2024年5月、三菱地所株式会社から国産木材を活用した新建材『(仮称)WOOD FLOOR UNIT 3.2』が発表された。この製品は、香りや手触りといった木の良さを活かしつつ、汚れを防止する特殊コーティングがされた新しい床材だ。地球環境に優しいサステナブルな製品でもある。
今回は『(仮称)WOOD FLOOR UNIT 3.2』の開発に携わった三菱地所株式会社・株式会社乃村工藝社・株式会社リンレイから担当者3名を招き、開発の背景や製品にかけた想い、また各社や各個人の働き方について話を伺った。
青木 周大さん
三菱地所株式会社
関連事業推進部 木造木質化事業推進室 戦略企画ユニット 副主事
兼MEC Indusytry株式会社 技術部 技術統括課
山口 茜さん
株式会社乃村工藝社
クリエイティブ本部 第1デザインセンター デザイン3部長
2001年乃村工藝社入社。デザイナーとして企業や地域のプロモーションの空間・展示・体験型コンテンツの幅広いディレクションを行う。ダイバーシティやSDGsなど、社会課題に向き合うプロジェクトが増えたことから、自社のソーシャルグッド戦略も兼務。2024年よりデザイン部長と、クリエイティビティを起点に未来の空間創造に向けたR&D活動を行う未来創造研究所NOMLAB部長を兼務。
今一番関心があるのは、様々な人や企業の「得意技」をつなぎ合わせて新しい表現や体験、面白いコトを創り出すプロジェクトを生み出すこと。
青木 徹さん
株式会社リンレイ
執行役員 業務製品事業部 市場開発部長
大阪府出身。1996年に新卒入社以来、業務製品事業に携わり、新規顧客開拓や新規ビジネスモデル構築をメイン業務としながら、総合企画開発部やメンテナンス総合研究所、東海西日本統括本部長等を歴任。2023年より市場開発&事業開発部門を担当。
休日は地域猫と遊んだり、妻とのゴルフマッチプレーを楽しむ。
今後の目標は、快適空間創造会社として「独自技術で生活者の快適な暮らしを陰ながら支えているリンレイ」を世の中に広め、社会的存在意義のある100年企業を目指す。
堂上 研
Wellulu編集部プロデューサー
1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。
偶然の出会いからスタートした新プロジェクト
堂上:本日は貴重な機会をいただき、ありがとうございます。三菱地所さん、乃村工藝社さん、リンレイさんが共同で素晴らしい製品を開発・発表されたと伺い、お話しするのを楽しみにしていました。とはいえ、じつは『Wellulu』ではどちらかというと個々に焦点を当てたお話を伺うことが多いんです。
今日も『WOOD FLOOR UNIT 3.2』の開発背景や、製品に対する想いを伺いつつ、御三方それぞれの働き方やプライベートなお話まで伺えればいいなと思っております。どうぞよろしくお願いします。
青木(周大)・山口・青木(徹):よろしくお願いします!
堂上:早速ですが、新製品を3社で共同開発されたとのことですが、出会った経緯をお聞きしてもよろしいでしょうか。
青木(徹):はい。じつは、私がジョインしたのは偶然だったんです。弊社施設の空間プロデュースのコンペを開催したのですが、乃村工藝社さんにも参加していただいて。もともと別の担当者がオンラインでミーティングをしていたのですが、オフラインでお会いするとのことで、しかも三菱地所さんも来られると聞き、新たなビジネスの種として、直感的に「なんか面白そう!」と思ってご挨拶に行きました。
堂上:へぇ! 面白い。そういったワクワク感をもとに行動したり、自身がこれまでやっていたことを越境して飛び込んでいったりすることで、新しい出会いが生まれることはよくありますよね。そういう意味では、青木(徹)さんはすごく良い行動をされたんですね。
山口:私はその時、その頃開発途中の商品の保護面をどうするかで頭がいっぱいだったので、依頼されたコンペは他の社員に任せて、ワックス・コーティングメーカーであるリンレイさんなら何か助けてくれるかもしれないと思い「木の保護ってやっていませんか?」とダメ元で聞いてみたら、思いがけず可能性ありな返答がきたんです。
青木(周大):リンレイさんとお会いする前から、三菱地所と乃村工藝さんで2年くらい一緒に開発をしていたのですが、なかなか最適解が見つかっていなかったんです。じつは最初はリンレイさんとの温度感に差を感じていたので、実際に工場でコーティング剤を見させていただいた時には、雰囲気と成果物のギャップにびっくりしました。
青木(徹):お二方はプロジェクトに関わっている期間が長かったので、熱量がすごかったんです。当時もう何十種類という他社のコーティングを試していたり……。もちろん今では、私たちも同じ熱量で取り組ませていただいています。
堂上:もともと、2社で構想していたんですね。
青木(周大):そうですね。僕がいる部署は三菱地所の中でも木造建築を推進していて、当社が日本で初めて中高層木造建築を建ててから、会社としてもずっと力を入れている領域なんです。でも、天然木の活用をテーマにいろいろなメーカーさんとお仕事をさせていただく中で、天然木に対する抵抗のようなものがあるのを感じていました。
堂上:それは、木は腐りやすいとかそういうことでしょうか……?
