
2024年4月4日(木)~7日(日)、東京ビッグサイトで「インターペット2024(東京)」が開催された。ペットとの暮らしに関する様々な製品やサービスが展示され、今年で13回目を迎える日本最大級のペットイベントだ。
4月4日(木)には東2ホール特設会議室にて、セミナーイベントが開催された。テーマは「ペットウエルネス事業への挑戦」。今回はWellulu編集部の堂上研も登壇し、ペットとの共生がもたらすウェルビーイングについて登壇者たちと語り合った本イベントの様子をレポートする。

高松 充さん
株式会社QAL startups 代表取締役社長CEO

安岡 宗秀さん
KNT-CTホールディングス株式会社 執行役員 社長室 未来創造事業部長
1987年に近畿日本ツーリスト(株)入社。法人旅行営業、MICE部門の支店長、営業統括部長などを経て、2014年より、新規事業開発に従事。

上野山 翔太さん
旭化成ホームズ株式会社 経営企画・管理本部 経営企画部
2012年に旭化成ホームズ入社。注文住宅の営業職を経て2019年より経営企画部の業務に従事。自ら立ち上げた新規事業「WanPod」の責任者としてペット共生社会の実現を目指す。

羽鳥 友里恵さん
株式会社PETSPOT 代表取締役/CEO
愛玩動物飼養管理士・ペット防災危機管理士
(株)博報堂での広告営業の仕事を経て、2021年7月に「ペットと共存することで、人間や経済、そして社会全体にポジティブな影響を与えることを世界へ証明する。」というミッションのもと株式会社PETSPOTを創業。”ペット”の専門性を活かし、ペットフレンドリーな空間、環境、商品、福利厚生のプロデュースなど、様々な企業へ事業サポートを展開。

髙木 美樹さん
株式会社TALLTREE.代表取締役/グルーマー
滋賀県彦根市にあるトリミングサロン「TALL TREE.」のオーナートリマー。独自のスピードトリミング®考案者。
書籍『はじめよう!スピードトリミング』他2冊発刊
海外のコンテストにも積極的に参加し、さまざまなコンテストで数々の賞を受賞。日本やアジア諸国で、セミナーやコンテストジャッジとしてのキャリアを持つ。

草場 宏之さん
横浜戸塚プリモ動物病院 院長
プリモ動物病院練馬 院長
2006年横浜市内の外科に特化した動物病院にて勤務。2014年にプリモ動物病院グループに入社。得意とする一般外科、整形外科だけでなく、リハビリを中心とした整形内科をグループ内で立ち上げ、ペットたちの健康寿命を伸ばす診療に力を入れている。

堂上 研
Wellulu 編集部プロデューサー
1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。
異業種から挑むペットビジネスが新たなスタンダードを生む
高松:株式会社QAL startups 代表の高松です。今回は異業種連携をテーマに、「ペットウエルネス事業への挑戦」と題して、6人の方をお招きしました。まずはトップバッターの安岡さんからよろしくお願いいたします。
安岡:KNT-CTホールディングスの安岡です。当社は近畿日本ツーリストやクラブツーリズムなど、国内外の21事業を傘下に持ち、その約9割が旅行事業で形成されているグループになります。私たちは新規事業として、ペット事業に挑戦をしています。そのひとつがペット同伴のパッケージ旅行「RISPETTO(リスペット)」の企画販売です。
「RISPETTO」は、ペットも人も楽しめるプライベートのパッケージ旅行です。最大の特長はシームレスな移動。防水シートやペット専用のシートベルトを備えた特別仕様の専用車でご自宅までの送迎サービスを実現。ペットのストレスを軽減して、楽しんでいただくことを考えています。加えて、観光やアクティビティ、食事や宿泊など、細部まで「常に一緒」にこだわったツアーであり、ペットにリスペクトを持って、徹底的に寄り添った究極の旅行をお届けするというのがコンセプトなんです。

