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【ブランド責任者のB面】開発の鍵は他者からの視点と寄り添い|タニタがベビースケールで時代をつくるまでの道

タニタが開発した授乳量機能付ベビースケール「nometa」。授乳量を1g単位で確認できることから、母乳育児に挑戦するお母さんに寄り添う商品になっている。高い技術力で健康をはかる商品を開発しているタニタの中でも、異例の母子向けの商品だ。

実は、この商品の担当者の1人である服部さんは子どもがいない男性。今回は開発の初期段階から「nometa」の企画者とともに、コンセプトをつくりあげた服部稔さんにインタビューを実施。

当事者ではない服部さんが「nometa」の開発にどのように熱意を注いでいったのか。そこには、意見を取り入れ、熱意に寄り添うといった服部さんの仕事に対するこだわりがあった。

この記事の監修者

服部 稔さん

グローバル商品推進部 副部長。1998年入社。

約3年間家庭向け商品の営業を経験したのち、商品企画部門へ異動。世界初の3Dセンサー搭載歩数計の企画も担当した。

その後、医療機関やフィットネスクラブなどプロ向け商品の営業や海外商品の企画も経験し、
現在はプロ向けの体組成計から家庭用スケールまで幅広い商品の企画を担当している。2026年1月より、西日本肥満研究会の世話人に就任。

目次

タニタがつくったのは「体脂肪計」だけじゃない

── まずは、服部さんがタニタに入社されたきっかけから教えてください。

服部さん:実は私、もともとタニタの得意先である商社にいたんです。30年ほど前に、タニタが体脂肪計を世の中にはじめて出すタイミングがあって。その販売を強化するということで声がかかり、入社しました。

── もともと関わりがあったなかでの入社だったのですね。

服部さん:はい。前職の商社では営業をしていたので、タニタでも最初は営業からのスタートでした。ただ、商社とメーカーって、同じ営業でも手法が全然違うんですよ。

── どのように違うのでしょうか?

服部さん:私が勤めていた商社は、いわゆる日用品の卸売業をしていたので、さまざまな商品について広い知識が求められるんです。一方、メーカーでは自社の商品を詳しく説明する必要があるので、より専門的な知識が求められます。

── 技術面への理解が重要ということでしょうか?

服部さん:スペックに対する理解はもちろん必要ですが、これに加えて商品にまつわる体験への理解が大切なんです。

たとえば、タニタは世界ではじめて乗るだけで体脂肪をはかる機器をつくったメーカーですが、言い換えると体脂肪をはかる文化をつくったメーカーとも言えるんですよ。つまり、タニタは体脂肪計だけではなく、体脂肪をはかるという新たな体験も提供したわけです。

── たしかにタニタさんは体験を提供している商品ばかりですね。服部さん自身も、最初からそういった考え方を持っていたのでしょうか?

服部さん:タニタに入社してすぐに理解できるようになったわけではありませんが、なぜこの商品が必要なのかをしっかりと考え抜くようにしていました。

営業から企画へ。未来を語る視点が芽生えた

── 3年間、営業として仕事をされ、商品企画の部署に異動されていますよね。商品企画への異動後に印象的だった出来事はありますか?

服部さん:一番の転機は、ある企業の方に言われた「時代は、あるものじゃなくてつくるものだ」という言葉ですね。今、目に見えているものだけをつくるのではなく、その商品が生み出す文化をつくるんだ、と。

── 先ほどのはかる文化をつくったというお話に、つながりそうですね。

服部さん:まさに、そうなんです。タニタは体脂肪をはかるという文化をつくったという自負があるのも、その方からの言葉を自分の中で育ててきたからこそだと思います。商品を開発する上で、自分の礎(いしずえ)になっている考え方ですね。

子どものいない自分が、授乳量がわかるベビースケールをつくる

── ここからは、ベビースケール「nometa」について伺います。そもそも、どのようにして生まれた商品なのでしょうか?

服部さん:一児の母である担当者の「授乳量がわかるベビースケールをつくりたい」という熱い想いから、企画が立ち上がりました。

でも、最初はトントン拍子とはいかなくて。担当者に「サポートしてほしい」と声をかけてもらい、私も企画に参加するようになりました。

── 声をかけてもらったときは、どんな印象でしたか?

服部さん:協力したいとは思いつつも、私には子どもがいないので、正直授乳の悩みというのは、まったく想像ができなくて。

── 男性だとなかなか想像しにくい悩みですよね。当事者ではない立場で、開発にどう向き合っていったのでしょうか?