青木(周大):腐りやすいというより、伸びたり縮んだりしやすい素材なんです。建築は高い精度が求められます。だから、こちらでコントロールしきれない天然素材を使うことには抵抗があるんですよね。とはいえ、天然木を使った建物はすごく良いものになるとわかっていたので、実際に商品を作ろうということになりました。
堂上:山口さんはもともと木材建築を担当することが多かったんですか?
山口:全然! 私は乃村工藝社に入社してからは、ずっと企業プロモーション系の空間デザインを担当していました。
木材に関わるようになったのは、社内のプロジェクトで自社の執務フロアのデザインを担当した時にプロデューサーチームから「フェアウッドを使ってほしい」と依頼があったのがきっかけです。そのプロジェクトを進めているうちに三菱地所さんからお声がけいただいたことで、木の仕事が増えていきました。社内では「木の人」のイメージが定着しつつあるようですが、今も他の仕事もしていますよ(笑)。
青木(周大):そういう意味では、僕もいつの間にかという感じです。三菱地所に入社してからはずっと営業としてマンションやホテルのための土地の買付を担当していたのですが、ジョブローテーションで今いる部署に異動しました。
妥協を許さず、本当に「良い」と思ったものを開発する
堂上:御三方とも、もともと木やSDGsの分野に深く携わっているわけではなかったんですね。そんなみなさんが、今では熱い想いを持って木のプロダクトを完成させたことはすごく面白いと思うのですが、みなさんが考える木の魅力とはどんなものでしょうか。
青木(周大):僕は、扱いにくさが逆に良いなと思います。建築でよく使われる鉄やコンクリートと比べたらたしかに伸びたり縮んだりするけど、だからこそコントロールできたら面白い。それから、やっぱり手触りですね。写真では伝えられないのが難点ですが……。
堂上:わかります。手触りも良いですし、香りや温もり感があるのも良いですよね。僕は木について全然詳しくはないですが、人を優しくしてくれる感じがするので、この木に溢れた乃村工藝社さんのオフィスの感じはすごく好きです。
山口:そうなんです。私も「木ってなんか良いよね」という感覚的なものを信じているからこそ、天然木がうまく使われていないことにすごくもどかしい思いがあるんです。ちなみに、日本は森林が身近過ぎるがゆえに、ヨーロッパなどと比べると国民の木に対する価値が低いと聞いたこともあります。これはちょっと意外でした。
青木(周大):じつは、天然木の効用でよくいわれているリラックス効果などは、解明しきれていない部分も多いと認識しています。でも実際にアンケートを取ってみると、多くの人が天然木や自然そのものにポジティブな印象があることがわかります。
こういった不思議な部分の多さこそが木の魅力だと感じる一方で、ビジネス的にはなぜ良いのかをきちんと説明しなければなりません。
山口:それに天然木を使った製品を開発していた私たちでさえ、コストや運営面を考慮し「ここはシートが良くない?」という会話が生まれていたくらい、木の代替材が世の中には多くあるんです。
それでも私たちは、天然木ならではの魅力が絶対にあると思っているので、社内で実験をおこなっています。2つの部屋の内装を天然木と人工材で作って、音の響きや光の回り方、居心地の違いを検証しています。
堂上:へぇ、面白いですね。たしかに見た目はほとんど同じでも、居心地の良さは天然木が勝る気がします。
山口:そうですよね。それから木は生き物なので、すごく個性豊かです。たとえば、今回の製品では南九州の杉の木を使っていますが、東北の杉を使うとなると同じ設計ではできません。一律なものがない、オーダーメイド性も木の魅力のひとつですね。
青木(周大):今回開発した製品は、そんな「木の良さ」を消さないものになっています。もちろん天然木ですので、物を落としたら凹んでしまうといった弱点はあります。でもそれも含めて天然木の良さなんです。
ただ建築建材として利用する以上、譲れない部分もありました。汚れが付きにくいとか、メンテナンス時にすぐ乾くとか、匂いがキツくないとか……。それらの無理難題を見事にクリアしていただいたリンレイさんには頭が上がりません。
山口:それでいて「木の良さを消すな」って、今考えたらすごい要望ですよね。でも私たちとしてもそれを諦めるんだったら木じゃなくても良いのではという想いがあって、妥協ができなかったんです。
堂上:リンレイさん、すごいですね!