高松:安岡さん、ありがとうございました。続いて上野山さん、よろしくお願いいたします。
上野山:旭化成ホームズ株式会社で「Wanpod」という新規事業を担当しています、上野山です。「Wanpod」は完全会員制の犬小屋シェアリングサービスです。商業施設やスーパー・コンビニ、観光地などワンちゃんが入れないスポットに設置いただき、会員の方が利用できるスマート犬小屋になります。中には見守りができるカメラや、エアコンとセンサーも備えられ、内部の様子や温度を確認できます。
高松:会場にも「Wanpod」を展示してありますが、私たちのイメージする犬小屋とは全く印象が違いますね。上野山さん、ありがとうございました。
ペットとの共生が人をウェルビーイングへと導く
高松:続いて、堂上さんよろしくお願いいたします。
堂上:『Wellulu』というウェルビーイングに特化したメディアの編集部プロデューサーを担当しています、堂上です。ウェルビーイングを形作る因子の中に、「家族の成長・安心」というものがあります。家族には、ワンちゃんやネコちゃんも当然入っていて、ペットとの共生にウェルビーイングを感じている人は多いのではないでしょうか。ペットは家族であり、その家族のケアは本人のウェルビーイングに大きく関わってくるんです。ペットと共にウェルビーイングになっていくような社会を、一緒につくっていきたいですね。
高松:堂上さんが話された「ペットとの共生がウェルビーイングにつながる」というのは、実際に証明されつつあるんです。2023年10月に、東京都健康長寿医療センター研究所が発表した研究論文では、犬の飼育者は非飼育者と比べて、認知症発症リスクが下がると報告されています。散歩の習慣化や、ほかの飼い主とのつながりによって認知症リスクは下がり、ウェルビーイングは上がっていくのではないでしょうか。
堂上:ワンちゃんと会話することも、健康の秘訣かもしれませんね。
高松:前半の最後に登壇いただくのは、獣医師の草場院長です。よろしくお願いいたします。
草場:横浜戸塚プリモ動物病院と、プリモ動物病院練馬の院長をしています草場です。飼い主や動物たちには、それぞれライフスタイルの違いがあります。各家族に合った治療法や予防法を提案できるような「少しおせっかいな動物病院」を作りたいという思いで活動をしています。
高松:草場院長、ありがとうございました。草場院長には獣医師の観点から、それぞれの事業に対する所感をお聞きしていきたいと思います。
ペットサービスを拡充して「ペットは家族の一員」を当たり前の社会に
高松:皆さんは「RISPETTO」のお話を聞いて、どう感じましたか?
草場:率直に、とても驚きました。たしかに動物と一緒に車移動する際には、自分が運転をしていると目をかけてあげられず、行ける場所というのは限られてしまいます。第三者に運転してもらうことで、動物たちと触れ合う時間も長くなります。こうしたサービスが始まっているというのは、とても嬉しいですね。
堂上:ウェルビーイングのキーワードは、「オープン」と「リスペクト」なんです。自分をオープンにするのはウェルビーイングに大きく影響します。さらに相手とリスペクトしあうことで、お互いが信頼・信用を得られるんですよね。ペットを尊重するというサービスの理念が素晴らしいですね。
高松:「RISPETTO」の名づけ親は安岡さんですよね?
安岡:「ペットのことを尊重する旅を提供する」という思いを込めて、リスペクトとペットをかけ合わせてネーミングしました。
高松:では草場院長は、「Wanpod」に対してはどう感じられましたか?
草場:最近は、大型犬よりも小型犬が増えていて、抱っこして連れていけるようなワンちゃんが多いかと思います。ワンちゃんとしても、家で留守番するよりは、やはり家族と共にお出かけしたいはずなので、観光スポットや商業施設の近くまで一緒に行けるのはとても良いのではないでしょうか。温度管理までできるというのは驚きました。
上野山:ありがとうございます。私自身も旅行が好きなのですが、ワンちゃんとは行けない場所だと、ペットホテルに預けることがありました。でもワンちゃんがお腹を壊してしまうことがあって、「相当なストレスを感じているんだな」と思ったんです。でも一緒に出かけると、車の中でとても喜んでくれるんですよね。食事の時など、30分〜1時間ほど待たせてしまうことにはなっても、行き帰りで一緒にいた方が、ワンちゃんにとって幸せなのかなと思い、このサービスを考えたんです。
草場:動物病院でもペットをお預かりすることがあるんですが、やはり家族と離れると全くご飯を食べなくなってしまったり、排尿・排便しなくなってしまったり、あるいは病院では元気な様子でも、家に戻ると体調を崩してしまうケースもあります。
高松:ペットを家族の一員として、日常や晴れの日のイベントに組み込んでいくというサービスが、これから求められていくと思います。ペットウエルネス事業の拡大という視点で、皆さんはどう考えますか?