服部さん:実は「nometa」は、企画段階では「本当にお客様に受け入れられるのか?」と疑問視されて、タニタの中でも賛同を得られにくかったんです。それに対して担当者をうまくサポートできないもどかしさがありました。

そのような中で大きな転機になったのは、私が前職で縁があったベビー用品を扱っているメーカーさんに担当者を連れてヒアリングに行ったことでした。

授乳量表示への担当者の想いを伝えたら、「授乳に関する悩みを解決したい、授乳量がはかれればという願いは当たり前のことだ」と言われたんです。

ベビー用品業界からしたら、当たり前すぎる課題だった。別の業界の視点をもらえたことで「ベビースケールがつくり上げる文化があるかもしれない」。そんな未来が見たいと強く思えるようになりました。

── 社外からの意見が服部さんに当事者意識を芽生えさせてくれたんですね。

服部さん:そうですね。文化をつくり上げることは、今はないものを生み出すために評価と判断を繰り返さないといけないので、自分の考えだけじゃうまくいかないと思っていて。

だからこそ、外部からの意見を取り入れて、視点を増やして、考えてみることを意識しています。

実際に、「nometa」の最初の商品を発売して展示会に出展したときに、1人のお客様に「この商品をつくってくれてありがとう」と涙ながらにお礼をいただいたんです。

口コミの大多数が感謝の声で溢れていて、よい商品をつくれたんだという実感と、次の商品も絶対につくろうという決意につながりました。

はかりメーカーのこだわりを捨ててでも、お母さんに安心を

── nometaは、授乳量を1g単位で表示できるのが大きな特徴ですよね。はかりメーカーとしてのこだわりがあったのでしょうか?

服部さん:実は逆で、今回は、はかりメーカーのこだわりを捨てた決断だったんです。「nometa」のような家庭用スケールで1g単位まで正確にはかるのは相当難しく、1g単位表示には社内でさまざまな議論がありました。

重さをはかる上ではピタッと止まっている必要がありますし、生きていく上で摂取だけでなく消費によっても体重は変わるので、赤ちゃんの体重をはかるのは至難の業です。

そのため、社内では「高いレベルでの正確さを保証できないのに、1g単位で表示すべきではないだろう」という意見がありました。ただ、お母さんの悩みに寄り添うのであれば、どうしても授乳量を1g単位で表示したい。

さまざまな検討をした結果、1gでも母乳を飲めた、昨日より数gでも多く飲ませてあげられた、飲んでくれたと数値で確認できることが育児をする上で励みになると考えました。

そして、タニタがお母さんの悩みに寄り添うことになると思い、授乳量の1g単位表示にトライしました。

── 授乳をはじめたばかりのころは母乳量が少ないですし、赤ちゃんが少しでも飲めていることがわかるとお母さんは安心できますよね。「nometa」というネーミングにもそういった想いが込められているのでしょうか?

服部さん:そうですね。お母さんの「飲めた?」という問いかけに対して、赤ちゃんが、言葉ではなく数字で「飲めた!」と答えるようなイメージで、授乳量の数値は「親子の会話の1つ」というのがコンセプトになっています。

実は商品開発の上で最初に決まったのは「nometa」という商品名なんです。「nometa」という名前のおかげで、はかりでありながらも「会話のツールだ」という考え方に転換したことで、授乳量を1g表示すべきだと確信を持てました。

── 「nometa」という名前が道しるべになったんですね。

自分は、企画をアシストするセッターである

── 服部さんが商品企画に携わるうえで、大切にしていることはなんですか?

服部さん:まず、企画を立ち上げた人の熱意を一番大事にしなければいけないと思っています。

それぞれの企画には、個々の想いやコンセプトがあります。だからこそ、私は誰かの想いを受け止めて、考えをまとめるサポートをするような存在でいたいんです。バレーボールでいうところの「アタッカーを支える名セッター」です。

たとえば「nometa」の場合は、外部からの意見を聞きに行ってみようという提案が企画者の自信につながったり、機能からではなくコンセプトから先に決めようと助言したり、企画者が開発をスムーズに進めるための潤滑油のようなサポートを心がけていました。

そこが、一番こだわっているところで、自分のやりがいでもありますね。

── どうしてそこまで相手の熱意に寄り添えるのでしょうか?