青木(徹):ありがとうございます。私たちは2008年に、ビルメンテナンス業界のシンクタンクとして「メンテナンス総合研究所」を立ち上げていて、床材メーカー70社以上と連携して4万件以上のメンテナンスに関するデータベースを蓄積しています。それらをホームページ上でお客様に開示しているので、木に関するメンテナンスのプロとして頼りにしていただいていたのは理解していました。それに応えたいという想いがあったのと、現状の課題やお二人の要望がすごく明確だったのも良かったです。
堂上:それでみなさんが納得される商品を作り上げたわけですもんね、さすがです!
青木(周大):あえてコーヒーをこぼしたり、スマホを落としたりして検証しましたもんね(笑)。かなり矛盾したことをしているのに、答えを出していただいてすごく助かりました。
山口:リンレイさんがいなかったら、きっといろいろな部分を妥協せざるを得なかったと思います。木の香りや手触りを諦めてすごく頑丈なものを販売するか、思いっきり傷も汚れも付くけどそこまで愛してくれる方々にのみ販売するか、両極だったはずです。どちらにせよ、モヤモヤは残ったと思います。
堂上:青木(徹)さんもおっしゃったように、お二人からの要望が明確だったことも成功の秘訣だったのだと思います。立てた問いの解像度が高ければ高いほど、より明快な答えを出しやすい……これは、働く上でもすごく大事ですね。
プロジェクトを成功させるための「巻き込み力」
堂上:お仕事がすごく充実されているように見える御三方ですが、普段は何をしている時が1番楽しいですか?
青木(徹):結局仕事の話になってしまうのですが……、最近1番ワクワクしたのは『(仮称)WOOD FLOOR UNIT 3.2』の記者発表の場で、山口さんに「リンレイさんのコーティング技術がなかったら、この製品はできていなかった」と言っていただいたことです。
山口:えー! そうだったんですね!
青木(徹):その時に、我々はこんなにも世の中の役に立っているのだと実感したんです。それから、三菱地所さんに技術研究所に来ていただいて製品開発に関する説明をさせていただいた時に、「リンレイさんすげえな」と青木さんがおっしゃったんです。この一言もすごく嬉しかったですね。この気持ちを社員にも体験してほしいと、素直に思いました。
堂上:素敵なお話ですね。山口さんはいかがですか?
山口:私はまさに今回もそうなんですが、心を通わせられる良いチームに出会って、最高の状態でプロジェクトを終わらせられたときに幸せを感じます。今回は出来上がったものに対しての社内外からの評価も高く、本当に最高でした。青木(徹)さんがおっしゃったように、このような体験を他の社員にもぜひ経験してほしいなと思います。
堂上:そんなチームを作るためには、リーダーがメンバーに対してオープンでいることが欠かせません。わからないことを正直にわからないと言ったり、「これ苦手だから一緒にやってくれない?」と頼ったり……。お話を伺っていると、山口さんはきっとそれができていたのでしょうね。
山口:それこそリンレイさんには「助けてください!」と助けを求めに行っちゃいましたからね(笑)。他にも、今回のプロジェクトでは他社さんの力を借りたからこそ実現できたことが多くありました。
青木(周大):これはマニアックな話ですが、木材って大体釘やビスで留めるので、それらが木材の表面から見えてしまうんです。そこを何とかしたいと思っていたところ、洋服のボタンから着想を得て、表面から見えない形で固定することに成功しました。
僕にとっては、それを作り上げたことはもちろん、それ以上に建築物を見尽くしている方々に「こんなの見たことない!」と言っていただけた瞬間が1番嬉しかったですね。もともと営業として既存の商品を買ったり売ったりしていたので、これは開発に携わるようになって初めて感じた面白さでした。
堂上:素敵なエピソードですね。僕も新規事業に関わるようになってよく感じるのですが、生み出したものはまるで我が子のようになりますよね。
青木(周大)・山口・青木(徹):わかります!!!(笑)
堂上:御三方は仕事を心から楽しんでいるように感じるのですが、そのためにしていることって何かありますか? 新しいことを始めようとすると、ワクワクする一方で、ナーバスになることもあると思うのですが……。