堂上:「インターペット2024」の会場を見て、ペット事業には本当にさまざまなサービスが生まれていると感じました。人間のウェルビーイングな生活に欠かせないサービスは、全てペットにも導入されるべきだと思いますし、そういったサービスが生まれると豊かに生活を送れる人がより増えるのではないでしょうか。
安岡:家族と一緒に車に乗って、一緒に遊び、一緒に食事して、写真を一緒に撮る。それを当たり前にしたいと感じています。
上野山:強く共感しています。ペットを家族のように愛して、お出かけするのは当然ですし、離れるのは辛いんです。無償の愛を注いでくれるペットの思いに応えてあげたいというのは、当然の話なんじゃないかと思っています。
高松:では前半の最後に、皆さんがサービスを開発している中で、獣医師の方と連携していきたいところがあれば教えてください。
上野山:安全なサービスを目指す上で、どれだけワンちゃんのストレスや健康状態に影響がないものにできるかというのはポイントだと考えています。たとえば、待っている間に健康診断のようなことができるなど、メリットがあるサービスにするためのアイデアはありますので、獣医師の先生から見て、支援をいただけると助かりますね。
安岡:ペットが旅行先で体調を崩した際に、獣医師の方に相談ができるようなネットワークが作れると、サービスにさらに高い付加価値が与えられるのではと考えています。
高松:ありがとうございます。後半はさらに2名の方に登壇いただいて、話を聞いていきたいと思います!
「ペットロス」と「アメリカ留学」。自身の体験がペット事業への思いにつながる
高松:では羽鳥さん、よろしくお願いいたします。
羽鳥:株式会社PETSPOT代表の羽鳥です。私は8歳の頃からゴールデン・レトリバーを飼っていました。私が博報堂に入社して1年目の時に亡くなってしまい、愛犬の死に初めて直面したんです。当時は会社にどう言っていいのかがわからず、すぐに伝えられなかったことをずっと後悔していました。
ペットも家族の一員という言葉を目にすることはあっても、日本に企業が約385万社ある中で、ペットが病気の時に有給休暇の制度があるのはたったの20社ほどしかありません。「人生を賭けるなら、こういうことに取り組みたい」と、ペットビジネスをサポートするコンサルティング会社を立ち上げて、現在3年目になります。
高松:ありがとうございます。最後に高木さん、よろしくお願いいたします。
高木:トリミングサロン「TALL TREE.」オーナーグルーマーの高木です。私はアメリカに留学した経験があるのですが、そこでスピードトリミングの技術を知り、衝撃を受けました。当時の日本での一般的なトリミングは、2〜3時間かけて1頭のカットを行うのが普通でしたが、そこでは1時間で行うのが常識だったんです。時間短縮は、やはりワンちゃんへの負担も減らすことができます。
トリマーは、動物の命を預かる仕事です。刃物を使うため、怪我をさせてしまうこともないとは言えません。だからこそ、動物病院との連携というのは、今後大切になってくると思っています。獣医師とトリマー、飼い主の三者がしっかりと話し合うのが一番なんです。その思いが実現して、2年前に相模原市で「TALL TREE」の直営店を開店しました。今後も、こういった店の展開を進めていきたいと考えています。
高松:ありがとうございます。高木さんはペット業界の経営者であり、獣医師との連携でも実績があり、さらに現場で働く最もペットペアレンツに近い位置にいる方でもあります。3つの顔を持つ高木さんにも、今までの皆さんのお話に対する率直な意見を伺っていきたいと思います。
シニア世代が気兼ねなく、ペットと暮らせる世の中の想像を目指していく
高松:高木さんはペットと直に接するプロの観点で、今まで紹介されたサービスについてどう感じられましたか?
高木:ペットに一番近い立場から言うと「ストレスフリー」というのは言い過ぎに感じてしまいます。ある程度のストレスと、それに耐え抜く力というのは必要なんです。「Wanpod」について言えば、犬にとって快適な空間だと思いますし、あの小屋の中で落ち着いて過ごせるような躾も必要だということは、専門家として伝えていきたいことです。
「RISPETTO」も同じですが、最低限のことを守れる躾をしているからこそ、受けられるサービスだと思います。そこを飼い主が理解して徹底することが必要ではないでしょうか。
安岡:たしかに「RISPETTO」が、甘やかしのVIPツアーになってはいけないですね。良いものだけを与えて、移動も減らしてという形は私たちの趣旨とは違うと、改めて勉強させていただきました。
高松:堂上さんは今までのお話を聞いて、どう感じられましたか?
