くなるんです。
── 消化性の違いは、味にも影響するのでしょうか?
植木さん:はい、消化性の違いは味にも影響し、同じ調味料を使っても、焼き魚とかまぼこでは味の感じ方がまったく異なります。これは、練り製品特有の弾力のもととなる網目構造の違いによるものです。かまぼこのタンパク質は網目構造を形成しているため、その中に調味料や水分が閉じ込められ、これによりじわっと出てくる旨味が生み出されます。
もっと気軽に手軽に!魚を食べる習慣をつけよう
タンパク質の摂取は、健康維持の基盤
── 低脂質で消化にもよい「魚肉」のお話を伺いましたが、現代人のタンパク質摂取量や練り製品の消費量はどうなのでしょうか?
植木さん:現代人のタンパク質摂取量は減少傾向にありますね。また、練り製品の消費量も減少しているのですが、ここ2~3年で少し回復傾向にあります。タンパク質クライシスや昆虫食、培養肉などの話題が広がる中で、魚肉の優位性、重要性が再認識されつつあるんです。最近は、私たちも多くの講演依頼を受けるようになり、情報提供の機会も増えています。
── 魚肉タンパク質への注目度も上がっているのですね。タンパク質の摂取量は減っているとのこと、不足するとどうなるのでしょうか?
植木さん:タンパク質不足は、身体の基本的な機能に深刻な影響を与えかねません。必要なタンパク質が作られなくなると、身体の代謝も下がってしまい、健康な生活が送れなくなってしまう可能性もあります。具体的には、集中力の低下、体力の減少、免疫力の低下などの症状が現れることもあります。
また、タンパク質が不足すると、ほかの栄養素もうまくはたらかなくなってしまいます。タンパク質は身体の基本的な構造を支え、代謝などの生体機能の中心となる重要な成分ですので、これが十分に供給されて初めて、ほかの栄養素が効果を発揮することができます。タンパク質の適切な摂取は、健康維持の基盤ともいえます。
── 日々、必要なタンパク質をしっかり補給できるように意識することが大切ですね。
日々の食事に魚肉タンパク質を取り入れよう
── タンパク質不足を防ぐためにも、本日お話を伺った「魚肉タンパク質」の摂取は効果的ですね。
植木さん:そうですね。魚肉タンパク質の優れた点を、もっと多くの人に知ってもらいたいという思いから、さまざまな商品を販売しています。とくに板かまぼこは、魚肉タンパク質をおいしく摂取できるのですが、今ではお正月など特定の時期にしか食べられないことが多いので、もっと多くの人に日常的に食べてもらえたらなと考えています。
── 魚肉タンパク質の摂取量目安について教えていただけますか?
植木さん:一般的には、1日に体重1kgあたり1〜1.2gのタンパク質を目安に摂取するといいと思います。アスリートなど運動量が多い場合は2g程度が目安です。
── 魚肉タンパク質を摂取する際のポイントなどはありますか?
植木さん:タンパク質が不足しないよう、1日の必要量をしっかり補給することも大切ですが、1日の中で分散してタンパク質を摂取することも重要です。たとえば、体重60kgの人で1日60gのタンパク質を摂るとしたら、朝昼晩に20gずつ摂取するのが理想的です。多くの人は朝食のタンパク質が不足しがちなので、朝食に納豆や卵、そしてかまぼこを取り入れることで、バランスのよい食事ができますよ。
── 朝食にかまぼこですか? 明日からでもすぐに始められそうですね。
植木さん:朝食にかまぼこを3切れほど追加するだけでも、十分にタンパク質を補うことができます。ぜひ、朝食に取り入れていただきたいですね。
かまぼこのおいしい食べ方
── かまぼこは、やはりそのまま食べるのが一番おいしいでしょうか?
植木さん:はい、とくに鈴廣のかまぼこなら、そのまま食べるのが一番おいしいです。私はよく、スーパーで売っている鈴廣のかまぼこをそのままかじって食べています。
── 調理いらずでおいしくいただけるので、時間がない朝にもピッタリですね。
植木さん:そうですね。そのままでおいしく食べていただけますが、いろいろな食べ方もご提案していまして、個人的には、オリーブオイルとネギをかけて食べるのが好きです。簡単にできて、かまぼこの新たな味わいを楽しむことができますよ。
また、ソムリエの田崎真也さん考案なのですが、ポテトチップスをかまぼこに乗せて一緒に食べるというのも、意外な組み合わせですが、とてもおいしいですよ。そのままの味に飽きたら、ぜひこういったアレンジも試してみてください。
── なかなか味の想像ができませんが、試したくなりました!
植木さん:最近では、手軽に食べられるフィッシュプロテインバーや、サラダにのせるかまぼこなどの新しい食べ方も提案しています。これらの商品は魚の風味がひかえめですので、魚嫌いな方でも食べやすいと思います。
サラダにのせるかまぼこは、モッツァレラチーズのような食感で、ほかの食材と調和しやすいのが特徴です。かまぼこの硬さが和らぎ、ちょうどよい食感を楽しむことができますよ。かまぼこがあまりお好きでない方にもおすすめの食べ方です。
こうした新しい食べ方を通じて、もっと多くの人にかまぼこの魅力を知っていただければと思います。
── 本日お話を伺って、新たなかまぼこの魅力を知ることができました。新しい食べ方にもぜひ挑戦してみますね!
Wellulu編集後記:
今回の取材を通じて、魚肉タンパク質が持つ多くの可能性とその働きについて深く知ることができました。伝統的なかまぼこ製造技術を基にした研究は、新しい健康食品の開発につながり、多くの人々の健康に寄与しています。特に、消化吸収が良く、高DIAAS値を持つ魚肉タンパク質は、現代人の食生活において重要な役割を果たすことがわかりました。日常の食事に魚肉タンパク質を取り入れることで、健康維持に努めたいと思います。
※図の引用先
1枚目/タンパク質素材のアミノ酸スコアおよびDIAAS.
植木暢彦.「健康機能性豊富な魚タンパク質をおいしく食べ続けるために.矢澤一良監修 笹岡充編.未病と食を考える.シード・プランニング.83-92, 2024.」の図を改変.
2枚目/畜肉、鶏肉、魚肉およびすり身の水分以外の成分組成.
魚肉、畜肉、鶏肉の値は8訂日本食品標準成分表の値を参照し、すり身の値は日本食品分析センターによる分析結果から算出した.
植木暢彦.「健康機能性豊富な魚タンパク質をおいしく食べ続けるために.矢澤一良監修 笹岡充編.未病と食を考える.シード・プランニング.83-92, 2024.」の図を改変.
3枚目/タンパク質食材の消化性.
各食材を同じサイズに切り出して人工胃液(ペプシン溶液)で消化し、その消化速度を消化性の指標とした.値は平均+標準偏差(n = 3)で示し、異なるアルファベット間で有意差あり(p < 0.05).
植木暢彦.「健康機能性豊富な魚タンパク質をおいしく食べ続けるために.矢澤一良監修 笹岡充編.未病と食を考える.シード・プランニング.83-92, 2024.」の図を改変.
1977年熊本生まれ。宮崎大学、東京大学、三菱化学生命科学研究所において魚貯蔵中の脂質過酸化抑制、マグロの変色メカニズム解明、ペプチドのシグナル伝達経路解明などの研究を推進し、魚の基礎研究を続けたいと魚肉たんぱく研究所へ。主な研究テーマは、伝統的職人技の原理解明、未利用資源の有効活用、魚肉タンパク質を用いた新シーズ開発。魚タンパク質の有用性についての講演やお魚たんぱく健康研究会の運営など情報発信も行っている。