青木(周大):いつか壁を乗り越えられるときを信じて、コツコツと頑張ることですね。それから、僕はいつも直前までは文句をブツブツ言うタイプですが(笑)、いざスタートしたら文句を言わない。やるからには楽しむようにしています。
山口:私はいつも、考え続けたらいつか必ず良いアイデアが浮かぶと信じて仕事に向き合っています。小さい頃から「いいこと考えた!」が口癖だったようで、もしかしたらもともとの性格なのかもしれません。今回も、途中何度も諦めそうになりながらも絶対にどこかに解決策があると信じていたら、リンレイさんに出会って。「まさにこれだ!」と、光明を見つけた気分になりました。
堂上:チームに青木(周)さんや、山口さんのような「なんとかできる」というポジティブな考えを持つ人がいると、周りに良い影響を与えてより良いチームになっていきますよね。
山口:周りには、それに巻き込まれる人たちが多いよといつも言われてしまいます……。
堂上:いやいや、チームや組織のウェルビーイングのためには巻き込み力も欠かせません。とはいえ、チームがうまく回っていくためには、リンレイの青木さんのようにきちんと技術を持った会社や人が欠かせません。そういう意味でも、今回は本当に良いチームだったんですね。
山口:社内の他メンバーも含めて、それぞれの役回りがベストフィットしていた感じは抱いていました。抜け漏れなく埋まってるというのは、こういうチームのことを言うのかなと思います。
青木(周大):違う会社ではあるものの、チームとして言いたいことを本音で言い合えたのも良かったですよね。言い出しっぺの僕らが中だるみしそうになっているところを、乃村工藝社のみなさんに「今が頑張り時ですよ!」と指摘していただいたりして(笑)。
堂上:素晴らしい関係性ですね。リンレイさんは後からジョインされたとのことで、大変さを感じませんでしたか?
青木(徹):我々は、すでにチームとして成り立っている場所に入ったわけですから、大変というか尻込みしていた部分もありました。
堂上:たとえば、会社に中途採用で入社した人が新卒で入社した人に対して尻込みをしてしまい、ウェルビーイング度が低くなってしまうケースがあるんです。このケースとよく似ている気がするのですが、当時、青木(徹)さんはどんなことを意識していましたか?
青木(徹):私の性格上、請け負ったからには絶対に何とかしたいと思うタイプなんです。そんな中で私が意識していたのは、社内の人間をどれだけ巻き込めるかということです。
社内には各分野のプロが揃っていますから、しっかりとチームを作って彼らを巻き込むことができれば何とかなると思っていました。とはいえ、お二方に「任せてください」と言った後は「なんとかしなきゃ」と大変でしたが……(笑)。
青木(周大):チームで熱量を合わせるのは、すごく難しいですよね。僕は、対抗馬を作ることも大切だと思っています。今回のプロジェクトでは、リンレイさんに依頼するまでに検証したコーティング剤をすべて提示しました。みなさんもプロなので、負けたくないというモチベーションが上がればいいなと思って。
堂上:面白い! 楽観性とプロ意識の両方を持つというのはすごく大切ですよね。社内はもちろん、先程のお話のように社外の人も巻き込むというのもすごく大切だと思います。
お互いをリスペクトし合うことで生まれる良いプロダクト
堂上:みなさんのお話をお伺いしてると、理想や空想で終わらず、しっかりと買い手の顔を見ながら開発に取り組んでいるような気がしたのですが、そのあたりで意識されていたことってありましたか?
山口:これは青木(周)さんのおかげですね。「どう売れるか」「どんな層に興味を持ってもらえるか」「買いたくなる根拠は?」みたいなところはすごく冷静に分析されていたように感じます。これがなかったら、現実味のない商品ができていた可能性もありますね……。
堂上:それはやっぱりこれまでのご経験が影響しているのでしょうか。
青木(周大):そうですね。もともと3年前にこのプロジェクトに参加した当時は、まだ営業だったんです。今は商品開発専門ですが、当時は営業と商品開発を兼任していたので、自分が売ることを想像しながら開発していたんですよね。だから、起こり得るリスクは常に考えていました。
山口:本当にすごいです!