堂上:私もずっと新規事業開発に携わってきて、皆さんと一緒なら新しい事業ができそうだなと勝手に考えていました。人の組織の中でもノットウェルビーイングになるのは、人間関係がうまくいっていないときが多いんです。ワンちゃんのことを理解して、関係を構築するために、高木さんはどうやって接しているのですか?
高木:すぐに触らないことは大切ですね。まずは自由にさせて、落ち着いたら、または向こうから近づいてきてから触ります。スピードトリミングとはいっても、初めて店に来たワンちゃんの預かり時間は長くいただいています。
堂上:ウェルビーイングにおいても、相手を待つというのはとても重要ですね。親の立場から押し付けると、子どもが反発してしまうのと同じかもしれません。ワンちゃんに対しても、まずは状況を見ることが大切なんですね。
高松:個人的に、シニアの方がペットと暮らしやすくなるような施策を作りたいという思いを持っています。やはり配偶者などのパートナーを亡くしてしまった人が、新しい家族としてペットを迎えることで、QOLを上げることができると思っているのですが、残念ながら、年代が上がるとペットを飼う率は下がってしまっているのが現状です。大きな理由としては、旅行ができないことや、老々介護になってしまうという問題、ペットロスの問題などが上げられます。
一方で、ペットが与えてくれる幸せがあることも確かで、ペットと暮らすことがウェルビーイングにつながると思います。最後に、シニアの方がペットと暮らしやすくなるために、何をしていけばいいのか、皆さんのご意見をお聞かせください。
安岡:やはりシニア世代がペットを飼う際には、「この子を置いていってしまったら」という不安がついて回ってしまうんだと思います。これをどのように解決するのかは、難しい問題ですね。
羽鳥:60~70代の方だと、年齢制限で保護犬などの引き取りができないという現状もあると思っています。安岡さんの言う通り、飼い主さんが先に亡くなってしまうと、行き場を失ってしまうペットも出てきてしまいます。高齢化社会だからこその課題も大きいですよね。たとえば、ペットを飼うことがシニアの健康につながり、日本の医療費問題に好影響があると具体的に提示できるようになれば、少しずつ変わっていくかもしれません。
高木:そのペットの受け取り先を決めておくことができればいいとも考えられますよね。たとえば、シニア世代が犬を飼うと時に保険会社が介入して、保険金を受け取る人が次の飼い主になるなら、犬が飼えるような仕組み・制度を作ることができればいいのではないでしょうか。
あとは地方では車がないとどこへも行けないという問題があるので、ペットと出かける際にはペットタクシーのような制度があると助かるなと思います。
高松:そういった制度が整うことで、ペットと一緒に暮らしたいというシニアのニーズが満たされていくんでしょうね。
堂上:僕の母親が犬を飼っていたので、ペット事情を聞いてきました。まさに今、皆さんがお話していた話をしていて、「自分が先に亡くなってしまった時に、どうすればいいか」というのを悩んでいると言っていたんです。また移動手段にも困っていて、ワンちゃんが病気になった時に病院に連れていく手段がないとも話していました。
たとえば、近所の方たちと共同で飼うようなシェアペットの形でコミュニティが作れると、問題は解決するかもしれません。また獣医師の方が、訪問診療を行ってくれるような仕組みもひとつの新しいサービスになるのではないでしょうか。
高松:皆さんの意見をお聞きして、社会課題に挑戦して、規制を変えていかなければならないと改めて感じました。本日はありがとうございました。

堂上編集後記
今回、ウェルビーイング×ペット(家族)というテーマで、登壇に呼んでいただいたが、イベント自体の盛り上がりにびっくりだった。犬と猫を中心に、家族ととらえて様々なウェルビーイングサービスが生まれてきているのだ。
子どもたちに買っているものは、すべてペット向けに開発されていくのだろう。そうすると、ペット専用のマッサージ室や、ペット専用の運動場とかも出てくるだろうし、ペット専用の塾なども普通になったりするのかもしれない。
今回、みなさんとお話させていただいて、シニア世代×ペットの市場はもっともっと活性化することになることも分かった。散歩にいく、ペットと対話する、ペットを通してほかの人たちとコミュニケーションをとる、すべてがウェルビーイングにつながっているのだ。
ペット(家族)のウェルビーイングを、今後も追いかけていきたい。今回は、貴重なお時間いただきどうもありがとうございました。
1989年に博報堂入社。国際業務職、営業職、外務省出向を経て、2006年にTBWA HAKUHODOの創業に携わる。2022年6月をもって博報堂を退社し、7月より現職。人とペットの豊かな暮らし(QAL:Quality of Animal Life)を実現するための事業を手掛けている。