服部さん:「フレイル」という言葉をご存じですか? とくにご高齢の方が、外出や交流がなくなって、結果的に「身体が弱っていく」という。

── 健康の文脈で、よく聞く言葉ですね。

服部さん:そのフレイルを解決する方法は生きがいだという考え方があるんです。

それは、会社の中も同じだと思っていて、一人ひとりのやりがいを育てることで会社が強くなっていく。企業という身体を支える細胞である働く人を強くするために、やりがいを大切にしたいんです。

あとは、新しい商品を生み出したい、その商品が生み出す未来を見たいという想いもありますね。

── 企業が健康な状態でいるために、働く人のやりがいが大切なんですね。新しい商品と未来という考え方も気になります。

服部さん:タニタに入社したとき、当時の代表に「これほど多様なラインアップを展開して、本当にすべて売れる見込みはあるのでしょうか?」と率直な疑問をぶつけたことがありました。その時、代表に諭されたのが「新製品と新商品の意味の違いを理解しなさい」ということでした。

まずは新しく製造したプロダクトである「新製品」を世に出してみる。そこで得られたお客様の反応からニーズをくみ取り、改良を重ねることで、初めて利益を生むプロダクトへと昇華するんだと。代表はこれを、新しい商いをする品と書いて「新商品」と表現しました。

つまり、発売する最初の段階では売れる確信はなくてもいい。重要なのは、顧客の声をもとに「新製品」を「新商品」へと育て上げていくことなのだと教えられたんです。

── 新製品と新商品の違いとは、おもしろいですね!

服部さん:その言葉から、まずは未完成でもお客さんに寄り添う形で心を込めた開発をすることが大切なんだと感じました。

企画者の熱意には、新商品につながるような想いが宿っている。タニタはチャレンジをさせてくれる会社ですから、その環境を生かしながら、一人ひとりのやりがいを引き出せるようなサポートをしたいんです。

── お話を聞いて、タニタがこれから生み出す新商品と未来がとても楽しみになりました。

これからも、成長に寄り添う商品を

── 服部さんが感じている、まだ十分に伝わっていない「nometa」のこだわりを伺いたいです。

服部さん:後継機には、より会話を重視した機能を搭載しています。本体に5日分のデータを保存できるようになっていて、育児記録アプリ「ぴよログ」に簡単に体重と授乳量が送信できるようになっています。

そして、実はデータを送信しないと「nometa」がすねてしまう仕様なんです。

── 「nometa」がすねる!?

服部さん:通常だと電源を押したときに、笑顔のようなマークが表示されるんですが、5日以上データをためているとすねているような顔のマークが表示されます。これは継続的な利用や、授乳量を通した会話を促すために搭載しました。

── ユニークな機能ですね。デザインも他のタニタ商品と異なり、より柔らかさのある印象です。

服部さん:担当したデザイナーが「nometa」のコンセプトに深く共感して、ロゴや色使いにとことんこだわってつくり上げました。ギフト需要にも応えられるように外箱はリボンをかけたようなデザインにしました。

タニタからお母さんへ「はじめての母乳育児を応援する」という意図も込めています。

── 最後のご質問になりますが、「nometa」というブランドを、これからどのように育てていきたいですか?

服部さん:「nometa」に限らず、お子さんの成長に関わる商品はこれからも出していきたいと思っています。

近年、若者や中高年に向けた健康という文脈は注目されていますが、子どもの成長の部分はまだ十分にケアしきれていないと思っていて。

── 成長というところに、可能性を感じていらっしゃるんですね。

服部さん:そうですね。社内には、出産を経験した女性社員も増えてきました。「nometa」のように、自分が欲しいと思える商品をつくるチームを立ち上げていくのが理想的です。

私はそんなチームの熱を一番いい状態で商品に注ぎ込むためのサポートをしていきたい。その商品が生む文化が、まだ見ぬ未来につながればと思います。

Wellulu編集後記

商品開発と聞くと、担当者自身の実体験や思いから生まれるものを想像していました。けれど服部さんのお話から伝わってきたのは、「当事者ではない立場」だからこそ育まれた、他者の熱意に丁寧に寄り添う姿勢でした。

はかりメーカーとしての数字の正しさを追い求めるのではなく、数字を親子の会話として捉え方を変えた決断。企画を立ち上げた人の熱意を一番に、自分は支える「名セッター」でありたいという役割の捉え方。そこにあったのは、自分がつくり手であることよりも、誰かの想いをどう受け止め、形にしていくかという視点でした。

服部さんのお話を伺いながら、よい商品をつくることは、完成させることではなく、誰かの熱意や願いに、根気強く寄り添い続けることなのだと感じました。

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