青木(周大):いやいや……。
堂上:みなさんの様子を見ていて、メンバー全員がお互いをリスペクトしていて本当に良いチームだなと思いました。きっと「ありがとう」という言葉も多かったのでしょうね。
青木(徹):みなさんがそれぞれのエキスパートで、お互いを尊敬しながら進めていたことをすごく感じました。ビジネスをする上で、最終的にはやっぱりその人を尊敬できるかどうかは大事ですよね。そういう意味では、青木(周)さんや山口さんに出会った時には「この人たちと一緒に仕事をしたら楽しそう」という感覚的なものも感じていました。
堂上:組織のウェルビーイングという視点でも、お互いがリスペクトし合うことが大切です。こういうチームがたくさん生まれると、ウェルビーイングな状態で働く人も、面白い製品やサービスもどんどん生まれてくると思います。
青木(周大):今回の製品は協力会社あってのものなので、じつはパンフレットにすべての会社名を記載しているんです。これで各社に問い合わせがいったり、新しいビジネスが生まれたりしたら僕らも嬉しく思います。
山口:載せていただいた側の主体性も上がりますよね。良い製品を作ったのだから世の中に広めたいという各社のプライドにもなると思います!
社会課題を解決しながらビジネスとしても成り立たせるという挑戦
堂上:最後に、今回の製品と地球環境、いわゆるSDGsとの関連性について伺いたいです。
青木(周大):昔、日本で林業が盛んだった時には木が太くなる前にどんどん切って流通させていたので、当時の売れ筋ラインの太さの木までしか切れない機械が多いんです。すると、育ちすぎた太い木はそのまま放置され、根っこが腐ってしまい、自然災害につながってしまうリスクがあります。今回の製品『(仮称)WOOD FLOOR UNIT 3.2』では、基本的には普段は売れにくい太い木を利用しているので環境に良いといえますね。
木を切っていると「木を切るな」「自然を壊すな」といった問い合わせをいただいたこともありましたが、むしろ逆なんです。木は適切に切って、適切に植え直して山を循環させなければなりません。特に日本は都心部に自然が少ないので、今回の製品を使った木造建築が増えれば、実質的に日本中に山を増やすことができます。そうすることで、CO2の削減にもつながるんですよ。
そう考えると、環境的にネガティブな要素はない製品だと思っています。
堂上:あらためて、素晴らしい製品なんだと感じます。
青木(徹):我々の業界視点で見ると、メンテナンスの手法ひとつで木材の寿命が変わるといえます。間違ったメンテナンス方法、たとえば木を大量の水で濡らしてしまうと木が反ってしまうので、短期的に張り替えたり削ったりしなければなりません。汚れを洗浄するために、頻繁に清掃を実施すると、多量のCO2や洗浄汚水を排出してしまうこともありますよね。
ですが、今回の製品は、木の香りや風合いを残しながら、汚れにくく、簡易的にメンテナンスができ、いざという時には表面を少し削ってまたコーティング剤を塗り直せばずっと使えるというサステナブルな面があります。そういった意味でも、環境に優しいといえるのではないでしょうか。
山口:天然木は、長く使えるのが1番の魅力です。たとえばカーペットの場合は汚れたり改装したりするたびに張り替えることが多いですが、今回の製品はカーペットなしでも使えるので、廃棄の必要がありません。
青木(周大):木材は地球には優しいものの、その一方で社会課題でもあるわけです。社会課題を解決しながらビジネスとしても成り立たせるということを、今みんなでチャレンジしています。しかしまだまだ課題もたくさんあるので、これからも精進していきたいと思っています。
堂上:素敵です。今日は製品のお話をメインでお伺いしようと思っていたのですが、それに加え、御三方の人となりや働き方を伺えて良かったです。楽しそうにお仕事をしているみなさんとお話しさせていただくことで、僕自身もすごく楽しかったです。今日は貴重なお話を本当にありがとうございました!
『(仮称)WOOD FLOOR UNIT 3.2』について詳しくはこちら
取材撮影地:株式会社乃村工藝社オフィス内「RESET SPACE_2」
(フェアウッド100%を実現したコミュニケーションスペース)
https://www.nomurakougei.co.jp/achievements/page/reset-space2/
2015年三菱地所入社。同年三菱地所レジデンスに出向し、都心エリアで分譲マンションの用地仕入れ業務に従事、その後、ホテル事業部へ異動し、全国でホテル出店のための用地仕入れを行う。現在は、木造木質化事業推進室にて、三菱地所グループ全体の木造木質建築の推進や木材を使用した新建材の開発を行っている。
今ハマっていることは、町工場が発信している特殊技術のPR動画を見ること。